話が違う2人

紫蘇

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最後の学園生活

ラブストーリーの捏造

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「……」
「まだ怒ってるんですか、リュノ殿下」
「……怒ってない」
「怒ってるじゃん」
「怒ってますよねぇ」
「怒ってない!」

新学期、新学年のスタートだというのにパッセルは居ない。
もちろんラディアも居ないのだが、学園には忌引きで通した。
新入生たちは「入学早々、大変だなぁ」と信じてしまった……

そんな入学式のあった昼食時。

「別に『追うな』とは言ってないだろ」
「では今から追う」

今にも走り出そうとするリュノを押しとどめて、アラウダが言う。

「駄目です、勉強会に入りたい新入生をちゃんと出迎えて、それから風で走る板の話も聞いて貰わないと」
「それに『ギル殿下とラディア君の出会い』も、ちゃんと作りこまないと」
「そうだ、その為にラディアとパッセルだけを南へやったんだからな」
「……何だと?」

実は今回のパッセルへの依頼には、何重にも意味がある。

一つはギル王子の仕事を手伝ってもらう為。
一つは南方面に災害救助隊の輪を広げる為。
一つはパッセルにラディアを鍛えてもらう為。
一つはラディアにパッセルの弟子という肩書を付け、彼の庇護下にあると印象付ける為。

そして一つは……。

「失恋した弟の新しい恋の為、だ。
 それぐらい良いだろ?」
「……承服しかねる」
「そこは承服して頂かないと話が進みません」
「そうですよ!僕とエバ様で一生懸命考えたんですから」

大筋の話としてはこうだ。


①南の王領へ視察へ行ったギル殿下が、たまたま立ち寄った代官屋敷でラディア君と出会った。

②ラディア君の名前は、中等部で成績上位者としていつも発表されていたから知っていた。さらに王宮で庭掃除として働くところを何度か見ていたので、顔も知っていた。

③今まで話した事は無いけれど、顔と名前が一致する人間だったから何となく声を掛けた。すると驚いた事に、彼はパッセルの弟子になっていたのだ!

④二人は「パッセル」という共通の話題で盛り上がり、親交を深め、そして……♡


「つまり、あくまで今回の事がきっかけだ、という事にするんだね」
「はい!
 そう言えば、そう言えば……って感じで記憶が呼び起こされて、気になるが積み重なって、って感じで~」

さすが恋愛偏差値高めのオヴィスだ。
傍に置く理由に心情を持ってくる事によって、人の共感を得ようとしている。

「そして元恋人で現戦友の弟子ならば信頼できる人間だろうと考え、彼を側に置く事にした」
「それで、お互いパッセルさんの話で盛り上がって、仲良くなって~」
「そうして気の置けない友人になった、と」

どうやら、話に破綻は無さそうだ。
ギル王子がラディアと話しているところを、誰かに見られたりしていなければ……
だが、それも既に調査は済んでいる、とエバ王子は言う。

「そうだ。
 これでどうだ、とギルにはもう書簡を送った」
「という事は、校正待ちという事ですか?」
「原稿的に言うなら、そうだな」

何だかんだで仕事が早いエバ王子だ。
剣の腕は弟に劣るけれど、実務の腕は弟よりもずっと上。

「……こうしてみると良いご兄弟ですね、殿下」
「ああ、そうだろ?
 俺の持っていないものを持って生まれてきたのがギルだからな」

そうだ。
ついに、ここまで言えるようになったのだ。
二人の間に最早争いは無い、と……。

争い合うより助け合う事が、未来を作るのだ。

王と、王に並び立つ者。
その二つがあってこそなのだ、と。

「……どちらかが倒れても、もう一方が踏ん張ってくれる。
 そういう関係があれば、王は孤独ではない」

そのエバ王子の言葉に、全員が頷き返し……

後はラディアが強くなってくれるだけだ、と祈った。


***


一方その頃ラディアは……

「いやぁ、パッセル殿から直接魔法を教えてもらえるなんて、羨ましい」
「そ、そうですか……?」
「そうですよ!
 しかも最初っから実戦形式でなんて」

騎士たちから思いっきり羨ましがられていた。
ラディア的にはいきなり実戦だなんて厳しすぎる、と思うのだが……。

「そうそう、俺ら座学スタートだもん、全然ピンと来ないっつーか」
「出来ないのは授業のせいだ、ってわけじゃないんだけど」
「言葉で説明されても想像つかないし」

彼らにすれば、ラディアが受けている指導こそ自分が受けたかったものなのだ。
だったら……

「あの、一緒に指導、受けませんか」
「えっ」
「その方が僕も気が楽、というか……。
 僕、パッセルさんに頼んでみます」
「良いんですか!?」

一対一で対峙するには、あまりにも強すぎる。
ラディアは本能的に、自分の味方を作り始めた……。


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