4 / 7
4
しおりを挟む
◇
車のエンジン音が聞こえ、僕は畳んでいた洗濯物を手から離した。やがて扉が鈍い音を立てて開く。そこには疲れ切った顔をしたバーレントが立っていた。
「ただいま」
「おかえり、バーレント」
荷物を抱えたバーレントが、僕を見て頬を緩ませる。僕はこの瞬間がたまらなく好きだ。
「怪我はない?」
「あぁ、大丈夫だ。ほら、これ」
彼は手に下げていた袋を差し出した。中には板チョコが入っている。思わず「わぁ」と顔を輝かせた僕を見て、バーレントが小さく笑った。
「……サンタクロースの気持ちが分かるな」
ポンと頭を叩かれ、恥ずかしさに頬が赤くなる。
「チョコ、好きなんだから仕方がないじゃん……」
「はは、お前の好物だから持って帰ってきた。好きなだけ食え」
小声で「ありがとう」と呟く。バーレントが缶詰の置かれた木製のテーブルへ向かい、椅子へ腰を下ろす。僕もその向かいに座った。
「また缶詰だけど、いい?」
「しょうがないさ。そうだ、明日は俺が狩りに行ってくるよ」
「えぇ、またここで動物を捌くの? やだなぁ、怖いよ」
「それがサバイバルってもんだ」
今まで生きてきた日常とは全く違う環境に慣れてきたはずだが、野山に生息する動物を捕獲し、食することにはいまだに慣れない。
「街は、どんな感じだった? 相変わらず、いつも通り?」
食事をしながら街の状況などを聞くのが日々の日課だ。少しでも世界が好転していたら良いなという淡い期待を抱くが、彼の口から放たれる言葉は絶望的なものばかりだ。
街にはゾンビが溢れかえり、生存者は残されていない。政府も機能していないし、生き残りで組まれたグループの人々もほとんど希望をなくしているらしい。
「いつになったら、元の生活に戻れるんだろうね……」
食べ飽きた缶詰をスプーンでかき回しながらポツリと呟く。悲壮感が漂う僕を見て、バーレントは「大丈夫だ、いつかは元通りになるさ」と楽観的に答えた。
彼はいつだってそうだ。僕がくよくよしていると、逆にポジティブになってくれる。
大丈夫だ、問題ない。俺がついている────そう僕を慰めてくれる。
視線を上げ、バーレントへ「ありがとう」と告げた。彼は穏やかに微笑む。
こんな状況下でお荷物である僕を抱え、どうやってここまで彼は強く自身を保てるのだろうか。
バーレントの強靭な精神が羨ましい。同時に自分の弱さを嘆きたくなった。
車のエンジン音が聞こえ、僕は畳んでいた洗濯物を手から離した。やがて扉が鈍い音を立てて開く。そこには疲れ切った顔をしたバーレントが立っていた。
「ただいま」
「おかえり、バーレント」
荷物を抱えたバーレントが、僕を見て頬を緩ませる。僕はこの瞬間がたまらなく好きだ。
「怪我はない?」
「あぁ、大丈夫だ。ほら、これ」
彼は手に下げていた袋を差し出した。中には板チョコが入っている。思わず「わぁ」と顔を輝かせた僕を見て、バーレントが小さく笑った。
「……サンタクロースの気持ちが分かるな」
ポンと頭を叩かれ、恥ずかしさに頬が赤くなる。
「チョコ、好きなんだから仕方がないじゃん……」
「はは、お前の好物だから持って帰ってきた。好きなだけ食え」
小声で「ありがとう」と呟く。バーレントが缶詰の置かれた木製のテーブルへ向かい、椅子へ腰を下ろす。僕もその向かいに座った。
「また缶詰だけど、いい?」
「しょうがないさ。そうだ、明日は俺が狩りに行ってくるよ」
「えぇ、またここで動物を捌くの? やだなぁ、怖いよ」
「それがサバイバルってもんだ」
今まで生きてきた日常とは全く違う環境に慣れてきたはずだが、野山に生息する動物を捕獲し、食することにはいまだに慣れない。
「街は、どんな感じだった? 相変わらず、いつも通り?」
食事をしながら街の状況などを聞くのが日々の日課だ。少しでも世界が好転していたら良いなという淡い期待を抱くが、彼の口から放たれる言葉は絶望的なものばかりだ。
街にはゾンビが溢れかえり、生存者は残されていない。政府も機能していないし、生き残りで組まれたグループの人々もほとんど希望をなくしているらしい。
「いつになったら、元の生活に戻れるんだろうね……」
食べ飽きた缶詰をスプーンでかき回しながらポツリと呟く。悲壮感が漂う僕を見て、バーレントは「大丈夫だ、いつかは元通りになるさ」と楽観的に答えた。
彼はいつだってそうだ。僕がくよくよしていると、逆にポジティブになってくれる。
大丈夫だ、問題ない。俺がついている────そう僕を慰めてくれる。
視線を上げ、バーレントへ「ありがとう」と告げた。彼は穏やかに微笑む。
こんな状況下でお荷物である僕を抱え、どうやってここまで彼は強く自身を保てるのだろうか。
バーレントの強靭な精神が羨ましい。同時に自分の弱さを嘆きたくなった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
偽物勇者は愛を乞う
きっせつ
BL
ある日。異世界から本物の勇者が召喚された。
六年間、左目を失いながらも勇者として戦い続けたニルは偽物の烙印を押され、勇者パーティから追い出されてしまう。
偽物勇者として逃げるように人里離れた森の奥の小屋で隠遁生活をし始めたニル。悲嘆に暮れる…事はなく、勇者の重圧から解放された彼は没落人生を楽しもうとして居た矢先、何故か勇者パーティとして今も戦っている筈の騎士が彼の前に現れて……。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる