話が違う2人

紫蘇

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最後の学園生活

【ギル】実家での再会 2

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俺は兄上とオヴィス殿の作戦通り、ラディアにパッセルの逸話を聞かせた。

「実際そう呼んでる連中が騎士団の中にもいっぱいいるぞ。
 確かに魔力ポーションをあおりながら何発も大魔法を使うところなんか、この世のものとは思えん何かだ」
「……すごい方、なんですね」
「すごいというより、常軌を逸している。
 西へ遠征に行った騎士やカヌス領の兵士の中には、魔神と呼ぶ者さえいる」

その後、魔力ポーションの飲み過ぎでぶっ倒れて運ばれた事すら伝説になっている。
そしてフェリス殿が「飲み過ぎ厳禁!」と言う度に申し訳なさそうにしている。
あのパッセルでさえ頭が上がらないのがフェリス殿だ。
困った事があればフェリス殿を通すと良いかもしれない……

なんて事を、つらつらと話して聞かせる。

ラディアの両親は真剣な顔で聞いている。
ラディアは逆に楽しそうに聞いている。

「第一寮裏の勉強会に出入りしていれば、フェリス殿と話す機会も持てる。
 フェリス殿も、パッセルの弟子となれば気にかけてくださる」
「そ、そんな……公爵家の、方なのに」
「何、話してみれば気さくで面白い方だ。
 偉ぶるところが無いし、家格を気にして話に行けない者にはわざわざ話しかけてくれる。
 何より兄上の所業を許して友人になってくれるほど心の広い方だ」
「ええ、なんて素晴らしい方!ねぇラディア」
「そうだね、母さん」

俺以外にも、味方になってくれる人間はいる。
誰でもいいから、困った時は頼って欲しい。

欲を言えば俺を頼って欲しい、けれど。
まだそんな事を言える段階ではない……

どころか、そんな段階など無い。

ラディアが俺を好きになる事など絶対に無い。
だってあれだけ脅したり、偉そうに振舞ったり、勝手に計画の中に組み込んだり……
好きになってもらえる要素が無い。

俺との子どもを産む、という発言も……計画が駄目になるのが嫌だから、つい言っただけだろうし。

「まあ……
 ともかくラディアは、そんなやつの弟子になったんだ。それも、自分から頼み込んだわけじゃないんだろう?
 皆が羨ましがるさ」
「そう……なんですか?」
「ああ、パッセルが自分から『弟子だ』と紹介する人間など、見た事が無いからな」
「そう言われれば……一緒に来た騎士さん達も羨ましいって仰って」
「そうだろう?で、彼らも弟子になったのか」
「はい、でも向こうは……もう、強いから」
「それは気にしなくて良い。
 そもそも騎士たちは、ラディアより長く生きているんだぞ。
 身近に仲間が出来たんだ、喜ばしい事さ」
「そうで……そっか、そうですね」

ラディアはニッコリ笑った。
そして、この旅の間に騎士たちと剣術の訓練をしろと言われたと言った。

「それで、力を合わせて自分を倒してみろ、と……」
「ほう、つまり勝つ方法か」
「はい、でもこのままじゃ魔法でも剣でも勝てそうになくて、どうしようって」

おいおい、パッセルのやつ無茶苦茶な事言ってるな。
どう考えても勝てる方法なんか無いだろ、騎士3人に俺が入っても難しいぞ。

うーん、ラディアがパッセルに勝つ方法か……。

「そうだ、パッセルと魔法で戦うなんて考えない方がいい。
 勝とうと思うなら、外国語の成績で勝負するのが一番早いぞ」
「……外国語?」
「ああ、パッセルは外国語で赤点を取った事があるんだ」
「ええっ、あんな……尊敬されてるのに?」

いや尊敬……というか、畏怖に近いだろう。
むしろ成績が悪い事で「やっぱり人間だったんだ」と安心する奴の方が多いぐらいだ。
それが無かったら、今頃信仰の対象になっていてもおかしくない。

「周りは成績など気にも留めていない。
 ただ本人は気にしているようでな。
 だから、周りに見せつける事が目的でないなら、学期末の試験で勝負を挑むのが一番早い」
「試験……」

ラディアの目に、少し希望が灯る。
そうだろう、勉強はラディアの得意分野だ。
努力すれば間違いなく勝てる。

「もしラディアが一位になったら、きっと驚くぞ。
 それに、パッセルが唯一頭の上がらないフェリス殿も、何度も一番になっているんだ」
「という事は、成績が良い人に弱い?」
「いや、アラウダを小突いて遊んでいるぐらいだから……
 成績が自分より悪かった事のある人間は別枠かもしれんな」
「えっ、アラウダ様、成績が悪かったんですか!?」
「ああ、二度パッセルに負けてる」

成績の良し悪しで人間が決まるわけではない。
そもそも、魔力や剣術でだって決まらない。

それでも、何かで勝てれば自信がつく。

「学園へ戻ったら、毎晩勉強会だな」
「えっ」
「俺もいきなり休んでいる分を取り戻さねばならんし、丁度良い。
 まだ王宮の中に住んでいるんだろ?」
「っ、はい!」

どうやら、元気が戻ったようだ。

良かった。

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