もう悪役には生まれたくなかった

絵斗

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おいてけぼり


気が付いたら真っ暗で何も見えない場所にいた。いや、何も見えない"場所"じゃない。僕自身が目を閉じているんだ。そう気付いて目を開けようとするけど、まるで接着剤でくっつかれたみたいに目が開かない。
……あぁ、多分だけど、脳が目を開けることを拒んでいるから開かないんだ。何も見たくないという気持ちと、期待したくないという気持ち。そのどちらもが重なって目が開かなくなってしまった。そんなところかな。
なんでこんなに冷静でいられているかというと何となくこれが現実ではないと気付いているからだ。正確に何処かとかは分からないけれど、そんな気だけはしている。どこか気持ちがふわふわしている、夢の中のような感覚。ふと思いついて、一歩足を踏み出してみる。足が着いた感触はなかったけれど、夢のような幻想空間だとすれば当たり前だと思った。なんの音もしない。気配も何も感じなくて、現実ではないとわかっているにしてもずっとここにいると気が狂ってしまいそうだ。……光が差し込んで来るまで、あと何年か掛かるみたいだ。


✱✱✱


「ルナ、おはよう。入ってもいいかな?」

「はい!おはようございます!どうぞ、入ってください!」

一週間前くらいから、この人がよく僕の部屋に来るようになった。そしていつも知らない本だったり、玩具だったり面白そうなものを持ってきてくれて毎日の楽しみが増えたんだ。

「今日はね、ルナ。お菓子を作って来たんだ。良かったら一緒に食べないかい?」

「いいんですか?ありがとうございます!ぜひ!」

「ふふ、ルナは元気がいいね。お兄様も嬉しいよ」

そう言ってこの人は持ってきてくれたお菓子を机に置いてくれる。これは、なんだろう?ガトーショコラに見えるけど…

「これはね、フォンダンショコラだよ。中からチョコがとろっと出てきて美味しいんだ。上手に出来てるといいんだけど……」

「へえー!そんなお菓子もあるんですね!早速食べてもいいですか?」

「ぜひ、食べて欲しいな。」

「じゃあ、いただきます!」

フォークをその、フォンダンショコラに刺して切り分けると中のチョコが溢れてきて思わず「わあ…」という声が漏れた。目で見るだけでもすっごく美味しそうだ。見るだけじゃ耐えきれなくなってすぐに口の中へ放り込んだ。

……うん!美味しい!!

「あの、これ!すっごく美味しいです!」

「…そっか。それは良かったよ。ルナの口にあったようで。」

……この人はたまに僕が喋ると少し曇ったような顔をする。なんでだろう。時にはその後心配するような言葉遣いをしてくれるけど、僕は心配されることないくらいに元気なのに、と思ってしまう。
でも今日は何事も無かったように話してくれる。……なんだろう、この違和感。僕が立ち止まってしまったみたいだ。
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