演劇少女は、新妻(ジュンヌ・マリエ)の人生を紡ぐ

渡里あずま

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毒に蝕まれた王女

 石本体は、ありえないくらいの高温で焼かなければ融けて毒になることはない。だから現代でも、パワーストーンとして求められている。
 だが、砕いた粉を吸い込んだりその粉から生まれる口紅、あるいはその色で染められた衣服を身に纏うと駄目なのだ。今回のブランシェのように、鮮やかな色に魅入られて大流行したが反面、何人も死者が出て発売中止になる程だったと言う。エレーヌからすれば恐怖しかない。

(何というか……悪気はないんでしょうけど、一種のテロよね)

 話を戻すが、水銀中毒の症状としては先程、指摘した頭痛や吐き気の他に、人格の変化などもある。だから、アーロンと言い合うブランシェの様子を見て、もしや水銀中毒ではないかと思ったのだ。

「エレーヌ。毒とは、どういうことだ?」
「陛下、実は……」

 身分的に自分から話せないので、声をかけてくれた国王に感謝をしつつ、ブランシェの行動が、水銀中毒と疑われることと、その原因は口紅やドレスであることを伝えた。いくら他国の王女だとは言え、先程の態度はありえない。しかし水銀中毒だと仮定すればつじつまが合う。もし、このまま中毒が悪化すれば、歩けなくなったり、昏睡状態になったりして、最終的には死んでしまうだろう。

「何と、そのようなことが」
「さようでございます、陛下。美しさを求める女性や役者には人気でしょうが……原料に含まれている水銀が、人の体に溜まってしまうと、やがて害になり、蝕んでしまうのです。とにかく、毒を抜かなければ……」
「……エレーヌよ。そなたなら、ブランシェ王女を救うことは可能か?」
「え、私、死んじゃうの!?」

 国王の言葉に反応したのは、エレーヌではなくブランシェだった。
 たかが口紅やドレスが死に直結するなんて、この時代の人間にはピンと来ないだろう。
 化粧品以外にも、絵画の絵の具にも鉱物が使われているし、現実の歴史でも水銀中毒や鉛中毒が広く知られて、治療法が現れたのは、もっとずっと後の時代なのだから。

(問題は、治療法なのよね……)

 久美が生きていた時代には、治療法が存在する。
 でも、この戯曲の世界には、当然ながら、そこまで医療が発達していないので、存在しない。そもそも、久美の前世は医療従事者ではない。あるのは、演劇の参考になれば、と色々な時代の絵画や装飾を調べる中で得た知識だけだ。
 それでも、試さないままでいることなんて、医者の助手である現世のエレーヌには絶対に出来ないことだった。

「いいえ、私が殿下を死なせたりしません」

 だから、エレーヌである久美は力強く宣言した。
 義母から教わった作法通り、お辞儀とともに答えたエレーヌは、誰の目から見ても頼もしく、名実ともにベルトラン伯爵家の一員になっていた──。

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