演劇少女は、新妻(ジュンヌ・マリエ)の人生を紡ぐ

渡里あずま

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前世が終わり、そして

 彼女の名前は、高瀬久美たかせくみ。演劇部に所属する、高校三年生だ。
 学校によるのかもしれないが、久美の所属する演劇部は一本のお芝居ごとに役者と裏方に分かれて活動する。
 そして久美は毎回、裏方を希望した。そう、高三最後の文化祭でもだ。

(私は、チビだから……舞台に上がっても、みっともないだけだもんね)

 久美は身長が151センチしかないし、足も小さい。童顔なので化粧も似合わず、黒髪はショートカットにしていて、私服だと下手すると小学生に間違われるくらいだ。
 けれど高校に入学した時に演劇部の練習を見て、裏方での参加も出来ると知って入部したのである。
 そして久美は先程まで、有名な劇作家の書いた『雨過ぎて空晴れる』という舞台の練習を観ていた。
 明日が文化祭なので、演技はほぼ完成していた。あとは当日、久美達が作った大道具の前で、久美達が作った衣装を着て本番を迎えるだけである。

「いいえ、あなた、あなたが見ているのは妻の影、妻という名前だけで実体はありません」※
「名も実もある。許してくれ!」※

 舞台終盤。死んだと思われていた主人公・エレーヌが登場し、彼女から逃げていた相手役・アーロンが許しを請う場面である。
 ここで今までのすれ違いや誤解が解消され、最後、二人は結婚するのだ。

(色々あったけど、最後はうまくいく。男性側はともかく、女性としてはね……だから、この舞台のタイトルって『雨過ぎて空晴れる』なのよね)

 何でも、外国のことわざで『雨が通り過ぎると、空が晴れて明るくなる』。つまり、どんなことも最後にはうまくいくということらしい。

(だからって今日、雨なんて降らなくても……明日は、晴れれば良いなぁ)

 こっそりとため息をついた久美達、演劇部員が雨の中、練習を終えて帰路につく。
 そんな中、急に歩道に車が突っ込んできて。
 主人公・エレーヌを演じるが轢かれそうになった時、久美は『また』大切な人に死なれたくないと思ったので、彼女を突き飛ばして庇った。そして代わりに車に轢かれ、悲鳴とブレーキ音の中地面に倒れ、駆け寄ってきた部員達に言った。

「ごめん……わたしはきにせず、あしたはほんばん、がんばっ、て」

 それだけ言って気を失った久美だったが、まさか死ぬとは思っていなかった。車に轢かれたショックのせいか、痛みをあまり感じなかったからだ。
 ……しかし、気を失った久美が次に目覚めたのは日本ではなかったし、彼女も『久美』でもなかった。


※『終わりよければすべてよし』第五幕 第三場より引用 (ちくま文庫 シェイクスピア全集33 松岡和子訳)

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