62 / 88
先祖返りの君と普通の僕
突然の来訪者
しおりを挟む
今日も高原先生は通常運転。
朝から校庭を走って、樫原君が持って来てくれるサンドイッチを食べ、職員室で野球部の子からおにぎりを受け取り、授業の準備をして、朝会の後、教室へ行く。
変わったことと言えば、サンドイッチを持ってくるのが樫原君に固定されたことと、樫原君の顔が妙にすっきりしていることだ。
ついに諦めがついたのだろうか…と少し寂しい気持ちになりながら、切り捨てた自分が抱いていい感情ではないな、と打ち消す。
今日一日が終われば、明日は休みだ。
どこの部の試合もない土日は久々だった。
***
野球部の練習が終わって、学校に戻った。
他の部は、まだ練習をしている。
今日も先祖返りの子たちと「ミーティング」をすることになっている高原先生は、校庭の端で練習を眺めていた。
すると、急に後ろから声をかけられた。
「…シュク」
「?」
「多禍原朱紅」
「…?」
誰だろう、それ。
後ろを見ると、女性が1人、立っていた。
「お前を呼んでいるんだが…ああ、今は一郎、か」
今は?
「…どなた…ですか?」
「ふむ、なかなか面倒なものだな。何のきっかけで切り替わるのか分からんとは」
青い目の…ああ、外国の人かな?
学校に迷い込んだんだろうか…
「私の名は碧だ。多禍原碧…
「一郎」とは初めてだな」
「あ、はい…そうですね、初めまして」
あおい?じゃあこの国の人か。
同じ「タカハラ」ってことは…新しい親戚!?
「シュク、という名前に聞き覚えは?」
「…いえ、聞いたことは…」
「では、黄陽は?」
「僕の兄です、もしかしてあなたは、兄の…」
「ただの同僚だ、お前が普段どうやって生活しているのかと思って、見に来た」
聞けば、死んだ兄の同僚であった彼女は、どうやら魔導師の仕事の傍ら、何らかの仕事に就いて市井で生活するようにと言われたらしく、暫くこの学校で職場見学をするらしい。
「なぜ、教師を?」
「人に教えるのが、好きで…」
「ああ、そうだった…優秀な指導係だったな」
ん?誰の事…ああ、兄かなあ。
「お前の指導は頭に残る。そしてお前の指導を受けた新人達は、皆初陣から生きて帰ってきた」
「?」
「お前が居なくなってからというもの、魔獣にやられる魔導師が増えてな。困ったことだ」
「……?」
「見学は明日からだが、先に挨拶だけしておく。
よろしく頼む」
「は、はあ…」
そういうと彼女は消えた。
転移の魔力の残滓が、高原先生の肌に触れて…
「懐かしいな、碧」
全く意図しない言葉が口から零れた。
朝から校庭を走って、樫原君が持って来てくれるサンドイッチを食べ、職員室で野球部の子からおにぎりを受け取り、授業の準備をして、朝会の後、教室へ行く。
変わったことと言えば、サンドイッチを持ってくるのが樫原君に固定されたことと、樫原君の顔が妙にすっきりしていることだ。
ついに諦めがついたのだろうか…と少し寂しい気持ちになりながら、切り捨てた自分が抱いていい感情ではないな、と打ち消す。
今日一日が終われば、明日は休みだ。
どこの部の試合もない土日は久々だった。
***
野球部の練習が終わって、学校に戻った。
他の部は、まだ練習をしている。
今日も先祖返りの子たちと「ミーティング」をすることになっている高原先生は、校庭の端で練習を眺めていた。
すると、急に後ろから声をかけられた。
「…シュク」
「?」
「多禍原朱紅」
「…?」
誰だろう、それ。
後ろを見ると、女性が1人、立っていた。
「お前を呼んでいるんだが…ああ、今は一郎、か」
今は?
「…どなた…ですか?」
「ふむ、なかなか面倒なものだな。何のきっかけで切り替わるのか分からんとは」
青い目の…ああ、外国の人かな?
学校に迷い込んだんだろうか…
「私の名は碧だ。多禍原碧…
「一郎」とは初めてだな」
「あ、はい…そうですね、初めまして」
あおい?じゃあこの国の人か。
同じ「タカハラ」ってことは…新しい親戚!?
「シュク、という名前に聞き覚えは?」
「…いえ、聞いたことは…」
「では、黄陽は?」
「僕の兄です、もしかしてあなたは、兄の…」
「ただの同僚だ、お前が普段どうやって生活しているのかと思って、見に来た」
聞けば、死んだ兄の同僚であった彼女は、どうやら魔導師の仕事の傍ら、何らかの仕事に就いて市井で生活するようにと言われたらしく、暫くこの学校で職場見学をするらしい。
「なぜ、教師を?」
「人に教えるのが、好きで…」
「ああ、そうだった…優秀な指導係だったな」
ん?誰の事…ああ、兄かなあ。
「お前の指導は頭に残る。そしてお前の指導を受けた新人達は、皆初陣から生きて帰ってきた」
「?」
「お前が居なくなってからというもの、魔獣にやられる魔導師が増えてな。困ったことだ」
「……?」
「見学は明日からだが、先に挨拶だけしておく。
よろしく頼む」
「は、はあ…」
そういうと彼女は消えた。
転移の魔力の残滓が、高原先生の肌に触れて…
「懐かしいな、碧」
全く意図しない言葉が口から零れた。
2
あなたにおすすめの小説
【完結】取り柄は顔が良い事だけです
pino
BL
昔から顔だけは良い夏川伊吹は、高級デートクラブでバイトをするフリーター。25歳で美しい顔だけを頼りに様々な女性と仕事でデートを繰り返して何とか生計を立てている伊吹はたまに同性からもデートを申し込まれていた。お小遣い欲しさにいつも年上だけを相手にしていたけど、たまには若い子と触れ合って、ターゲット層を広げようと20歳の大学生とデートをする事に。
そこで出会った男に気に入られ、高額なプレゼントをされていい気になる伊吹だったが、相手は年下だしまだ学生だしと罪悪感を抱く。
そんな中もう一人の20歳の大学生の男からもデートを申し込まれ、更に同業でただの同僚だと思っていた23歳の男からも言い寄られて?
ノンケの伊吹と伊吹を落とそうと奮闘する三人の若者が巻き起こすラブコメディ!
BLです。
性的表現有り。
伊吹視点のお話になります。
題名に※が付いてるお話は他の登場人物の視点になります。
表紙は伊吹です。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!
中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。
無表情・無駄のない所作・隙のない資料――
完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。
けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。
イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。
毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、
凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。
「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」
戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。
けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、
どこか“計算”を感じ始めていて……?
狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ
業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
【完結】君を上手に振る方法
社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」
「………はいっ?」
ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。
スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。
お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが――
「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」
偽物の恋人から始まった不思議な関係。
デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。
この関係って、一体なに?
「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。
✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧
✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる