188 / 292
最後の学園生活
【ラディア】実家での再会 1
しおりを挟むパッセルさんに逆らえず、僕は家でただ殿下を待っていた。
夕食を食べて、部屋に戻って、ベッドの上で枕を抱き抱えて……。
本当なら探しに行きたい。
騎士の人たちに、ギル殿下の行方を聞いて、追いかけたい。
せめて無事かどうか、どうして王都に戻れないのかを聞きたい。
「……ギル殿下、本当に来るのかな」
パッセルさんはああ言ったけど、実際は足手まといはいらないってことに違いない。
ギル殿下が僕の実家なんかに来るはずない。
だって来る理由が無いもん。
そもそも、パッセルさんがここに来たのも、僕を預けてさっさと港へ行きたいからってだけで、父さんに話が聞きたかったわけじゃない……
「だって、あんなにさっさと出て行くなんて」
ギル殿下は、パッセルさんにフラれたって言ってた。
けど、一時期恋人だった事もあるし、半年も一緒にいたら発情期を1度や2度は一緒に過ごしてるはずで。
ギル殿下の初めては、全部パッセルさんの……
「僕、キスだってしてない。
手も繋いだことない、なのに」
だけど僕には、パッセルさんに勝てるとこなんかない。
パッセルさんの方が可愛くて、強くて頭も良くて魔物もいっぱい倒せて、そのうえ災害救助隊っていう組織の一番偉い人で……
「……鍛えるって、僕、基礎しか知らないのに、厳しすぎるし。剣だって、自分は専用に使いやすい武器持ってるし。ずるい……」
恋敵、だなんて口が裂けても言えない。
だってパッセルさんの方が、ギル殿下に何倍も……
それに、ギル殿下もまだパッセルさんの事、好きなままかもしれないし。
パッセルさんだって、別れたとか言いながら、新しい恋人とはそんなに……だし。
「……なんでギル殿下の事、好きになっちゃったんだろ」
王族と結婚するには、身分が足りない。
エバ殿下とオヴィス様みたいに、運命の番というわけでもない。
最初にギル殿下が言ってた、側室にだって足りない。
愛人になら、なれるかもしれないけど。
「……でも、好きなんだもん」
いっそパッセルさんがいなければ、と思う事もある。
だけど実際は、いなくても結果は同じで。
僕はただ遠くから見つめる以外に、何も……
その時。
トントントン。
玄関の方で、音がした。
父さんが大声で返事をするのが聞こえた。
「……まさか」
僕は部屋を飛び出し、玄関へ駆け寄った。
そこには父さんと母さん、その向こうには……
「ギル殿下!?」
僕が心の底から待っていた人が、いた。
***
ギル殿下は居間に入って来て、父さんが勧めた椅子に座り、母さんがお茶を運んでくるのを待った。
そして父さんに言った。
「パッセル殿がこの家へ寄ったと聞いてな」
「ええ、ですがすぐお発ちになりました」
「そうだろうな、まったく忙しい奴だ」
そう言ってフフ、と笑い、その後、他人行儀な感じで僕に話しかけた。
「君は……ラディア君?
確か今年から高等部だろう?入学式はどうした」
「あ、ええと」
すると、父さんが驚いて殿下に聞いた。
「殿下、息子の事をご存じで」
「ああ、中等部では常に成績上位者だったしな。
王宮で庭の清掃をしているのも見ているし、この前体験授業で同じ班になって握手もした」
「ああ、そうでしたか!」
「ラディアはどうしてここに?」
「あ、えと……パッセルさんに、連れられて、その」
すると母さんが、いきなり僕の自慢をし始めた。
「そうなんですの!
この子、パッセル様の弟子になったんです!」
「ほう、あのパッセルが……弟子?」
「ええ、うちの息子は魔力が多いらしくて、今から鍛えれば立派な魔法使いになれるのではないかと!
……親の欲目かも、しれませんが」
母さんは、夕食のときに僕が話した事を何倍にも良い方向へ考えたらしかった。
でも、パッセルさんが僕を立派な魔法使いにする気なら、今僕を港の方へ連れて行ってるはずで……。
「母さん、そんな事あり得ないよ。
弟子っていっても、僕、何の役にも立たない……」
駄目だ。
自分で言ってて悲しくなってきた。
もしかしたらパッセルさんが僕を連れて来たのは、無力さを思い知らせて、ギル殿下に近づくなって警告するためだったのかも……
「そんな事はない、ラディア」
「……ギル、殿下?」
俯く僕に、突然ギル殿下が声をかけてくれた。
殿下は言った。
「成績でも何でも、アルファの上をいくベータというのは、総じて努力家だ。
きっと君もそうだろう?まだ努力が芽吹いていないだけなのに、諦めてはいけない」
「……殿下」
僕は殿下の目を見た。
殿下はにっこりと優しく笑って……
それから、少し真面目な顔になって、言った。
「それにな、パッセルの指導が厳しいのは、新米騎士の間でも有名なんだ。
徹底的にへこまされて、悔しいならかかって来いと鼻で笑われて、かかって行ったらあの体術でぶん投げられて、プライドがずたずたになったところから本当の指導が始まるんだと」
「えっ、本当ですか!?」
「本当に決まっているだろ!
俺もあいつが化物に見えた事があるしな」
「ば、ばけもの」
そんな話、聞いた事無かった。
もしかしてそれがきっかけで、本当はギル殿下の方からパッセルさんと距離を取った……のかな?
だったら、ギル殿下がパッセルさんの事をまだ好きかもなんて、考えなくてもいい……のかな?
「うふふっ……ですよね、強すぎて、人間じゃないみたいだもん」
「そうだろ?まあ、人なんだけどな」
ギル殿下はそう言って、笑ってくれた。
僕は少しだけ……
ううん、とっても心が軽くなって、ギル殿下のお話をいっぱい聞くことができた。
後でこれは作戦だったと聞かされても……
それはそれで、とても嬉しかった。
44
あなたにおすすめの小説
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
隊長さんとボク
ばたかっぷ
BL
ボクの名前はエナ。
エドリアーリアナ国の守護神獣だけど、斑色の毛並みのボクはいつもひとりぼっち。
そんなボクの前に現れたのは優しい隊長さんだった――。
王候騎士団隊長さんが大好きな小動物が頑張る、なんちゃってファンタジーです。
きゅ~きゅ~鳴くもふもふな小動物とそのもふもふを愛でる隊長さんで構成されています。
えろ皆無らぶ成分も極小ですσ(^◇^;)本格ファンタジーをお求めの方は回れ右でお願いします~m(_ _)m
お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!
MEIKO
BL
本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。
僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!
「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」
知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!
だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?
※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。
愛され少年と嫌われ少年
透
BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。
顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。
元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。
【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】
※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
前世が教師だった少年は辺境で愛される
結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。
ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。
雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
-----------------------------------------
0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる