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兒玉宥樹の幸福論
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ほんの出来心だった。俺は正常な判断ができないほど酔っていたし、それにムラムラしていた。
だから、仕方がなかった。
あの日、あの夜。
兒玉宥樹へ手を出したのは、不可抗力だったのだ。
俺は悪くない。
────そう、俺は悪くない。
「三賀さん。こんなことして、ごめんなさい」
やけにはっきりと、兒玉の声が聞こえた。
それもそうだ、彼は俺と違って泥酔していない。
兒玉が俺に跨り、腰を下ろす。やけに熱い後孔にブツが埋め込まれる。
ぬるぬるとしていて、柔らかいそこは俺を受け入れた。
兒玉が涎を垂らし、眉を顰め頬を染めている。
「三賀さん、僕、僕……あなたのことが、好きなんです」
そう言われ、もうどうにでもなれと思った。
◇
戸出柚実の臀部を眺めながら、大きなあくびを一つした。
そのポニーテールが緩やかに動くたびに、引っ掴んで押し倒し、服を剥いでしまいたいという暴力性に駆られる。
しかし、先月採用したアルバイトの女子大学生にそんなことをしたら、このスーパーは潰れるし俺は牢獄行きだ。
来月のシフト表を作成するために起動していたノートパソコンの画面から、視線を逸らす。
衝動を殺すように目を瞑り、眉間を指先で抑え、テーブルに置かれたマグカップを手探りで掴んだ。
「店長、また寝不足ですか? あまり働きすぎないように、気をつけてくださいね」
事務所の壁に掛けられた鏡を見ていた戸出は白い歯を見せ、制服の襟を整え、微笑んだ。
俺は彼女へ視線を投げ、頬を緩ませる。
「戸出ちゃんが俺の分まで働いてくれたら、寝不足も解消するかも」
「ヤダァ、アルバイトに仕事押し付けないでくださいよ────あ、兒玉くん。お疲れ様」
戸出は事務所に入ってきた人影に声をかける。
兒玉と呼ばれた男は、戸出にぺこりと頭を下げた。艶やかな黒髪が、揺れている。
「今日、シフト被ってたね。えへへ、兒玉くん、お客さん捌くの上手いから頼りになるんだよなぁ」
「そ、そう? あはは」
戸出は兒玉の肩をポンと叩き、ポニーテールを揺らし去っていく。
その後ろ姿を目で追いながら、息を吐き出した。
────どうせ、戸出も俺よりこういう若くて、純粋そうな男の方がいいに決まってるよな。
事務所に置かれたロッカーに荷物を入れ、着替えを始める兒玉の背中を眺める。
バックヤードの一角に、俺の仕事場兼、更衣室代わりの事務所がある。
事務所の端にはロッカーが並べられており、横にはカーテンで区切られたスペースがある。お粗末だがそこが更衣室と呼ばれる箇所になる。
女は更衣室で着替えるが、男はほとんど使用しない。
故に、男はロッカー前で制服へ着替えるのだ。
俺が利用するデスクからロッカーは丸見えで、はっきり言って目の毒だ。
服を脱ぐその仕草を視界に入れるだけで、吐き気を催す。
しかし、なぜか兒玉の背中から目が離せなかった。
薄くて、白い背中。汚れを知らないであろう肌が、何故だか嫌味に見える。
────あの仲の良さ。俺の知らない所で付き合ってるとか、ないよな?
唇が自然に曲がり、舌打ちをしてしまいそうになる。
戸出と兒玉がキスをして裸で抱き合う場面を想像し、顔を顰めた。
「……っ!」
不意に、兒玉が振り向いた。俺に気がついたようで、制服に袖を通しながらどこか気まずそうに視線を逸らす。
なんだかその態度にモヤモヤしたものを抱えつつ、咳払いをした。
「兒玉。お前、次のシフト早めに出せよ。こっちはバイトのシフト調整でも時間取られるんだから」
ツンケンとした声音でそう言い放ち、コーヒーを啜る。
ノートパソコンのキーボードへ手を置き、わざとらしく鳴らした。
「はい、すみません。早めに出します」
兒玉は短くそう答え、着替えを終える。
そんな彼が、何か言いたげにこちらをチラチラ見ていた。
「なんだよ」と吐き出すと兒玉はびくりと体を強張らせる。
口を開閉させ、やがて唇を舐めた。
「あの、えっと。三賀さん……」
歯切れの悪い兒玉を見て、苛立ちが募る。
戸出になら、このような対応をされてもなんとも思わない(むしろ愛しささえ感じる)が、男にこんなことをされても、気色悪さで吐きそうになるだけだ。
俺は睨みつけ、言葉の続きを待つ。
「明日、戸出さんと宅飲みする予定なんですけど……それを三賀さんのご自宅でやってもいいでしょうか?」
その言葉に目を見開く。兒玉は「図々しいですよね……」と肩を縮こませ、事務所から出ようとした。
彼の背中を、必死に止める。
「待て。つまりそれは、えっと。お前が戸出ちゃんを俺の家に連れてくるってことか?」
兒玉がコクリと頷いた。
間を置いて、薄く口を開く。
「三賀さん。戸出さんのこと、狙ってるでしょ? だから、えっと……そういう場を作って差し上げたくて……」
戸出のことを狙っているということがバレていて、軽くショックを受けた。
と、同時にこんな男に気を遣われたことに恥を覚える。
しかし、だ。まさかこんなやつが、戸出と俺の関係を作ってくれようとしているとは。意外にいいやつではないか。
緩む口元を抑えつつ、大きく頷いた。
「じゃ、明日。俺の家で、宅飲みな」
上擦った声に、兒玉がパッと顔を上げ大きく頷く。
俺は彼の仕草にほんの少しだけ愛くるしさを覚えながら、脳内では戸出の酔った姿を想像し、鼻の下を伸ばした。
だから、仕方がなかった。
あの日、あの夜。
兒玉宥樹へ手を出したのは、不可抗力だったのだ。
俺は悪くない。
────そう、俺は悪くない。
「三賀さん。こんなことして、ごめんなさい」
やけにはっきりと、兒玉の声が聞こえた。
それもそうだ、彼は俺と違って泥酔していない。
兒玉が俺に跨り、腰を下ろす。やけに熱い後孔にブツが埋め込まれる。
ぬるぬるとしていて、柔らかいそこは俺を受け入れた。
兒玉が涎を垂らし、眉を顰め頬を染めている。
「三賀さん、僕、僕……あなたのことが、好きなんです」
そう言われ、もうどうにでもなれと思った。
◇
戸出柚実の臀部を眺めながら、大きなあくびを一つした。
そのポニーテールが緩やかに動くたびに、引っ掴んで押し倒し、服を剥いでしまいたいという暴力性に駆られる。
しかし、先月採用したアルバイトの女子大学生にそんなことをしたら、このスーパーは潰れるし俺は牢獄行きだ。
来月のシフト表を作成するために起動していたノートパソコンの画面から、視線を逸らす。
衝動を殺すように目を瞑り、眉間を指先で抑え、テーブルに置かれたマグカップを手探りで掴んだ。
「店長、また寝不足ですか? あまり働きすぎないように、気をつけてくださいね」
事務所の壁に掛けられた鏡を見ていた戸出は白い歯を見せ、制服の襟を整え、微笑んだ。
俺は彼女へ視線を投げ、頬を緩ませる。
「戸出ちゃんが俺の分まで働いてくれたら、寝不足も解消するかも」
「ヤダァ、アルバイトに仕事押し付けないでくださいよ────あ、兒玉くん。お疲れ様」
戸出は事務所に入ってきた人影に声をかける。
兒玉と呼ばれた男は、戸出にぺこりと頭を下げた。艶やかな黒髪が、揺れている。
「今日、シフト被ってたね。えへへ、兒玉くん、お客さん捌くの上手いから頼りになるんだよなぁ」
「そ、そう? あはは」
戸出は兒玉の肩をポンと叩き、ポニーテールを揺らし去っていく。
その後ろ姿を目で追いながら、息を吐き出した。
────どうせ、戸出も俺よりこういう若くて、純粋そうな男の方がいいに決まってるよな。
事務所に置かれたロッカーに荷物を入れ、着替えを始める兒玉の背中を眺める。
バックヤードの一角に、俺の仕事場兼、更衣室代わりの事務所がある。
事務所の端にはロッカーが並べられており、横にはカーテンで区切られたスペースがある。お粗末だがそこが更衣室と呼ばれる箇所になる。
女は更衣室で着替えるが、男はほとんど使用しない。
故に、男はロッカー前で制服へ着替えるのだ。
俺が利用するデスクからロッカーは丸見えで、はっきり言って目の毒だ。
服を脱ぐその仕草を視界に入れるだけで、吐き気を催す。
しかし、なぜか兒玉の背中から目が離せなかった。
薄くて、白い背中。汚れを知らないであろう肌が、何故だか嫌味に見える。
────あの仲の良さ。俺の知らない所で付き合ってるとか、ないよな?
唇が自然に曲がり、舌打ちをしてしまいそうになる。
戸出と兒玉がキスをして裸で抱き合う場面を想像し、顔を顰めた。
「……っ!」
不意に、兒玉が振り向いた。俺に気がついたようで、制服に袖を通しながらどこか気まずそうに視線を逸らす。
なんだかその態度にモヤモヤしたものを抱えつつ、咳払いをした。
「兒玉。お前、次のシフト早めに出せよ。こっちはバイトのシフト調整でも時間取られるんだから」
ツンケンとした声音でそう言い放ち、コーヒーを啜る。
ノートパソコンのキーボードへ手を置き、わざとらしく鳴らした。
「はい、すみません。早めに出します」
兒玉は短くそう答え、着替えを終える。
そんな彼が、何か言いたげにこちらをチラチラ見ていた。
「なんだよ」と吐き出すと兒玉はびくりと体を強張らせる。
口を開閉させ、やがて唇を舐めた。
「あの、えっと。三賀さん……」
歯切れの悪い兒玉を見て、苛立ちが募る。
戸出になら、このような対応をされてもなんとも思わない(むしろ愛しささえ感じる)が、男にこんなことをされても、気色悪さで吐きそうになるだけだ。
俺は睨みつけ、言葉の続きを待つ。
「明日、戸出さんと宅飲みする予定なんですけど……それを三賀さんのご自宅でやってもいいでしょうか?」
その言葉に目を見開く。兒玉は「図々しいですよね……」と肩を縮こませ、事務所から出ようとした。
彼の背中を、必死に止める。
「待て。つまりそれは、えっと。お前が戸出ちゃんを俺の家に連れてくるってことか?」
兒玉がコクリと頷いた。
間を置いて、薄く口を開く。
「三賀さん。戸出さんのこと、狙ってるでしょ? だから、えっと……そういう場を作って差し上げたくて……」
戸出のことを狙っているということがバレていて、軽くショックを受けた。
と、同時にこんな男に気を遣われたことに恥を覚える。
しかし、だ。まさかこんなやつが、戸出と俺の関係を作ってくれようとしているとは。意外にいいやつではないか。
緩む口元を抑えつつ、大きく頷いた。
「じゃ、明日。俺の家で、宅飲みな」
上擦った声に、兒玉がパッと顔を上げ大きく頷く。
俺は彼の仕草にほんの少しだけ愛くるしさを覚えながら、脳内では戸出の酔った姿を想像し、鼻の下を伸ばした。
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