話が違う2人

紫蘇

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最後の学園生活

港町、再び

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シルウェストリス領を抜け、王領に入ってすぐから魔物の数が増え始めた。
先に出た特務隊も消耗が激しく、仕方なしでクレイド一行と合流し、とにかく港へと歩を進め……

「やはり、陸にもダンジョンがあるかもしれん」
「という事は、海と陸で挟まれたら」
「ああ……ひとたまりもない」

先に陸のダンジョンを探すべきか、それとも海へ行くべきか。
ギル王子・クレイド・パッセルの3人が出した結論は……。


***


パッセルとリュノはまず港まで走った。

「、団長殿!状況は」
「ああ、三日三晩踊ってるが、どうしようもねえ」

2交代制で何とか踊り続けてるが……と、南方騎士団の団長が言う。
魔力の少ない村人たちはもう限界だ、とも。

「何とか上陸は防げてる。
 だが、これ以上は無理だ、一旦しっかり休ませないと、村の連中も」

となれば、方法は1つ。
元を叩いて魔物の数を減らす事だ。
つまり、海のどこかにある「だろう」ダンジョンを探し、攻略する事……

「……出せる船は?」
「ある、一つだけ」

修繕のためにたまたま陸にあげていた船が、魔物の騒動に巻き込まれずに済んだのだ。
昨年の春に修繕していた、あの船が……。

「操船できる方は」
「魔力ポーションと回復ポーションで、何とかする」
「……では、やるしかありませんね」
「ああ」

パッセルは王都騎士団とシルウェストリス騎士団に頼んで、各漁村へ散ってもらう事にした。
村人たちに代わり、阿波踊……「渦潮」魔法を展開するためだ。
こんな事もあろうかと、すでに全員に動き・魔力の練り方・イメージは伝えてある。

初めて「渦潮」魔法を使った時に立ち会った騎士もいる。
何とかなるはずと信じるしかない。

「たのみます、皆さん」
「はい!力いっぱい踊って参ります!」

王都騎士団とシルウェストリス騎士団は、魔法は使えるが阿波踊りは知らない3人を残して散った。
それを見届ける間もなく、パッセルはリュノとその3人と一緒に、団長の案内で船へ乗り込んだ。
もちろん、メジロも一緒だ。

パッセルはメジロに人参を食べさせてやりながら、言った。

「……頼むぞ、メジロ」
「ぶるる!」

海は広い。
そして、人間でも分かるほど潮の匂いがする。
かなりの嗅覚が試される場面だ。

それでもメジロなら……きっと。

「出航!」

団長の号令で、船が陸から離れる。
ふと港を見ると、ラディアの両親が手を振っている……
地方官吏も戦闘の裏にある雑事を請けおって走っているのだ。
兵隊だけで戦える戦は無い。
彼らを支えてくれる人がいないと、孤立した挙句、死ぬ。

「……パッセル」
「リュノ、このくらいの石の球、できるだけ堅いのをできるだけ頼む」
「分かった」

戦いの空気が、パッセルの意識を少しずつ前世に近づけていく。
船に積んであったボウガンを片手に、パッセルはメジロと船首に立つ。
おもむろに空のボウガンを構え、矢をつがえるための溝にリュノが作った球を乗せ……

「いた」

引き金をひく。
石が矢よりも強く飛んでいく。
その石が、魔物のこめかみをぶち抜く。

「よし」

弾丸をイメージして、風と空気を操る。
つまり、狙撃だ。

「次」
「はい」

リュノは土魔法で作った球をパッセルに渡す。
パッセルはさっきと同じようにセットし、狙い、撃つ。
次・次・次と、魔物を一撃で仕留めていく……

風魔法も、ここまで来ると笑えない。

「……化物、だな」
「味方で良かったっすね」
「ああ、本当に」

沖の魔物が狙撃に反応し、船の方へ向きを変えて進んで来る。
メジロは鼻をスンスンと鳴らし、注意深く風を匂う。
ダンジョンを見つけるためだ。
そしてそれは……優しい人の、ため。

メジロはパッセルの言いつけを思い出す。

「……いいかメジロ、ダンジョンを見つけたら、お前は船に乗って戻るんだ」
「ぷる?」
「陸のダンジョンも、お前が探すんだ。
 そして陸のダンジョンを見つけたら、安全なシルウェストリス領まで走れ。
 絶対に、絶対に死ぬな……死ぬために走るな、いいな?」
「……ひひん!」

あなたの役に立ちたい。
置いていかれるのは悲しい。
だけど、あなたの言いつけだから、守る。

死なない。
生きる。
生きるのだ。


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