当て馬にも、ワンチャンあってしかるべき!

紫蘇

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学園6年目

思いがけない里帰り ~ダグ視点~

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もう、戻る事はないと思っていた場所へ、向かう。

あの屋敷には、祖父ジジイも使用人も居ない。
王都の屋敷も王家の管理下に入っている。
領地は債権者によって切り分けられた。
残った領地は国が直接管理している。
父親は一生、牢屋から出てくる事はない……


完全に、イフェイオン家は無くなったんだ。

俺は変わった。
あの父親に反抗することも出来た。
それでも…。

「ダグさん、どうされましたか?」
「ああ、何でも、ない」

身体の震えが酷い。
無いものに怯えたって仕方が無いのは分かっているのに。

「…寒い、というわけでは無さそうですが」
「武者震いってやつだ、気にするな」

同じ馬車に乗った神官長に気遣われる。
気遣いは不要だと答える。

「…イフェイオンの屋敷が、恐ろしい?」
「そんな訳が無い、あの糞野郎はもう居ない、使用人すら1人も」
「それでも屋敷は残っています」
「誰も欲しがらなかったからな」

そうですか、と神官長は言って、沈黙。
その沈黙に耐えられなくなったのは俺。

「あの頃とは違う、俺は変わったんだ。
 親父やジジイの顔色を窺ってビクビクしてたのは別の俺だ、だから…」
「…それでもあなたは覺えているのでしょう?
 闇魔法が解けても、掛けられていた間の記憶はしっかり残る…今回のことでそれが分かりましたから」
「…だから?」

神官長は俺の目をじっと見つめる。
それから…

「神殿の孤児院に来る子の中には、親に虐げられて生きて来た子もいます。
 多額の寄付と引き換えに引き取られ、壊れたからといって返される子も。
 彼らは心に大きな傷を抱えています。
 普通の生活が難しい子もいます…」
「…そいつらと、俺とは違う」
「当然です、彼らだって誰とも同じではありません。
 ですが、彼らに共通している事はあります。
 過去を思い出すものの前で、平常を失う事です。
 叫びだしたり、失神したり…震えたり」

神官長はそこまで言って言葉を切る。
ガタゴトと馬車は走る。
さっき御者を交代したばかりだから、しばらくは馬車の中だ。
俺は…やっぱり沈黙に、耐えられない。

「…何が言いたい」
「神がいるなら、なぜ自分を不幸にしたのかと…聞かれることがあります」
「…神?」
「そんな時、私は言います。
 神は人間など見てはいない、と」
「は?」
「ただ、人を創る時に、人間同士で支えあえるように作っただけだ…と」
「…どういう、こと?」
「人を救うのは人。神が救うのはこの世界。
 あなただけがこの世界にいるのではない、だから神を求めるのではなく、救ってくれる人を求めなさい…と」
「求められない奴は死ね、と?」

神官長は少し笑って、そこまで言ってはいませんよ?と言う。

「自分を救ってくれる人を探しなさい、そして自分が救うべき人を探しなさい。
 神は不要なものをお造りにならない。
 だからあなたはいらない人間ではない…だから、辛くとも生きていきましょうね、という説法です」
「そうか」

俺は自分を不要だと思ったことは無い。
ただ、奴らに必要な人間であるように躾けられてきた、だけだ。
今の俺は、冒険者としてそれなりに上手くやってる…と、思う。
問題ない、問題ないはずだ。

「私で良ければ、お話しして貰えませんか」
「何であんたなんかに話さなきゃならないんだよ」

俺がそう言うと、神官長は笑顔で返した。

「私、結構聞き上手なんですよ?
 信者の話を聞くのが仕事ですから」

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