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ヨウくんとまひろくん
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◇
その日以降、俺はまひろから目が離せなくなった。学校内で過ごす時も、休日のときも。ふわふわと笑う彼は綿毛のようで、気を抜いたらすぐに飛ばされてしまいそうだった。だから、俺は彼を見守り続けている。決して、深い意味はない。彼が、心配なだけなのだ。
「お前さ、蓮音を見てる時の目、やばくね?」
体育の授業時、大島にそう言われ俺は図星をつかれた。鈍感な大島にバレるほど、俺はまひろを見ていたらしい。それも彼曰く「やばい」目で。俺はどぎまぎしつつ、平静を装いながら遠くを見つめた。
「別に」
「えぇ……めっちゃキツい目で見てる時あるぞ。さっきもそうだし。何? 蓮音のことが気に入らないとか?」
「お前、ああいうトロそうなのイラつくタイプ?」と言われ「トロいって言い方やめろ。ぽやんとしてるって言え」と擁護しかける。一歩手前で咳払いをした。同時に、目元を指先で摩る。
────そんなにキツい目で見ているのか……。
反省するべき点だと思いつつ、しかし彼を思うと無意識に強張ってしまう自分がいる。俺以外の人間と話している姿を見るとはらわたが煮え繰り返りそうになるのだ。すぐさま彼の腕を引いて「俺だけを見ていてくれ」と叫びたくなる。彼を俺だけのものにしたいという自分勝手な考えが頭を埋め尽くし、それだけしか考えられなくなるのだ。
「違う。別にガンを飛ばしてる訳じゃない」
「あっそ。俺、意外に蓮音のこと好きだからあんまり虐めてやんなよな」
へへっと短く笑った大島に殴りかかる勢いで接近する。彼は「うわっ」と悲鳴をあげた。
「お前、蓮音のこと好きなの?」
「え、なに」
「どう言う意味で?」
「ヨウ、お前、顔が怖すぎ……」
「そういう目で見てたりしないよな? な?」
「そういう目ってどういう目だよ!? 別に好きってそういう意味じゃねぇよ!」
「どうしたんだよ、ヨウ。お前なんか変だぞ」と大島に言われ、我に返る。そうだ、彼が言う「好き」は友達として好きだと言う意味だ。その言葉に不埒な欲が孕んでいる訳ないのだ。そうだ。そうに決まっている。そうでなきゃ俺はこいつを────。
そこまで考え、かぶりを振った。目の前の大島は「マジで顔が怖すぎる」とドン引きしている。
「……ごめん、気にしないでくれ」
「な、なんか悩み事があるなら乗るから言ってくれよな……」
乾いた笑いを浮かべる大島が、瞬間よろりとバランスを崩した。そのままべちゃりとグラウンドに転がる。相手がまひろだったらグラウンドに倒れる前に手を差し伸べていた。しかし、相手は大島だ。いくら地面とキスしたところで、なんの感情も湧かない。
「いってぇ……」
どうやら肘を擦りむいたらしい。「大丈夫か?」と棒読みで問いかけると、大島は「大丈夫そうに見えるかよ?」と歯を剥き出しにして怒鳴った。
「マジで最悪なんだが……」
「ぼーっとしてるからだろ」
「大丈夫?」
後ろから声が聞こえ、振り返る。そこにはいつも通りのぽやんとした表情のまひろが立っていた。制服から体操着に着替えた彼は、いつも以上に幼く見える。ハーフパンツから覗いた膝小僧がまろく、唾液を嚥下した。
「こけたの?」
「うっかりしててさ」
「怪我してるねぇ。はい、これ」
まひろがポケットを弄り、何かを取り出した。それは絆創膏だった。幼稚園児が喜びそうな柄の絆創膏は、まひろに似合っていた。大島が噴き出すように笑う。
「確かお前、保険係だったもんな」
「そーそー。これ、貼ってね。あ、その前に洗って消毒だね」
「いいって別に、かすり傷だし」
俺をぽつねんと残し、二人は会話を進めた。モヤっとした感情が腹の底から湧き上がり、間に入り込む。
「……あ、俺も怪我してるかも」
「ヨウくんも?」
「あぁ、怪我してる。痛い」
「嘘だろ、お前いつ怪我したんだよ……」とひとりごちる 大島を無視し、まひろへ絆創膏を催促する。まひろは唸りながらポケットへ手を突っ込み「あれが最後の一枚だね」と笑った。
「え……」
「最後の一枚。ヨウくん、ごめんね」
首をこてんと傾げたまひろを横目に、俺は大島から絆創膏を力づくで奪おうとした。「なんなんだよ、お前!」と叫ぶ大島と「その柄が可愛いから、欲しいんだねぇヨウくん」と笑う二人に挟まれ、俺は「まひろに構ってもらうのは俺だけでいいんだよ」と叫びたい衝動に駆られた。
その日以降、俺はまひろから目が離せなくなった。学校内で過ごす時も、休日のときも。ふわふわと笑う彼は綿毛のようで、気を抜いたらすぐに飛ばされてしまいそうだった。だから、俺は彼を見守り続けている。決して、深い意味はない。彼が、心配なだけなのだ。
「お前さ、蓮音を見てる時の目、やばくね?」
体育の授業時、大島にそう言われ俺は図星をつかれた。鈍感な大島にバレるほど、俺はまひろを見ていたらしい。それも彼曰く「やばい」目で。俺はどぎまぎしつつ、平静を装いながら遠くを見つめた。
「別に」
「えぇ……めっちゃキツい目で見てる時あるぞ。さっきもそうだし。何? 蓮音のことが気に入らないとか?」
「お前、ああいうトロそうなのイラつくタイプ?」と言われ「トロいって言い方やめろ。ぽやんとしてるって言え」と擁護しかける。一歩手前で咳払いをした。同時に、目元を指先で摩る。
────そんなにキツい目で見ているのか……。
反省するべき点だと思いつつ、しかし彼を思うと無意識に強張ってしまう自分がいる。俺以外の人間と話している姿を見るとはらわたが煮え繰り返りそうになるのだ。すぐさま彼の腕を引いて「俺だけを見ていてくれ」と叫びたくなる。彼を俺だけのものにしたいという自分勝手な考えが頭を埋め尽くし、それだけしか考えられなくなるのだ。
「違う。別にガンを飛ばしてる訳じゃない」
「あっそ。俺、意外に蓮音のこと好きだからあんまり虐めてやんなよな」
へへっと短く笑った大島に殴りかかる勢いで接近する。彼は「うわっ」と悲鳴をあげた。
「お前、蓮音のこと好きなの?」
「え、なに」
「どう言う意味で?」
「ヨウ、お前、顔が怖すぎ……」
「そういう目で見てたりしないよな? な?」
「そういう目ってどういう目だよ!? 別に好きってそういう意味じゃねぇよ!」
「どうしたんだよ、ヨウ。お前なんか変だぞ」と大島に言われ、我に返る。そうだ、彼が言う「好き」は友達として好きだと言う意味だ。その言葉に不埒な欲が孕んでいる訳ないのだ。そうだ。そうに決まっている。そうでなきゃ俺はこいつを────。
そこまで考え、かぶりを振った。目の前の大島は「マジで顔が怖すぎる」とドン引きしている。
「……ごめん、気にしないでくれ」
「な、なんか悩み事があるなら乗るから言ってくれよな……」
乾いた笑いを浮かべる大島が、瞬間よろりとバランスを崩した。そのままべちゃりとグラウンドに転がる。相手がまひろだったらグラウンドに倒れる前に手を差し伸べていた。しかし、相手は大島だ。いくら地面とキスしたところで、なんの感情も湧かない。
「いってぇ……」
どうやら肘を擦りむいたらしい。「大丈夫か?」と棒読みで問いかけると、大島は「大丈夫そうに見えるかよ?」と歯を剥き出しにして怒鳴った。
「マジで最悪なんだが……」
「ぼーっとしてるからだろ」
「大丈夫?」
後ろから声が聞こえ、振り返る。そこにはいつも通りのぽやんとした表情のまひろが立っていた。制服から体操着に着替えた彼は、いつも以上に幼く見える。ハーフパンツから覗いた膝小僧がまろく、唾液を嚥下した。
「こけたの?」
「うっかりしててさ」
「怪我してるねぇ。はい、これ」
まひろがポケットを弄り、何かを取り出した。それは絆創膏だった。幼稚園児が喜びそうな柄の絆創膏は、まひろに似合っていた。大島が噴き出すように笑う。
「確かお前、保険係だったもんな」
「そーそー。これ、貼ってね。あ、その前に洗って消毒だね」
「いいって別に、かすり傷だし」
俺をぽつねんと残し、二人は会話を進めた。モヤっとした感情が腹の底から湧き上がり、間に入り込む。
「……あ、俺も怪我してるかも」
「ヨウくんも?」
「あぁ、怪我してる。痛い」
「嘘だろ、お前いつ怪我したんだよ……」とひとりごちる 大島を無視し、まひろへ絆創膏を催促する。まひろは唸りながらポケットへ手を突っ込み「あれが最後の一枚だね」と笑った。
「え……」
「最後の一枚。ヨウくん、ごめんね」
首をこてんと傾げたまひろを横目に、俺は大島から絆創膏を力づくで奪おうとした。「なんなんだよ、お前!」と叫ぶ大島と「その柄が可愛いから、欲しいんだねぇヨウくん」と笑う二人に挟まれ、俺は「まひろに構ってもらうのは俺だけでいいんだよ」と叫びたい衝動に駆られた。
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