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気合いを入れて笑っていると
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「帝国の輝かしき星に、ご挨拶申し上げます……ようこそ、我が領地へ」
「ラス辺境伯、しばらく世話になるよ」
「勿論です。さあ、部屋に案内しますので夕食まで、長旅の疲れを癒して下さい」
クララベルの葛藤に気づいてくれたのか、ウィラードがやって来てアンドレアの前で片膝をつく。
そんなウィラードに、アンドレアは全く悪びれずに言う。いくら年の近い家臣とは言え、全く絡んでいなのだから、少しくらいは恐縮してほしい。
そう思うのだが、それこそ仲良し兄妹ではないので顔や口に出す訳にはいかず──クララベルが気合いを入れて笑っていると、ウィラードが立ち上がり気を使ったのかアンドレアを促そうとした。本当に、彼は優しくて頼りになる。
そう思っていたら、ウィラードと共に立ち去るかと思われたアンドレアの目が、グローリアへと向けられた。
「美しい……君の名を聞いても?」
「……グローリア・デ・ラスと申します」
「ああ、ラス辺境伯の妹君か! 噂通り、いや、噂以上に美しい。まるで、夜の女神のようだ」
「恐縮です」
「…………」
「…………」
最低限の返事だけをし、全く話を広げようとしないグローリアに、アンドレアの笑顔が固まる。悔しいが顔『は』良いので、こんな扱いをされたことはないのだろう。いい気味だ。
気まずい雰囲気を誤魔化す為か、アンドレアの目が再びクララベルへと向けられる。
「……その髪型」
「式こそ挙げておりませんが、私はウィラード様の妻ですから」
実際は、衣装によっては下ろしたりもするのだが──今日のクララベルは長い髪を束ねてまとめた、いわゆるお団子ヘアだ。既婚者アピールだが、アンドレアは何故か何かを思い出したように目を細めた。
「ミラに、よく似ている」
「……っ!? ありがとう、ございます」
その名前に、クララベルは咄嗟に言葉に詰まった。何とかお礼を言った彼女を残し、アンドレアがウィラードや連れてきた護衛騎士達と共に、客室へと移動したところでグローリアが尋ねてくる。
「お義姉様、大丈夫ですか?」
「ええ……大丈夫。母の名を出されたから、少し驚いただけ」
「えっ?」
「母が死んで、私が使用人になってから……義母や異母姉が嫌がるから、誰も母の名を口にしなくなったの。異母兄もだったから、ちょっと」
妾にするなどと言っていたが、前世を思い出して精神年齢が上がったクララベルとしては、母が好きだったくせにとガッカリしつつも「子供の言ったことだから」と納得してもいたのである。
「私は髪や目の色は父親譲りだけど、確かに顔は母親に似たし……義母達がいないから、出たんでしょうね」
「……そうですね」
「それより、さっきの傑作! あの異母兄に、あんな塩対応する令嬢、初めて見たわ!」
「塩?」
「ああ、相手に対してそっけなく、愛想のない冷たい態度で接することよ」
「それなら、私は大抵の相手には『塩対応』だと思いますよ」
「まあ! もっとも、グローリアは美人さんだから嫌な感じはしないわね。むしろご褒美?」
「……ありがとうございます、お義姉様。あんな色ボケ最低無節操拗らせ皇太子に言われるより、お義姉様に褒められる方が嬉しいです」
「拗らせ?」
「お義姉様は気にしないで下さい。むしろ奴のことを、わずかでも頭に留めないで下さい」
「皇太子を、奴だなんて……ふふ、解ったわ」
アンドレアの悪口が更新され、最初、その意味が解らず──しかし、すぐにクララベルは気づいた。
(お母さんの名前を出したのは、グローリアの気を惹く為ね!)
理由が解ってスッキリしたのと、グローリアが珍しく綺麗に微笑みながら言ってきたので、クララベルは言われた通りアンドレアのことは気にしないことにした。
「ラス辺境伯、しばらく世話になるよ」
「勿論です。さあ、部屋に案内しますので夕食まで、長旅の疲れを癒して下さい」
クララベルの葛藤に気づいてくれたのか、ウィラードがやって来てアンドレアの前で片膝をつく。
そんなウィラードに、アンドレアは全く悪びれずに言う。いくら年の近い家臣とは言え、全く絡んでいなのだから、少しくらいは恐縮してほしい。
そう思うのだが、それこそ仲良し兄妹ではないので顔や口に出す訳にはいかず──クララベルが気合いを入れて笑っていると、ウィラードが立ち上がり気を使ったのかアンドレアを促そうとした。本当に、彼は優しくて頼りになる。
そう思っていたら、ウィラードと共に立ち去るかと思われたアンドレアの目が、グローリアへと向けられた。
「美しい……君の名を聞いても?」
「……グローリア・デ・ラスと申します」
「ああ、ラス辺境伯の妹君か! 噂通り、いや、噂以上に美しい。まるで、夜の女神のようだ」
「恐縮です」
「…………」
「…………」
最低限の返事だけをし、全く話を広げようとしないグローリアに、アンドレアの笑顔が固まる。悔しいが顔『は』良いので、こんな扱いをされたことはないのだろう。いい気味だ。
気まずい雰囲気を誤魔化す為か、アンドレアの目が再びクララベルへと向けられる。
「……その髪型」
「式こそ挙げておりませんが、私はウィラード様の妻ですから」
実際は、衣装によっては下ろしたりもするのだが──今日のクララベルは長い髪を束ねてまとめた、いわゆるお団子ヘアだ。既婚者アピールだが、アンドレアは何故か何かを思い出したように目を細めた。
「ミラに、よく似ている」
「……っ!? ありがとう、ございます」
その名前に、クララベルは咄嗟に言葉に詰まった。何とかお礼を言った彼女を残し、アンドレアがウィラードや連れてきた護衛騎士達と共に、客室へと移動したところでグローリアが尋ねてくる。
「お義姉様、大丈夫ですか?」
「ええ……大丈夫。母の名を出されたから、少し驚いただけ」
「えっ?」
「母が死んで、私が使用人になってから……義母や異母姉が嫌がるから、誰も母の名を口にしなくなったの。異母兄もだったから、ちょっと」
妾にするなどと言っていたが、前世を思い出して精神年齢が上がったクララベルとしては、母が好きだったくせにとガッカリしつつも「子供の言ったことだから」と納得してもいたのである。
「私は髪や目の色は父親譲りだけど、確かに顔は母親に似たし……義母達がいないから、出たんでしょうね」
「……そうですね」
「それより、さっきの傑作! あの異母兄に、あんな塩対応する令嬢、初めて見たわ!」
「塩?」
「ああ、相手に対してそっけなく、愛想のない冷たい態度で接することよ」
「それなら、私は大抵の相手には『塩対応』だと思いますよ」
「まあ! もっとも、グローリアは美人さんだから嫌な感じはしないわね。むしろご褒美?」
「……ありがとうございます、お義姉様。あんな色ボケ最低無節操拗らせ皇太子に言われるより、お義姉様に褒められる方が嬉しいです」
「拗らせ?」
「お義姉様は気にしないで下さい。むしろ奴のことを、わずかでも頭に留めないで下さい」
「皇太子を、奴だなんて……ふふ、解ったわ」
アンドレアの悪口が更新され、最初、その意味が解らず──しかし、すぐにクララベルは気づいた。
(お母さんの名前を出したのは、グローリアの気を惹く為ね!)
理由が解ってスッキリしたのと、グローリアが珍しく綺麗に微笑みながら言ってきたので、クララベルは言われた通りアンドレアのことは気にしないことにした。
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