14 / 40
温かさは正義
しおりを挟む
食べていないという言葉があったので、スープなどシンプルなものかと思ったら――麦を牛乳らしきもので煮て、ハーブらしきものが振ってあった。
「どうぞ……あ、胃が驚かないように、ゆっくり召し上がれ?」
「はい」
コニーの言葉に頷いて、湯気を立てるそれを掬ってアガタは口に運んだ。途端に蜂蜜とミルクの優しい甘さ。それからハーブの味と温かさが、口いっぱいに広がった。
「……おいしい……」
味だけでも美味しかったがアガタが久々に食べる、温かい食べ物だった。見た目はリゾット、食感はコーンフレークという感じか。
ついがっつきそうになったが、先程コニーに言われたことを思い出し、ゆっくりしっかり味わう。ハーブらしきもの、と思ったのはシナモンのような匂いと味がして、アガタは前世のある食べ物を思い出した。
「八つ橋……」
「? おかわりもありますからね」
「はい」
頷きながら気づけば木の器が空になり、その後二回おかわりした。そしてお腹いっぱいになったところで、アガタは奥の部屋――トイレらしきものと、たらいが置いてあるところへと連れていかれた。
「さあ、お風呂に入りましょうね」
そう言うと、コニーは食事を作る時に一緒に用意していたのか、湯気を立てる鍋を数回持ってきて床においたたらいに注いだ。そして先程、ロラに言われた通りはちみつを数匙、あとラベンダーのような香りのするオイルを垂らした。
服を脱ぎ、まずは体を洗うことにする。
……実は、エアヘル国の王宮では夜遅かった為という理由で、数日に一度冷めたお湯で体や髪を洗うだけだった。かろうじて石鹸もあったが、月に一度しか与えられないので少しずつ使っていた。
しかしここでは、蜂蜜を入れて石鹸まで作っているらしい。
渡された石鹸を今までのことを考えて少しずつ使おうとしたが、それを見たコニーが躊躇せずタオルで泡立て、擦ってきたり髪を洗ってきたので恐縮しつつも甘えることにした。そして洗い流したところで、再度オイルの香りがするお風呂に浸かったら、一気に体が熱くなった。あまりの心地好さに、全身から力が抜ける。
「あったかい……それに、いい匂い……」
「これも、語り部の知恵なのですよ……さあ、泡を流しましょうね」
「え……あ、はい……」
何だか、ハーブを前世の地球のように使っていると思った。
引っかかったが、お風呂で身も心も温まっているうちに、思考がふやけて――気づけば、アガタはお風呂で寝落ちしていた。
※
メルは、黙って鳥のフリをしていた。そしてぐっすり眠っているアガタが、食材を運んできたランにより、寝台に運ばれるのを見ていた。
「……ヤツハシ、かい」
それから、アガタが呟いた言葉にロラが反応していたことも。
※
新作公開しています。『悪女と呼ばれた聖女が、聖女と呼ばれた悪女になるまで』。逆行した令嬢の復讐物語です。
「どうぞ……あ、胃が驚かないように、ゆっくり召し上がれ?」
「はい」
コニーの言葉に頷いて、湯気を立てるそれを掬ってアガタは口に運んだ。途端に蜂蜜とミルクの優しい甘さ。それからハーブの味と温かさが、口いっぱいに広がった。
「……おいしい……」
味だけでも美味しかったがアガタが久々に食べる、温かい食べ物だった。見た目はリゾット、食感はコーンフレークという感じか。
ついがっつきそうになったが、先程コニーに言われたことを思い出し、ゆっくりしっかり味わう。ハーブらしきもの、と思ったのはシナモンのような匂いと味がして、アガタは前世のある食べ物を思い出した。
「八つ橋……」
「? おかわりもありますからね」
「はい」
頷きながら気づけば木の器が空になり、その後二回おかわりした。そしてお腹いっぱいになったところで、アガタは奥の部屋――トイレらしきものと、たらいが置いてあるところへと連れていかれた。
「さあ、お風呂に入りましょうね」
そう言うと、コニーは食事を作る時に一緒に用意していたのか、湯気を立てる鍋を数回持ってきて床においたたらいに注いだ。そして先程、ロラに言われた通りはちみつを数匙、あとラベンダーのような香りのするオイルを垂らした。
服を脱ぎ、まずは体を洗うことにする。
……実は、エアヘル国の王宮では夜遅かった為という理由で、数日に一度冷めたお湯で体や髪を洗うだけだった。かろうじて石鹸もあったが、月に一度しか与えられないので少しずつ使っていた。
しかしここでは、蜂蜜を入れて石鹸まで作っているらしい。
渡された石鹸を今までのことを考えて少しずつ使おうとしたが、それを見たコニーが躊躇せずタオルで泡立て、擦ってきたり髪を洗ってきたので恐縮しつつも甘えることにした。そして洗い流したところで、再度オイルの香りがするお風呂に浸かったら、一気に体が熱くなった。あまりの心地好さに、全身から力が抜ける。
「あったかい……それに、いい匂い……」
「これも、語り部の知恵なのですよ……さあ、泡を流しましょうね」
「え……あ、はい……」
何だか、ハーブを前世の地球のように使っていると思った。
引っかかったが、お風呂で身も心も温まっているうちに、思考がふやけて――気づけば、アガタはお風呂で寝落ちしていた。
※
メルは、黙って鳥のフリをしていた。そしてぐっすり眠っているアガタが、食材を運んできたランにより、寝台に運ばれるのを見ていた。
「……ヤツハシ、かい」
それから、アガタが呟いた言葉にロラが反応していたことも。
※
新作公開しています。『悪女と呼ばれた聖女が、聖女と呼ばれた悪女になるまで』。逆行した令嬢の復讐物語です。
148
あなたにおすすめの小説
【完結】追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!
夏芽みかん
ファンタジー
生まれながらに強大な魔力を持ち、聖女として大神殿に閉じ込められてきたレイラ。
けれど王太子に「身元不明だから」と婚約を破棄され、あっさり国外追放されてしまう。
「……え、もうお肉食べていいの? 白じゃない服着てもいいの?」
追放の道中出会った剣士ステファンと狼男ライガに拾われ、冒険者デビュー。おいしいものを食べたり、可愛い服を着たり、冒険者として仕事をしたりと、外での自由な生活を楽しむ。
一方、魔物が出るようになった王国では大司教がレイラの回収を画策。レイラの出自をめぐる真実がだんだんと明らかになる。
※表紙イラストはレイラを月塚彩様に描いてもらいました。
【2025.09.02 全体的にリライトしたものを、再度公開いたします。】
私が産まれる前に消えた父親が、隣国の皇帝陛下だなんて聞いてない
丙 あかり
ファンタジー
ハミルトン侯爵家のアリスはレノワール王国でも有数の優秀な魔法士で、王立学園卒業後には婚約者である王太子との結婚が決まっていた。
しかし、王立学園の卒業記念パーティーの日、アリスは王太子から婚約破棄を言い渡される。
王太子が寵愛する伯爵令嬢にアリスが嫌がらせをし、さらに魔法士としては禁忌である『魔法を使用した通貨偽造』という理由で。
身に覚えがないと言うアリスの言葉に王太子は耳を貸さず、国外追放を言い渡す。
翌日、アリスは実父を頼って隣国・グランディエ帝国へ出発。
パーティーでアリスを助けてくれた帝国の貴族・エリックも何故か同行することに。
祖父のハミルトン侯爵は爵位を返上して王都から姿を消した。
アリスを追い出せたと喜ぶ王太子だが、激怒した国王に吹っ飛ばされた。
「この馬鹿息子が!お前は帝国を敵にまわすつもりか!!」
一方、帝国で仰々しく迎えられて困惑するアリスは告げられるのだった。
「さあ、貴女のお父君ーー皇帝陛下のもとへお連れ致しますよ、お姫様」と。
******
不定期更新になります。
【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜
白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」
即位したばかりの国王が、宣言した。
真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。
だが、そこには大きな秘密があった。
王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。
この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。
そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。
第一部 貴族学園編
私の名前はレティシア。
政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。
だから、いとこの双子の姉ってことになってる。
この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。
私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。
第二部 魔法学校編
失ってしまったかけがえのない人。
復讐のために精霊王と契約する。
魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。
毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。
修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。
前半は、ほのぼのゆっくり進みます。
後半は、どろどろさくさくです。
小説家になろう様にも投稿してます。
【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます
なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。
過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。
魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。
そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。
これはシナリオなのかバグなのか?
その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。
【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】
お言葉ですが今さらです
MIRICO
ファンタジー
アンリエットは祖父であるスファルツ国王に呼び出されると、いきなり用無しになったから出て行けと言われた。
次の王となるはずだった伯父が行方不明となり後継者がいなくなってしまったため、隣国に嫁いだ母親の反対を押し切りアンリエットに後継者となるべく多くを押し付けてきたのに、今更用無しだとは。
しかも、幼い頃に婚約者となったエダンとの婚約破棄も決まっていた。呆然としたアンリエットの後ろで、エダンが女性をエスコートしてやってきた。
アンリエットに継承権がなくなり用無しになれば、エダンに利などない。あれだけ早く結婚したいと言っていたのに、本物の王女が見つかれば、アンリエットとの婚約など簡単に解消してしまうのだ。
失意の中、アンリエットは一人両親のいる国に戻り、アンリエットは新しい生活を過ごすことになる。
そんな中、悪漢に襲われそうになったアンリエットを助ける男がいた。その男がこの国の王子だとは。その上、王子のもとで働くことになり。
お気に入り、ご感想等ありがとうございます。ネタバレ等ありますので、返信控えさせていただく場合があります。
内容が恋愛よりファンタジー多めになったので、ファンタジーに変更しました。
他社サイト様投稿済み。
失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~
紅月シン
ファンタジー
聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。
いや嘘だ。
本当は不満でいっぱいだった。
食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。
だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。
しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。
そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。
二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。
だが彼女は知らなかった。
三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。
知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。
※完結しました。
※小説家になろう様にも投稿しています
婚約破棄され森に捨てられました。探さないで下さい。
拓海のり
ファンタジー
属性魔法が使えず、役に立たない『自然魔法』だとバカにされていたステラは、婚約者の王太子から婚約破棄された。そして身に覚えのない罪で断罪され、修道院に行く途中で襲われる。他サイトにも投稿しています。
婚約破棄された竜好き令嬢は黒竜様に溺愛される。残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ
水無瀬
ファンタジー
竜が好きで、三度のご飯より竜研究に没頭していた侯爵令嬢の私は、婚約者の王太子から婚約破棄を突きつけられる。
それだけでなく、この国をずっと守護してきた黒竜様を捨てると言うの。
黒竜様のことをずっと研究してきた私も、見せしめとして処刑されてしまうらしいです。
叶うなら、死ぬ前に一度でいいから黒竜様に会ってみたかったな。
ですが、私は知らなかった。
黒竜様はずっと私のそばで、私を見守ってくれていたのだ。
残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる