旦那様には気付かれたくない!

紫蘇

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恋する旦那様

暴走してた使者

 
使者殿、と呼ばれた執事らしき人は固まった。
旦那様は得心したように言った。

「やはりそうか」
「……フォーゲル様の、幸せのためだ」
「俺を殺せば、フォーゲル陛下の命は救ってやるとでも言われたか?」
「抜かせ!!」

執事らしき人が懐に手を入れた。
その瞬間、旦那様はその手を制した。

「残念ながら、俺を殺したところで彼の命が保障される事はない」
「うるさい、私は……!」

これが実力差ってやつだろうか……
旦那様は彼をそのまま説得し始めた。

「忠義あって裏切るものを、奴らが生かしておくと思うか?
 貴方が死して尚、王を守れるというなら止めんが」
「……っ!」

執事らしき人は雷に打たれたように、はっとして旦那様を見た。

「俺を生かしたまま王の元へつれていくなら、彼の命は保障しよう。
 俺の強さは貴方にも分かっているはずだ。
 ……ブンデビルドへ攻め込んできたフィッツラルド兵の中に、貴方に似た顔がいるのを覚えている」
「!!」

え、え、本当?
そんなのいちいち覚えてられないもんじゃないの?
だって、いち敵兵だよ?

「旦那様、覚えてらっしゃるんですか!?」
「泣きながら突っ込んでくるのは覚えていないが、覚悟を決めた顔で突っ込んでくる者は覚えているぞ」
「すごい!!」
「ふふ、すごいだろう」

僕と旦那様の会話に毒気を抜かれたのか、執事らしき人の体から力が抜ける。
そして、懐の中で握っていたであろうナイフが床へ落ちる。

「……確かに、閣下の強さは身をもって知っている」
「そうだろう?だからな、王を救いたければウィアグランドに乗り換えろ。
 その方が得だぞ?
 少なくとも個人に見返りなど要求しない」
「……分かった」

執事らしき人は床に膝をついて、旦那様に言った。

「私の忠誠を違えぬため、貴方に下ろう……ブンデビルド将軍閣下」


***


旦那様の色々に屈した執事らしき人に案内されて、僕らはフォーゲル様がおられるという執務室へ向かった。

「謁見の間は?」
「現在閉じられております。
 フォーゲル様の体調が優れないため、謁見はしばらく無しとなりましたので」
「そうでしたか……」

きっと心労だろうな。
落ち着いて心身を休める場がないうえに、仕事が山積み……
僕にも覚えがあるなぁ。

「念の為、治癒魔法をお掛けしましょうか?」
「……あなたは」
「多少魔法が使えるので、今回の行軍に混ぜて頂いたものです」
「なんと……そうでしたか!」

レディさんが言ってた「魔法使いがブンデビルドの兵団に帯同している」事の意味が、この人には通じたらしい。
良かった。

「トマス、あまり魔力を使うな」
「大した量じゃありません、大丈夫ですよ」
「う、うむ、しかし……」

旦那様ったら心配性だなぁ。
ここにくる途中で野盗に一発食らわせただけなんだから、まだまだ余裕ですよ?

「ここでフォーゲル王に倒れられては困る、でしょう?」
「……そうだな」
「是非ともお願い致します、ええと……」
「トマスと申します、貴方は?」
「ファル、と申します、トマス様」
「『様』は不要です、ファル殿」
「ではトマス殿、と」

執事らしきファルさんの足が、ある一室の前で止まる。
彼が扉を叩くと、中から「入れ」と声がする。
ファルさんが扉を開けて、旦那様と僕を中へ入る様促す……

「フォーゲル陛下、ブンデビルド将軍閣下と魔法使いのトマス殿をお連れしました」
「そうか!」

フォーゲル陛下は席を立って、旦那様を見る。
旦那様もまた、陛下を見て……

「ウィアグランド王国侯爵ワイルダー・ブンデビルドと申します。兵を連れての捜索をご許可下さり、誠に有難うございます」

と頭を下げた。
するとフォーゲル陛下は少し恥ずかしそうに椅子に座り直し、言った。

「長旅、ご苦労であった。
 お疲れの所申し訳ないが、早速本題に入りたい」

……良かった、目を合わせたのが一瞬で。
そんなことを思った次の瞬間……

「……ぅ」
「陛下?」
「フォーゲル様!」

陛下の身体がぐらりと傾いた。
そんな、まさか……!

「トマス、治癒を」
「は、はい!」

そんな馬鹿な。
見つめ合った時間なんて、たった1秒も無かったはずだ。
それなのに、こんな……!!

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