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最後の学園生活
戦場の犬
しおりを挟むパッセルに前世があるように、メジロにも前世がある。
いや、本当は誰にでも前世はあるのだが、記憶してるとなると相当珍しい話になるという事だ。
そして、メジロには前世の記憶があった。
こことは別の世界で、鉄と血と硝煙の匂いがする場所で飼われた記憶。
そこで優しい人に出会い、毎日褒めてもらったり撫でてもらったり、時には一緒に山へ散歩に行ったりした記憶。
その人が長い銃を構える時、一緒に寄り添って寝た記憶。
そして、爆弾を括り付けられて敵陣へ突撃させられた記憶。
優しい人を守るためだ、と聞かされて、ならばと自分の命を捨てた記憶。
最後、あの優しい人に撫でられてから逝きたかったという、願い……
それは、未練。
***
「目白!訓練お疲れ様」
「わふわふ」
「可愛いな~目白、いい子いい子」
「はふはふ!」
命令通りに行動する、という訓練が終わり飯を食った後、彼はやってくる。
「ワンワン!」
「どうした神田、お前も撫でて欲しいのか?
よーしよしよし」
「ぶふ……」
「はは、渋谷もか?よしよし」
ここにいる奴全員が、その優しい人に好かれようと尻尾を振る。
「今日はみんなにおやつを持って来たぞ!
みんな平等に、一個ずつな」
「わふわふ!」「へっへっ」「わん!わん!」
その人は、時々自分たちに茹でた肉を持って来てくれる。
時々だけど、それが嬉しくて自分たちは尻尾を振りまくる。
「ほら、目白の分」
「わん!」
「次、神田の分」
「はぐ、はぐ」
「最後、渋谷の分」
「わふわふ」
そして、彼はおやつの後必ず言う。
「明日から遠征だ。よろしくな」
「わん!」
遠征、というのは遠くまで車で行って、そこから山の中を長い間散歩するやつだ。
匂いで罠を見破ったり、敵を探ったり、そういうのをしながら歩く。
俺たち3匹のうち、1匹だけがあの優しい人と歩けるのだ。
別に他の人間が優しくないわけじゃないけど……あの優しい人は、特別なのだ。
次の日になり、あの人の隣に選ばれたのは別の奴だった。
「ふふん」
「……」
車に乗り、山に入り、あの人の横を神田が歩くのをみながら歩く。
暫くすると、神田とあの人は別方向へ行く。
あの優しい人は別の道を進む……
「……」
俺の隣を歩くのは、大して優しくない奴。
あの優しい人が、時々こいつの匂いをつけてやってくるところを見ると、恋人か何かだろう。
それなのにこいつは、あの優しい人以外の匂いをつけている。
きっと浮気だ。
別れた方が良いと教えられたらいいのに。
「……着いたな」
俺はそいつが伏せ、というから伏せた。
暫くすると、誰かがどこからか火薬の匂いがする固まりを持って来て、俺の背中に固定しようとした。
嫌だ!
俺は抵抗しようとしたが、命令は絶対。
仕方なくそれを受け入れて……
「目白、あそこまで全速力で走れ」
嫌だ。
行けば死ぬ。
いくら命令でも、それは嫌だ。
「行け、早く!」
「……」
何でお前のために。
俺は行かない。
お前が行けばいい……
「目白、奥津のためだ」
「?」
「お前が行かなきゃ奥津が困る。
酷い目に合わされる、だから行け」
奥津……
それは、あの優しい人の名前。
「……」
あの人が困ると。
酷い目に合わされると。
だから……
逝け、と。
「……」
神田が向かった方角を、見る。
僅かに優しい人の匂いが、する。
笑顔を思い出す。
撫でてくれた手を。
おやつをくれた事を。
「……」
ならば、行こう。
あの人が困らなくていいなら、酷い目に合わなくていいなら、逝こう。
「……」
俺は静かに頷いた。
そして、走った。
向こうから弾が飛んできた、でも走った。
微かに聞こえた。
「目白?」
俺の名を呼ぶ、優しい人の声。
「やめろ、やめてくれ……っ」
小さな声、震える声。
大丈夫、俺があなたを守るから。
走った、走った、走って……
そこから先の記憶は、無い。
だけど願いは、残った。
「あの人と、もう一度会えますように。
どうかあの人が、自分の事を覚えていてくれますように」
そして、願いは叶った。
俺は生まれ変わり、別の世界で別の生き物になって、あの優しい人と同じ瞳の人間に会った。
あの人と同じ匂いのするその人は、今も俺をこう呼ぶ。
「メジロ、行くぞ!」
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