話が違う2人

紫蘇

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最後の学園生活

新学期早々

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王妃アルス王妃付きの近衛ヴェスパをしれっと離宮に戻し、エバ王子のところへ報告に行くと、そこには渋い顔をしたアルベンシス候とオヴィスがいた。

「どうされました、お三方」
「……ギル殿下がお戻りになりません」
「は!?」
「ああ、生きて元気にはしているようなんだが、どうも『石持ち』が出たらしくてな」
「またですか……」

どうやら、フェリスが幼少期に聞いた「魔物がいっぱい出る」話が、今になって問題化しているらしい。

「とはいえ、それほど数は多くないそうです。
 ただ出現場所がまちまちで、どこにダンジョンがあるか絞り込めない……と」
「という事は、長期にわたる調査が必要になるという事ですか」
「ええ、その体制を整える為、お戻りが遅れるとの事で」
「弱りましたな」
「ええ……庭掃除の彼もね」
「あ、あ~…そりゃそうだよねぇ」

窓の外を見ると、こっちをちらちらと気にする1人の少年…というかラディア…が目に入った。

エバ王子の話によれば、彼は毎日ギル王子の部屋を覗いてはため息をつき、その後こっちの部屋の様子を伺いに来るらしい。

「あの子3日前からあの調子で」

考えてみれば彼は、ごく普通の人間だ。
登場した時のオヴィスよりも普通の……。

つまり、ギル王子に恋をしているのが丸わかり状態なのだ。
その上でギル王子が「ラディアを側に置きたい」と考えていると知れたら……

「……まさか」
「いや、まだ何も報告はない」

だが、何の力も無ければ後ろ盾も無い人間だ。
よこしまな連中から見れば、格好の餌……

「なら今のうちですな」
「行ってくれるかパッセル」
「+1ヶ月分の飯とノートで手を打ちましょう」
「了解です!」

パッセルはエバ王子からの依頼を引き受ける事にした。
簡単に言えば、彼をギル王子の元へ連れて行き、その間に魔法を仕込むという依頼だ。
当人は騎士科を志望しているが、知った事ではない。

「ちょっと待て、俺も」
「駄目です!
 リュノ殿下がいないと、勉強会が回らないです」
「じゃあ僕が」
「フェリスも駄目だ、公からの許可が出ん」
「えー!そんなぁ」

……というわけで、新学期早々にパッセルはラディア共々学園を休む事になった。


***


「それでは行って参ります」
「い、いってまいります」

善は急げ…という事で、翌日にパッセルはラディアを連れて王都を出た。
ダンジョン捜索の手伝いに行く王都騎士団3名と一緒だ。

「まさかパッセル殿が一緒に来てくださるとは」
「東ではこの馬が活躍したとか」
「今回も期待してるぞ!メジロ!!」
「ひひん!」

彼らにはラディアの事を自分の弟子だと紹介した。
魔法の授業で見どころがあると思ったのは本当だし、鍛えれば立派な魔法使いになる事も本当だ。
問題は、それほど向こうが自分に心を開いていないところだろうか……

「いいですか、ラディア殿。
 魔力を鍛えるには魔法を使う事です」
「……はい」
「今日からは水の魔法を使って、自分の飲む水を出してください。
 出来る限りでかまいませんから」
「……はい」

馬に乗ることに必死なのか、完全に上の空で返事をするラディア。

「パッセル殿、弟子殿は大丈夫なんですか?」
「まあ、鍛えればそのうち。
 温かい目で見守ってやってください」

思えば乗馬とは体幹が大事なものである。
慣れれば本人が志望したという騎士科でも役に立つかもしれない……

騎士科に入れてもらえるかは分からないけれど。

「ラディア殿。
 騎士の横に立つのは、どんな人間だと思いますか?」
「……分かりません」
「では、横に立てないのはどんな人間でしょうか」
「……弱い人」
「正確には、戦闘の手段を持たない者、です。
 あなたにはこの旅で、騎士の横へ立つだけの資格を身に着けて頂きます。
 私も腹芸の出来る方ではありませんが、それも含めて」
「……はい」

今ここで「騎士」とは誰の事かなどと言う事は出来ない。
それでも……

「フェリス殿がオヴィス殿を鍛えた様に。
 私はあなたを鍛えようと思います」

言えるギリギリのところまで、言う。
彼の中でこの言葉を上手く変換出来れば……

パッセルはそう祈りつつ、これから行く先を真っ直ぐと見つめた。


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