俺は幸せ者

なかあたま

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「だからこそ、都合が良かった────あまね、お前は俺のことが嫌いだ。そうだろ? だから、本当に都合がいい。お前がベータのままだったら、すぐに逃げてしまう。でも、お前はオメガだ。だから、嫌がるお前を繋ぎ止めることができる。その鍵を、神様が俺に与えてくれたんだ。本当に俺はついてる。幸せ者だ」

 言葉の意味を理解したのか、あまねが顔を上げる。先ほど以上に顔色を悪くさせていた。首を横に振り、抵抗の意思を見せている。
 そんな姿が可愛くて、俺は意図せず声を漏らした。腰が重くなり、脳の奥にじわりと熱が帯びる。

「あまね。俺たち、きっといい家族になれる」

 あまねが身じろぎをした。ひどく強い力で暴れ、そのまま壁に頭部を叩きつける。「大丈夫か?」と心配する間もなく、彼は這いずり、フローリングへ落ちた。どたんと鈍い音が聞こえ、痛みに呻く声が耳に届く。

「あまね、その姿でどうやって逃げるつもりだよ」

 ベッドの上から彼を見下ろす。だが、あまねには届いていなかった。ずりずりと俺から距離を取り、威嚇するように睨む。
 しかし、どこを切り取っても彼は怯えた子犬にしか見えない。虚勢を張った姿は滑稽だ────その腹を蹴飛ばしてやりたくなるほど。

「……今から俺の子供を身籠る体に、そんなことできないよな」

 ポツリとひとりごち、立ち上がる。フローリングに転がったあまねの近くで屈み、頭を撫でた。

「あまね、今からお前は次期社長の夫人なんだぞ? もう少しお淑やかにしてくれよ」

 冗談っぽく言い放ち、彼の口元へ手を伸ばす。ガムテープの端を摘んだ。

「大声出したら、顔面を殴る。いいな?」

 「俺だって手荒な真似はしたくないんだよ。恋人同士なんだしさ」となるべく落ち着いた声を漏らし、ガムテープを剥いだ。同時に、あまねが大きく息を吸い込んだ。

「じゃあ、キスしようか」
「産めない!」

 劈くような叫びに、俺は目をまん丸とさせた。「は?」と口を曲げて問いかける。
 あまねは肩で呼吸を繰り返しながら「産めないんだ」と続けた。

「あまね。産めないじゃないんだよ。お前には、俺との子を産んでもらう。お願いじゃない、強制だ」
「違う、そうじゃない。俺は文字通り、産めないんだ」

 あまねは体勢を整え直し、息を深く吸い込んだ。

「俺はお前のいう通り、オメガ性だ。けど生殖機能がほぼ無い。最初の判断でそう言われた。匂いは出ないし、ヒートも起こらない。そして、子供を孕めないんだ」

 「俺にはオメガとしての価値がない」とあまねは告げた。俺はその言葉を冷めた気持ちで聞いていた。
 「で?」。俺は思わず口から溢した。

「だ、だから、俺にはつがいとしての価値がない」
「あまね。お前、本当にバカだな。そんなくだらないことで、俺がお前を手放すわけないだろ」

 あまねの顔がゆっくりと歪む。その光景を眺めた。

「お前の生殖機能に価値があろうがなかろうが、知ったこっちゃない。お前という存在が、俺にとって価値があるんだよ」

 「それにさぁ」。俺はひとりごち、彼の耳元へ唇を寄せた。

「もしかしたら、いけるかもしれないだろ。だったら、やってみようぜ。俺とお前の子供ができるまで、この部屋で愛の時間を育もう」

 「な?」と微笑み、あまねの頬にキスをする。
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