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第二章
何かアピールが始まりました
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「落ち着きなさい? いきなりノックもせず、どうしたの?」
そんなラウルさんや、声をかけたナタリー先生を無視して、金髪の少年が笑顔で私に話しかけてくる。
「失礼しました! つい、気持ちが高ぶってしまい……私は、ダミエ男爵家のヒースと申します。ずっとイザベル嬢のことをお慕いしておりました。こうしてお会い出来て、光栄です」
「ダミエ様……ですか、あの」
「家名でなんて、他人行儀な。どうか、ヒースとお呼び下さい」
そう言ったかと思うとツカツカと歩み寄り、私の右手を握ってきた相手に私は思った。
(いや、他人行儀っていうか他人だし)
(カナさん……)
(あー、イザベルごめんね? 私も手、離してほしいんだけど……テンション高い相手だから、変に刺激して逆上されても嫌だし)
初対面から馴れ馴れしく名前を呼ばれたのは、まあ、修道院に入って苗字を名乗らなくなっているので別に構わない。
……しかし、逆に言えばそれだけだ。こちらを無視して言いたい放題、やりたい放題。現世の私を怯えさせている辺りで、第一印象最悪だ。
だけど、仮にも貴族である。どうやって手を離して貰おうかと考えている間に、状況は更に悪化した。
「抜け駆けなんて、ズルいぞ! イザベル嬢! 僕はエベヌ子爵家の、グラスターです……この後、お茶でもどうですか!?」
「いやいや、お前達は解っていない! まずは修道院までお送りするので、馬車でゆっくり話しましょう。私の今までの想いを、聞いて頂ければと……私は、ハイラント伯爵家のアズールです。以後、お見知りおきを」
「……あの」
手が離れたのは良かったが、更に二人男子生徒が現れてすっかりカオスだ。しかも、当然だが貴族の令息ばかりである。
(名前聞いたら解ったけど、貴族の次男三男か……イザベルの可愛さも理由だろうけど、親に聖女を陥落するよう言われたのかも)
私は前世の知識で学園には生活魔法で、あと国には寄り添いで貢献している聖女だ。流石に、新年パーティーでは未成年と言うこともあり、息子の嫁に発言はなかったが――学園は、稀にだが平民も入ることがあるので、表向きは身分による上下関係を不問とし、平等を謳っている。それ故、こうしてアプローチをかけてきたんだろう。実家は侯爵家で三人より爵位は上だが、修道院に入ったことで身分云々はなかったことになっているのも原因だと思われる。
内心、やれやれとため息をついていると、私とヒース達の間に大きな影が立ち塞がった。第一声はスルーされたが、目の前に立たれると流石に三人は騒ぐのをやめて呻いた。
「ラウルさん……」
「「「……うっ」」」
短い金髪に、緑の瞳。私の十歳上のラウルさんは背が高く、厳つくて無口なので神兵だということを差し引いても怖がられることが多い。むしろ、人見知りで緊張していた私の態度ですら、他の人に比べたら破格だったと後から聞いた。
(私も緊張してたけど、ラウルさんも私に泣かれないか、気遣ってなるべく顔を合わせないようにしてたって……後から、聞いたのよね)
そう、見た目から怖く思われがちだが、ラウルは優しい人物だ。更に捨て子だが魔法が使えるので、万が一にも暴走しないように常に平常心を心がけている。
……だけど、そんな彼にも怒る時があった。
「俺は、ラウル。タリタ修道院の神兵だ。我が修道院の……いや、我が国の聖女に、寄り添い以外でお手を煩わせるとはどういうことだ?」
それは、護衛対象である私が僅かでも蔑ろにされた時だ。
普段は貴族相手には敬語を使うが、今はそれがない。背中に庇われているので、顔は見えないが――魔法ではなく、怒りの炎を背負ってラウルさんはそう言った。
そんなラウルさんや、声をかけたナタリー先生を無視して、金髪の少年が笑顔で私に話しかけてくる。
「失礼しました! つい、気持ちが高ぶってしまい……私は、ダミエ男爵家のヒースと申します。ずっとイザベル嬢のことをお慕いしておりました。こうしてお会い出来て、光栄です」
「ダミエ様……ですか、あの」
「家名でなんて、他人行儀な。どうか、ヒースとお呼び下さい」
そう言ったかと思うとツカツカと歩み寄り、私の右手を握ってきた相手に私は思った。
(いや、他人行儀っていうか他人だし)
(カナさん……)
(あー、イザベルごめんね? 私も手、離してほしいんだけど……テンション高い相手だから、変に刺激して逆上されても嫌だし)
初対面から馴れ馴れしく名前を呼ばれたのは、まあ、修道院に入って苗字を名乗らなくなっているので別に構わない。
……しかし、逆に言えばそれだけだ。こちらを無視して言いたい放題、やりたい放題。現世の私を怯えさせている辺りで、第一印象最悪だ。
だけど、仮にも貴族である。どうやって手を離して貰おうかと考えている間に、状況は更に悪化した。
「抜け駆けなんて、ズルいぞ! イザベル嬢! 僕はエベヌ子爵家の、グラスターです……この後、お茶でもどうですか!?」
「いやいや、お前達は解っていない! まずは修道院までお送りするので、馬車でゆっくり話しましょう。私の今までの想いを、聞いて頂ければと……私は、ハイラント伯爵家のアズールです。以後、お見知りおきを」
「……あの」
手が離れたのは良かったが、更に二人男子生徒が現れてすっかりカオスだ。しかも、当然だが貴族の令息ばかりである。
(名前聞いたら解ったけど、貴族の次男三男か……イザベルの可愛さも理由だろうけど、親に聖女を陥落するよう言われたのかも)
私は前世の知識で学園には生活魔法で、あと国には寄り添いで貢献している聖女だ。流石に、新年パーティーでは未成年と言うこともあり、息子の嫁に発言はなかったが――学園は、稀にだが平民も入ることがあるので、表向きは身分による上下関係を不問とし、平等を謳っている。それ故、こうしてアプローチをかけてきたんだろう。実家は侯爵家で三人より爵位は上だが、修道院に入ったことで身分云々はなかったことになっているのも原因だと思われる。
内心、やれやれとため息をついていると、私とヒース達の間に大きな影が立ち塞がった。第一声はスルーされたが、目の前に立たれると流石に三人は騒ぐのをやめて呻いた。
「ラウルさん……」
「「「……うっ」」」
短い金髪に、緑の瞳。私の十歳上のラウルさんは背が高く、厳つくて無口なので神兵だということを差し引いても怖がられることが多い。むしろ、人見知りで緊張していた私の態度ですら、他の人に比べたら破格だったと後から聞いた。
(私も緊張してたけど、ラウルさんも私に泣かれないか、気遣ってなるべく顔を合わせないようにしてたって……後から、聞いたのよね)
そう、見た目から怖く思われがちだが、ラウルは優しい人物だ。更に捨て子だが魔法が使えるので、万が一にも暴走しないように常に平常心を心がけている。
……だけど、そんな彼にも怒る時があった。
「俺は、ラウル。タリタ修道院の神兵だ。我が修道院の……いや、我が国の聖女に、寄り添い以外でお手を煩わせるとはどういうことだ?」
それは、護衛対象である私が僅かでも蔑ろにされた時だ。
普段は貴族相手には敬語を使うが、今はそれがない。背中に庇われているので、顔は見えないが――魔法ではなく、怒りの炎を背負ってラウルさんはそう言った。
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