演劇少女は、新妻(ジュンヌ・マリエ)の人生を紡ぐ

渡里あずま

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言の葉を紡いで『彼女』となる

 台本や大道具の関係で調べるまでは伯爵夫人、つまりは領主夫人とくれば、命令するだけで作業は全て侍女たちが行うイメージがエレーヌには、いや、久美にはあった。そう、あった。過去形だ。
 
(調べてみたら城の衣類を用意するのは、女性たちの仕事だけど……騎士物語とかだと領主やその息子の為に糸や布を紡いだり、仕立てて刺繍をするのは上流階級のご婦人なのよね。今の、ベルトラン伯爵夫人みたいに)

 城の奥、ケメナーテと呼ばれる部屋。
 今、ここにはアーロンの母であり、未亡人で領主代行をしているベルトラン伯爵夫人と侍女たち、そしてエレーヌとシルリーがいる。
 今まではアーロンの衣装は伯爵夫人とその侍女たちが用意していたが、結婚したことで今後はエレーヌとシルリーの仕事になるのだ。まあ、一気にではなく少しずつだし、城全体を二人では無理なので、まずはアーロンに集中していいらしい。

(侍女たちも縫い物や刺繍はするけど、扱える糸や布が伯爵夫人と……あと、アーロンの妻になった私とは違うのよね)

 色々と勉強になる。そう思いつつ、エレーヌはアーロンの春用の衣装を作ることにした。来年だがその頃は臨月なので、早めに作っておこうとなったのだ。型紙はあるので、まずは布の裁断である。

(……と言うか、私と言うかエレーヌ、この部屋に来るの初めてよね)

 記憶もだし伯爵夫人に呼ばれた時、こっそりシルリーにも確認したので間違いない。亡き父親の助手として、この城に住んではいたが――医務室にばかりいて、この部屋には寄り付かなかったのだ。それ故、他の侍女たちに流石にあからさまではないが、チラチラチラチラ見られている。

「あら、思ったよりも出来るのね……ずっとこの部屋に来なかったし、父親の服も古着で一から仕立てないから、苦手なのだと思っていたわ」

 そんな侍女たちが抱いているだろう考えを、ベルトラン伯爵夫人が針を動かす手を止めずに口にする。
 アーロンと同じ銀の髪と、青い瞳。とても成人した息子がいるとは思えないくらい若々しく、美しいが早くに夫を亡くし、女手一つでアーロンを育てた女傑である。

(知識や記憶はある。だけど、エレーヌがどう思っていたかは、残念ながら解らない)

 ここには、縫い物をしたければ城の者なら誰でも来られる。それなのに何故、エレーヌは一度もここに来なかったのか――その答えを今、彼女は口にしなければならない。
 幸いと言うのも何だが、前世で裏方仕事をしていたおかげで、ある程度は縫い物が出来る。刺繍はあまりやったことがないが、せっかくなのでこれから学んでいこうと思う。
 そしてシルリーによると多少、いつもと違う行動をしても平民から次期伯爵夫人になるからだと思われるらしい。それなら、とエレーヌは目を伏せて口を開いた。

「苦手です……裁縫がではなく母や姉がいなかったので、同性と何を話して良いか解らず……ですから代わりに病や怪我の治療で、少しでも城の役に立とうと思ったのです」

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