異世界に落っこちたおっさんは今日も魔人に迫られています!R18版

水野酒魚。

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オマケ

*夏の遊び

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「この島にはさー夏に海行って遊ぶーとか、そういう習慣はねーの?」

はこぶね』が夏と呼ばれる期間に入ったと聞かされて、たいは疑問を口にした。

「うーん。無いかなー? 一応、海のそばに夏の別荘とかもあるけどねー?」

 公務を終えてのんびりとおやつを口にしていたイリスが、足をばたつかせながら答える。
 ここは魔の王の城。イリスの私室。王の部屋にさわしく広くごうしやな室内に、長身のイリスが寝転んでも余裕があるソファが運び込まれている。泰樹はその向かいのソファに腰掛けて、やはりおやつのせんべいを摘まんでいた。
 この空飛ぶ島では、一年を通じて気温は大して変わらない。常春とでも言おうか。魔法で気温を操作されて、人々が過ごしやすいようになっている。

「タイキの世界の人は、海で何をして遊ぶの?」
「えーと、海水浴だろ? ビーチバレーとか、スイカ割りとか……あ、それに砂で山作ったり人埋めたり?」
「人を埋めるとは物騒だな。何の話をしているんだ?」

 二人のために飲み物を持って、イリスの私室に入って来たアルダーが眉をひそめる。

「埋めるって言っても軽くだし、顔は埋めねーよ? いっぺんやってみればわかるって」

 笑って語る泰樹に、アルダーは困惑顔で甘い炭酸飲料を差し出す。

「ちょっと、面白そう。それにスイカ割りってなあに?」
「目隠しして、周りの指示だけでスイカ割れるかチャレンジするんだよ。割った後はみんなでスイカを食う」
「それ、楽しそう!!」
「……何が楽しそう、なのでございますか? 私にも教えて下さいませ」

 いつの間にやらやって来たシーモスが、微笑みながらイリスのソファの後に立った。



「……それでは、次のお休みは夏の別荘に向かうといたしましょう」

 ぽん。とシーモスが手を叩く。話の流れはすっかり夏の遊びのあれこれになっていて。
 楽しければ何でも有りの泰樹は、もちろん賛成だった。それに、魔の王であるイリスが「どれも体験してみたい!」と目を輝かせるので、シーモスもアルダーも反対することは無い。次の週末は少し休みを長めにとって、海遊びをすることになった。
 その日を指折り数えて。週末、一同は夏の別荘に向かう。
 海辺に建ったそれは、別荘と言っても魔の王の持ち物なので、かなり大きい。ちょっとしたお屋敷よりは、迫力がある。
 目の前の海はプライベートビーチなのか、人っ子ひとりいない。白い砂浜と青い海がうららかな春の日差しに照らされていた。

「……これで、かーっと暑かったらなあ」

 すでにハーフパンツ型の水着に着替えて、パーカーをった泰樹がぼやくと、シーモスがふっと得意げな笑いを浮かべた。彼はまだ水着に着替えていない。

「この一帯の気温を上げるように手配しておきました。直に暑くなってまいりますよ」
「さすが! 手回し良いな!」
「……ねえねえ! 水着って言うのに着替えたよ? これでいいの?」

 上半身裸になるのは恥ずかしいと言うイリスのために、上と下が一体になったしましま模様の水着を用意した。それを着て気恥ずかしそうに背中を丸めるイリスに、シーモスはパーカーを着せかける。

「うんうん。おっけー! 海はいるときはパーカー脱いで入れば良い。暑くなってくるまで砂山作って遊ぶか?」
「うん!」
「ひゃっほうー!!」

 泰樹とイリスは、大はしゃぎでサンダルばきのまま砂浜に駆けだして行った。
 アルダーは、泰樹が『日本』でつくろってきた競泳用の太ももまでぴったりした水着を律儀にはいてやって来た。その後から、シャルと古参の使用人たちがテントやら敷物やらを抱えて続く。彼らは海辺にテントを立てて、そこを休憩場所にするつもりらしい。ビーチパラソルとレジャーシートでは足りないようだ。
 アルダーは腕組みして、早速砂山を作り出したイリスと泰樹を見守っている。

「こんなに無防備な格好で、海に入って良いのか?」
「『ニホン』では、当たり前の装束のようでございますよ。店頭に沢山並んでおりましたし」

 ううむ。と、アルダーはうなって水着の端を引っ張った。サイズが合わないのか、感触が気になるのか。

「お前は着替えないのか?」
「私は後ほど。まだスイカ割りの準備も指示しませんとなりませんし、ね」

 スイカは『日本』で、大きなものをいくつか買ってきてある。氷水で冷やしてあるので、暑くなってくれば、さぞかし美味な事だろう。

「シーモス様、天幕の準備がととのいました」

 報告しにやって来たシャルも、水着姿だ。この島には海水浴をする、と言う習慣がほとんど無いせいか、水着と言うものが流通していない。それで、シーモスと泰樹は『日本』で人数分の水着を調達してきた。女性用もあるのだが、着てくれた女性の使用人はいなかった。人前で肌を見せるのが、恥ずかしいのだろう。

「私は水着に着替えて、天幕におります」
「解った」

 それだけ言うと、アルダーはイリスたちが砂山を作っているあたりに向かった。



「……どうして、こうなる?」

 次第に気温が上がってくる。白い砂が温かい。そんな砂に埋められて、アルダーは眉を寄せている。

「なるほどね! こうやって人を埋めるんだね!」
「そーそー! これで、仕上げはこう!」

 埋められているアルダーの胸元に、砂で二つの立派な突起を作る。おっぱい。としか言いようのないそれを成形しながら、泰樹がゲラゲラと笑う。

「アルダーくん、女の人みたいになっちゃったー!」

 イリスも腹を抱えて笑っている。アルダーはむっと口をへの字に曲げて、その仕打ちに耐えていた。

「……さあ、皆さん。ビーチバレーの準備が出来ましたよ!」

 シーモスが呼ぶ声に、イリスと泰樹は「はあい」と良い返事をして立ち上がった。

「……もう、起き上がっていいのか?」
「うん。ありがとな、アルダー。アンタもビーチバレーやろうぜ!」

 アルダーは砂をはねのけて、起き上がる。それから、まるで獣のようにぶるぶると震えて、全身についた砂粒を払い落とした。



 ビーチバレー、ビーチフラッグ、海水浴、それからスイカ割り。
 一行は夏の遊びを満喫する。
 イリスはそのどれもに喜び、アルダーはビーチでの運動はたんれんに良いと感心して、シーモスは常に日陰にいた。
 使用人たちも隙を見つけては楽しんでいるようで、ビーチでは時折歓声があがる。

「はあ……ちょっと休憩ー!」

 水分を取りにテントにやって来た泰樹を、シーモスが出迎えた。
 彼は身体にぴったりサイズのショートパンツ型の水着を着て、長めのパーカーを肩にかけている。

「お飲み物も冷えておりますよ」
「……その水着、やっぱ似合ってるな」

 褐色のシーモスの肌に、白を基調にした水着はよく似合っている。

「有り難うございます。タイキ様もお似合いですよ?」

 二人で選んだ水着。お互いに、似合うだろうと選んだ一着だ。なんだか褒め合うのが気恥ずかしくなって、押し黙る。

「……タイキ様、これから少し、抜け出しませんか? 二人で」
「……え?」
「隙を見て、砂浜の端までいらして下さい。そこにどうくつがございます。私はそこでお待ちしておりますから」

 耳元に、シーモスがささやいてくる。泰樹は目を見開いて、そのぬめらかな声を聞いた。

「……う、うん。なんか、飲んだら、行く、から……」

 条件反射のように、ノドがカラカラに乾く。二人で。二人でってことは、そう言う、事だよな?
 期待に鼓動が高鳴っていく。気もそぞろになりながら、泰樹は飲み物を受け取った。


 シーモスが言ったとおり、ビーチの端には洞窟があった。入り口は狭くなっていてかがんで入るようだったが、中は広くて天井も高い。地面は、半分海にしんしよくされている。天井に一ヶ所だけ穴が開いていて、そこから光が差し込んでいた。
 洞窟の中は少し肌寒いくらい、ひんやりしている。

「……なあ、来たぜ?」

 泰樹が声をかけると、しんと静まりかえった洞窟に言葉が響く。

「お待ちしておりました。タイキ様」

 夏の装いのまま、シーモスが一人でたたずんでいる。

「で、なんの、用だ?」

 胸がドキドキするのを止められない。こんな所で……?という気持ちと、こんな所で!と言う気持ちがせめぎ合って、余計に鼓動を跳ねさせる。

「もっと水辺に寄ってくださいませ。タイキ様」
「……うん」

 素直に、シーモスがいる水辺へ近づいていく。夏の肌はり、今触れられたらそこから溶けてしまいそうな気がする。泰樹は期待で身を震わせて、自分の主人であり、恋人でもある男の前に立つ。

せつかく海に参りましたから。タイキ様には少し変わった趣向で楽しんでいただこうか、と」
「変わった、趣向?」
「はい。……おいで」

 シーモスが手招く。その指は泰樹では無く、背後の海に向けられていた。
 のたり、のたり、と。海から何かがてくる。それは足。タコのように吸盤のついた幾本もの足、だった。

「なんだ? それ……?!」
「この子はラファ=ニナール。海の魔獣です。小型で知能も高い良い子ですよ」
「ラファ……その、海の魔獣をどうすんだ?」

 きょとんと状況が飲み込めない泰樹に向かって、シーモスは華やかに微笑んだ。

「さあ、ニナール、この方を『犯して』差し上げなさい」
「え、あ?!」

魔獣の足が、泰樹のくるぶしにからみつく。ぬめった触手が、ゆっくりと太ももを上っていく。
 未知の感触に恐怖して、泰樹は「ひっ!」と息を飲んだ。
 逃げだそうとした腰を、からられる。腕にも触手はのびてきた。

「や、やだっ……シーモス、止めさせてくれ……!!」
「大丈夫。この子は快楽のツボを良く心得ておりますよ。それに、生き物の体内に卵を産んだりもいたしませんし、ね」
「そう言う、ことじゃ……ん、んんっ」

 逃げ出そうとする間にも、ニナールの触手は着実に身体の中心に近づいている。水着のすそから入り込み、性器をでて、とうとう後の口まで撫で始めている。

「や、だ……っさわんなぁ……っ」

 ぬるついた触手はやすやすと泰樹の柔らかなつぼみを、突破していく。

「ふぅ……ううう……ッ」

 異物を押し返そうと内壁が動く。それがかえって刺激になって、泰樹は背筋をしならせた。

「あああっ!! やだ、やだってば……ッ」
「……どうですか? タイキ様」
「やだ……こわい……やめろぉ……!」
「おやおや。そんなに怖がらないでくださいませ」

 シーモスは優しげに微笑む。その顔は慈愛に満ちていて、泰樹の知るいつものシーモスそのものに見える。

「……あ……あ……あ……あ……」

 後腔に侵入した一本の触手が、ぐにゅりと中でうごめく。吸盤が絶妙に内壁にからみつき、侵略して行く。

「あああ……!!」

 びくんっと泰樹の身体がねる。その動きに合わせて、さらにもう一本の触手が侵入してきた。

「ひぃ、いっ、いいィ……!!!」

 二本の触手は、泰樹の中で別の生物のように絡み合って、体内をじゆうりんし始める。

「い、あ、あ……あ……あん……あー……」

 やがて、泰樹の声に甘いものが混じり始めた。

「上手ですね、ニナール。タイキ様もおよろこびですよ?」

 シーモスの言葉に反応したのか、ニナールの動きが激しくなる。
 触手は胸元にまでがり、吸盤で洞窟の寒さに縮こまる突起を、つねりこね回して良いようにもてあそんだ。

「や、やだ、だめ、おれ、もう……イっちゃう……!」
「まだ早いですよ、タイキ様」
「や、何……?」

 シーモスがニナールに声をかける。すると、泰樹を責め立てている触手が、ぴたりと止まった。

「は、はぁ……?」
「もう少し我慢なさって下さい」
「なんで?! 早くイかせてくれよぉ……!」
「お辛いでしょうけれど、もう少しだけ」

 シーモスは泰樹の前に回って、「よしよし」と頭を撫でてくる。それが嬉しくて、泰樹はなんだかされてしまう。

「では、タイキ様。そこはニナールに可愛がってもらって、私も気持ちよくしていただけますか?」
「……え?」
「私はこちらを、お願いいたします」

 シーモスは自らの水着を下ろして、泰樹の眼前に己の陽物を差し出した。

めてください」
「あ、うん……わかった……!」

 泰樹は嬉しそうにうなづいて、言われるままに、目の前の雄に吸い付いた。

「はむ……ちゅ……ぷ……は……ん……」
「タイキ様の舌は、柔らかくて気持ちが良いです」
「えへへ……ほめへくれるの、うれひい……」
「それは良かった。ここはいかがです?」

 シーモスが水着を引き下ろして泰樹の後ろの穴をつつく。そこはすでに触手によって解されきっていて、目一杯に広げられていた。

「あっ、そこ……はぁ……」
「ニナールに入り込まれて気持ちよかったんですね。……よかった。私のモノもしゅうございますか?」
「……うん……うれひい……もっと、もっとちょうらい?」

 すでにとろけきった瞳で、泰樹はシーモスを見上げる。

「もちろん。存分に味わってくださいませ」

 ニナールの触手が泰樹の中を探る。その触手がある一点をかすめた瞬間だった。

「ああァアアアッ!!!」

 今までで一番の快感が身体を突き抜けていく。ビリビリと電流が流れたように全身がしびれて、がくがくと足が震えた。

「ああ、そこがよろしいのですか? それとも、こちらもでしょうか?」

 シーモスのれいな指先が、ろくすっぽ触れられずによだれをたらしている泰樹自身に、触れてくる。待ちわびて、欲しくてたまらなかった刺激に、泰樹はぶんぶんと頭を振った。

「どっちもっ……どっちも、イイよォ……っ」
「欲張りさんですね」

 シーモスはくすくすと笑いながら、また泰樹の頭を撫でた。

「タイキ様。タイキ様だけに私の秘密の『能力』をお教えいたしますね?」
「あ、あぁ……能、力……?」

 聞こえているのかいないのか。泰樹はシーモスを見上げて、唇の端からもよだれをたらしている。

「はい。私の『能力』は『魔獣使いビーストテイマー』。文字通り、魔獣を自在に操る能力です。ほら、このように」

 シーモスが指示したとおりに、魔獣は泰樹の弱点を責め立てる。泰樹は身もだえながら声を上げた。

「んぅ! そこ、いやだぁ……ッ!」
「嫌ではないですよね? こんなに嬉しそうに締め付けてくださっているのに」
「やっだっ……あ、あ、あ、あ……!」

 ぐりぐりと、ニナールの触手が最奥まで突き刺さる。ぐぽぐぽと音を立てて、届いてはいけない場所まで犯される。その度に脳天を貫かれるような快感が襲ってきて、泰樹はシーモスの股間に顔を押し付けた。

「そろそろ良いのでは? ニナール」

 シーモスが声をかけると、それまで泰樹の中にいた触手がずるりと抜き取られる。

「あ……あ……っ」

 突然の喪失感に切なげな吐息をらす泰樹をよそに、シーモスは触手を操り泰樹を逆立ちでもさせるような姿勢にさせた。

「それでは、いただきますね?」
「あ……──ッッ!!!」

 ずぶり、と上から勢い良く熱いくさびが打ち込まれる。慣れた形に内壁はときめいて震え、泰樹の口からはあんの声がこぼれた。

「あ……あ……あ……あ……」
「ほら、全部入りましたよ……頑張って下さって有り難うございます」
「はぁ……あ……うごいてぇ……」
「承知いたしました」

 シーモスは律動を始める。最初はゆるやかだったそれが、徐々に激しさを増していき、泰樹はただ揺すられるままになっていた。

「あーッ……ああーッ……あーッッ!!」
「可愛い声で鳴いてくださるようになりましたね……!」
「あ、あ、あ、あ、あ、あ……」
「そんなによろしいのですか?」
「イイッ……イイよぉ……! おく、あたってぇ……!! 触手、やだ……アンタのがイイ……いつも、みたいにぃ……!!」
「ああ、本当に愛らしい」

 シーモスの抽挿ちゆうそうが激しくなり、泰樹はガクンガクンと身体を揺らした。

「あ、あ、あ、も、もうダメ……! イク……!」
「どうぞ、たくさん出して下さい」
「あああ──っ!!」

 絶頂に達した泰樹の中で、シーモスも果てる。吐き出された熱さに、泰樹は身震いした。

「あ……あ……あ……あ……」
「ふぅ……タイキ様?」

 シーモスが泰樹をあおけにする。ぼんやりとした瞳からは涙があふれている。

「大丈夫ですか?」
「……うん……」
「ニナールには、満足していただけましたか?」
「……うん。でも、やっぱりアンタが良い。他の奴じゃイヤだ」
「……嬉しいことを、言ってくださる」

 シーモスは微笑んで口付けをする。泰樹もそれに応えて舌を絡めた。

「ところでタイキ様」
「何だ?」
「まだ時間はありますが、この続きはいかがいたしますか?」
「え? ……あっ!」

 泰樹は今更のように我に返る。そうだ、今は海遊びの最中で、このまま二人でしけ込んでいると誰かが探しに来るだろう。多分アルダーあたりが。

「タイキ様のお望みのままに致しましょうね?」
「う……あの……」

 泰樹は恥ずかしそうに目を伏せると、小さな声で言った。

「もう一回……だけなら……いけるか?」
「はい。大丈夫でございます」

 泰樹の言葉に、シーモスはとして答えた。



 海遊びのクライマックスは、夜だった。
 すっかり日は暮れて、海の向こうに太陽が沈む。辺りの気温も、普段と変わりない程度に下がっている。
 皆でバーベキューグリルを囲み、それぞれにたらふく食う中で、一人泰樹だけが焼きすぎた肉を持て余すようにつついていた。

「……どうしたの? タイキ。スイカ、食べ過ぎたの?」

 心配そうにたずねるイリスに、泰樹は苦笑した。普段なら人一倍食べ、楽しげに酒を飲んでいる泰樹がやけに大人しいので、彼も不安になったようだ。

「あ、うん。ちょっと、な。『腹』の中が……いっぱいで……」

 結局ビーチの端の洞窟で、魔獣を交えて何度か抱かれた。そこから、まだ体内に何かがおさまっているような気がする。腹の中がいっぱいで、食欲が湧かない。以前もそんな事があったので、仕方ないとあきらめる。

「後で腹減るかもだから、何か取っといてくれ」
「うん。わかった。取っとくね!」

 にっこりと笑ってうなずくイリスの隣で、焼いたトウモロコシをかじっていたアルダーが、静かに聞いてくる。

「具合が悪いなら、花火は中止にするか?」
「いや。腹減ってないだけで、元気だからさ! 花火、やろうぜ!」
「……『食いすぎ』はほどほどにしておけよ? アイツにも言っておいてやるから」

 ちらりと肉を焼いているシーモスを見やってから、アルダーはたしなめるように視線を泰樹に向けた。

「……うん。大丈夫だから! なんにも言わなくて良いよ! 俺も嬉しくてさ……ちょっとハメ外しちゃっただけ」
「……まったく」

 やれやれと肩を落として、アルダーはトウモロコシに向き直った。



 食事も済んで、片付けを使用人たちに任せると、泰樹は『日本』で買ってきた花火セットを取りにテントに戻った。小型の打ち上げ花火も入っている豪華版だ。これなら、みんなで楽しめるだろう。

「……タイキ様」
「……ん?」

 背後から、声がする。振り返れば、思った通りの人物が立っている。

「どした? シーモス」
「先ほどは……申し訳ございませんでした。貴方に楽しんでいただきたくて……その……」

 やりすぎました……シーモスはうつむいて、視線をそらす。
 
「うん。アンタが俺のためにしてくれたってこと、わかってる。でも、やっぱり魔獣よりアンタが、良いな」

 にっと泰樹は笑って、花火セットを二つ持ち上げた。その一つをシーモスに預けて、泰樹は嬉しそうに言葉を続ける。

「それにさ、アンタの『能力』のこと、俺に教えてくれて、嬉しい。これでまた一つアンタのこと知れたから」
「……タイキ様は、私のことを知ると嬉しい、と?」

 不思議なモノを見るように、シーモスはじっと泰樹をみた。その顔に、にっこりと笑いかけて、泰樹はシーモスのほおにそっとキスをする。

「うん。大好きな人のことだから。どんなことでも知りたい。アンタが、知らせたくないって事以外は。……それっておかしいか?」
「……いいえ。自然なことだと、思います」

 触れられた頬を愛しそうにさすって、シーモスも微笑み返す。

「……本当に言いたくないことは、言葉にしなくて良いぜ。でもそれ以外は、アンタのことで頭ん中いっぱいにしたい。だから教えて? アンタのこと。たくさん、さ!」

 悪戯いたずらっぽく微笑む泰樹の隣で、シーモスははにかむように笑み返した。

「まずはさ、花火は初めてか? どんな花火が好み?」

 遠くで、花火を取りに行ったままなかなか戻らない泰樹たちを呼ぶ声がする。夏はまだ、始まったばかりだ。
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