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Act05 ブライトン・ユニポリス/複合首都オールドポッペン/ベリオス(統合参謀本部)
Act05-01
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「そうかね……うん…うん……ああ……わかった……ああ。じゃあ」
ブルーフォーンと呼ばれるパッチケーブル回線の受話器を置くと、統合参謀本部副議長付次官ターヴェン・ジョージ・スンが一同を見渡した。
「SF(特務部隊)の者が、2名死亡したそうです……」
一同にどよめきの声が上がった。
『ノアル・キャピタル・クロス』と呼ばれる極秘作戦評議会において、その円形を成した巨大なテーブルの一隅に、機動陸兵特務作戦部副指令アルバドフ・コミヨは座していた。
会議室は、中央に巨大な円卓を配し、それを濃いブルーの灯りがほんのりと浮かび上がらせては、その周囲を闇に染めていた。
その卓上には――§
部屋に散布されたMPR微粒子(マイクロプロジェクターリフレクション)が、円卓に仕込まれたパーティクルウェーヴィングシステム(微粒子震動装置)によって震動し、さらにフルリングプロジェクター(三六〇度採光装置)の微光を反射することにより、作り出された3Dグラフィックが――§
AY197‐Dの建物の形と、その外縁の円周ブロックを浮かび上がらせていた。
その東南ブロックに示されている、五個の《赤い点》が点滅すると、そのうちの二つが、《×印》へと変化した。
「2名ともゼッパー(突撃艇乗り)なのだろう?」
統合参謀本部副議長ゼンドリック・マイヤーがその分厚い眼鏡越しに尋ねた。
「はい……」
機動陸兵作戦副部長であるタミール・アジェル・ベルガーが返答すると、再びどよめきが起こった。
彼はその黒い額に、薄っすらと汗を浮かべている。
「白兵に慣れぬ者を悪戯に使用するから、そのような損失を被るのだっ」
機甲白兵作戦部長カルザフ・コルヴィンスキーが嘲笑を浮かべる。
――忌々しき、烏頭の鷹がッ……。
タミール・アジェル・ベルガーは心の中で呟いていた。
「いや、そうとも限るまい。SF(特務部隊)に選ばれている以上、彼らもまた歴戦の勇士。白兵においても、退けは取らんはずだ」
と、戦略輸送本部指令のハドホフ・ヤゼフが。
「運送屋が何をわかったことを……」
「何を言うっ。我々の後方支援があってこそ、貴様らの歩兵も機能するのであろうがっ」
「ふんっ……」
「君たち。戯言を口にする余裕など無いのでは、ないかね?」
ゼンドリック・マイヤーが淡々と仲裁に入り、
「それで、どうなんだね。タミール副部長。機動陸兵の特務作戦部指令でもある、君の意見を聞きたいのだが……。このまま彼らに任せておいて、大丈夫なのかね?」
「はい……」
「やせ我慢はせん方がいいぞっ。いつでも、我がサーベルタイガー(牙虎部隊)をお貸ししますぞ、フフフ……」
「カルザフ君っ」
ゼンドリック・マイヤーは、カルザフ・コルヴィンスキーを牽制すると、再びタミール・アジェル・ベルガーを見つめた。
「まあ、サーベルタイガー(牙虎部隊)とは言わないまでも、支援部隊を派遣する必要はないのかね?」
タミール・アジェル・ベルガーは、全身に脂汗が浮き立つのを感じた。
支援部隊を送る――純粋にそれで済むならいい。
しかし……。
ブライトン・ユニポリスはその複合都市国家である性質上、間々、協調性を欠いた。
それだけなら、良いのだが。
テーブル上では各々楽器を手に綺麗なアンサンブルを奏でておきながら、テーブルの下ではその足のリズムはバラバラで……、中には隙を伺う者もいて、その足は蹴りを繰り出すタイミングを測っていたりする。
そんな《卓下の脛の争い》は、最終意思決定を要する場で特に見られ、結果的にはテーブルを囲む、全ての者に、少なからずの悪易をもたらしている。
軍事においても同様であり、状況が刻々と変化する作戦行動中にあっては、それが命取りになるだけに、より深刻なものと言えた。
それは、ブライトン・ユニポリスの軍団を構成する、『大四軍』のあり方にも起因するところは大きい。
統合参謀本部こそ、ブライトン・ユニポリスのプロップユニシティ(複合首都)であるオールドポッペンに置かれているが、
①機動陸兵軍本部は、ホックギールに。
②機甲白兵軍本部は、ゾムサニアに。
③機甲岳兵隊本部は、クリミナに。
④機動海兵軍本部は、モバンテに。
と、各ポリスに設置されている。
それは、そのまま、各ポリスがその軍を所持していることを表しているからに他ならない。
①ホックギールは、今日において機動陸兵軍の要となっているゼップチェイサー(人型突撃艇)の製造・開発等に、それが登場した当初より、力を注いできた。
②ゾムサニアは、RHB重・軽機(主にタンク)に歩兵が随伴するオーソドックスな、白兵戦法を貫き通している。それは奇を衒わないが、物量さえ叶えば、堅実な方法とも言えた。
③クリミナは東南に険しい山岳と渓谷を有しており、それが機甲岳兵隊を誕生せしめた、と言える。それはゾムサニアの機甲白兵軍同様、歩兵に特化しているのだが、RHB軽機が目立ち、フットワークの良さが売りとされている。
④モバンテはその領土の半分以上を海やデブリレイク(デブリが造った広大な水溜り)に囲まれており、必然、海戦に特化したのであるが、RHBの登場以来、シップ(艦船)の純粋な意味が失われると、彼らもまた、ゼップチェイサー(人型突撃艇)に目をつけた(これが水上でも機能したことは言うまでもない)。
彼らの機動海兵軍が、ホックギールの機動陸兵軍と違う点を探すとすれば、RHB空母を有しているという点である。今のこの惑星において、そのような巨大なものを均衡を保ったまま浮遊させ得る場所があるとすれば、それはデブリの衝突によって面積を広げた海上か、もしくはデブリレイクでしか叶わないだろう。
(◆以上、ブライトン・ユニポリスの東→中央北→中央南→西の順にて◆)
ブライトン・ユニポリスが大々的に軍を動かす場合には、当然この『第四軍』がアンサンブルを奏でるわけであるが、各軍においてそれを所持するポリスの思惑が反映されている以上、ここにもまた《卓下の脛の争い》が生じるのである。
尚、SF(特務部隊)は、これら大四軍が各々そのカラーに合わせて所持している。
つまり今回の特務作戦は、侵攻を受けたホックギールが自らの手で行っているものなのである。
当然、侵攻を受けた地域の奪還については、『大四軍』を挙げて反撃行動がなされる予定である。すでにその作戦も立案されており、現在、その発動命令を待っている段階である。
そう。まさに待っているのである――現在カレン達が遂行中である特務作戦の成否を。それはあたかも、タッチストーン(試金石)に、その特務作戦名『キャッチャウィーゼラスリープ(catch a weasel asleep=生馬の目抜き作戦)』を刻むかのように――それが失敗した場合には即大四軍による総反撃が発動される予定となっている。
しかし、ホックギールにとってそれは望ましくない事態であった。
ブルーフォーンと呼ばれるパッチケーブル回線の受話器を置くと、統合参謀本部副議長付次官ターヴェン・ジョージ・スンが一同を見渡した。
「SF(特務部隊)の者が、2名死亡したそうです……」
一同にどよめきの声が上がった。
『ノアル・キャピタル・クロス』と呼ばれる極秘作戦評議会において、その円形を成した巨大なテーブルの一隅に、機動陸兵特務作戦部副指令アルバドフ・コミヨは座していた。
会議室は、中央に巨大な円卓を配し、それを濃いブルーの灯りがほんのりと浮かび上がらせては、その周囲を闇に染めていた。
その卓上には――§
部屋に散布されたMPR微粒子(マイクロプロジェクターリフレクション)が、円卓に仕込まれたパーティクルウェーヴィングシステム(微粒子震動装置)によって震動し、さらにフルリングプロジェクター(三六〇度採光装置)の微光を反射することにより、作り出された3Dグラフィックが――§
AY197‐Dの建物の形と、その外縁の円周ブロックを浮かび上がらせていた。
その東南ブロックに示されている、五個の《赤い点》が点滅すると、そのうちの二つが、《×印》へと変化した。
「2名ともゼッパー(突撃艇乗り)なのだろう?」
統合参謀本部副議長ゼンドリック・マイヤーがその分厚い眼鏡越しに尋ねた。
「はい……」
機動陸兵作戦副部長であるタミール・アジェル・ベルガーが返答すると、再びどよめきが起こった。
彼はその黒い額に、薄っすらと汗を浮かべている。
「白兵に慣れぬ者を悪戯に使用するから、そのような損失を被るのだっ」
機甲白兵作戦部長カルザフ・コルヴィンスキーが嘲笑を浮かべる。
――忌々しき、烏頭の鷹がッ……。
タミール・アジェル・ベルガーは心の中で呟いていた。
「いや、そうとも限るまい。SF(特務部隊)に選ばれている以上、彼らもまた歴戦の勇士。白兵においても、退けは取らんはずだ」
と、戦略輸送本部指令のハドホフ・ヤゼフが。
「運送屋が何をわかったことを……」
「何を言うっ。我々の後方支援があってこそ、貴様らの歩兵も機能するのであろうがっ」
「ふんっ……」
「君たち。戯言を口にする余裕など無いのでは、ないかね?」
ゼンドリック・マイヤーが淡々と仲裁に入り、
「それで、どうなんだね。タミール副部長。機動陸兵の特務作戦部指令でもある、君の意見を聞きたいのだが……。このまま彼らに任せておいて、大丈夫なのかね?」
「はい……」
「やせ我慢はせん方がいいぞっ。いつでも、我がサーベルタイガー(牙虎部隊)をお貸ししますぞ、フフフ……」
「カルザフ君っ」
ゼンドリック・マイヤーは、カルザフ・コルヴィンスキーを牽制すると、再びタミール・アジェル・ベルガーを見つめた。
「まあ、サーベルタイガー(牙虎部隊)とは言わないまでも、支援部隊を派遣する必要はないのかね?」
タミール・アジェル・ベルガーは、全身に脂汗が浮き立つのを感じた。
支援部隊を送る――純粋にそれで済むならいい。
しかし……。
ブライトン・ユニポリスはその複合都市国家である性質上、間々、協調性を欠いた。
それだけなら、良いのだが。
テーブル上では各々楽器を手に綺麗なアンサンブルを奏でておきながら、テーブルの下ではその足のリズムはバラバラで……、中には隙を伺う者もいて、その足は蹴りを繰り出すタイミングを測っていたりする。
そんな《卓下の脛の争い》は、最終意思決定を要する場で特に見られ、結果的にはテーブルを囲む、全ての者に、少なからずの悪易をもたらしている。
軍事においても同様であり、状況が刻々と変化する作戦行動中にあっては、それが命取りになるだけに、より深刻なものと言えた。
それは、ブライトン・ユニポリスの軍団を構成する、『大四軍』のあり方にも起因するところは大きい。
統合参謀本部こそ、ブライトン・ユニポリスのプロップユニシティ(複合首都)であるオールドポッペンに置かれているが、
①機動陸兵軍本部は、ホックギールに。
②機甲白兵軍本部は、ゾムサニアに。
③機甲岳兵隊本部は、クリミナに。
④機動海兵軍本部は、モバンテに。
と、各ポリスに設置されている。
それは、そのまま、各ポリスがその軍を所持していることを表しているからに他ならない。
①ホックギールは、今日において機動陸兵軍の要となっているゼップチェイサー(人型突撃艇)の製造・開発等に、それが登場した当初より、力を注いできた。
②ゾムサニアは、RHB重・軽機(主にタンク)に歩兵が随伴するオーソドックスな、白兵戦法を貫き通している。それは奇を衒わないが、物量さえ叶えば、堅実な方法とも言えた。
③クリミナは東南に険しい山岳と渓谷を有しており、それが機甲岳兵隊を誕生せしめた、と言える。それはゾムサニアの機甲白兵軍同様、歩兵に特化しているのだが、RHB軽機が目立ち、フットワークの良さが売りとされている。
④モバンテはその領土の半分以上を海やデブリレイク(デブリが造った広大な水溜り)に囲まれており、必然、海戦に特化したのであるが、RHBの登場以来、シップ(艦船)の純粋な意味が失われると、彼らもまた、ゼップチェイサー(人型突撃艇)に目をつけた(これが水上でも機能したことは言うまでもない)。
彼らの機動海兵軍が、ホックギールの機動陸兵軍と違う点を探すとすれば、RHB空母を有しているという点である。今のこの惑星において、そのような巨大なものを均衡を保ったまま浮遊させ得る場所があるとすれば、それはデブリの衝突によって面積を広げた海上か、もしくはデブリレイクでしか叶わないだろう。
(◆以上、ブライトン・ユニポリスの東→中央北→中央南→西の順にて◆)
ブライトン・ユニポリスが大々的に軍を動かす場合には、当然この『第四軍』がアンサンブルを奏でるわけであるが、各軍においてそれを所持するポリスの思惑が反映されている以上、ここにもまた《卓下の脛の争い》が生じるのである。
尚、SF(特務部隊)は、これら大四軍が各々そのカラーに合わせて所持している。
つまり今回の特務作戦は、侵攻を受けたホックギールが自らの手で行っているものなのである。
当然、侵攻を受けた地域の奪還については、『大四軍』を挙げて反撃行動がなされる予定である。すでにその作戦も立案されており、現在、その発動命令を待っている段階である。
そう。まさに待っているのである――現在カレン達が遂行中である特務作戦の成否を。それはあたかも、タッチストーン(試金石)に、その特務作戦名『キャッチャウィーゼラスリープ(catch a weasel asleep=生馬の目抜き作戦)』を刻むかのように――それが失敗した場合には即大四軍による総反撃が発動される予定となっている。
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