話が違う2人

紫蘇

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最後の学園生活

【ラディア】実家での再会 1

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パッセルさんに逆らえず、僕は家でただ殿下を待っていた。

夕食を食べて、部屋に戻って、ベッドの上で枕を抱き抱えて……。

本当なら探しに行きたい。
騎士の人たちに、ギル殿下の行方を聞いて、追いかけたい。
せめて無事かどうか、どうして王都に戻れないのかを聞きたい。
 
「……ギル殿下、本当に来るのかな」

パッセルさんはああ言ったけど、実際は足手まといはいらないってことに違いない。
ギル殿下が僕の実家なんかに来るはずない。
だって来る理由が無いもん。
そもそも、パッセルさんがここに来たのも、僕を預けてさっさと港へ行きたいからってだけで、父さんに話が聞きたかったわけじゃない……

「だって、あんなにさっさと出て行くなんて」

ギル殿下は、パッセルさんにフラれたって言ってた。
けど、一時期恋人だった事もあるし、半年も一緒にいたら発情期を1度や2度は一緒に過ごしてるはずで。
ギル殿下の初めては、全部パッセルさんの……

「僕、キスだってしてない。
 手も繋いだことない、なのに」

だけど僕には、パッセルさんに勝てるとこなんかない。
パッセルさんの方が可愛くて、強くて頭も良くて魔物もいっぱい倒せて、そのうえ災害救助隊っていう組織の一番偉い人で……

「……鍛えるって、僕、基礎しか知らないのに、厳しすぎるし。剣だって、自分は専用に使いやすい武器持ってるし。ずるい……」

恋敵、だなんて口が裂けても言えない。
だってパッセルさんの方が、ギル殿下に何倍も……
それに、ギル殿下もまだパッセルさんの事、好きなままかもしれないし。
パッセルさんだって、別れたとか言いながら、新しい恋人とはそんなに……だし。

「……なんでギル殿下の事、好きになっちゃったんだろ」

王族と結婚するには、身分が足りない。
エバ殿下とオヴィス様みたいに、運命の番というわけでもない。
最初にギル殿下が言ってた、側室にだって足りない。
愛人になら、なれるかもしれないけど。

「……でも、好きなんだもん」

いっそパッセルさんがいなければ、と思う事もある。
だけど実際は、いなくても結果は同じで。
僕はただ遠くから見つめる以外に、何も……

その時。

トントントン。
玄関の方で、音がした。
父さんが大声で返事をするのが聞こえた。

「……まさか」

僕は部屋を飛び出し、玄関へ駆け寄った。
そこには父さんと母さん、その向こうには……

「ギル殿下!?」

僕が心の底から待っていた人が、いた。


***


ギル殿下は居間に入って来て、父さんが勧めた椅子に座り、母さんがお茶を運んでくるのを待った。
そして父さんに言った。

「パッセル殿がこの家へ寄ったと聞いてな」 
「ええ、ですがすぐお発ちになりました」
「そうだろうな、まったく忙しい奴だ」

そう言ってフフ、と笑い、その後、他人行儀な感じで僕に話しかけた。

「君は……ラディア君?
 確か今年から高等部だろう?入学式はどうした」
「あ、ええと」

すると、父さんが驚いて殿下に聞いた。

「殿下、息子の事をご存じで」
「ああ、中等部では常に成績上位者だったしな。
 王宮で庭の清掃をしているのも見ているし、この前体験授業で同じ班になって握手もした」
「ああ、そうでしたか!」
「ラディアはどうしてここに?」
「あ、えと……パッセルさんに、連れられて、その」

すると母さんが、いきなり僕の自慢をし始めた。

「そうなんですの!
 この子、パッセル様の弟子になったんです!」
「ほう、あのパッセルが……弟子?」
「ええ、うちの息子は魔力が多いらしくて、今から鍛えれば立派な魔法使いになれるのではないかと!
 ……親の欲目かも、しれませんが」

母さんは、夕食のときに僕が話した事を何倍にも良い方向へ考えたらしかった。
でも、パッセルさんが僕を立派な魔法使いにする気なら、今僕を港の方へ連れて行ってるはずで……。

「母さん、そんな事あり得ないよ。
 弟子っていっても、僕、何の役にも立たない……」

駄目だ。

自分で言ってて悲しくなってきた。
もしかしたらパッセルさんが僕を連れて来たのは、無力さを思い知らせて、ギル殿下に近づくなって警告するためだったのかも……



「そんな事はない、ラディア」
「……ギル、殿下?」

俯く僕に、突然ギル殿下が声をかけてくれた。
殿下は言った。

「成績でも何でも、アルファの上をいくベータというのは、総じて努力家だ。
 きっと君もそうだろう?まだ努力が芽吹いていないだけなのに、諦めてはいけない」
「……殿下」

僕は殿下の目を見た。
殿下はにっこりと優しく笑って……
それから、少し真面目な顔になって、言った。

「それにな、パッセルの指導が厳しいのは、新米騎士の間でも有名なんだ。
 徹底的にへこまされて、悔しいならかかって来いと鼻で笑われて、かかって行ったらあの体術でぶん投げられて、プライドがずたずたになったところから本当の指導が始まるんだと」
「えっ、本当ですか!?」
「本当に決まっているだろ!
 俺もあいつが化物に見えた事があるしな」
「ば、ばけもの」

そんな話、聞いた事無かった。
もしかしてそれがきっかけで、本当はギル殿下の方からパッセルさんと距離を取った……のかな?
だったら、ギル殿下がパッセルさんの事をまだ好きかもなんて、考えなくてもいい……のかな?

「うふふっ……ですよね、強すぎて、人間じゃないみたいだもん」
「そうだろ?まあ、人なんだけどな」

ギル殿下はそう言って、笑ってくれた。
僕は少しだけ……

ううん、とっても心が軽くなって、ギル殿下のお話をいっぱい聞くことができた。

後でこれは作戦だったと聞かされても……

それはそれで、とても嬉しかった。


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