メランコリーアポカリプス【完】

なかあたま

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 世界はゾンビウイルスによって崩壊した。眩い速度で人間へ感染を広めたそれは、人類を壊滅させるには十分な能力を持っていた。
 男も女も、老いも若きも関係ない。地位があろうが、名誉があろうが、どれだけの美貌を持っていようが、そのウイルスは平等に人へ感染し、広がりを続けた。
 今でも治療方法は見つかっておらず、生き残った人々はゾンビウイルスに怯えながら生きている。

「イズ」

 洗い物をしていた僕の背中に声が当たる。振り返ると、そこには血で汚れたバーレントが立っていた。
 彼の手にぶら下がった半透明の袋には、缶詰が詰められている。額を腕で拭いた彼が近づいてきた。
 
「これ」

 短くそう告げ、それを差し出す。僕は袋を受け取り、彼を見上げた。
 
「バーレント、平気? 怪我とかしてない?」

  近くにあったタオルでバーレントの顔を拭う。「平気だ」と答えた彼は僕からタオルを受け取り、全身を拭く。
 
「イズ、変な奴が来てないか?」
「来ていないよ。あ、トマト缶だ。嬉しい」

 受け取った袋の中から缶詰を取り出し、声を上げる。そんな僕の様子を見て、彼は一ミリ程度だが口角をあげた。
 
「……シノス区のスーパーマーケットは、まだ大量に食料があるみたいだ。ただ、セロイア区はもうダメだな。感染者に占領されている」

 「そうなんだ」と頷き彼から血で汚れたタオルを受け取る。それをジッと眺めた。

「この血は────」
「……途中で感染者が襲ってきたから、撃ち殺したんだ。返り血だから気にするな」

 彼は身につけていたガンホルスターを取り外し、テーブルに置いた。そのまま椅子に腰を下ろし、息を吐き出す。
 その様子を見て、左腕が疼いた。

「……お前は殺さないよ」

 パッと顔を上げる。バーレントがこちらを見ていた。下手な笑みを浮かべ、肩を竦める。

「僕が変異したら、すぐに殺してね」
 僕の言葉に、彼は眉を顰めた。そしてこちらへ手を伸ばし、近づくよう促す。

「イズ、来い」

 言われるがまま、従う。ゆっくりと彼に近づくと、グイと引っ張られた。そのまま、彼の胸元に収まる。温かい体温が全身に伝わり、心臓が脈を打った。
 彼は僕の左腕を撫で、耳元で囁く。

「俺は、お前の味方だ」

 左腕────ウイルスに感染し、変色したそこを、バーレントのカサついた指先が這う。僕は目を瞑り、額に唇を押し付ける彼に身を委ねた。
 僕の首輪から垂れた鎖が、かちゃりと音を奏でた。
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