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侍女が付くことになったけど
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無事に結婚式を終え、エレーヌは伯爵家に、そして自分の部屋へと戻った。いや、正確には今までエレーヌがいた部屋ではなく、伯爵令息の妻として与えられた部屋である。
敵の攻撃を想定し、貴族以上の住む城は厚さ数メートルの石壁で守られている。それ故、太陽の光はなかなか射し込まないし、鎧戸で常に閉まっているのが普通だ。
そこで少しでも華やかさを求めたのと、あと断熱材としての目的で富裕層の家の壁にはタペストリーが飾られていた。そんな訳で今、エレーヌがいる部屋にも貴婦人と一角獣の描かれたタペストリーが飾られている。
(ここが、今日から私の部屋)
そう、エレーヌのである。今、この部屋にいるのはエレーヌと、彼女付きの侍女一人だ。先程、ウェディングドレスから夜着に着替えたのであとは寝るだけである。
結婚式とくれば、その後は初夜かと緊張したがそれはない。いや、むしろアーロンからこうして別々の部屋で過ごすので、無事に出産することだけを考えるよう言われていた。
(いずれは覚悟しなくちゃだけど、誰かと付き合ったことすらないのに、今日すぐすぐに初夜は勘弁したかったから助かったけど……そうか、戯曲の通りだったらここに)
そこまで考えて、エレーヌはこっそり自分のお腹を撫でた。しかし今のところは膨らんでいないし、自主規制なのかエレーヌの記憶を辿っても何故か真っ暗だったことしか浮かばないのでまるで実感がない。
気を取り直そうと首を振ったところでエレーヌは鏡に、そしてそこに映る自分に気付いた。
癖のある栗色の髪と、琥珀色の瞳。
貴族以上や、平民でもそんな貴族と結婚出来る富裕層などは、金や銀など淡い髪色が多い。逆に平民は黒や茶など濃い髪色が多いので、エレーヌが平民だというのは一目で解る。まあ、遺伝子の影響なので、時にはその身分と異なる髪や目の色で生まれる場合ももちろんあるようだが。
(一方、私付きの侍女になったシルリーさんは、赤みがかった金髪なのよね……確か、商人の娘だったような)
真っ直ぐな髪もだが、目もエメラルドを思わせる綺麗な緑だ。なかなかの美人だし、それこそドレスを着たら貴族の令嬢にしか見えないだろう。もっとも、実際は平民なのでこうして同じ平民のエレーヌ付きになった訳である。
エレーヌの知識や記憶を振り返ると勉強熱心だった反面、ほとんど周りと接してこなかったので人間関係が希薄だ。けれど、これからお世話になるのだし、シルリーとは年も近そうである。もう少し、私の方から歩み寄らなければ。
そう思っていたエレーヌだったが、シルリーから出た言葉を聞いてギョッとした。
「……あなた、誰?」
敵の攻撃を想定し、貴族以上の住む城は厚さ数メートルの石壁で守られている。それ故、太陽の光はなかなか射し込まないし、鎧戸で常に閉まっているのが普通だ。
そこで少しでも華やかさを求めたのと、あと断熱材としての目的で富裕層の家の壁にはタペストリーが飾られていた。そんな訳で今、エレーヌがいる部屋にも貴婦人と一角獣の描かれたタペストリーが飾られている。
(ここが、今日から私の部屋)
そう、エレーヌのである。今、この部屋にいるのはエレーヌと、彼女付きの侍女一人だ。先程、ウェディングドレスから夜着に着替えたのであとは寝るだけである。
結婚式とくれば、その後は初夜かと緊張したがそれはない。いや、むしろアーロンからこうして別々の部屋で過ごすので、無事に出産することだけを考えるよう言われていた。
(いずれは覚悟しなくちゃだけど、誰かと付き合ったことすらないのに、今日すぐすぐに初夜は勘弁したかったから助かったけど……そうか、戯曲の通りだったらここに)
そこまで考えて、エレーヌはこっそり自分のお腹を撫でた。しかし今のところは膨らんでいないし、自主規制なのかエレーヌの記憶を辿っても何故か真っ暗だったことしか浮かばないのでまるで実感がない。
気を取り直そうと首を振ったところでエレーヌは鏡に、そしてそこに映る自分に気付いた。
癖のある栗色の髪と、琥珀色の瞳。
貴族以上や、平民でもそんな貴族と結婚出来る富裕層などは、金や銀など淡い髪色が多い。逆に平民は黒や茶など濃い髪色が多いので、エレーヌが平民だというのは一目で解る。まあ、遺伝子の影響なので、時にはその身分と異なる髪や目の色で生まれる場合ももちろんあるようだが。
(一方、私付きの侍女になったシルリーさんは、赤みがかった金髪なのよね……確か、商人の娘だったような)
真っ直ぐな髪もだが、目もエメラルドを思わせる綺麗な緑だ。なかなかの美人だし、それこそドレスを着たら貴族の令嬢にしか見えないだろう。もっとも、実際は平民なのでこうして同じ平民のエレーヌ付きになった訳である。
エレーヌの知識や記憶を振り返ると勉強熱心だった反面、ほとんど周りと接してこなかったので人間関係が希薄だ。けれど、これからお世話になるのだし、シルリーとは年も近そうである。もう少し、私の方から歩み寄らなければ。
そう思っていたエレーヌだったが、シルリーから出た言葉を聞いてギョッとした。
「……あなた、誰?」
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