先祖返りの君と普通の僕

紫蘇

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先祖返りの君と普通の僕

ラグビー部の快挙と河本君の暴走

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試合開始前5分。
横田さんは高原先生と走っていた。

「急いで下さい、先生!」
「うん、ごめんね横田さんっ」

フィールドへ入る。
ラグビー部全員がどこか緊張した面持ちでいる。
相手を見ると、そこには先祖がえりの子が5人。

「…これは厳しそうだね」
「…先生…、俺たち、」
「うん、作戦はもう、あるんだよね?」
「それは…だけど!」

フィジカルの強さが物を言うラグビーという競技において、先祖がえりの人数の差は大きい。
今までの相手は…いても、3人か、それぐらい。
その時勝ったのは奇跡だ…と全員が思っている。
それが5人も。
今回ばかりは…勝ち目が…無いんじゃないか。

「そうは言っても、彼らも高校生だからね」
「そうは言っても、って!」
「体格は大人以上だよ、でもね、精神的にはどうかな…ってことだよね」
「精神的に?」
「先祖がえりの子は、身体能力の高さを活かし切るのに強い精神力を求められるんだって。
 河本君にも言ったでしょ、常に冷静でねって」
「…うん」
「あの力を制御できないとボールってどうなっちゃう?ありえないとこへ飛んでいっちゃうよ、それじゃプレーにならないよね」
「うん」
「だから、撹乱するの。
 カッカさせるために、細かくパスを繋いで、先祖がえりの子をとにかく避けるんだ、でしょ?」
「うん…でも、上手くいくかな…って」
「河本君相手に、沢山練習したんだよね」
「うん」
「河本君も、相手にされないでイライラしちゃうことには慣れているよね」
「うん」
「できるよ、練習したんだもん、たくさん」
「…はい!」
「行っておいで!ここまで来たのは、偶然や奇跡じゃないんだからさ」
「はい!」
「…河本君、おいで」
「……何ですか?」
「頑張れる、おまじない」

高原先生は河本君をハグした。
ポンポンと背中を叩きながら言った。

「大きいねえ、手が届かないよ」
「…先祖がえり、だし…」
「先祖がえりだしって、それだけじゃないでしょ」
「…うん」
「頑張ってきた、強くなった。
 君がいる。みんなが支えてくれる…大丈夫!」
「うん!」
「行っておいで!」

河本君は走り出した。
フィールドに2つのチームが並んだ。
試合開始の笛が鳴った。

「集中!」
「集中!」

顧問と部長の声。

「集中していこ!」

高原先生の声…
ラグビー部全員が、聞いた。

----------

……ピーー……

試合終了の笛が聞こえる。

「やっべ、急げかっしー」
「わかってますけど、ますけど!」
「ここで決めなきゃ殺されるぞ」

サッカー部3人は走る。
電車とバスで1時間、そこからダッシュ。
3人はスタジアムから出てくる観戦者たちの流れに逆らいながらスタンドへ向かう。

「勝っててくれよ~」

ラグビー部が勝ってるのと負けてるのじゃ、誘い易さが全く違うだろう。

頼む!

3人は祈りながらスコアボードを見る。
そこには…

30-12

「…勝っ…てる…!」

グラウンドでは喜びを爆発させているラグビー部の部員たちがいて…高原先生は河本君に抱き上げられて高い高いされていた。

「あっ…の野郎」「かっしー!」「待てって!」

樫原君がスタンド最前列へ進む。

「先生!」

その声に、高原先生が気づいて手を振る。
河本君にも届いたようで、彼はそっと先生を地面に降ろして、名残惜しそうにもう一度ハグして…
そして、言った。

「樫原!俺らも決勝リーグだ!」
「そうか、良かったな」
!」

それは、まるで宣戦布告のようにも聞こえ…
女子マネ横田さんの感動の涙が止まった。

「やきもきする恋に当て馬…最高のスパイス」
横田さんのつぶやきはさらに流れる。
「…加速する想い…急展開…求めあう2人…!」
「おい、横田…?」
「河本先輩、グッジョブです!!」
「は?何の話だ…」

横田さんは全てを読んでいた。
サッカー部の男友達から横流しされた薄い冊子を。
捨てるに捨てられないなら私が貰う…と言って。

そして完全に醸成された。

「本物の樫高カシ✕タカを、この目で…
 モブ転生だとしたら、最高の位置」

横田さんは…

押しも押されもせぬ、腐女子であった。
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