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第1章
美酒 2
しおりを挟むその男は足元に散乱している瓶の破片や靴を濡らす酒には全く目もくれていなかった。
ただ、真っ直ぐ私を見ていた。
その時、私はこの状況が明らかに異常だと認識していたのに目の前にいる男と同じ状況なのか周りが見えなくなり、彼から目が離せなかった。
「(何も聞こえない)」
いつまで続いていたのかも分からない。
彼は私を見たまま口を開きゆっくりとこう呼んだ。
「翠…なのか?」
全く聞き覚えのない名前。
「あのーぅ?大丈夫ですか…?」
その直後心配になって駆け付けた店員の掛け声についに我に返った。
「…あっ!?え!?わわ私は大丈夫です!!!!それよりもあちらが!!!」
そう言いながらいつの間にか手を離していたカゴを再び持ち上げ、男の方を一切見ずに逃げるようにレジへと向かった。
何故かは分からないけど、早くこの場から逃げないといけないと感じてレジの店員が合計金額を言ったところでそれを上回るお金を出し、
「お釣りはいらないので!!!!!」
と捨て台詞を残してコンビニを飛び出した。
「ゼェ、ゼエ…おぇっ…やばい…吐きそう」
走ると言うよりは競歩に近い感じであった。コンビニが見えなくなったところで立ち止まって呼吸を整え始め、大きく深呼吸をする。
「(一体何だったんだろう…あの時)」
呼吸が整うとやがて思考もクリアになっていく。
「(知らない名前で呼んでたし…てか私あの人全然知らないし…初めて人違いにあったかも…)」
ビールの缶を開けると強く揺らしていたからか泡が溢れたが、それを素早く口で受け止めそのままグイッと缶を傾けて飲み始めた。
「っか~~~!!!!美味しい…この為に生きてる…」
そう呟き、彼女=鳴瀬 えな (なるせ えな) は帰宅の途についた。
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