当て馬にも、ワンチャンあってしかるべき!

紫蘇

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学園3年目

夏休みの計画 〜ソランとイドラ〜

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「実は僕、そろそろ家業を継ぐためにも、フィールドワークに出たいと思ってるんだよね」
「へえ…そうなんですか」

ちょっと正体が分からない魔物の素材があるから、とアイリス商会に呼ばれたソランは、イドラに夏休みの計画を聞かれてこう応えた。

「校長にはもうお伝えしました?」
「いいや、まだ」
「お1人で行くんじゃないですよね?」
「ああ、うん…1人では無いよ。
 アナガリス兄弟と、ゴードさんと、4人で」
「先輩、光属性使えましたっけ?」
「いや、それは…でも魔法剣も魔法拳もあるし」
「行先は…ああ、東の暗き森の遺跡ですか…
 なぜここに?」
「それはええと…その。
 学園から一番近いダンジョンだからさ」

本当は、アナガリス兄弟のほうから誘われたのだ。
去年討伐したゴブリン、あれの巣がサンドワームの掘り進んだ跡なのではないか…
と2人は疑っているらしい。
それがもし本当なら、この国に1mメートル越えのサンドワームがボコボコいることになる。
はっきり言って異常事態だ。

ウィンは水、ディーは風、自分は土。
三人とも雷属性は持っている。

だからソランはなるべく全属性を揃えようと、火属性のゴードに声を掛け、二つ返事でOKを貰った。

本当は光魔法を使える人にも声を掛けたかったが、2人がルースに知られるんじゃないかと主張したので、こっそり光属性をヘザーに開放してもらって練習に励んだ。

だから大丈夫…と言えれば良いが、イドラに話せばルースにも伝わる気がして、本当の事を隠した…
つもりだったのだが。


イドラはソランにだけ聞こえるように言った。
「何か隠してませんかね?」
「な、何も…隠して、ないよぅ?」
「…へえ」

イドラはソランの目をじっと見た。
ソランは頑張って見つめ返した。

「……」
「……」

根負けしたのか、イドラが言った。
「仕方がありませんね、研究馬鹿の先輩がする隠し事ですから、大目に見ますよ」
ほっとしてソランが言う。
「ああ、うん、ありがとう」

イドラがニィ…と笑う。
「やはり隠し事はあったんですね」

……詰んだ。

***

場所は変わって、イドラの執務室。
おっかなびっくりのソランに対し、ソファーへ座るよう促すと、イドラは書類を何枚か机の上に広げた。

「実は、各研究室からも相談を受けましてね」
「あ、そうなんだ…」
「主に所属している研究室からですが」
「えっ、あ、ああ」
「皆さん、学外研修に積極的でね。
 その上少しでもいいからルースにも参加して欲しいとのご希望でして」
「えっ…」
「それで、日程をこういう風に詰めてみたわけなんですよ」

そういってイドラはメモを差し出す。

「こ、これ、は…」

ソランはそれを見て、呟く。
「…なんで」
「もう、気づいてるからですよ、ルースが」
「…えっ」
「サンドワームの件」

何で、どこから。
ソランは自分の過去を振り返ったが、そこでは無かった。

「コリアスのから聞いたみたいでね。
 シャラパール地域で紛争が起きている理由を」
「…そうなの…か」
「砂漠地帯が広がって、作物が取れなくなった。
 すぐに勘づいたようですよ、サンドワームが原因じゃないかってね。
 で、そこから…まあ、芋づる式に」
「そんな!」
「それで、海の向こうで起きていることがこっちでも起きているなら、世界的な大災害の前触れじゃないかって…『動物の異常行動は地震の前兆とかそういう話聞いたことない?』って、言い出して」

地震!?
それこそ神の審判じゃないか!!

「嘘だ!!
 そんな…そんなことがあったら、」
「…死体を処理しきれないほど人が死ぬ、その後、そこら中でが起きる…でしょう?」

ソランも、イドラも、気づいていた。
歴史を知れば嫌でもわかることだ。
見ようとするか、しないか、だけ。

「そう、多分、高確率で…。
 魔獣の大発生は、いつも大規模な戦闘が終わった直後に起こる。
 つまり人間を食べて、魔獣は爆発的に増える…」

昔の人はそれを「神の裁定」と呼び、警告していた。
争っている国同士が手を取り合わなければ対処できない…それが魔獣の大発生だ。
前の戦争…他国同士の争いだが、この国からも「火属性の魔法使い」を派遣したのは…

戦場に転がる死体を焼き、処理するためだ。
それでも魔獣の大発生は起きてしまった。
地獄の業火グランド・インフェルノはそのとき生まれた。
その後に起きた魔獣の大発生を鎮めたのは、
最前線にいたヘヴィ・グロリオサの慟哭だった。

「コリアス氏から聞きました。
 『紛争なんてしていたら、シャラパールは立ち直れないほどの打撃を被る。だから、サンドワームの頭数を減らす方向に舵を切れないか』とルースから話があったそうですよ?
 例えば「サンドワームの皮」の買い取り額を引き上げる…とかね」
「えっ」
「そこで、これですよ」

イドラは、部屋の片隅から一枚の板を出してきた。
裏には…ホバー台車と同じ作りの装置が付いている。

「ホバーボードっていうんです。
 乗ってみると楽しくて、開発者曰く「世界的に流行るから!そのうち!」だそうですよ?
 その当人は全く乗りこなせてないですけど」
「なんと…」

これがもし世界的に流行るなら…って、
そんな都合の良いことがあって、良いのか?

「そんなの「流行らせればいい」んですよ。
 この辺だと…ミモザ卿に試乗してもらうとか」

正室予想の賭けは国民の一大娯楽だ。
賭けの対象になる人物についての雑誌も飛ぶように売れる。
つまり彼らは偶像アイドルなのだ。
ブレスレットの売れ行きで、どこの地方で誰が人気なのかは簡単につかむことができる。

「『国を統べるものは世界を見よ』
 …俺は、是が非でも彼を正室にと思っています」
「…そう、だね…」

どこまでが彼の手の内なのか…。

ソランはある種の畏怖を覚えたのだった。


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