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第10章 メリア、謎の青年の剣舞に魅了される
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メリアは茫然として、目の前で行われた寸劇を見ていた。
店主は、仕方がない、といった調子で呟く。
「こうなったら、こっちの嬢ちゃんのスープの代金も兄さんに払ってもらうとするか」
「いつものでいいか?」
青年が尋ねると、店主は頷いた。
「いいよ。じゃあ一つ頼むよ」
店主は、空っぽになった鍋を逆さにすると、それを足の間に挟んで座り込んだ。
それを見ながら青年は、体を伸ばし、屈伸させていた。
はおっていたマントを翻すと、腰帯に見事な飾りのついた短剣が二本差してあるのが見えた。
青年は両手を交錯するようにして一双の短剣を抜いた。
「準備はいいかい?」
「いつでも」
店主が尋ねると、言葉少なに青年は答えた。
すると、店主は空になった鍋を太鼓代わりにしてリズムを刻み始めた。
芸術とは縁のなさそうなその外見にそぐわず、店主の刻む太鼓のリズムは、聞いているだけで心が弾むような軽やかなものだった。
それに合わせて青年は踊りはじめた。
それまでにぎわっていたたそがれの市場は、急に静まりかえった。
決して大きくはない伴奏のリズムが辺りに鳴り響く。いつのまにか、市場に集った人々は青年の踊りに魅入っていた。
青年は、メリアが見たこともないような舞を踊っていた。
以前にも数度剣をかざして舞う踊りは見たことがあったが、彼ほど素晴らしい技術を持った舞手を見るのは初めてだった。
優雅でありながら、力強いステップ。
そして、孤を描く剣は、時折宙を舞っては、受け手を変える。まるで弧をかくようななめらかなその動き。
それまで影法師にしかすぎなかった彼は、一度舞い始めると、たちまち広場の主となった。
市場にいる誰もが売り買いを中止し、彼の舞に魅入った。
それだけの価値がその舞にはあった。
たちまち、彼のまわりには、人だかりができた。
メリアは思わずその舞に見惚れてしまった。
****
やがて、踊りが終わると、まずい豆のスープを売っていた店主のしわがれた声が辺りに鳴り響いた。
「さあさ、見世物はこれでしまいだよ。見物料を弾んでおくれ!」
すると、あちこちから、さまざまなものが店主に向かって投げられた。
得体のしれないなにかの毛皮。
骨を削って作った何かの小道具。
貝殻を束ねたネックレス。
干からびた動物の頭。
まるく膨ませた毛皮のボール。
奇妙な色をした果物。
メリアには何に使うのかわからない不思議な代物ばかりだった。
店主は、地面の上に散らばったそれらを嬉々としてかき集め、どこからか取り出した大きな袋に次々と放りこんでいた。
それまで、人々の注目を集めていた青年は、踊りを終えると先程とは別人のように、気配が薄くなった。
そんな青年に向かって、店主が干したイチジクに紐を通し、首飾りのように連ねたものを放り投げた。
「ほら、いつものだよ、持ってきな」
「感謝する」
青年はそれを懐にしまうと、歩きだした。
たちまち、市場のにぎやかさが戻る。
メリアは人ごみをかきわけて、先ほど青年が踊っていた場所に向かった。
すると、彼はちょうどその場から立ち去ろうとしているところだった。
店主は、仕方がない、といった調子で呟く。
「こうなったら、こっちの嬢ちゃんのスープの代金も兄さんに払ってもらうとするか」
「いつものでいいか?」
青年が尋ねると、店主は頷いた。
「いいよ。じゃあ一つ頼むよ」
店主は、空っぽになった鍋を逆さにすると、それを足の間に挟んで座り込んだ。
それを見ながら青年は、体を伸ばし、屈伸させていた。
はおっていたマントを翻すと、腰帯に見事な飾りのついた短剣が二本差してあるのが見えた。
青年は両手を交錯するようにして一双の短剣を抜いた。
「準備はいいかい?」
「いつでも」
店主が尋ねると、言葉少なに青年は答えた。
すると、店主は空になった鍋を太鼓代わりにしてリズムを刻み始めた。
芸術とは縁のなさそうなその外見にそぐわず、店主の刻む太鼓のリズムは、聞いているだけで心が弾むような軽やかなものだった。
それに合わせて青年は踊りはじめた。
それまでにぎわっていたたそがれの市場は、急に静まりかえった。
決して大きくはない伴奏のリズムが辺りに鳴り響く。いつのまにか、市場に集った人々は青年の踊りに魅入っていた。
青年は、メリアが見たこともないような舞を踊っていた。
以前にも数度剣をかざして舞う踊りは見たことがあったが、彼ほど素晴らしい技術を持った舞手を見るのは初めてだった。
優雅でありながら、力強いステップ。
そして、孤を描く剣は、時折宙を舞っては、受け手を変える。まるで弧をかくようななめらかなその動き。
それまで影法師にしかすぎなかった彼は、一度舞い始めると、たちまち広場の主となった。
市場にいる誰もが売り買いを中止し、彼の舞に魅入った。
それだけの価値がその舞にはあった。
たちまち、彼のまわりには、人だかりができた。
メリアは思わずその舞に見惚れてしまった。
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やがて、踊りが終わると、まずい豆のスープを売っていた店主のしわがれた声が辺りに鳴り響いた。
「さあさ、見世物はこれでしまいだよ。見物料を弾んでおくれ!」
すると、あちこちから、さまざまなものが店主に向かって投げられた。
得体のしれないなにかの毛皮。
骨を削って作った何かの小道具。
貝殻を束ねたネックレス。
干からびた動物の頭。
まるく膨ませた毛皮のボール。
奇妙な色をした果物。
メリアには何に使うのかわからない不思議な代物ばかりだった。
店主は、地面の上に散らばったそれらを嬉々としてかき集め、どこからか取り出した大きな袋に次々と放りこんでいた。
それまで、人々の注目を集めていた青年は、踊りを終えると先程とは別人のように、気配が薄くなった。
そんな青年に向かって、店主が干したイチジクに紐を通し、首飾りのように連ねたものを放り投げた。
「ほら、いつものだよ、持ってきな」
「感謝する」
青年はそれを懐にしまうと、歩きだした。
たちまち、市場のにぎやかさが戻る。
メリアは人ごみをかきわけて、先ほど青年が踊っていた場所に向かった。
すると、彼はちょうどその場から立ち去ろうとしているところだった。
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