当て馬にも、ワンチャンあってしかるべき!

紫蘇

文字の大きさ
131 / 586
学園3年目

夏休みの計画 〜ソランとイドラ〜

しおりを挟む
「実は僕、そろそろ家業を継ぐためにも、フィールドワークに出たいと思ってるんだよね」
「へえ…そうなんですか」

ちょっと正体が分からない魔物の素材があるから、とアイリス商会に呼ばれたソランは、イドラに夏休みの計画を聞かれてこう応えた。

「校長にはもうお伝えしました?」
「いいや、まだ」
「お1人で行くんじゃないですよね?」
「ああ、うん…1人では無いよ。
 アナガリス兄弟と、ゴードさんと、4人で」
「先輩、光属性使えましたっけ?」
「いや、それは…でも魔法剣も魔法拳もあるし」
「行先は…ああ、東の暗き森の遺跡ですか…
 なぜここに?」
「それはええと…その。
 学園から一番近いダンジョンだからさ」

本当は、アナガリス兄弟のほうから誘われたのだ。
去年討伐したゴブリン、あれの巣がサンドワームの掘り進んだ跡なのではないか…
と2人は疑っているらしい。
それがもし本当なら、この国に1mメートル越えのサンドワームがボコボコいることになる。
はっきり言って異常事態だ。

ウィンは水、ディーは風、自分は土。
三人とも雷属性は持っている。

だからソランはなるべく全属性を揃えようと、火属性のゴードに声を掛け、二つ返事でOKを貰った。

本当は光魔法を使える人にも声を掛けたかったが、2人がルースに知られるんじゃないかと主張したので、こっそり光属性をヘザーに開放してもらって練習に励んだ。

だから大丈夫…と言えれば良いが、イドラに話せばルースにも伝わる気がして、本当の事を隠した…
つもりだったのだが。


イドラはソランにだけ聞こえるように言った。
「何か隠してませんかね?」
「な、何も…隠して、ないよぅ?」
「…へえ」

イドラはソランの目をじっと見た。
ソランは頑張って見つめ返した。

「……」
「……」

根負けしたのか、イドラが言った。
「仕方がありませんね、研究馬鹿の先輩がする隠し事ですから、大目に見ますよ」
ほっとしてソランが言う。
「ああ、うん、ありがとう」

イドラがニィ…と笑う。
「やはり隠し事はあったんですね」

……詰んだ。

***

場所は変わって、イドラの執務室。
おっかなびっくりのソランに対し、ソファーへ座るよう促すと、イドラは書類を何枚か机の上に広げた。

「実は、各研究室からも相談を受けましてね」
「あ、そうなんだ…」
「主に所属している研究室からですが」
「えっ、あ、ああ」
「皆さん、学外研修に積極的でね。
 その上少しでもいいからルースにも参加して欲しいとのご希望でして」
「えっ…」
「それで、日程をこういう風に詰めてみたわけなんですよ」

そういってイドラはメモを差し出す。

「こ、これ、は…」

ソランはそれを見て、呟く。
「…なんで」
「もう、気づいてるからですよ、ルースが」
「…えっ」
「サンドワームの件」

何で、どこから。
ソランは自分の過去を振り返ったが、そこでは無かった。

「コリアスのから聞いたみたいでね。
 シャラパール地域で紛争が起きている理由を」
「…そうなの…か」
「砂漠地帯が広がって、作物が取れなくなった。
 すぐに勘づいたようですよ、サンドワームが原因じゃないかってね。
 で、そこから…まあ、芋づる式に」
「そんな!」
「それで、海の向こうで起きていることがこっちでも起きているなら、世界的な大災害の前触れじゃないかって…『動物の異常行動は地震の前兆とかそういう話聞いたことない?』って、言い出して」

地震!?
それこそ神の審判じゃないか!!

「嘘だ!!
 そんな…そんなことがあったら、」
「…死体を処理しきれないほど人が死ぬ、その後、そこら中でが起きる…でしょう?」

ソランも、イドラも、気づいていた。
歴史を知れば嫌でもわかることだ。
見ようとするか、しないか、だけ。

「そう、多分、高確率で…。
 魔獣の大発生は、いつも大規模な戦闘が終わった直後に起こる。
 つまり人間を食べて、魔獣は爆発的に増える…」

昔の人はそれを「神の裁定」と呼び、警告していた。
争っている国同士が手を取り合わなければ対処できない…それが魔獣の大発生だ。
前の戦争…他国同士の争いだが、この国からも「火属性の魔法使い」を派遣したのは…

戦場に転がる死体を焼き、処理するためだ。
それでも魔獣の大発生は起きてしまった。
地獄の業火グランド・インフェルノはそのとき生まれた。
その後に起きた魔獣の大発生を鎮めたのは、
最前線にいたヘヴィ・グロリオサの慟哭だった。

「コリアス氏から聞きました。
 『紛争なんてしていたら、シャラパールは立ち直れないほどの打撃を被る。だから、サンドワームの頭数を減らす方向に舵を切れないか』とルースから話があったそうですよ?
 例えば「サンドワームの皮」の買い取り額を引き上げる…とかね」
「えっ」
「そこで、これですよ」

イドラは、部屋の片隅から一枚の板を出してきた。
裏には…ホバー台車と同じ作りの装置が付いている。

「ホバーボードっていうんです。
 乗ってみると楽しくて、開発者曰く「世界的に流行るから!そのうち!」だそうですよ?
 その当人は全く乗りこなせてないですけど」
「なんと…」

これがもし世界的に流行るなら…って、
そんな都合の良いことがあって、良いのか?

「そんなの「流行らせればいい」んですよ。
 この辺だと…ミモザ卿に試乗してもらうとか」

正室予想の賭けは国民の一大娯楽だ。
賭けの対象になる人物についての雑誌も飛ぶように売れる。
つまり彼らは偶像アイドルなのだ。
ブレスレットの売れ行きで、どこの地方で誰が人気なのかは簡単につかむことができる。

「『国を統べるものは世界を見よ』
 …俺は、是が非でも彼を正室にと思っています」
「…そう、だね…」

どこまでが彼の手の内なのか…。

ソランはある種の畏怖を覚えたのだった。


しおりを挟む
感想 69

あなたにおすすめの小説

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

転生したらBLゲームのホスト教師だったのでオネエ様になろうと思う

ラットピア
BL
毎日BLゲームだけが生き甲斐の社畜系腐男子凛時(りんじ)は会社(まっくろ♡)からの帰り、信号を渡る子供に突っ込んでいくトラックから子供を守るため飛び出し、トラックに衝突され、最近ハマっているBLゲームを全クリできていないことを悔やみながら目を閉じる。 次に目を覚ますとハマっていたBLゲームの攻略最低難易度のホスト教員籠目 暁(かごめ あかつき)になっていた。BLは見る派で自分がなる気はない凛時は何をとち狂ったのかオネエになることを決めた オチ決定しました〜☺️ ※印はR18です(際どいやつもつけてます) 毎日20時更新 三十話超えたら長編に移行します メインストーリー開始時 暁→28歳 教員6年目 凛時転生時 暁→19歳 大学1年生(入学当日) 訂正箇所見つけ次第訂正してます。間違い探しみたいに探してみてね⭐︎ 11/24 大変際どかったためR18に移行しました 12/3 書記くんのお名前変更しました。今は戌亥 修馬(いぬい しゅうま)くんです

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~

無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。 自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。

王道学園のモブ

四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。 私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。 そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。

乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました

西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて… ほのほのです。 ※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。

発情薬

寺蔵
BL
【完結!漫画もUPしてます】攻めの匂いをかぐだけで発情して動けなくなってしまう受けの話です。  製薬会社で開発された、通称『発情薬』。  業務として治験に選ばれ、投薬を受けた新人社員が、先輩の匂いをかぐだけで発情して動けなくなったりします。  社会人。腹黒30歳×寂しがりわんこ系23歳。

転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが

松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。 ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。 あの日までは。 気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。 (無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!) その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。 元日本人女性の異世界生活は如何に? ※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。 5月23日から毎日、昼12時更新します。

処理中です...