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第二十三話 タイキ様タイキ様。
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晩餐会の当日。泰樹は新しい服に袖を通し、また認識を阻害するとかいう香水を吹いた。黒い小びんをポケットに突っ込んで、用意は完璧。
泰樹は何だか色々と面倒になって、ヒゲを剃ることを止めた。おかげで、今はアゴと鼻の下にまばらに無精ヒゲが生えている。
――ヒゲ生やすと、子供らにモテねーんだよな。
そんなことを思い出しながら、鏡の中の自分を見つめる。少しだけ、目の下にクマが出来ている。流石に、大きなイベントである晩餐会の前日は休ませて貰えたが、シーモスの責めは激しすぎる。
眠る前に治癒の魔法とやらをかけてくれるお陰で、体力はなんとか問題ない。だが、精神的には来るモノが有る。
――思い出したら……勃ってきそう……あー! 何も考えない、何も考えない!!
どうにかムラつきを脳みそから閉め出して、泰樹は晩餐会の会場になる広間へと向かった。
晩餐会の会場には、すでに大勢の魔の者たちが集まっていた。
泰樹はその間をどうにか通り抜けて、イリスの隣に立つ。
「ほほう。それが噂の『ソトビト』ですな?」
「……それ、じゃないよ。タイキ、だよ?」
イリスがわずかにムッとしたように、客の言葉を訂正する。客は慌てて言い募る。
「『ソトビト』のタイキ、ですな。今夜のメニューを考えたと言う」
「うん。今日のお料理はタイキが思い出した、タイキの故郷のお料理だよ!」
イリスと客がやりとりする横で、泰樹はただ曖昧に笑って突っ立ている。
もう何人目か数えるのも億劫になった客が、イリスに挨拶をし、泰樹はその隣で軽く会釈をする。
たったの一、二週間で、泰樹の言葉遣いを矯正する事は難しい。それで、今日直接魔の者たちと会話をするのは、やめておいた方が良いという結論になった。
シーモスみたいな調子で、話せば良いのでは無いか?と思ったのだが、それはそれで難しそうだ。
シーモス。一昨日は何か、その、……激しかったな。泰樹はその手つきを思い出しながら、羞恥が顔に出ないように唇を引き結んだ。
シーモスは淡泊そうな顔して、話し方と同じように愛撫はねちっこい。めちゃくちゃに蕩かされて、訳がわからなくなるまで抱かれて、半分くらい記憶がトンでいる。
『タイキ様、タイキ様。ああ、私のために、こんなに奥までトロトロで……こんなにモノ欲しそうに……』
「……タイキ、タイキ! 大丈夫? 疲れてない?」
「お、おう! 大丈夫だ。まだまだ全然元気だぜ!」
挨拶する客が途絶えたようだ。ぼーっと考え込んでいた泰樹の顔を、イリスがのぞき込む。
「お腹空いたの? ご飯、食べに行く?」
「え、あ……ああ、そうだな。今の内に食っとくか!」
料理長は、結局何を用意してくれたのだろう。泰樹とイリスは、いそいそと食べ物が並ぶテーブルに向かう。
「あ! カレーあるよ!」
「おお! こっちにはカツも有るぜ!」
料理長は、相当頑張ってくれた。カレーにカツ、ハンバーグ、オムレツ、ナポリタン……目移りするほど、様々な大皿料理がずらりとテーブルに並べられている。
「バイキングは、見た目とか気にしちゃ駄目なんだ。食いたいモノを、食える分だけ皿にのせるのがコツだ!」
「うん! タイキ先生!」
「いくぜー!」
二人は大喜びで、食べたいモノを片っ端から皿に盛って行った。
「んぷ。ちょっと食い過ぎた……」
「タイキ、いっぱい食べてたからねー」
三週目のバイキングを食べ終えて、泰樹はすでに満腹だった。
「僕は、もうちょっと食べようかな?」
「んー。それなら、俺はちょっとトイレ行ってくる」
「気を付けてねー」
「おうー」
会場はイリスの家で、この廊下は何度も通った。馴れた通路だ。足取りも軽くトイレに向かい、用を済ませて手を洗う。
「んー? これで後は美味い酒があればなぁ……」
馬鹿でかいバスルームにある洗面台で、鏡に向かってつぶやく。念の為、飲酒は禁止とシーモスに言い渡されている。
そのシーモスは、裏で晩餐会の進行の一切を取り仕切っていた。クソ忙しそうで、声をかける隙も無い。
「……よお。『ソトビト』ちゃぁん」
不意に、声がした。泰樹は慌てて振り返る。
そこに立っていたのは、『暴食公』と呼ばれていた幻魔だった。足音が、しなかった。泰樹の背中をぞくりと冷たいモノが撫でていく。
「……なんか、俺に用か? 迷ったんなら、会場まで案内しようか?」
泰樹は『暴食公』と距離を保ちながら、じりじりとバスルームの出口に向かう。
背中を見せたら駄目だ。そんな風に、直感する。
「オマエの匂いがしたからよぉ。たどってきたんだよぉ。今日の料理は美味かったなぁ。あれ、オマエがイリスに教えたんだろぉ」
間延びした話し方をするが、この幻魔には隙が無い。油断したら、文字通り食われる。そんな恐怖が背中を凍らせる。
「ああ、そうだぜ。俺を食っちまったら、もう新しい料理は教えられなくなるなー」
「食う気はねぇよぉ。今はまだ、なぁ。……オマエ、イリスのとこで満足かぁ?」
「……どう言う意味だ? そりゃ」
『暴食公』の真意が掴みかねて、泰樹はたずねる。
「そのまんまの意味だよぉ。オマエ、繁殖期のメスみたいな匂いが、するぅ。イリスはお子様だからなぁ。満足できるのかぁ? それとも、あっちもでかいのかぁ?」
「ば、バカ野郎! イリスはそんなヤツじゃねえ!!」
思わず声がでかくなる。色にぼけてるのはシーモスだけだ。イリスを巻き込まないで欲しい。
「じゃあ、満足してねぇんだなぁ。わかったぁ」
『暴食公』は一人納得して、腕を伸ばす。ゆっくりとした動きにも見えるのに、気が付けば腕を捕まれていた。
「な……!」
声を上げなければ。そう思った時にはもう、遅い。
泰樹は、真っ暗闇の中に放り出されていた。
泰樹は何だか色々と面倒になって、ヒゲを剃ることを止めた。おかげで、今はアゴと鼻の下にまばらに無精ヒゲが生えている。
――ヒゲ生やすと、子供らにモテねーんだよな。
そんなことを思い出しながら、鏡の中の自分を見つめる。少しだけ、目の下にクマが出来ている。流石に、大きなイベントである晩餐会の前日は休ませて貰えたが、シーモスの責めは激しすぎる。
眠る前に治癒の魔法とやらをかけてくれるお陰で、体力はなんとか問題ない。だが、精神的には来るモノが有る。
――思い出したら……勃ってきそう……あー! 何も考えない、何も考えない!!
どうにかムラつきを脳みそから閉め出して、泰樹は晩餐会の会場になる広間へと向かった。
晩餐会の会場には、すでに大勢の魔の者たちが集まっていた。
泰樹はその間をどうにか通り抜けて、イリスの隣に立つ。
「ほほう。それが噂の『ソトビト』ですな?」
「……それ、じゃないよ。タイキ、だよ?」
イリスがわずかにムッとしたように、客の言葉を訂正する。客は慌てて言い募る。
「『ソトビト』のタイキ、ですな。今夜のメニューを考えたと言う」
「うん。今日のお料理はタイキが思い出した、タイキの故郷のお料理だよ!」
イリスと客がやりとりする横で、泰樹はただ曖昧に笑って突っ立ている。
もう何人目か数えるのも億劫になった客が、イリスに挨拶をし、泰樹はその隣で軽く会釈をする。
たったの一、二週間で、泰樹の言葉遣いを矯正する事は難しい。それで、今日直接魔の者たちと会話をするのは、やめておいた方が良いという結論になった。
シーモスみたいな調子で、話せば良いのでは無いか?と思ったのだが、それはそれで難しそうだ。
シーモス。一昨日は何か、その、……激しかったな。泰樹はその手つきを思い出しながら、羞恥が顔に出ないように唇を引き結んだ。
シーモスは淡泊そうな顔して、話し方と同じように愛撫はねちっこい。めちゃくちゃに蕩かされて、訳がわからなくなるまで抱かれて、半分くらい記憶がトンでいる。
『タイキ様、タイキ様。ああ、私のために、こんなに奥までトロトロで……こんなにモノ欲しそうに……』
「……タイキ、タイキ! 大丈夫? 疲れてない?」
「お、おう! 大丈夫だ。まだまだ全然元気だぜ!」
挨拶する客が途絶えたようだ。ぼーっと考え込んでいた泰樹の顔を、イリスがのぞき込む。
「お腹空いたの? ご飯、食べに行く?」
「え、あ……ああ、そうだな。今の内に食っとくか!」
料理長は、結局何を用意してくれたのだろう。泰樹とイリスは、いそいそと食べ物が並ぶテーブルに向かう。
「あ! カレーあるよ!」
「おお! こっちにはカツも有るぜ!」
料理長は、相当頑張ってくれた。カレーにカツ、ハンバーグ、オムレツ、ナポリタン……目移りするほど、様々な大皿料理がずらりとテーブルに並べられている。
「バイキングは、見た目とか気にしちゃ駄目なんだ。食いたいモノを、食える分だけ皿にのせるのがコツだ!」
「うん! タイキ先生!」
「いくぜー!」
二人は大喜びで、食べたいモノを片っ端から皿に盛って行った。
「んぷ。ちょっと食い過ぎた……」
「タイキ、いっぱい食べてたからねー」
三週目のバイキングを食べ終えて、泰樹はすでに満腹だった。
「僕は、もうちょっと食べようかな?」
「んー。それなら、俺はちょっとトイレ行ってくる」
「気を付けてねー」
「おうー」
会場はイリスの家で、この廊下は何度も通った。馴れた通路だ。足取りも軽くトイレに向かい、用を済ませて手を洗う。
「んー? これで後は美味い酒があればなぁ……」
馬鹿でかいバスルームにある洗面台で、鏡に向かってつぶやく。念の為、飲酒は禁止とシーモスに言い渡されている。
そのシーモスは、裏で晩餐会の進行の一切を取り仕切っていた。クソ忙しそうで、声をかける隙も無い。
「……よお。『ソトビト』ちゃぁん」
不意に、声がした。泰樹は慌てて振り返る。
そこに立っていたのは、『暴食公』と呼ばれていた幻魔だった。足音が、しなかった。泰樹の背中をぞくりと冷たいモノが撫でていく。
「……なんか、俺に用か? 迷ったんなら、会場まで案内しようか?」
泰樹は『暴食公』と距離を保ちながら、じりじりとバスルームの出口に向かう。
背中を見せたら駄目だ。そんな風に、直感する。
「オマエの匂いがしたからよぉ。たどってきたんだよぉ。今日の料理は美味かったなぁ。あれ、オマエがイリスに教えたんだろぉ」
間延びした話し方をするが、この幻魔には隙が無い。油断したら、文字通り食われる。そんな恐怖が背中を凍らせる。
「ああ、そうだぜ。俺を食っちまったら、もう新しい料理は教えられなくなるなー」
「食う気はねぇよぉ。今はまだ、なぁ。……オマエ、イリスのとこで満足かぁ?」
「……どう言う意味だ? そりゃ」
『暴食公』の真意が掴みかねて、泰樹はたずねる。
「そのまんまの意味だよぉ。オマエ、繁殖期のメスみたいな匂いが、するぅ。イリスはお子様だからなぁ。満足できるのかぁ? それとも、あっちもでかいのかぁ?」
「ば、バカ野郎! イリスはそんなヤツじゃねえ!!」
思わず声がでかくなる。色にぼけてるのはシーモスだけだ。イリスを巻き込まないで欲しい。
「じゃあ、満足してねぇんだなぁ。わかったぁ」
『暴食公』は一人納得して、腕を伸ばす。ゆっくりとした動きにも見えるのに、気が付けば腕を捕まれていた。
「な……!」
声を上げなければ。そう思った時にはもう、遅い。
泰樹は、真っ暗闇の中に放り出されていた。
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