タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま

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色々と判明

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 貰ったお弁当を荷物に入れている間に、蜂蜜の商品と荷物を用意したランが再びやってきた。
 ロンとコニーに見送られながら、ランとメルと共に家を出た。そして、いざ里に結界を張る、と決めたところでここには魔法陣がないことに気づいた。
 メルに聞こうとしたが、そこでアガタは、ふと引っかかった。

(あれ? でも……)

 ここに来る前に寄ってきた実家には当然、魔法陣はなかった。それなのに(アガタには見えないが)普通に結界は張られていた。
 思えば他にも、不思議に思ったことがある。
 一回目、エアヘル国を出る時は結界が消えて――けれど二回目、アガタの家から飛び立つ時の結界は、そのままだったのは何故だろう?
 そのことを聞くと、何でもないことのようにメルは言った。

「他の人間とは違い、アガタ様は魔法陣がなくてもただ願えば結界が張れます」
「え?」
「愛し子は、精霊に愛される存在もの。多少は体に負荷がかかりますが、それでも他の人間程ではありません。エアヘル国を出る時は、結界を張っていた精霊達がアガタ様をあの国から解放しようとしたから消えました。全く追手がかからないことはないでしょうが、長年あった結界が無くなればそれどころではないでしょう?」
「……えっ?」
「前回は自宅で、別に閉じ込められてはいなかった。それにアガタ様のご実家ですから、精霊達はそのまま守ることにしました。だから、そのままです」
「ちょっ、チートじゃね?」

 周りに聞こえないように小声で話しているメルに、ランもまた小声でツッコミを入れてくるがアガタも同感だ。精霊達が、そこまでアガタの為に動いてくれるとは初耳だ。
 そこでアガタは、エアヘル国を出る時にマリーナに言われたことを思い出した。

「……だから、破壊神?」
「ああ……あの時にも言いましたが、そう言っているのは下級の精霊もの達だけです。と言うか、精霊の声を聞ける人間に話しかけ、力を貸すのは下級の精霊が多いです。代わりに、人間から生命力が得られて自分の力が増えますから」
「等価交換なんだな」
「そうですね」

 昔、孫が観ていたアニメで聞いたような気がするが、アニメを知らないメルは普通に頷き、話の先を続けた。

「だけど、アガタ様は違います。ただアガタ様が願えば、どれだけ逆らおうとしても抗えませんし、アガタ様の力を奪うことも出来ません。逆に少しでも好かれようと、たとえ己の存在がすり減っても、アガタ様の望みを叶えようとします。あ、精霊には基本、死はありません。ですから結界などが消えても、精霊自体が死ぬ訳ではないのでご安心下さい」
「え、ええ」

 怖いので聞けずにいたが、それならと安心した。だが不意にある考えが浮かび、青ざめたアガタは小声でメルに尋ねた。

「じゃあ……この里に結界張るのって、精霊達にそれこそタダ働きさせるってことなの?」
「違います」

 タダ働きが嫌で逃げ出したのに、そんな自分がタダ働きをさせるとは何事か。焦ったアガタの問いかけに、けれどメルは首、と言うか肩に乗ったもふもふ全体を左右に振って否定した。

「アガタ様の為に働けるなら、それだけで我々精霊にはご褒美です」
「…………」
「えーと……まあ、相手がいいんならいいんじゃねぇか?」
「……そ、そうね」

 とんでもないことをキッパリと言われて、アガタは絶句した。精霊達の想いが重い。
 そんなメルの言葉を、ランが雑にまとめて――結界が必要なのは事実なので、アガタもぎこちなく頷いて、いつも結界を維持していたように手を組んで声を出さずに祈った。

(この里に、結界を……魔物や悪しき者もだけど、獣人が許した者以外は人間も拒むように……どうか、お願いします)

 関係性を知った今、最後にそう付け加えた。

「「「!?」」」
「アガタ様の望んだ通りの結界が張れました」

 刹那、アガタの願いに応えるように、里を金色の光が包み込んだ。それを見ていたロラ達は勿論、外にいた獣人達も息を呑んだが――すぐに見えなくなったので大きな騒ぎにはならず、メルの言葉に安心してアガタはロラとコニーに頭を下げた。

「とても、お世話になりました……ロラさん、コニーさん、ありがとうございました」
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