灰かぶり君

渡里あずま

文字の大きさ
3 / 96

イマココ2

しおりを挟む
 平凡庶民って言ったけど、俺には一つだけ普通と違うところがある。それは『職業・ケータイ小説家』ってことだ。
 あ、サイトで書いてるだけじゃないぞ? ありがたいことに中三の冬に書籍化が決まり、同じシリーズで更に二冊出版して貰ってる。
 ……良家のお嬢様が通う、ミッション系学園。
 そこでのお嬢様達の日常を書いたら、ありがたいことにサイトで評判になった。ちょうど百合系雑誌とか、漫画が流行ってたせいもあると思う。
 ただし俺はさっきも言った通り百合、つまり女の子同士の恋愛は書いてない。限りなく恋愛に近いとは言われるけど、年齢的にも経験値的にも乏しい俺には、むしろ踏み込んだ話は書けないと思ってる。
(百合化された、薄い本は出てるらしいけど)
 だから俺としては、キラキラしたファンタジーのつもりで書いてたんだけど――数日前、俺の担当である桃香ももかさんから思いがけないことを言われた。

「実は、出灰君に新シリーズを書いて欲しいの」
「えっ……」
「昨日、デリスタで後期スケジュールが出たでしょ?」

『デリ☆』って言うのは、俺が小説を投稿してるサイトだ。スター出版って会社が運営してて、今まで数多くの小説が書籍化されたり、漫画化されたりしてる。
 そのきっかけになるのが、隔月で行われてるイベントだ。書き手がテーマに合わせた作品で参加し、スター出版の人達が目を通して書籍化作品を決めている。
 ちなみに、書籍化した書き手には俺みたいに担当さんがつく。まあ、俺だけじゃなく複数の書き手を担当してる訳だけど。
(……あれ?)
 そこで俺は、あることに引っかかった。
 確かに五月になり、後期スケジュールが出てたけど――一昨年、俺が参加した『少女小説』イベントは無かった筈だ。

「桃香さん。俺、ホラーとかオフィスラブって書いたことないですよ?」
「もう、やーね。出灰君ってば、天然なんだから。ほら、もう一つあったでしょ?」

 ……もう一つって言われて、思い出しはした。
 だけど嘘だと思いたかったので、冗談めかして聞いてみた。

「まさか、ボーイズラブな訳ないですよね? アハ」
「まさか、からのボーイズラブよ。出灰君!」

 グッと親指を立て、すっごく良い笑顔で言われたのに、俺は口を「ハ」の形にしたまま固まった。
 そして、言われた内容を理解したところで――首と手の両方を、思いきり横に振った。

「い……や、無理です。無理無理無理っ! 勘弁して下さいよっ」
「そんなことないわよ、お嬢様を金持ちイケメンに置き換えれば」
「あります! 女の子だとスキンシップで済んでも、男でやったら暑苦しいじゃないですか! それにボーイズラブって、スキンシップだけで終わらないしっ」

 小説概要で『微エロ』とか『裏あります』って見た。それを男の俺が書くって、セクハラかよ!
 そりゃあ、女の子からすると俺の書く話もありえないって、ツッコミどころ満載だろうけど。俺は、夢を見ていたい。そう、色んな意味で。

「うんうん、夢見ててもいいわよ出灰君」
「無視! そして心、読んだんですか!?」
「でも、今回お願いしたいのは『体験取材』だから……男の子で、高校生の出灰君にしか頼めないのよ」
「…………は?」
「白月学園って知ってる? 幼稚園から大学までの、エスカレーター式名門校。勉強に専念出来るように、人里離れたところにあるけど……一部の人間には『リアル王道学園』って呼ばれてるわ」
「王道?」
「人里離れたところにあって、中等部からは全寮制の男子校。閉鎖的で同性愛に発展しやすいから王道、つまりはお約束って訳」

 眼鏡のブリッジをクイッと上げて、桃香さんは話し始めた。
 肩までの黒髪と、スーツ。見た目はクールビューティーだけど、口を開くとパワフル――慣れはしたけど本当、見た目とギャップのあるひとだ。

「で、そこの理事長が私の大学の同級生なんだけど……この前、甥っ子を転入させることになったって相談を受けたの」

 相談って、何か問題でも――そう続けようとして、やめた。全く知らない相手について、いきなり踏み込んじゃいけないと思う。
 だけど、そんな俺の気遣いを余所に桃香さんは話を続けた。

「んー、子供の頃は病弱で学校通ってなかったのと……高校に入ってからは、暴力事件で四校退学ですって。そんなところも、王道転校生よね」
「……それも、お約束なんですか?」
「そうよ。でも、見た目は美少年なの。そんな王道君だけだと不安だから、誰か一緒に転入してくれる子がいないかって」

 バイオレンスな遍歴と美少年と言う単語が結びつかず、眉を寄せた。不良と美形。それぞれ魅力があるだろうが、どちらか一つでは駄目なんだろうか?
 一方、そんな俺の困惑には構わず、桃香さんは更に先へと進める。

「幸いって言うのも何だけど出灰君、今、学校行ってないでしょ?」
「……資格は、取りましたよ?」

 そう、桃香さんの言う通り、俺は高校に通ってない。
 実は書籍化の話と同じ頃、中三の冬に母親が死んだ。父親も早くに亡くなっていて、天涯孤独。遺産は残してくれてたけど、進学するより書籍化に没頭したくて高校には行かなかった。
 もっとも、ずっとケータイ小説家を続けられるとも思ってないんで去年、高卒資格は取ったけど。

「それに、そんな坊ちゃん校に通うようなお金ないです」
「大丈夫! 試験結果では、余裕で特待生ですって」
「試験なんて俺、受けてな」
「あぁ、この前、親戚の子の受験勉強に使うって言ってヘルプしたでしょ? あの過去問って言ってたのが、編入試験♪」
「…………」
「あ、このアパートと仏壇については私が責任を持って管理するから。出灰君は安心して、王道君を主人公にした王道学園物を書いてちょうだい!」

 騙し討ちか。そして金と家の話で駄目なら、他に断る理由がない。
 逆に『体験取材』なら自分で一から考える訳ではない。それが書籍化を検討されるのなら、むしろ俺にとっては得な話だ。
(精神的には無茶苦茶、キツそうだけどな?)
 暴力的な王道君に、金持ちの坊ちゃん達――そんな連中と学校だけでなく、寮でも一緒だなんて。

「……禿げる」

そう呟いて、俺はガックリと肩を落とした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪の策士のうまくいかなかった計画

迷路を跳ぶ狐
BL
いつか必ず返り咲く。それだけを目標に、俺はこの学園に戻ってきた。過去に、破壊と使役の魔法を研究したとして、退学になったこの学園に。 今こそ、復活の時だ。俺を切り捨てた者たちに目に物見せ、研究所を再興する。 そのために、王子と伯爵の息子を利用することを考えた俺は、長く温めた策を決行し、学園に潜り込んだ。 これから俺を陥れた連中を、騙して嵌めて蹂躙するっ! ……はず、だった……のに?? 王子は跪き、俺に向かって言った。 「あなたの破壊の魔法をどうか教えてください。教えるまでこの部屋から出しません」と。 そして、伯爵の息子は俺の手をとって言った。 「ずっと好きだった」と。 …………どうなってるんだ?

君が僕を好きなことを知ってる

大天使ミコエル
BL
【完結】 ある日、亮太が友人から聞かされたのは、話したこともないクラスメイトの礼央が亮太を嫌っているという話だった。 けど、話してみると違和感がある。 これは、嫌っているっていうより……。 どうやら、れおくんは、俺のことが好きらしい。 ほのぼの青春BLです。 ◇◇◇◇◇ 全100話+あとがき ◇◇◇◇◇

天の求婚

紅林
BL
太平天帝国では5年ほど前から第一天子と第二天子によって帝位継承争いが勃発していた。 主人公、新田大貴子爵は第二天子派として広く活動していた亡き父の跡を継いで一年前に子爵家を継いだ。しかし、フィラデルフィア合衆国との講和条約を取り付けた第一天子の功績が認められ次期帝位継承者は第一天子となり、派閥争いに負けた第二天子派は継承順位を下げられ、それに付き従った者の中には爵位剥奪のうえ、帝都江流波から追放された華族もいた そして大貴もその例に漏れず、邸宅にて謹慎を申し付けられ現在は華族用の豪華な護送車で大天族の居城へと向かっていた 即位したての政権が安定していない君主と没落寸前の血筋だけは立派な純血華族の複雑な結婚事情を描いた物語

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

僕の部下がかわいくて仕方ない

まつも☆きらら
BL
ある日悠太は上司のPCに自分の画像が大量に保存されているのを見つける。上司の田代は悪びれることなく悠太のことが好きだと告白。突然のことに戸惑う悠太だったが、田代以外にも悠太に想いを寄せる男たちが現れ始め、さらに悠太を戸惑わせることに。悠太が選ぶのは果たして誰なのか?

【完結】恋愛初学者の僕、完璧すぎる幼馴染に「恋」を学ぶ

鳥羽ミワ
BL
志村春希は高校二年生で、同い年の幼馴染・須藤涼太のことが大好き。その仲良しぶりといったら、お互い「リョウちゃん」「ハルくん」と呼び合うほどだ。 勉強が好きな春希には、どうしてもひとつだけ、全く理解できないことがあった。それは、恋心。学年一位の天才でもある涼太にそのもどかしさを愚痴ったら、「恋」を教えようかと提案される。 仮初の恋人になる二人だけど、春希が恋を知ったら、幼馴染の友達同士のままではいられない。慌てる春希に「パラダイムシフトを起こそうよ」と提案する涼太。手を重ねて、耳元で囁く涼太。水族館デートに誘う涼太。あまあまに迫られて、恋愛初学者の春希が陥落しないはずもなく……。 恋を知ったら友達でいられない。でもこの思いは止められない。 葛藤する春希の隣で涼太だけが、この関係は両片思いだと知っていた。 幼馴染の溺愛恋愛ケーススタディ、開幕! 最後はもちろんハッピーエンド! ※アルファポリス、カクヨム、小説家になろうへ投稿しています

【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話

須宮りんこ
BL
【あらすじ】 高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。 二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。 そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。 青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。 けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――? ※本編完結済み。後日談連載中。

誰かの望んだ世界

日燈
BL
 【完結】魔界の学園で二年目の学園生活を送るイオは、人知れず鶯色の本をめくる。そうすれば、必要な情報を得ることができた。  学園には、世界を構成するエネルギーが結晶化したといわれる四つの結晶石≪クォーツ≫を浄める、重要な家系の生徒が集っている。――遥か昔、世界を破滅に導いたとされる家系も。  彼らと過ごす学園生活は賑やかで、当たり前のようにあったのに、じわじわと雲行が怪しくなっていく。  過去との邂逅。胸に秘めた想い――。  二度目の今日はひっそりと始まり、やがて三度目の今日が訪れる。  五千年ほど前、世界が滅びそうになった、その時に。彼らの魂に刻まれた遺志。――たった一つの願い。  終末を迎えた、この時に。あなたの望みは叶うだろうか…? ――――  登場人物が多い、ストーリー重視の物語。学校行事から魔物狩り、わちゃわちゃした日常から終末まで。笑いあり涙あり。世界は終末に向かうけど、安定の主人公です。  2024/11/29完結。お読みいただき、ありがとうございました!執筆中に浮かんだ小話を番外編として収めました。

処理中です...