当て馬にも、ワンチャンあってしかるべき!

紫蘇

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学園5年目

12年越しの秘密 ~アルファード視点~

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「前世の記憶、か」

…荒唐無稽な話だと思う。
…だが作り話でもないと思う。

記憶が戻ったのは5歳の時だそうだ。
手が滑って酷く頭を叩いてしまった事を思い出す。
きっかけは多分それなのだろうと思う。

あの日を境に、ルースは変わった。
それまでは俺の話にニコニコして頷くだけだったのに、時々意見したり質問したりするようになった。

剣の練習に励むようになり、
魔法書を読み漁って覚え、
語学を学び、あれこれと知識を蓄え…
そして菓子を作る様になった。

当時の俺は無邪気にも、全て俺の為なのだと信じていた。
それでも俺の呼び名が「アル」から「殿下」に変わったことに不安を覚えた。

だから聞いたのだ。

「それほど努力するのは何の為だ」と。

俺はきっと「殿下の為です」という言葉が返って来ると思っていた。
しかし、返ってきた言葉は、

「冒険者になろうと思って」だった。

そこから先の事は記憶がないので、相当ショックを受けたのだと思う…

そのくらいあまりに突然だった。
ルースにとって俺は「ローズ王国次期国王」でしか無くなっていた。
そしてそれは、ルースにとって特に魅力的なものでは無かった…

それが、自分から人の心が離れていく最初の経験だった。
だが、それが、俺の心に火をつけた。

ルースの心を取り戻してみせると誓った。

まずは剣。そして魔法。
それから経済・法律・軍事・外交…国を動かすための全てを学び直した。
人から教わって満足するのでは足りない。
自分からもっと学ばなければ…
ルースがしているように。

そうして俺も変わった。
ルースが言ったような、「強くて頭が良くてカッコいい王子様」になれたかどうかは分からない。
それでも…恋愛事に現を抜かし、30人の側室を手に入れる為だけにいるような人間よりはましだろう。



「お前が前世を思い出してくれたおかげで、今の俺がある」
「…アル?」
「お前が何も思い出さずそのままであったなら、俺は噂通りの暗愚になっていただろう」
「…うん」
「そんな俺とお前の言うゲームの中の俺は、同じか?」
「…分からない、けど、多分…違う」
「つまりそのゲームは、この世界と似ているだけの別物だ。
 お前が逆らおうとしているものは神ではなく別のものだ…そうだろう?」

ルースはこくり、と頷いた。

「だから、やりたいようにすればいい。
 コーラス・エルムもミカ・シャムロックも救いたければ救えばいい。
 ただ、今の当主だけはもう救いようが無い」
「アル…」
「現在のエルム家当主は人を殺している。
 この国の法律では、殺人罪は実行犯も教唆犯も等しく死刑だ。
 余程の理由があれば情状酌量はあるがな」
「…でも、家を存続させることは、貴族にとって最も大事な…」

ルースは心配そうに俺に言う。
もしかしたら父親のほうも救いたいのか?
だが、それは無理な話だ。

「そんなもの、まずは伴侶とすべき努力だろう?
 それが嫌だからと、ユーフォルビア家を王家の奴隷から貴族全体の奴隷に仕立て上げようとしたのは…現エルム家当主と、その話に乗った馬鹿貴族だ」
「…何ですって?」
「税金を着服し、その金で何度も夜会を開き、そこでユーフォルビアが淫乱の家系なのは常識ですよと言って回る。
 父上を「王足りえない王子」にしたのと同じ手法で、お前を貴族専用の「産む道具」にしようとしたんだ」

俺には奴らを排する相応の理由がある。
不敬罪や扇動罪もまた、最高刑は死刑だ。
それを引退するだけで収めてやろうと言うのだ。
それが嫌なら首を刎ねる。

「だがお前は国民を味方に付けた。
 前世の記憶があった、それだけでは説明がつかない事だ」
「うん…」
「多くの者がお前を愛している。
 それは前世の知識があるからではない。
 お前がこの世界で努力して得た幅広い知識があり、それを基に様々な可能性に気が付くことが出来るからだ」
「…うん」
「それにな、何事にも一生懸命考えて解決方法を出そうとしてくれる」

だから、みんなが付いて行く。
すでにスラムと色街という最も難しい連中まで手懐けている。
冒険者ギルドと神殿を繋ぐ事などルースにしかできまい。

お祖父様の言った通りだ。
ルースが俺に相応しいかどうかではない。
俺がルースに相応しいかどうかだ。

「俺はお前を愛している。
 お前も俺を愛してくれるなら…
 それはとても幸せな事だと思う」

ルースが好きだ。
手に入れる為なら何だってする。
魂に、そう刻まれていたかのように。

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