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最後の学園生活
ラディアの実家
しおりを挟むパッセルとラディアと騎士3人の旅は順調に進み、遂にギル王子が滞在する港町に到着した。
「ラディア殿の実家は、この町にあるんでしたね」
「はい、この町で入出港管理をしています」
「へー、そうだったんだ」
町は王領の名にふさわしく、洗練された雰囲気だ。
海の魔物から町を守るのは南方騎士団で、港の治安も彼らが守っている。
今回石持ちの魔物が出ているのは当然海の方、なのだが……。
「まずは状況を知る為に、ラディア殿の実家へ行きましょう。
港を出入りする船の方から、何か聞いておられるかもしれませんし」
エバ王子とオヴィスの考えた物語を成立させる為には、ラディアが実家にいなければならない。
この5人の中でこの作戦を知っているのは、パッセルだけだ。
本来なら当事者のラディアにも知らせるべきなのだが、ぼろがでる可能性が高い。
そもそも、ラディアのポテンシャルがどれぐらいなのか、ギル王子以外の誰も知らないのだ。
仕方が無い。
「ではラディア殿、案内を頼みます」
「……はい」
作戦を成立させるには、ラディアがギル王子を探しに行くのを阻止する事。
その上で、騎士たちの見ていない所で二人を会わせる必要がある。
「ふむ」
パッセルは一計を投じる事にした……。
***
ラディアの実家に行くと、両親が揃って全員を迎えてくれた。
そこは前世で言うところの社宅に似た家で、パッセルは少しだけ懐かしい気持ちになった。
「初めてお目にかかります、リドティ管理官。
パッセル・モンタルヌスと申します、以後お見知りおき下さい」
「えっ、あなたが、あの?」
ラディアの両親は、パッセルが意外と背が低く細い事に驚きつつ握手をした。
功績と外見が見合わないのだ。
首元を見ると、ネックガードにしてはごつい革の防具で項を守っている。
父親は失礼にならない程度に鼻に意識を集中した。
確かにオメガの誘引香がする……
「本当に、オメガだったのですね」
「ええまあ、そのようです」
「……その、よろしいのですか?」
「ああ、別に気にした事はありません。
管理官がご家族の前で発情誘発を仕掛けるとも思えませんし」
「それは、確かに……そうですね」
ラディアの父は苦笑し、5人をリビングに招き入れた。
だが椅子に座る前に、パッセルは話を切り出す。
「いきなりですが、早速魔物の件について教えて頂けますか」
「ええ、それほど知っている事はありませんが」
「魔物の方は、相変わらず?」
「ええ、いつも通りの頻度、ですが……いつもは金属を打ち鳴らす音で逃げていく魔物が大半なのに、それに怯えず襲い掛かってくる魔物が増えたのです」
「……なるほど」
地に棲む魔物とダンジョン産魔物の違いの一つは、狂暴性だ。
港でそれが出たという事は、海からの可能性が高い。
「その魔物は、南方騎士団が?」
「ええ、船が壊される程の被害も出まして」
「それで王宮へ連絡を?」
「いえ、それよりも前にギル殿下が視察にお越しになられました」
「という事は、少し早く動けてはいる……か」
ギル王子が南へ行ったのは「念の為」だったはずだが、聞けば「念の為」どころの話ではなさそうだ。
パッセルは考えた。
報告では、ダンジョン産魔物の出現場所はまばらで法則性が無いと言う。
という事は、陸ではなくやはり海からだろう。
海のダンジョン……島?
もしくは幽霊船のような……?
「ギル殿下は、その後?」
「近隣の漁村を回り、またここへ戻る、と」
「出立はいつ?」
「1ヶ月程前です」
「……分かりました。
ラディア殿、君はここでギル殿下を待ちなさい」
「えっ」
「行き違いを防ぐためです。
我々は港へ行き、情報を集めます。
ギル殿下がお越しになったら、南方騎士団に連絡を下さい」
パッセルは出された茶を一気に飲み干すと、騎士たちと共にラディアの実家を出た。
あの「物語」はすでにギル王子と共有されているそうだ。
「あのお方は早いからな」
ギル王子は、思いついたら即行動。
剣の腕に自信があるから、最悪戦って勝てば良いと割り切っているのだ。
悪く言えば力押し……
「ふふっ」
その性格故にかつてオヴィスの実家で起こした一幕を思い出し、パッセルは笑った。
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