愛とか恋とかストーカーとか

なかあたま

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ストーカーとか恋とか愛とか

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 一目見た時から、俺は彼の虜になっていた。
 染めたてらしい茶髪が、彼の幼さを際立たせている。重めの前髪は、目にかからないぎりぎりの長さだ。裏腹に襟足は短く、頸が見えるたびに俺は唾液を嚥下する。
 きっと年齢は十八歳か十九歳だ。大学生になったばかりの年頃だろう。遠目から見てもわかるほどのみずみずしい肌が眩しい。
 このカフェの制服である深緑のエプロンを身に纒った彼は、いつも笑みを振りまいている。
「いらっしゃいませ、席へご案内します。ご注文がお決まりになりましたら店員にお申し付けください」
 流暢にそう言い残し、去っていく背中を追う。
 会社近くのカフェで働きだした麗しい彼の名は、真辺くん。
 突然俺の前に現れ、心をあっさりと奪った青年だ。



「えぇ、結城さん辞めるんですか?」

 甲高い声音が鼓膜を弾く。
 キーボードを打つ手を止め、後ろで屯している女性社員へ視線を投げる。
 伊藤アヤと島田花奈が結城加子を囲うようにして雑談をしている。

「うん、母親がちょっと具合が悪いらしくて。兄嫁さんが世話をしてくれてたんだけど、彼女に任せっきりなのは気が引けるから、私も地元に帰って協力することにしたの」
「そうなんですねぇ。地元って何処ですか?」
「地元は────」

 そうか。結城加子は辞めるのか。俺はそんなことをぼんやりと思いながら仕事へ意識を戻す。
 結城加子は俺とほぼ同期でこの会社に入った女性だ。
 同期と言っても最初は部署が違ったため、接点は皆無だ。
 しかし、ほぼ同じ環境で仕事をしてきた同志として少し寂しい気持ちもある。
 もう一度、彼女らへ視線を投げる。
 一つの乱れもないポニーテールに、凛とした佇まい。ヨレひとつないスーツを身に纏った彼女は、真面目という言葉がぴったりの女性だ。
 ────ここで別れてしまえば、もう出会うことのない人物なのだろうな。
 ふとそんなことを思った。人間なんて、連絡先を知っていてもあっという間に目の前から消えて、手掛かりが掴めなくなる時だってある。
 不意に、真辺くんの顔が浮かんだ。
 ────だからこそ、真辺くんを手に入れたい。
 俺は後ろでいまだに繰り広げられている会話をBGMに、仕事へ没頭した。
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