かべいちまい

なかあたま

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「ん、ンぅ、んー!」

 キスしたのは、高校時代以来だ。
 同級生の彼女と俺の部屋で勉強会をしていた時のこと。
 勉強もそこそこに、だらりとした時間が流れ、そういう雰囲気になった。
 俺から彼女に近づき、彼女がそれを受け止めた。触れるだけのキスだった。
 瞬発的に離れて、俺は彼女に一言謝り、その後、何もなかったかのように勉強を開始した。
 俺はウブだった。それはもう、可哀想なほどに。
 高校時代に付き合っていた彼女とはその後なんの展開もなく、俺は無事童貞のまま高校を卒業した。
 その後、笹原とセフレの関係性になったが、彼とはキスやスキンシップはしない。
 最初の頃から、挿れるだけ、挿れさせるだけの関係性であった。
 だから────。

「は……はぁ、ん、ン」
「気持ちよさそうですね」

 こんなキス、されたの初めてだ。舌を軽く喰まれ、体が跳ねる。
 じゅるりと唾液と共に舌を吸われ、背筋に何かが走った。
 どちらかの唾液が口の端から溢れ、耳に伝う。
 ────こんなキスして、童貞は無理があるだろ。
 俺は朦朧とした頭にそんな考えが浮かんでは消える。
 その間も、彼が貪るように口内を荒らした。喉の奥に舌を入れ込まれ、誰も侵入したことのないような部分を抉られる。
 思わず嘔吐くと、彼が肩を揺らし笑った。

「はぁ、はっ、……ふふ、ごめんなさい。思わず、変な所に舌を入れちゃいました」

 彼は口の端から唾液を滲ませ、愉快そうにしている。
 醜く顔を真っ赤にした俺に再度近づき、啄むようにキスを繰り返した。
 ────こんな感覚、初めてだ。
 今まで、誰にもこんなことされたことない。
 胸の奥から、何やら熱いものが滲み出て、彼の汗ばんだ手を握り返す。

「……可愛いですね」

 唇と唇が触れるほどの距離でそう呟かれ、何も言えずに固まる。
 可愛いだなんて、言われたことない。顔は平均より上だという自覚はあるが、それでも可愛いよりカッコいいと言われた数の方が多い。

「か、可愛いですか?」
「とても」

 うっとりとした声を漏らした彼は、首筋に鼻を擦り付けてきた。
 スンと匂いを嗅がれ、腰が浮く。

「汗、臭いかも」
「そんなことないですよ。すごくいい匂いがします。体臭かなぁ?」

 そのまま、動脈にぬるりとした舌が這い、歯を立てられる。
 喉の奥で悲鳴を殺し、目を瞑った。

「声」
「へ?」
「声、出していいですよ」

 いつの間にか、彼の手が緩やかに服の下へ侵入していた。体を弄る手に全神経が集中する。
 火傷するほど熱いのは、俺の体か、彼の掌か。
 そんなことさえも分からなくなるほど、俺は彼の指先に翻弄されていた。
 途端、体に衝撃が走る。瞑っていた目を見開くと、衛藤と目が合った。
 弧にした瞳が、とても意地悪に見える。

「な、何?」
「えへへ。乳首。可愛いですね」

 なにが、何だか。服の下でモゾモゾと動く彼の手が、再度俺に衝撃を与える。
 ぎゅうと摘まれたそこは、男に不要なものだ。
 初めて触れられた部分の快感に、喉が震える。

「ひ、ひぁっ!」

 彼の爪先が、乳首を弾く。
 跳ねた体を押さえ込むように、彼がのしかかった。

「……ねぇ、舐めていいですか?」

 答えるまもなく、服を胸元まで捲し上げられる。
 「あの、ちょっと」と抵抗した俺など気にも留めていない彼は、唾液の滴る舌で敏感なそこを舐めた。

「んぁ! あっ、は」

 感じたことのない感覚に、脳の奥でハレーションが起こる。同時に、下半身が重くなる。
 まさか、俺は乳首でも感じる才能があるのか。シモに関してとんでもない才能を持っていたんだな、俺は。と、心のどこかで自分を揶揄った。
 吸われ、噛まれ。俺は思考がドロドロになり、喘ぎを抑えることができなくなっていた。
 いつの間にか下半身に伸びていた手がズボンの中へ侵入し、下着越しに俺の股間を撫でる。「ひぃ」と情けない声が漏れた。
 涙目で彼を見つめたが、動じていない様子で、はにかむ。
 そのまま体を起こし、近くに放置してあったビニール袋からボトルのようなものを取り出した。

「ローション、ちょっと冷たいかも……」

 カチッと蓋の開く音が聞こえ、衛藤の手に透明で粘着質のある液体が絡みつく。
 ────何だか、凄く用意周到だな。
 まるでこうなることを予想していたかのような……と、妙な考えが浮かび、それを揉み消す。
 男の一人住まいの部屋だぞ。ローションの一つや二つ、あるに決まっているだろう、と自分を納得させた。
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