話が違う2人

紫蘇

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最後の学園生活

【東ルート側】ダンジョン再訪 1

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あれから東ルートの一行は順調に旅を続け、学生たちの目的地である東のダンジョンへ到着した。

「随分な変わりようだな」
「ええ、土地を拡げておいて正解でしたね」

いつの間にか拠点ではダンジョン案内人や日雇い治癒師が家を建てて生活しており、日々やってくる腕試しの連中を相手に少しずつ商売が始まっていた。
村との間を行き来する商人も現れて、朝から夕方まで食料や水を売っている。
ちょっと儲かる程度だが隣国からも人が来るとの事で、地味に外貨を稼いでいるようだ。

「久々に来ましたが、これほど拠点が充実しているとは」
「儲かりそうだから投資しただけだ」
「さすがステルラタ辺境伯殿、先見の明がおありだ」

パッセルが来ると聞きつけた東の辺境伯は、わざわざこのダンジョンまで出向いていた。

「褒めても何も出ないぞ」
「それは残念」

目的はひとつ、王都からの大動脈になるはずの大型街道の整備に対する投資資金についてである。

街道が通る領地には、王宮から投資のお願いが届いているのだ。
投資しなければ、王都から西へと整備が進んでいるあの道のような馬車で走りやすい道は作ませんよ、という圧と共に。

「それどころか、何とか安くならんかと頼みにきたところだ」
「国を挙げての大事業ですから、安くはなりません。
 ただ、この街道整備が終われば税収が上がる可能性はありますよ」
「つまり満額投資しろ、と」

儲かる可能性があるから投資しただけ、とさっき言ったのを逆手にとられ、東の辺境伯はたじたじになる。
パッセルがたたみかける。

「安くあげる方法、というわけではありませんが、魔法工法と魔法農法の教本をお持ちしました。
 これで魔法が使える領民をご指導頂ければ、投資した金を領内で落とす事が可能ですよ」
「うっ……」

自領の外から人を呼べば、高くつく割にカネは外へ出て戻って来ない。
領内の人間を使うなら、その給料は一部だが税金として戻ってくるし交通費も必要ない。
辺境伯は高速で計算し、相槌を打った。

「確かにそうだな、だがその本は」
「今回お持ちした分につきましては、無料配布とさせて頂きます」

なんと無料!
だが、もう少し引き出せないかと辺境伯は粘る。

「ううぬ、たった3冊ずつではないか……」
「さすがにこれ以上は、私の懐も持ちませぬ。
 ご注文、お待ちしております」
「……まとめ買いで割引とか」
「送料が一回分で済むのでその分お安いかと」
「無料にはならんのか」
「大街道が出来れば、あるいは」
「うぬぬぬぬ」

結局は立派な大街道が出来れば儲かるかもしれないよ、という話にされて唸る辺境伯。

二人のその話し合いの様子を見て、ラディアは「交渉術の弟子もありかな?」と少しだけ思った。


***


投資額が安くならない代わりにパッセルの魔法工法1日指導権をもぎ取って、東の辺境伯は帰っていった。

「結局、お屋敷まで行く事になりました。
 いやはや、さすがステルラタ辺境伯様だ」
「半分予想していただろ、そのぐらい」
「まあ、そうですね。
 とはいえ、王都へ採用活動をしに来て頂く事も出来そうですし」

パッセルはパッセルで、東の辺境を就職先の一つに考えている学生や王都民のために人を派遣してもらう約束を取り付けていた。

一勝一敗といったところか。

「さて、少々遅くなりましたが、ダンジョンへ行きましょうか。
 準備は出来ていますね?」
「「 はい! 」」
「明日からは皆さんとこちらの3人の騎士様たちだけになりますから、どんな場所なのかをしっかり把握して、無理のない範囲を見極めてください。
 辿り着くまでにも、魔物に注意して」
「「 はい! 」」

交渉が終わり、パッセルは学生を連れてダンジョンへ向かう事にした。
ダンジョンは現実とは違う時間が流れている。
実習するならあちらの方が、後々の予定に響かなくて良さそうだ。

「ラディアも、準備はいいですね」
「はい」
「……俺には聞かないのか?」
「ええまあ、聞かなくても分かるので。
 メジロ、行くぞ」
「ヒヒン!」

パッセルはまた少しだけ分かりにくい甘えを見せ、先頭に立った。

「……素直じゃないんだから」

そんな誰かの呟きが聞こえたような気がしたが、パッセルは無視を決め込んだ。


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