洲関くんの恋人

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洲関くんの恋人

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「好きだよ、広瀬」
「う、うん。僕も好き」

    頬を包み込み、柔らかい唇を舐める。舌を捩じ込むと、広瀬の口内が優しく迎えてくれた。唾液を吸いながら奥へ侵入すると彼が息継ぎの合間に鼻にかかった声を漏らす。それが愛しくて思わず奥まで舌を挿入させた。上顎の柔らかい部分を突くと、彼が嗚咽に似た声を漏らす。喉の奥がきゅうと締まり、舌を粘膜が包み込んだ。
 腫れた下半身を、まるで盛った犬のように押し付けてしまう。無意識の下品な行動を、広瀬は手のひらで穏やかに撫でた。

「はっ、はぁっ、……はぁ……」

 唇を離すと、彼が蕩けた瞳で俺を見た。唾液の糸が途切れ、顎に垂れる。それが妙に艶かしくて、広瀬の中に押し入りたい衝動に駆られた。

「く、口でする?」

 不意に広瀬がそう口走った。未だに俺の下半身に置かれた手が、緩やかに上下している。僕、するよ。声は出さないように頑張る。と、健気に言葉を続けた。その甘美な誘いに乗りそうになったが、しかし。俺だけ満足するのは嫌で、首を横に振る。

「ま、前はその……嘔吐いちゃったけど、今回はそうならないようにするから……」

 初めてフェラチオをされたとき、彼は嘔吐いてしまい行為を断念した。そのことに対して、俺が怒っていると思い込んでいるらしい。失敗しないようにする、と呟く広瀬がいじらしくて、頭を撫でた。

「しなくていい」
「……じゃあ、続きは僕の家でしよう?」

 わかった、と頷き、彼の肩口に額を預け寄り添う。静かなトイレ内に、俺たちの呼吸音と換気扇の音が響き、まるで世界に二人きりだけのような感覚に陥った。



 昼休みも残り僅かというところで、俺たちは教室へ歩みを進める。数歩後ろにいる彼をチラリと見つめると、広瀬が照れくさそうに肩を竦めた。隣にわざと立ち、肩を寄り添わせる。
 人通りの少ない廊下で、誰も俺たちに目もくれない。なのに広瀬は弾けたように体を退かせた。その反応が面白くて、肩を揺らし笑う。

「おい」

 聞きなれた声に呼び止められ、俺たちは顔を視線の方へ遣った。そこには担任の藤本が立っていて、不穏な空気を漂わせている。
 ────面倒臭いな。
 俺は漏れそうになったため息を殺し、なんすか、と返答した。広瀬は体を縮こませ、目を伏せている。

「何やってんだ? 二人で」
「……いや、別に」

 唇を曲げそっぽを向くと、藤本の眉間に皺がまた一つできた。広瀬が慌てて声を漏らす。

「あ、あの。ちょっとお話をしてただけです」
「……洲関。お前、朝も広瀬のことを囲んで何かやってただろ」

 藤本はこちらだけを見つめ、そう言った。
 彼は俺をいじめっ子として捉えていたし、広瀬をいじめられっ子として捉えていた。
 教師としては満点なのだが、しかし。俺たちは彼の想像を遥かに超えるほど仲が良いのだ。そこまで心配しなくていいのに、と思い肩を竦める。
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