6 / 8
6話 病院
しおりを挟む
「……ちょっと待ってな。今その人に電話をするから」
スマホの住所録から笠原さんを探し出し、電話をかける。
「おお、綾瀬か。
俺の不注意のせいで、非番の時に仕事をさせてしまって申し訳ない」
「いえ、それは全然問題ないです。
それで一つだけ聞きたいのですが、今いいですか?」
「ちょっと待ってくれよ」
電話口から離れたのかしばらく無音の後、
【10分間隔の状態なのでまだ時間はあると思いますよ】と言う言葉が
電話口から漏れ聞こえる。
「綾瀬、少しなら大丈夫だそうだ。保留にして場所を移動する」
今聞こえて来たのは……やはりそうか。
先週社長とそんなような事を話してたのが、休憩室から聞こえて来てたな。
自分の考えが正しいと確信した俺は、弓月にも話が伝わるよう音源をスピーカーに変えた。
「よし、話を続けてくれ」
「忙しい時にすみません。笠原さんって今病院にいますよね?」
「ああ、怪我の診察で来ていたとこだよ」
笠原さんはそう答えるが、怪我の診察では無いと確信していたので直言する。
「笠原さん。いくら笠原さんがクールで見た目が怖そうな人でも、
おめでたい事は自信を持って伝えてください。水くさいです」
「そうだな……悪い。嫁さんから電話が来たから産気付いたのかと思って、
昨日は慌てて家に帰ったんだ。今日も怪我で休んでいる訳ではなくて、
出産に立ち会っている所だ。綾瀬にも事実を伝えれば良かったんだが、
自分の口で言うのが、どうにも恥ずかしくてな」
良かった。自分の考えは正しかったんだ。
「そう言う大事な事はいくら俺でも茶化したりしません、大丈夫ですよ。
それでいつ頃生まれそうですかね?」
「午前中に10分間隔の陣痛が来た所だ。
そろそろ次の段階にいけるといいんだが」
人によってかかる時間が違うが平均時間で見ると……と言う話を
笠原さんから、重ねて説明を受ける。
「無事出産できる事を祈ってます。奥様とお子さんを大事にしてくださいね」
「ありがとう。
綾瀬の言葉はプラスになる事が多いから、そう言ってくれると嬉しいよ。
ちなみにお前の話はこれだけで良かったか?」
笠原さんに言われてもう1つ聞く事があるのを思い出した。
「あ、昨日店の近くで猫を助けました?」
「なんか綾瀬には、お見通しって感じだな。
近くにいたお嬢さんにはなぜか逃げられたが、
側溝に落ちた白猫は俺が無事助けたよ。これでいいか?」
「はい。問題は全て解決しました」
「それは良かった。生まれたらメールするからな。ああ、最後に1つだけ。
何か困った事が起きたら社長を頼れ。
あの人ならきっと力になってくれるはずだ」
笠原さんはそう言うと、看護師さんに呼ばれたのか無言のまま電話を切った。
確かに社長は謎の部分が多いが、幅広い人脈を持っているのは確かだ。
笠原さんの言うように頼るべき場面では頼ると心に決めて、
次は弓月と向き合い声をかける。
「弓月も聞こえたと思うが、笠原さんは不幸な目にあっていたか?」
「いえ……とっても素敵な話でした」
弓月は笑顔を浮かべながらも、頬には一筋の涙が伝っていた。
「それにほら、外を見てみろ」
外の様子に気付いた俺は、弓月の視線を外に向ける。
あれだけ降っていた雨が、今は完全にあがっていたのだ。
俺は弓月に手を差し伸べて一緒に店を出ると、黒猫が白猫を連れて歩いてきた。
「あの猫ちゃんだ」
そう言うと、弓月はすぐに白猫に駆け寄り、優しく抱き抱える。
『亮介、ミッションコンプリートにゃ!』
黒猫のルキアが、俺に向かってどや顔で決め込む。
頼まれたと言っていたのは、白猫を探す事だったのか!
『ルキア、でかしたぞ!』
俺もルキアを抱きかかえて、弓月にゆっくりと歩み寄る。
「まあそう言う事で、笠原さんと猫に関して何も悪くないと分かったはずだ。
でも、なんで私のせいって言ってたんだ?」
「少し長くなりますが……聞いてくださいますか?」
「もちろん。どんなに時間がかかっても、弓月の伝えたい事は聞かせもらうよ」
笑顔でそう答えて再度店の中へと誘導し、一緒にレジカウンターで腰を下ろす。
「私は……物心がつく前から、施設で暮らしていました」
弓月は猫の頭を撫でながら、自分の事を語り始めた。
スマホの住所録から笠原さんを探し出し、電話をかける。
「おお、綾瀬か。
俺の不注意のせいで、非番の時に仕事をさせてしまって申し訳ない」
「いえ、それは全然問題ないです。
それで一つだけ聞きたいのですが、今いいですか?」
「ちょっと待ってくれよ」
電話口から離れたのかしばらく無音の後、
【10分間隔の状態なのでまだ時間はあると思いますよ】と言う言葉が
電話口から漏れ聞こえる。
「綾瀬、少しなら大丈夫だそうだ。保留にして場所を移動する」
今聞こえて来たのは……やはりそうか。
先週社長とそんなような事を話してたのが、休憩室から聞こえて来てたな。
自分の考えが正しいと確信した俺は、弓月にも話が伝わるよう音源をスピーカーに変えた。
「よし、話を続けてくれ」
「忙しい時にすみません。笠原さんって今病院にいますよね?」
「ああ、怪我の診察で来ていたとこだよ」
笠原さんはそう答えるが、怪我の診察では無いと確信していたので直言する。
「笠原さん。いくら笠原さんがクールで見た目が怖そうな人でも、
おめでたい事は自信を持って伝えてください。水くさいです」
「そうだな……悪い。嫁さんから電話が来たから産気付いたのかと思って、
昨日は慌てて家に帰ったんだ。今日も怪我で休んでいる訳ではなくて、
出産に立ち会っている所だ。綾瀬にも事実を伝えれば良かったんだが、
自分の口で言うのが、どうにも恥ずかしくてな」
良かった。自分の考えは正しかったんだ。
「そう言う大事な事はいくら俺でも茶化したりしません、大丈夫ですよ。
それでいつ頃生まれそうですかね?」
「午前中に10分間隔の陣痛が来た所だ。
そろそろ次の段階にいけるといいんだが」
人によってかかる時間が違うが平均時間で見ると……と言う話を
笠原さんから、重ねて説明を受ける。
「無事出産できる事を祈ってます。奥様とお子さんを大事にしてくださいね」
「ありがとう。
綾瀬の言葉はプラスになる事が多いから、そう言ってくれると嬉しいよ。
ちなみにお前の話はこれだけで良かったか?」
笠原さんに言われてもう1つ聞く事があるのを思い出した。
「あ、昨日店の近くで猫を助けました?」
「なんか綾瀬には、お見通しって感じだな。
近くにいたお嬢さんにはなぜか逃げられたが、
側溝に落ちた白猫は俺が無事助けたよ。これでいいか?」
「はい。問題は全て解決しました」
「それは良かった。生まれたらメールするからな。ああ、最後に1つだけ。
何か困った事が起きたら社長を頼れ。
あの人ならきっと力になってくれるはずだ」
笠原さんはそう言うと、看護師さんに呼ばれたのか無言のまま電話を切った。
確かに社長は謎の部分が多いが、幅広い人脈を持っているのは確かだ。
笠原さんの言うように頼るべき場面では頼ると心に決めて、
次は弓月と向き合い声をかける。
「弓月も聞こえたと思うが、笠原さんは不幸な目にあっていたか?」
「いえ……とっても素敵な話でした」
弓月は笑顔を浮かべながらも、頬には一筋の涙が伝っていた。
「それにほら、外を見てみろ」
外の様子に気付いた俺は、弓月の視線を外に向ける。
あれだけ降っていた雨が、今は完全にあがっていたのだ。
俺は弓月に手を差し伸べて一緒に店を出ると、黒猫が白猫を連れて歩いてきた。
「あの猫ちゃんだ」
そう言うと、弓月はすぐに白猫に駆け寄り、優しく抱き抱える。
『亮介、ミッションコンプリートにゃ!』
黒猫のルキアが、俺に向かってどや顔で決め込む。
頼まれたと言っていたのは、白猫を探す事だったのか!
『ルキア、でかしたぞ!』
俺もルキアを抱きかかえて、弓月にゆっくりと歩み寄る。
「まあそう言う事で、笠原さんと猫に関して何も悪くないと分かったはずだ。
でも、なんで私のせいって言ってたんだ?」
「少し長くなりますが……聞いてくださいますか?」
「もちろん。どんなに時間がかかっても、弓月の伝えたい事は聞かせもらうよ」
笑顔でそう答えて再度店の中へと誘導し、一緒にレジカウンターで腰を下ろす。
「私は……物心がつく前から、施設で暮らしていました」
弓月は猫の頭を撫でながら、自分の事を語り始めた。
0
あなたにおすすめの小説
拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました
星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎
王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝――
路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。
熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。
「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」
甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。
よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、
気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて――
しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!?
「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」
年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。
ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
真実の愛は水晶の中に
立木
恋愛
学園の卒業を祝うパーティーの最中、レイシア・マレーニ侯爵令嬢は第三王子とピンク髪の女、その取り巻きたちによって断罪されようとしていた。
しかし断罪劇は思わぬ方向へ進んでいく。
※AIイラスト使用
※「なろう」にも重複投稿しています。
【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する
ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。
夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。
社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。
ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。
「私たち、離婚しましょう」
アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。
どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。
彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。
アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。
こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。
失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた
しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。
すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。
早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。
この案に王太子の返事は?
王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。
可愛らしい人
はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」
「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」
「それにあいつはひとりで生きていけるから」
女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。
けれど、
「エレナ嬢」
「なんでしょうか?」
「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」
その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。
「……いいえ」
当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。
「よければ僕と一緒に行きませんか?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる