異世界に落っこちたおっさんは今日も魔人に迫られています!R18版

水野酒魚。

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第二十三話 タイキ様タイキ様。

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 晩餐会の当日。泰樹たいきは新しい服に袖を通し、また認識を阻害するとかいう香水を吹いた。黒い小びんをポケットに突っ込んで、用意は完璧。
 泰樹は何だか色々と面倒になって、ヒゲをることを止めた。おかげで、今はアゴと鼻の下にまばらに無精ヒゲが生えている。

 ――ヒゲ生やすと、子供らにモテねーんだよな。

 そんなことを思い出しながら、鏡の中の自分を見つめる。少しだけ、目の下にクマが出来ている。流石に、大きなイベントである晩餐会ばんさんかいの前日は休ませて貰えたが、シーモスの責めは激しすぎる。
 眠る前に治癒の魔法とやらをかけてくれるお陰で、体力はなんとか問題ない。だが、精神的には来るモノが有る。

 ――思い出したら……ってきそう……あー! 何も考えない、何も考えない!!

 どうにかムラつきを脳みそから閉め出して、泰樹は晩餐会の会場になる広間へと向かった。



 晩餐会の会場には、すでに大勢の魔の者たちが集まっていた。
 泰樹はその間をどうにか通り抜けて、イリスの隣に立つ。

「ほほう。それが噂の『ソトビト』ですな?」
「……それ、じゃないよ。タイキ、だよ?」

 イリスがわずかにムッとしたように、客の言葉を訂正する。客は慌てて言い募る。

「『ソトビト』のタイキ、ですな。今夜のメニューを考えたと言う」
「うん。今日のお料理はタイキが思い出した、タイキの故郷のお料理だよ!」

 イリスと客がやりとりする横で、泰樹はただ曖昧に笑って突っ立ている。
 もう何人目か数えるのも億劫になった客が、イリスに挨拶をし、泰樹はその隣で軽く会釈をする。
 たったの一、二週間で、泰樹の言葉遣いを矯正きようせいする事は難しい。それで、今日直接魔の者たちと会話をするのは、やめておいた方が良いという結論になった。
 シーモスみたいな調子で、話せば良いのでは無いか?と思ったのだが、それはそれで難しそうだ。
 シーモス。一昨日は何か、その、……激しかったな。泰樹はその手つきを思い出しながら、羞恥が顔に出ないように唇を引き結んだ。
 シーモスは淡泊そうな顔して、話し方と同じように愛撫はねちっこい。めちゃくちゃにとろかされて、訳がわからなくなるまで抱かれて、半分くらい記憶がトンでいる。

『タイキ様、タイキ様。ああ、わたくしのために、こんなに奥までトロトロで……こんなにモノ欲しそうに……』
「……タイキ、タイキ! 大丈夫? 疲れてない?」
「お、おう! 大丈夫だ。まだまだ全然元気だぜ!」

 挨拶する客が途絶えたようだ。ぼーっと考え込んでいた泰樹の顔を、イリスがのぞき込む。

「お腹空いたの? ご飯、食べに行く?」
「え、あ……ああ、そうだな。今の内に食っとくか!」

 料理長は、結局何を用意してくれたのだろう。泰樹とイリスは、いそいそと食べ物が並ぶテーブルに向かう。

「あ! カレーあるよ!」
「おお! こっちにはカツも有るぜ!」

 料理長は、相当頑張ってくれた。カレーにカツ、ハンバーグ、オムレツ、ナポリタン……目移りするほど、様々な大皿料理がずらりとテーブルに並べられている。

「バイキングは、見た目とか気にしちゃ駄目なんだ。食いたいモノを、食える分だけ皿にのせるのがコツだ!」
「うん! タイキ先生!」
「いくぜー!」

 二人は大喜びで、食べたいモノを片っ端から皿に盛って行った。



「んぷ。ちょっと食い過ぎた……」
「タイキ、いっぱい食べてたからねー」

 三週目のバイキングを食べ終えて、泰樹はすでに満腹だった。

「僕は、もうちょっと食べようかな?」
「んー。それなら、俺はちょっとトイレ行ってくる」
「気を付けてねー」
「おうー」

 会場はイリスの家で、この廊下は何度も通った。馴れた通路だ。足取りも軽くトイレに向かい、用を済ませて手を洗う。

「んー? これで後は美味い酒があればなぁ……」

 馬鹿でかいバスルームにある洗面台で、鏡に向かってつぶやく。念の為、飲酒は禁止とシーモスに言い渡されている。
 そのシーモスは、裏で晩餐会の進行の一切を取り仕切っていた。クソ忙しそうで、声をかける隙も無い。

「……よお。『ソトビト』ちゃぁん」

 不意に、声がした。泰樹は慌てて振り返る。
 そこに立っていたのは、『暴食公』と呼ばれていた幻魔だった。足音が、しなかった。泰樹の背中をぞくりと冷たいモノが撫でていく。

「……なんか、俺に用か? 迷ったんなら、会場まで案内しようか?」

 泰樹は『暴食公』と距離を保ちながら、じりじりとバスルームの出口に向かう。
 背中を見せたら駄目だ。そんな風に、直感する。

「オマエの匂いがしたからよぉ。たどってきたんだよぉ。今日の料理は美味かったなぁ。あれ、オマエがイリスに教えたんだろぉ」

 間延びした話し方をするが、この幻魔には隙が無い。油断したら、文字通り食われる。そんな恐怖が背中を凍らせる。

「ああ、そうだぜ。俺を食っちまったら、もう新しい料理は教えられなくなるなー」
「食う気はねぇよぉ。今はまだ、なぁ。……オマエ、イリスのとこで満足かぁ?」
「……どう言う意味だ? そりゃ」

『暴食公』の真意がつかみかねて、泰樹はたずねる。

「そのまんまの意味だよぉ。オマエ、繁殖期はんしよくきのメスみたいな匂いが、するぅ。イリスはお子様だからなぁ。満足できるのかぁ? それとも、あっちもでかいのかぁ?」
「ば、バカ野郎! イリスはそんなヤツじゃねえ!!」

 思わず声がでかくなる。色にぼけてるのはシーモスだけだ。イリスを巻き込まないで欲しい。

「じゃあ、満足してねぇんだなぁ。わかったぁ」

『暴食公』は一人納得して、腕を伸ばす。ゆっくりとした動きにも見えるのに、気が付けば腕を捕まれていた。

「な……!」

 声を上げなければ。そう思った時にはもう、遅い。
 泰樹は、真っ暗闇の中に放り出されていた。
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