メランコリーアポカリプス【完】

なかあたま

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 車のエンジン音が聞こえ、僕は畳んでいた洗濯物を手から離した。やがて扉が鈍い音を立てて開く。そこには疲れ切った顔をしたバーレントが立っていた。

「ただいま」
「おかえり、バーレント」

 荷物を抱えたバーレントが、僕を見て頬を緩ませる。僕はこの瞬間がたまらなく好きだ。

「怪我はない?」
「あぁ、大丈夫だ。ほら、これ」

 彼は手に下げていた袋を差し出した。中には板チョコが入っている。思わず「わぁ」と顔を輝かせた僕を見て、バーレントが小さく笑った。

「……サンタクロースの気持ちが分かるな」

 ポンと頭を叩かれ、恥ずかしさに頬が赤くなる。

「チョコ、好きなんだから仕方がないじゃん……」
「はは、お前の好物だから持って帰ってきた。好きなだけ食え」

 小声で「ありがとう」と呟く。バーレントが缶詰の置かれた木製のテーブルへ向かい、椅子へ腰を下ろす。僕もその向かいに座った。

「また缶詰だけど、いい?」
「しょうがないさ。そうだ、明日は俺が狩りに行ってくるよ」
「えぇ、またここで動物を捌くの? やだなぁ、怖いよ」
「それがサバイバルってもんだ」

 今まで生きてきた日常とは全く違う環境に慣れてきたはずだが、野山に生息する動物を捕獲し、食することにはいまだに慣れない。

「街は、どんな感じだった? 相変わらず、いつも通り?」

 食事をしながら街の状況などを聞くのが日々の日課だ。少しでも世界が好転していたら良いなという淡い期待を抱くが、彼の口から放たれる言葉は絶望的なものばかりだ。
 街にはゾンビが溢れかえり、生存者は残されていない。政府も機能していないし、生き残りで組まれたグループの人々もほとんど希望をなくしているらしい。

「いつになったら、元の生活に戻れるんだろうね……」

 食べ飽きた缶詰をスプーンでかき回しながらポツリと呟く。悲壮感が漂う僕を見て、バーレントは「大丈夫だ、いつかは元通りになるさ」と楽観的に答えた。
 彼はいつだってそうだ。僕がくよくよしていると、逆にポジティブになってくれる。
 大丈夫だ、問題ない。俺がついている────そう僕を慰めてくれる。
 視線を上げ、バーレントへ「ありがとう」と告げた。彼は穏やかに微笑む。
 こんな状況下でお荷物である僕を抱え、どうやってここまで彼は強く自身を保てるのだろうか。
 バーレントの強靭な精神が羨ましい。同時に自分の弱さを嘆きたくなった。
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