異世界に落っこちたおっさんは今日も魔人に迫られています!R18版

水野酒魚。

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オマケ

ハロウィン・パーティー 本番

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「……いや、確かにさあ、『仮装は任せた』って言ったよ? 言ったけどよー!!」

 ハロウィン・パーティーの当日。差し出された仮装用の衣装を前にして、たいは情けない声を上げた。
 それは、革のベルトと、同じく革製に見える身体からだにぴったりとした布面積の少ない赤い衣装だった。
 角のついたカチューシャと、背中に付ける用のコウモリの羽。ホットパンツにしか見えない下半身には、ごていねいに針金入りの尻尾までついている。

「……いったいコレ、何の仮装だよ?」
「『サキュバス』とか申します、魔の者のような生き物の仮装でございますね」

 しれっと、シーモスは微笑みを浮かべて泰樹に衣装を押しつける。

「さきゅばす……って、その、えっちな感じのモンスターだろ? なんで俺が、そんな仮装しなきゃならないんだよ! 俺もアンタみたいのが良い!!」

 泰樹にサキュバスのせんじよう的な衣装を押しつけたシーモスは、パリッとしたタキシードのような衣装を着て、マントを羽織っている。おそらく、吸血鬼の仮装だろう。

「サキュバス、タイキ様にはお似合いだとわたくし、考えておりますが?」
「あ、う……っはぁっ……耳に、息っ……吹きかけんな、よ……っ!」

 不意打ちで、耳元にささやきかけられて、泰樹はびくりと肩を震わせた。さり気なく、白手袋をしたシーモスの指先が、胸元に触れてくる。

「ほんの少し、ささやかれた程度で……こんなに『反応』していらっしゃるのに……?」
「は、あ……っ! ば、か……っさわ、んな……っ!!」

 期待にときめいてしまう胸を、もどかしい刺激ががる。それをどうにか押しのけて、泰樹は衣装を受け取った。

「……うーっ! どっちかって言ったら、アンタがえっちな魔の者だろ……」
ようでございますね。ですが、どの道、その衣装はタイキ様のサイズで作らせておりますから。私には着用出来ません」

 情けなく眉を寄せてうめく泰樹に、シーモスは花が咲いたような笑みを向けた。

「マジで、他に衣装無いのか?」
「ございませんね」

 きっぱりとしたシーモスの宣言に、泰樹は細くため息をついた。そのまま、そっと甘えるようにシーモスの肩にほおを寄せて、唇をへの字に曲げた。

「……はあ……っ……アンタは……ズルいよ。俺の弱いとこ、ぜんっぶ知ってて……そこ、いてくんだからさっ」
「ふふふ。タイキ様、貴方あなたすきが多すぎるのですよ」

 シーモスとがあった。片眼鏡の奥に、不思議な緑がかった遊色ゆうしよくの瞳。自分の、平凡な茶色の眼とは全然違う。切れ長で涼しげで、れいな、眼。

 ──ああ、もう。俺の大好きな人は、なんでこんなに綺麗なんだろう。

 どちらからとも無く、唇を近づける。たった今、口づけたくてたまらない。
 柔らかな唇を味わおうとした、その瞬間。誰かが部屋の戸をノックした。

「……?!」

 あわてて身をはなす泰樹に、シーモスは一瞬ひどく寂しげな顔をした。

「……どなたです? 空いておりますよ?」

 この部屋の主であるシーモスが入室を許可すると、扉を開けて入って来たのはアルダーだった。
 アルダーは、黒い犬の着ぐるみを着ている。着ぐるみにはフードが付いていて、頭のてっぺんにはご丁寧に耳まで付いている。何というか、かなりかわいい感じのパジャマのような。そんなモノを着ているアルダー本人は、いたって真面目な表情で二人を見ている。

「俺だ。……取り込み中か? イリス陛下の準備が出来たぞ。お前達は?」
「まだ、で、ございます。タイキ様が『衣装が気に食わない』とごねていらっしゃって」
「ゴネてねーよ! 正当な抗議だよ!」
「タイキ。そいつに衣装選びを任せたりするから、そう言う事になるんだ」

 アルダーには、結果の予測が付いていたらしい。肩をすくめて、ため息をつくアルダーを恨めしげに見つめて、泰樹は受け取った衣装に視線を移す。

「とにかく、陛下をお待たせするな。着替えないならそのままの格好で……」
「……わかったよ! 着替える! これでいいから着替える! だから、アンタらは出て行ってくれ!」

 ──こうなりゃヤケだ!

 泰樹は顔を赤くして叫ぶと、二人を部屋から追い出した。





 魔の王の城にある、大広間。窓の無いその壁には、窓を模した大きなステンドグラスがはめられていいる。その奥で魔法の明かりがらめいていて、広間は明るかった。広間の端には、陰鬱だがどこか楽しげな曲を奏でる楽団。
 今日という日に合わせて、広間はオレンジと黒、それから紫の装飾で飾られて、そこら中にコウモリに似た魔獣が飛んでいる。
 広間にひしめき合うのは、思い思いの仮装をした招待客。いにしえの英雄、姫君、海賊、魔獣、りように精霊……仮装姿の招待客はそれぞれにこの『ハロウィン・パーティー』を楽しんでいる。
 その間をって働く給仕たちのお仕着せは、男女が逆になっていた。男たちはみな女装し、女たちはみな男装で軽食と飲み物を配って回る。
 一段高い場所にある玉座には、ミイラ男にふんした魔の王──イリスが腰掛けていた。
 様々な仮装を提案されて、結局イリスが選んだのは、ミイラ男だった。
『昔の王様みたいに、包帯でぐるぐるされてみたい!』
 と、イリスは大はしゃぎだった。本人が楽しいのなら、それが一番。と、周りは納得した。

「俺もイリス、陛下みたいな仮装が良かったぜ……」

 泰樹はイリスを見つめて、何度目かわからぬぼやきをもらす。いつ、誰の耳があるか解らないので、泰樹も魔の王の城では敬称を付けてイリスをよんでいた。

「その仮装も良くお似合いですが……次回『ハロウィン・パーティー』をもよおしますときは、イリス様と同じミイラ男になさいますか? タイキ様」

 シーモスの思惑通り、泰樹はサキュバスの衣装を着て広間の隅にいる。腹がむき出しのセパレートタイプなので、秋の終わりにはちょっと寒い。

「そうだな。あの衣装、あったかそうだし……」
「さあ、タイキ様。イリス様にごあいさついたしましょう?」

 まだまだぼやく泰樹をひっぱって、シーモスは玉座に向かう。

「……タイキ! シーモスも! シーモスの仮装は『吸血鬼』だね? タイキのは……ちょっと寒そうだね!」

 玉座で二人を迎えたイリスは、にこにこと楽しげだ。

「はい。左様でございます、陛下。タイキ様もよく似合っておいででしょう?」
「あー。俺のことはいいよ。それよりイリス、陛下のがずっと似合ってるぜ!」

 恥ずかしげに赤面した泰樹が、親指を立ててイリスをほめる。イリスは、うれしそうに親指を立ててかえした。

「それでは、私どもはかいに控えておりますので。御用がございましたら何なりとお申し付け下さいませ」
「うん。ありがと。今日はアルダーくんもナティエちゃんも側にいてくれるし、大丈夫だよ! パーティー、楽しんで!」

 その言葉通り、イリスの側には着ぐるみ姿で腰に剣をつるしたアルダーと、エジプト風衣装のナティエが控えている。長い黒髪のナティエに、仮装はよく似合っていた。
 かいじようから泰樹とシーモスが降りてきてからも、招待客が入れ替わり立ち替わり魔の王に挨拶する。
 泰樹は、給仕から受け取った飲み物を楽しんだ。シーモスは招待客に気を配りながら、給仕たちに指示を出している。
『ハロウィン・パーティー』は、なごやかに盛り上がっている。大きなトラブルももめ事も無く、予定時間の半分が過ぎた頃。その事件は起こった。



 ざわついていた広間が、何かをきっかけにさらに騒がしくなった。
 新たな招待客が到着したらしい。その客が騒ぎの発端だ。
ぼうしよくこう』レオノと、その同伴者。レオノははな婿むこの着るごうしやな衣装を着て、同伴者は対になるような美しいはなよめ姿すがた。それが、元『使徒議員』である『れつこう』ラルカであると理解した途端、招待客は口々にざわめきだした。
 招待客は海のしおが引くように、魔の王の前に進み出るレオノの前を開けた。ゆっくりと花婿花嫁姿の二人が会場を歩む。

「イリス陛下ぁ。『ハロウィン・パーティー』にぃお招きありがとうぅだぜぇ」

 きざはしの下で、レオノがえるように大声を上げる。

「よく来てくれたね、レオノくん、ラルカくん。レオノくんは僕に話があるってことだけど、それはどんなお話?」

 柔らかな表情をくずさずに、イリスはレオノに問いかける。
 レオノは胸を張り、げんを見せて言葉を発する。

「イリス陛下ぁ。オレはつがいを持ちたいぃ。その許可をぉいただきたぁい」
「番……君の大好きな人、だね? それは誰?」

 イリスの問いに、レオノは隣でうつむきがちに唇をみしめているラルカの腕を引いた。

「こいつだぁ。『苛烈公ぅ』をぉ、オレの番にぃしたいぃ」

 レオノの発言に、周囲は大騒ぎになる。ラルカはますますうつむいて、そのこめかみには血管が浮いている。

「……ラルカくんは、レオノくんの番になりたいの?」

 わずかに眉を寄せて、イリスがたずねる。
 ラルカはきっと眉を怒らせて、顔を上げた。

「……番になると……承知、した……!」
「じゃあ、ラルカくんは、レオノくんに謝ったの?」
「いいやぁ。まだだぁ。でも、もう良いぃ。オレはぁこいつをぉ、ゆるすぅ。だからぁ」

 レオノは、ラルカの魔力を封じている首輪に手をかざす。

「『なんじぃ、解とき放たれよぉ。レオノ・コルハーロの名においてぇ命ずるぅ』」

 ぱきん。小さな金属音をたてて、ラルカを縛っていた首輪が外れた。その瞬間に。
 ラルカはきざはしを駆け上がっていた。両の手に力強く青く光る魔力のかたまりをつくり、唇にはにぃっとゆがんだ笑みを浮かべて。

「この時を、待っていた! 『つどえ、集え、波よ、波よ!!』」

 花嫁姿のラルカが、詠唱しながら玉座のイリス目掛けて跳躍する。

「半竜人! 食らえ!! 『雷華トロヴァオン・フロル』!!」

 絶叫したラルカが、帯電している両腕を振り下ろす。そのせつ
 イリスの姿が玉座から消えた。

「くそっ! 『冷淡公』か!」

『冷淡公』ナティエの『能力』は『跳躍ジヤンプ』。
 自分と、触れている生き物を自在に転移させられる『能力ちから』だ。
 バチバチと音を立てて、ラルカの攻撃が玉座に命中しようとする。その、一瞬前に。剣を抜き放ったアルダーのひとぎが、ラルカの首をとらえた。胴と首とが別れ別れになったラルカの腕から、魔力の輝きが消える。
 あっけなく、決着は付いた。



『ハロウィン・パーティー』は早めのお開きとなり、レオノは捕らえられ、ラルカの死体と共にろうに放り込まれた。
 その前に、『使徒議会』の議長であるナティエはレオノに言いわたした。

「『暴食公』。『苛烈公』の起こした事の責任は番のくんにもある。魔の王陛下のお命をねらう大罪、本来なら命をもってつぐなうべきだが、陛下のお慈悲をもって罪一等をめんじ、『暴食公』レオノ・コルハーロの『使徒議会』議席を永久はくだつとし、100年間のきんしんを命ずる。同じく、『苛烈公』の議席を永久剥奪とし100年間の謹慎を命ずる」
「あぁ。わかったぁ」

 レオノはあんしたように笑って、いさぎよくうなずいた。

「……レオノくん。ラルカくんと仲良くね」

 イリスはそっとほほんで、連行されていくレオノを見送った。



 数時間後。
 牢の中で、血色に染まった花嫁衣装のまま、ラルカは目を覚ました。すでに首の傷はすっかりふさがっている。ラルカは身を起こして、花婿衣装のレオノに向き合った。

「……眼ぇ、覚めたかぁ?」
「……」

 ラルカはくちしげに唇を噛んだまま、そっぽを向いた。

「……なぜ、私を自由に、した?」
「番ぃなんだからぁ、対等じゃなきゃぁダメだろぉ?」

 ポツリとたずねるラルカに、レオノはいつも通りの間延びした調子でこたえた。

「私がああすると、貴様は……解っていたんだろう? なぜ止めなかった?」
「あぁ。解ってたぁ。でもお前はぁ陛下にはかなわないってぇそれもぉオレには解ってたぁ、からぁ。お前がぁ気が済むようにぃすれば良いとぉ思ったぁ」

 レオノの言葉に、ラルカは血がにじむほど唇を噛みしめる。

 ──解っていたのだ。こいつは全てを承知していて、それでもラルカの気持ちを優先させた。

「……愚かな……お前も地位を失ったのだぞ!!」
「そんなものぉ。お前にぃくらべればぁ安いモノだぁ」

 何でも無いことのように。レオノはそう言って、ラルカを抱き寄せた。くしゃりとラルカの顔が泣き出しそうに歪む。

「番はぁ互いのためにぃ、力を尽くすぅ。オレはぁお前のためならぁ、何でもしてやるぅ。でも、陛下にはぁ恩があるからなぁ」

 困ったように笑うレオノのの頭をじっと見つめて、ラルカは涙をこらえるように唇をへの字にする。

「お前をぉ、愛してるぅ。改めてぇ、オレのぉ番になってくれぇ」

 じっと瞳をのぞき込んでくるレオノ。その真剣なまなしに、ラルカは目をそらせないでいる。

「……なぜ、私なんだ?」
「お前はぁ尊大でぇイヤな奴だけどぉ、一緒にいるとぉ胸がどきどきするぅ。ずっとぉ見ていたくなるぅ。身体のぉ相性もいいぃ」
「最後のは、余計だ……!」

 腹を立てたラルカが、レオノの胸板をたたく。それを笑って受け止めて、レオノはラルカを膝の上に乗せた。

「なあぁ? うんとぉ言ってくれぇ」
「……愚か者! 愚か者! おろか……もの……!!」

 レオノの首筋に顔を埋めて、ラルカはいつの間にやら泣き出していた。

「承知したと、私は半竜人に言った! 私は……お前の番だ!」

 そっと、ラルカからレオノの鼻面に口づける。それが、うれしくてたまらなくて。レオノは番の頬をざらついた舌でなめ返した。
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