演劇少女は、新妻(ジュンヌ・マリエ)の人生を紡ぐ

渡里あずま

文字の大きさ
10 / 24

主張が大渋滞

しおりを挟む
 いつもはアーロンが一人で移動するので、王宮までは馬を使っている。
 しかし今回、身重のエレーヌも同行するので馬車で移動することになった。それ故、今日のエレーヌは薄化粧をしてドレスを纏い、馬車の中以外はアーロンに手を引かれてエスコートされている。そして王城へと入り、宴の会場へと到着したのだが。

(……来たばっかりだけど、帰りたい)

 そう思ったのは、視線の先にいる王女・ブランシェのせいだ。
 絹糸のように艶やかな金の髪。輝くような白い肌。髪と同じ色の長いまつ毛が、大きな水色の瞳を縁取っている。
 エレーヌより一、二歳年下だろうか? 同じ窄衣型のドレスではなく、コタルディ(五分から七分丈の袖と大きく深めな襟ぐり。スカート部分は、腰を細く見せる為に裾広がりに広がっているドレス)を着ていた。そのドレスの鮮やかな赤色と同じく赤い口紅が、彼女の白い肌を引き立てている。華やかな美少女なので、もっと未来に流行るフリルドレスも似合いそうだ。

(現実逃避しちゃった……美少女だけど、微笑んでるけど、目が笑ってないってことは謝りたいっていうのは多分、嘘よね)

 それはアーロンも感じたのか、エレーヌの手を握っている手に力が入るのが解る。
 大丈夫だと、そっと手を握り返すことで応えたところで──ブランシェから謝罪どころか、喧嘩を売られてしまった。

「ごきげんよう。私は、ブランシェ……そちらの名乗りは、必要ないわ。あなたはただ、身の程を弁えてくれれば良いの」
「えっ……」
「平民と結婚していても、アーロン様の為にはならないでしょう? 私と結婚すれば、互いの国の友好の証となるわ! アーロン様も! その平民は、あなたの役には立たないでしょう!?」

 ごもっとも、と内心で言うしかなかった。しかし、口に出したら無礼だと叱られそうなので何とか耐えた。
 貴族や国王がいるこの世界では、身分の低い者が高い者へと話しかけることは出来ない。それを解っていて、ブランシェは言いたい放題言っているのだろう。

(アーロン様や陛下は、断ったらしいけど……まあ、目の前のお姫さまの言う通りではあるのよね)

 そう思っていたら、アーロンが思わぬ行動に出た。何と、ブランシェに発言の許しを請わず力説を始めたのだ。

「殿下! 役に立たないのはむしろ、私の方です! 伯爵家の嫡子でありながら口下手で、剣を振るうことしか能がありませんっ……自分なんかより、妻にはもっと相応しい男がいると解ってます。ですが、妻が私を選んでくれたのなら……離婚なんて、冗談じゃない! これからは、私が妻を支えたいのです!」

 誰だよ、コイツ。
 申し訳ないが、それがアーロンの言い分を聞いた時のエレーヌの素直な感想だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛

三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。 ​「……ここは?」 ​か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。 ​顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。 ​私は一体、誰なのだろう?

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
恋愛
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

処理中です...