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そして、戯曲は紡がれて
そして、二人の『エレーヌ』は、現世のかつての出来事を、前世の記憶を頼りに戯曲として書き起こして行った。
悪阻は大分、落ち着いたのだが今度はすぐ眠るようになってしまい、完成まで二か月くらいかかってしまった。いや、頑張ればもう少し早く書き上がったかもしれないが、それはシルリーが許さなかった。
「妊婦が徹夜なんて、冗談じゃないわよ!? 眠いんなら、体と赤ちゃんが寝ろって言ってるの! 解ったなら、早く寝なさいっ」
叱られながらも、何とか体調に気をつけながら書き進め──気づけば季節はバートと出会った夏から秋へ、更に冬へと変わっていた。更に年も変わろうとしていた。
因みに、この世界では生まれた日ではなく、年が明けるごとに一歳、年齢が増える『数え年』を採用しているらしい。
(知識しては知っていたけど……)
久美の生きていた世界とは違い、赤ちゃんは生まれた時点で一歳。
つまり、最初の『0歳』がカウントされないので、十二月生まれだとすぐ二歳になるし、満年齢十八歳の久美も十九歳になってしまう。そもそも、エレーヌは久美より年上であるが、女性としては複雑な心境になる仕組みには違いない。
閑話休題──。
『戯曲が完成したので、近く登城して下さいますか──』
ようやく完成した戯曲を渡す為に、エレーヌは旅先のバートへと手紙を出した。
この半年間、バートは定期的に手紙をくれていたが、戯曲が完成するまではと訪問を遠慮してくれていたので、久々のお茶会である。
すっかり冬の装いとなったバートに早速、完成した戯曲を渡す。
それを手に取ったバートは、真剣な表情で戯曲を読み出した。そして笑ったり、ハラハラしたりしながらも最後、満足したようにため息をついて読み終わった。
そこでようやく、バートが表紙の部分に書いていた題名と名前に気づいて言う。読むのに集中してくれたようで、本望だ。
「……これが、この戯曲の題名ですか?」
「ええ。『雨過ぎて空晴れる』。この国のことわざよ」
「これは、作者の名前ですか?」
「ええ。書き手が貴族の夫人だってバレないようにと、これから新作が増えるとあなたたちも参加するでしょうから……戯曲家集団の名前として『エイドリアン・スペンサー』はどう?」
実は、作家の名前が一人ではなく、複数の作家によるペンネームではないかと言うのは前世で本当にあった説だ。自分が今回も、そしてこれからも戯曲を書くのなら必要だと思う。
「いいですね……今は若奥様と俺だけですが、これからは『スペンサー』の作品をどんどん増やしましょう。まずはこの戯曲を練習しますが、台詞を覚えるのに時間がかかりそうですから……再来月末、よければこの城で演じていいですか?」
「いいの!? 予定日前だから、むしろ助かるわっ」
「もちろんです。初めての戯曲作品ですし、若奥様がいなければそもそも形にならなかったんですから……むしろぜひ、お願いします」
そう言って、バートは芝居がかった仕種で胸に手を当て、お辞儀をするのだった。
悪阻は大分、落ち着いたのだが今度はすぐ眠るようになってしまい、完成まで二か月くらいかかってしまった。いや、頑張ればもう少し早く書き上がったかもしれないが、それはシルリーが許さなかった。
「妊婦が徹夜なんて、冗談じゃないわよ!? 眠いんなら、体と赤ちゃんが寝ろって言ってるの! 解ったなら、早く寝なさいっ」
叱られながらも、何とか体調に気をつけながら書き進め──気づけば季節はバートと出会った夏から秋へ、更に冬へと変わっていた。更に年も変わろうとしていた。
因みに、この世界では生まれた日ではなく、年が明けるごとに一歳、年齢が増える『数え年』を採用しているらしい。
(知識しては知っていたけど……)
久美の生きていた世界とは違い、赤ちゃんは生まれた時点で一歳。
つまり、最初の『0歳』がカウントされないので、十二月生まれだとすぐ二歳になるし、満年齢十八歳の久美も十九歳になってしまう。そもそも、エレーヌは久美より年上であるが、女性としては複雑な心境になる仕組みには違いない。
閑話休題──。
『戯曲が完成したので、近く登城して下さいますか──』
ようやく完成した戯曲を渡す為に、エレーヌは旅先のバートへと手紙を出した。
この半年間、バートは定期的に手紙をくれていたが、戯曲が完成するまではと訪問を遠慮してくれていたので、久々のお茶会である。
すっかり冬の装いとなったバートに早速、完成した戯曲を渡す。
それを手に取ったバートは、真剣な表情で戯曲を読み出した。そして笑ったり、ハラハラしたりしながらも最後、満足したようにため息をついて読み終わった。
そこでようやく、バートが表紙の部分に書いていた題名と名前に気づいて言う。読むのに集中してくれたようで、本望だ。
「……これが、この戯曲の題名ですか?」
「ええ。『雨過ぎて空晴れる』。この国のことわざよ」
「これは、作者の名前ですか?」
「ええ。書き手が貴族の夫人だってバレないようにと、これから新作が増えるとあなたたちも参加するでしょうから……戯曲家集団の名前として『エイドリアン・スペンサー』はどう?」
実は、作家の名前が一人ではなく、複数の作家によるペンネームではないかと言うのは前世で本当にあった説だ。自分が今回も、そしてこれからも戯曲を書くのなら必要だと思う。
「いいですね……今は若奥様と俺だけですが、これからは『スペンサー』の作品をどんどん増やしましょう。まずはこの戯曲を練習しますが、台詞を覚えるのに時間がかかりそうですから……再来月末、よければこの城で演じていいですか?」
「いいの!? 予定日前だから、むしろ助かるわっ」
「もちろんです。初めての戯曲作品ですし、若奥様がいなければそもそも形にならなかったんですから……むしろぜひ、お願いします」
そう言って、バートは芝居がかった仕種で胸に手を当て、お辞儀をするのだった。
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