9 / 24
いつもとは違う一日
騎士であるアーロンは朝、馬で国王の住む城にある騎士団へと出勤し夜、エレーヌ達が住む伯爵城へと帰ってくる。王城で暮らしている者もいるが、大抵の貴族や騎士は王城の外に領地を貰い、そこからアーロンのように通っている。
そんなアーロンをエレーヌも朝、見送り、昼は針仕事をしたり医務室(侍医が常駐している部屋)に顔を出したり夜、出迎える。
余談だが、エレーヌの父の後を引き継いだ侍医は、前世の記憶が甦る前のエレーヌと接点があったので、バレるかと緊張したが――若い頃に(今は父より少し下の四十代前半である)ハニートラップで当時の職場を追い出されて以来、若い女性が苦手なのだと言う。流石に患者としては対応出来るが、エレーヌとは普段から距離があるし、会話も最低限しかない。だからバレないし、医学書も借りることが出来るので重宝している。
(んっ……?)
今宵も、エレーヌは日課通り、帰城したアーロンを出迎えた。
しかし、何かいつもと雰囲気が違う。アーロンの目が据わっていて、口角が下がっている。無表情だから、不機嫌に『見える』ではない。完全に怒っている。
王城か騎士団で、何かあったのだろうか? 怖かったが、居合わせた侍女や使用人たちも萎縮していたので、指摘というより我に返って欲しくてエレーヌは声をかけた。
「あの……何か、ございましたか?」
「…………」
「アーロン」
「……食事の時に、話します」
エレーヌの問いかけには答えなかったが、伯爵夫人からの呼びかけには渋々とだが返事をした。給仕や侍女であるシルリーがいるが、食堂だったら人数は最低限だ。それに、エレーヌも一緒である。
だからその場ではそれ以上聞かず、食堂でアーロンが話すのを待った。やがて、肉料理を食べ終えたタイミングで、アーロンが話し始めた。
「初めに言っておきますが、もう終わった話です……バルト国から、ブランシェ王女と私との縁談の話が参りました」
「えっ?」
驚いて、思わず声が出てしまう。元々、アーロンはエレーヌとの婚姻を望んでいなかった。そこに王族からの話とくれば、渡りに船とばかりに飛びつくのではないだろうか?
「アーロン? まさかあなた、エレーヌと離縁して再婚するなんて言わないわよね?」
「当然です! と言うか、そういう話は来ましたが断りましたし、私に話す前に実は陛下も断っていたのです。ただ当事者なので、他の者から聞くよりはと……だから私も今、母上とエレーヌに話しました」
「それこそ当然です。我が家の嫁は、エレーヌだけですからね」
アーロンの説明と、伯爵夫人の言葉にエレーヌは追い出されずに済んだとホッとした。アーロンからは「いつの間に母と仲良くなったのか」という目で見られたが、それこそいつの間にかなので、言葉にせず笑って流すことにした。
……話は、そこで終わったと思った。
しかし一週間後、直接、エレーヌに謝りたいとブランシェ王女が訪れるとのことで、急遽、王宮の宴に呼ばれることになる。
そんなアーロンをエレーヌも朝、見送り、昼は針仕事をしたり医務室(侍医が常駐している部屋)に顔を出したり夜、出迎える。
余談だが、エレーヌの父の後を引き継いだ侍医は、前世の記憶が甦る前のエレーヌと接点があったので、バレるかと緊張したが――若い頃に(今は父より少し下の四十代前半である)ハニートラップで当時の職場を追い出されて以来、若い女性が苦手なのだと言う。流石に患者としては対応出来るが、エレーヌとは普段から距離があるし、会話も最低限しかない。だからバレないし、医学書も借りることが出来るので重宝している。
(んっ……?)
今宵も、エレーヌは日課通り、帰城したアーロンを出迎えた。
しかし、何かいつもと雰囲気が違う。アーロンの目が据わっていて、口角が下がっている。無表情だから、不機嫌に『見える』ではない。完全に怒っている。
王城か騎士団で、何かあったのだろうか? 怖かったが、居合わせた侍女や使用人たちも萎縮していたので、指摘というより我に返って欲しくてエレーヌは声をかけた。
「あの……何か、ございましたか?」
「…………」
「アーロン」
「……食事の時に、話します」
エレーヌの問いかけには答えなかったが、伯爵夫人からの呼びかけには渋々とだが返事をした。給仕や侍女であるシルリーがいるが、食堂だったら人数は最低限だ。それに、エレーヌも一緒である。
だからその場ではそれ以上聞かず、食堂でアーロンが話すのを待った。やがて、肉料理を食べ終えたタイミングで、アーロンが話し始めた。
「初めに言っておきますが、もう終わった話です……バルト国から、ブランシェ王女と私との縁談の話が参りました」
「えっ?」
驚いて、思わず声が出てしまう。元々、アーロンはエレーヌとの婚姻を望んでいなかった。そこに王族からの話とくれば、渡りに船とばかりに飛びつくのではないだろうか?
「アーロン? まさかあなた、エレーヌと離縁して再婚するなんて言わないわよね?」
「当然です! と言うか、そういう話は来ましたが断りましたし、私に話す前に実は陛下も断っていたのです。ただ当事者なので、他の者から聞くよりはと……だから私も今、母上とエレーヌに話しました」
「それこそ当然です。我が家の嫁は、エレーヌだけですからね」
アーロンの説明と、伯爵夫人の言葉にエレーヌは追い出されずに済んだとホッとした。アーロンからは「いつの間に母と仲良くなったのか」という目で見られたが、それこそいつの間にかなので、言葉にせず笑って流すことにした。
……話は、そこで終わったと思った。
しかし一週間後、直接、エレーヌに謝りたいとブランシェ王女が訪れるとのことで、急遽、王宮の宴に呼ばれることになる。
あなたにおすすめの小説
あっ、追放されちゃった…。
satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。
母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。
ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。
そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。
精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました
22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。
華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。
そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!?
「……なぜ私なんですか?」
「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」
ーーそんなこと言われても困ります!
目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。
しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!?
「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」
逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?
【完結】逃がすわけがないよね?
春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。
それは二人の結婚式の夜のことだった。
何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。
理由を聞いたルーカスは決断する。
「もうあの家、いらないよね?」
※完結まで作成済み。短いです。
※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。
※カクヨムにも掲載。