Brain/赤の章

新田朝弥

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第1章/笑うピエロ Missing children

1-⑩/after the curtain

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 長い長い一日から一夜明け、平日の朝が来た。
 今日は、いつものように大学の講義があるはずだった。
 何事もなかったかのように登校しようとしたが、無理だった。

 ·········ダメだ、ベッドから出れない。

 あれだけ桐弥さんに啖呵切っておきながら、情けない。
 蒼空の力になりたいという気持ちに嘘は無いが、私は当然ながら、ヒーローでも探偵でもない。普通の女子大生だ。
 昨日みたいな日がこれからも続くかと思うと、やはり気が滅入る。

 酷かった頭痛もようやく治まってはきたものの、ちょっとリハビリ期間が欲しい、等と考えていると、耳元で着信音が鳴る。

『──どうした、風邪か?』

 ボーッとしながら電話に出たので、画面の名前を見てなかったが、この聞き覚えのある声は、

「蒼空? いや、風邪って程じゃないんだけど、少し体調がね·········」

『ちょっとだけ窓の外、見る気力ある?』

「外?」

 カーテンを開いて下を覗くと、蒼空が家の前の道路からこちらを見上げていた。
 私は慌てて電話を切って階段を降り、玄関扉を勢い良く開ける。
 思いっきり部屋着のスッピン姿だったが·········今更気にしない。

「どうしたの? わざわざ家まで」

「今日の二限必修だっただろ? 結構重要な範囲だったから、講義の内容簡単に纏めといた。あとこれ課題」

 そう言って、ノートと課題のレジュメを差し出してくる。
 ノートには活字がビッシリ。その辺の参考書よりも丁寧に纏められている。
 ·········あれ、こんなことするヤツだったっけ? 
 いや、嬉しいは嬉しいが。

「ありがと」

「あ、あとコレ。ヨーグルトと、レトルトだけどお粥。スポドリと生姜茶も」

 続けて渡されたスーパーの袋には、病人用メニュー詰め合わせ。
 ·········いや、ホントに、こんなことするするヤツだったっけ??

「あー、ごめん、お金払うよ」

「ばか。勝手に持ってきただけなんだから気にすんな。のついでだし」

 手にしているのは、チーズケーキで有名な洋菓子店の袋。

「行きたいって言ってた店って、ココだろ」

「あれ、どうして·········?」

「まぁ、あれだけ大声で談笑してりゃな」

 遡ること一週間前──
 SNSで挙がっていた洋菓子店の特集を、友人と見ていた時のこと。
 盛り上がってつい声が大きくなってしまい、講義中だったこともあって、近くに座っていた蒼空に注意されたことがあった。
 それにしても、そんな何気ない話、ちゃんと聞いてたんだ·········。

「えっと·········、ありがとう」

 そんなに一気に親切にされると、何か裏があるのかと疑ってしまいたくなるんだが。
 いや、ここは素直に喜ぶところだろう。
  
 自然と顔が紅潮する。
 ·········やっぱり熱あるかなコレ。

「じゃ」

「あ、ちょっと!」

「何?」

「蒼空、なんか変わった?」

「なんで?」

「んー、なんか、表情が清々しいっていうか·········」

 行動もし──とは、流石に言えない。

「そういえばあの子にも言われたな、それ」

「あの子?」

「いや、こっちの話」

 少し、考える素振りを見せる。
 ほんの一瞬、間を置いて、
 すぐに、答えが来た。

「心境の変化、かな。
 少しだけ前に進もうって、思ったんだ」

 そう言って、蒼空は去っていった。
 その背中を、暫く、眺める。

「前に進む·········か」

 私も、沈んでなんかいられないよね。
 ちょっと、気合い入れ直そう。

 このチーズケーキ食べたら、
 また明智探偵事務所へ向かおう。

 ·········いや、もう夕方だから、明日にしよう。
 うん、絶対、
 明日行く。

 ◆◆◆

 ──ねえ、覚えてる?

 君が屋上で話しかけてくれたあの日、

 君にとっては何気ない会話だったのかもしれないけど、
 私にとってはその瞬間から、人生が変わった。

 無色のようにつまらなかった毎日が、
 綺麗なものなんだと、気づくことができた。

 君は否定すると思うけど、
 いつも、さりげなく私の側に居てくれる君の存在が、
 私にとっての光なんだ。

 君のせいだよ。

 君のせいで私は、こんなにも素晴らしい日々を、送れているんだ。
 
 だから、君を苦しめるものがあるのなら、
 どんなに大きなものだろうと、私は立ち向かえる。

 今度は君のとっての光に、私がなってあげられるかな──。













 1-⑩/after the curtain~幕の向こう側~(2025/04/21/16:00)
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