ワガママな人達の交響曲

三箱

文字の大きさ
10 / 47
第ニ章 忙しない夏休み

一番目の呪い 1

しおりを挟む
「母さん。ピアノやりたい」

 僕のわがままに、母さんは嬉しそうに髪を優しく撫でてくれる。

「いいわよ。習いに行く?」

 その提案に僕は「うん」と全力で頷いた。
 一週間後にはピアノ教室に通い始めた。
 最初に弾いた鍵盤の重み、混じりけのない一音。
 これほど心に響いたのは無かった。
 その一音一音が刻み込まれる旋律に心躍り、そしてのめり込んでいった。
 次の一週間後電子ピアノを買ってくれた。
 家でいつでも弾ける環境。ピアノ教室のピアノと若干音と鍵盤の重みに違いはあったけど、ずっと弾ける。楽しくて仕方なかった。
 毎日毎日、学校に帰っては弾いた。弾かない日など無かった。音の世界に浸っている感覚が楽しすぎた。
 ずっとこんな日が永遠に続くと思っていた。

 けど終わりはすぐ来た。

 両親が喧嘩をした。
 些細なことだと思った。
 すぐに終わると思った。
 でも、こわくなった僕は逃げる様に部屋にこもり、ピアノを弾いた。
 喧嘩は収まらなかった。
 日に日に酷くなる。
 花瓶が割れる音、壁が壊れる崩壊音、母の悲鳴、父の怒鳴り声、耳を両手で押さえ、目をそむける。
 逃げる様に白い鍵盤に向かっていく。
 ただそれだけが、恐怖から逃げる唯一の術だった。

 結局、両親は離婚した。
 
 どっちか選べと言われ、目の前に二つの手が差し伸べられた。

 僕はどっちの手も取らなかった。

 僕は母方の祖父母に引き取られた。 
 両親とは違って穏やかの性格の祖父母に不自由なく過ごした。
 
 だが、悪夢は続いた。

 小学生の頃はピアノが弾けたことで、ある程度人気があって皆から慕われていた。
 けど嫉妬というものは存在した。
 それは一部の人間による嫌がらせ。
 初めは靴が無くなる程度だった。
 次第にエスカレートする。
 教科書がズタズタになった。
 服が引き裂かれた。
 遂に体育館裏に呼び出された。
 待ち構えていたのは五人の男子に取り囲まれ、殴られた。
 頬の骨が軋み、呼吸ができない程胸が苦しみ、背中や脚と腕がひん曲がった。
 ボロボロになった体。
 人なんてクソな奴らしかいない。そう思った。
 
 その瞬間プツンと糸が切れた。

 その後のことは覚えていない。
 気が付いたら、僕は職員室で担任が目の前にいた。
 隣で祖父母が泣いていた。
 理由は分からなかった。
 
 しばらく話を聞くと、僕が五人を半殺しにしたらしい。
 
 担任に理由を聞かれ、五人に襲われたからやり返したと答えた。
 だが担任は僕の話を信じなかった。
 
 ただ俺が暴力をふるった事実しか担任は見なかった。
 
 それから僕は暴力人間の不良にしか見られなかった。
 誰一人近づこうとしなかった。
 僕はいじめられていたのに、やり返したら結局僕が悪者に。
 慕っていたやつが全員手のひらを返す。
 
「ああ。人間ってそうなのか」と悟った。

 僕は夜の学校で一人、泣き叫んで弾き続けた。
 そして、僕は……。いや、俺はピアノだけしか信じられなくなった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

25年間の闘いー奪われた恋、奪い返す命ー

しらかわからし
恋愛
(あらすじ) 戦乱の時代を経て誕生した新生ドイツ共和国。 かつて屑屋としてまた勉強を重ねて薬局や化粧品屋さらには酒場を営み生きていた男のグレッグは、民衆の支持と仲間たちの信頼を得て、大統領として国家の舵を取ることになる。 外交、財政、医療、軍事、そして諜報――共和国の未来を左右する決断が次々と迫る中、グレッグは人間味あふれる言葉と行動で、国と人々を導いていく。 妻ダクマーとの絆、側近たちとの信頼、そして諸外国との緊張と対話。 これは、一人の男が「国家」と「家族」の両方を守り抜こうとする、壮大な政治叙事詩です。 ※グレッグが社会に出た17歳から42歳までの25年間の記録です。 物語は、彼の価値観を形づくった幼少期から始まります。

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...