当て馬にも、ワンチャンあってしかるべき!

紫蘇

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新婚旅行

海沿いの診療所 3

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恐怖や強いストレスで、脳が委縮したりすることがある。
神経伝達物質や脳内分泌物質…
前世で言うと、セロトニンとかドーパミンとか、そういうものが出て来なくなったり…。

「前世の幼馴染のおじいちゃんがね、脳神経内科…脳のお医者さんだったんです」
「ほう」
「それで、その人が脳の事色々教えてくれたのを…何となく色々覚えてて」
「…それで、直接脳に治癒魔法を届ける方法を思いついたんですか」
「ええ、これで欠損部が治れば…と」

俺は伯父さんの脳が少しでも元に戻る用にとイメージしながら闇飛ばしをかけた。
いつもよりゆっくり、じわじわと元に戻るように…

これに関しては、すでにジュリさんやミゼさんに対して効果が確認されていて、特に何の副作用も出ていない。
闇飛ばし自体はただのヒールライトだし。

でも、脳は本当に繊細で、急激な治癒だと意識が飛ぶ。
だから闇飛ばしが効いた人は倒れてしまう。

ゆっくりと治癒したつもりだけど、伯父さんも倒れてしまった。
今は静かに寝ているところだ。

「その、ルース様の前世…というのは、もう少し詳しくお聞きしても?」
「いやあ…ろくなものは入っていないですからね、聞いたところでまともなものは」
「ですが、介護用の風呂の椅子を考えたのもルース様だと…」
「ああいやあれは…まあ、たまたま」

こんなとこでもまたスケベ椅子の話が出て、俺はちょっと焦る。
だってあれエログッズだしさ。
介護に使えるなんて考えてもみなかったから…。

何だかいたたまれないので、俺は強引に話を戻す。

「まあ何にしろ、この後に<洗脳>をかけるにしても、脳の状態が少しでも良い方が効くでしょうから…」
「ああ、分かっている。
 俺も魔力の限りを尽くそう」

伯父さんが目を覚ましたら、ダグさんと神官長の出番だ。
洗脳をかけつつ、周りがそれに合わせて話をしていくことでより強い刷り込みが出来る…はずだ。

「伯父さんが目を覚ます前に、ダグさんとし…セントさんを部屋に呼びましょうか」
「ええ、そうしましょう」

…どうか、上手く行きますように。

***

ダグさんとセントさんを部屋に呼んで談笑していると、伯父さんの目がぱっちり開いた。
俺は伯父さんの身体を支え起こしながら聞いた。

「…伯父さん、気分はどう?」
「うん…だいじょう、ぶ…?」

伯父さんは新しく増えた2人を見つけて、それから俺の顔を見た。
俺は伯父さんに良く出来た作り話を始める。

「この人はね、ダグさん。
 伯父さんの孫にあたる人で、結婚の報告に来たんだって」
「…まご?」
「そうだよ、伯父さんが産んだ子がね、結婚して子どもが出来て、その子がダグさん」
「初めまして、カールさん。
 …おじいちゃんって、呼んでも良い?」
「ぼくの、こども…っ!!」

伯父さんはぽろぽろと泣きだした。

「そうだ、ぼく…ひとりしか、産めなくて…」

2人産んだら帰してやる、と言われ、子どもが居ると孕まないからと1人目をすぐに取り上げられ、産後の疲労も癒えないうちから犯されて…色々な感覚が無くなってきたところで、急に外へ連れ出され家に戻された…
と、伯父さんは語った。

語れた事に、俺と先生は驚いた。

俺たちは、ほんの少し感情が戻れば良い…程度にしか考えていなかった。
最も辛かったであろう話を自分から、しかも順序立てて出来るようになるなんて思ってもみなかったのだ。
奇跡みたいな話だ。
脳を光魔法で治癒する方法には、相当の効果が見込めるという事だろうか…?


伯父さんはしゃくりあげながら言った。

「ぼく、出来損ないのユーフォルビアだから…」

だから、俺はそれを否定するべく話をする。

「うん、その事、なんだけどね。
 問題があったのはイフェイオンの方だったんだ」

すると、伯父さんは泣きながら俺を見た。

「…ぼくのせい、は、ないの?」
「うん、そもそも伯父さんが1人でも産めたのが奇跡的な事でね。
 他の人は誰も授かれなくて…だから調べたの。
 そしたら血が濃くなりすぎてる事が分かったんだ。
 …家をつないでいく事自体が、限界だったんだ。
 だから伯父さんを酷い目に会わせた罪を心置きなく償わせる事が…出来たんだよ」

父さんの手記に書いてあった推測を利用する。
これも打ち合わせ通りだ。
正しいかどうかはこの際どうでも良い。
伯父さんがこんなふうに、人間らしい反応を示している事のほうが何万倍も大事だ。

俺の話を引き継ぐ形で、殿下は伯父さんに<洗脳>をかけ始める。

「『イフェイオンの事も子どもの事も、カール殿のせいではない』。
 『むしろカール殿がいたからこそ、イフェイオンは血を残せた』。
 『家は無くとも、その血は繋がっている』。
 『王家の者としても、あなたには感謝している』…本当だ」
「おう、け…?」
「そうだよ、最初に紹介したでしょう?
 この方は王太子殿下なんだよ、って…」
「う…うん」

それから、殿下は伯父さんにさらなる洗脳を施していく。

『イフェイオンは潰れたが、カール殿の子は恙無く育った』
『そして、その息子もまた冒険者になった』
『今度その子が結婚して、あなたの残した子どもの系譜を継ぐ』
『あなたがいたから、ダグという冒険者がいるんだ』

そしてダグさんと神官長が殿下の話を補足していく。

「…イフェイオンを継がなくて良くなった親父は、夢だった世界旅行をするために冒険者になったんだって。
 そんで、アルテミシアの端っこで伴侶を見つけて結婚して、俺を産んだ。
 俺も親父の後を追って冒険者になって、この国に来て…伴侶を見つけた。
 おじいちゃん、俺の親父を産んでくれて…ありがとう、な」
「う…うん、うん…っ」
「あなたが彼の父親を産んでくれたから、私も最高の伴侶と出会えました。
 ありがとう…おじい様」
「うん…うん…っ」

伯父さんはこくこくと頷きながら、ダグさんと神官長の手を取る。
殿下がさらに言う。

『カール殿、曾孫の顔も見たくは無いか?』
「は…っ、はいっ…」
『ならば過去を乗り越えよう。
 昔の辛かった事は全部忘れていい』
『今の事、明日の事を気にして生きるんだ。
 食事の事でも、天気の事でも良いから』
「はい…」

伯父さんの目の奥が少しだけ変化する。
ちゃんと闇魔法に掛かったようだ…
それを見て、俺は殿下に合図を出す。
殿下は言う。

「カール殿は俺やルースより孫と話がしたかろう?
 私とルースはここで失礼させて頂くが…
 カール殿さえ良ければ、会いに来ても良いだろうか?」
「…はい、もちろん」

…俺と殿下は、無事に「明日の」約束を取り付けた。
明日またちゃんと会えれば、上手く行ったと言えるだろう。

後はダグさんと神官長に託して…

俺は担当の先生と話をすべく、伯父さんの部屋を辞した。
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