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愛毒者ー王暴の妻ー 肆
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かちゃかちゃかちゃかちゃ。薌は、店の台所に立って皿を洗っていた。
「………………………………………」
揺れる瞳に映る、出勤前に会話した仁導の姿。
『あからさまに憂ひ(ちょっと心配)さね。悪しけれど、爻に心得らるまじく極秘に調べさせばや(悪いけど、爻に悟られないように極秘で調査してもらいたい)さね』
『其れは構わぬ。なれど、貴様の舎弟と云ゑど、犯罪に手を染めておるのにてあらば、拙者容赦致さぬ。甘く拝見する事はかまえてなゐ。頭の隅にとはいえ(それは構わない。だが、お前の弟と言えど、犯罪に手を染めているのであれば、俺は容赦しない。甘く見る事は決してない。頭の隅にでも)、入れておけ』
皿を洗っていた手が、止まった。
「はあぁ」
つい、深いため息を吐いてしまう。
仁導が容赦せぬは(容赦しないのは)。
知れり(知ってる)さね。
されど(けど)。
なんぢに頼りぬるは(あんたに頼っちまうのは)。
をひとのごとき色として(夫のような存在として)。
我が見ぬればならむうね(私が見ちまうからなんだろうね)。
理想とうつつは極めて違ふ(現実は極めて違う)。
外には良き顔し村を回りたれど(外では良い顔をして村を回ってるけど)。
家には(家では)。
畏き際に豹変(恐ろしい程に豹変)。
しなむうね(しちまうんだろうね)。
そして、かちゃかちゃと皿を洗い出す。
「ご機嫌いかがでござるか(んちゃ)!」
暖簾を潜って店に入って来たのはナガレと湊だ。
「ながれ殿。そこ、空ゐてるで候(ナガレさん。そこ、空いてますよ)」
「空ゐてるも少しもそれがしたち以外何奴も居なゐ(空いてるも何も俺ら以外誰も居ないやんけ)」
すると、厨房から店内に入って来た薌は2人の姿を目にこう口にした。
「おや?なんぢら何したるかな(あんたら何してんだい)?今休憩中さね」
「よぉ薌!」
「休憩中でござったら丁度良かった。舎弟殿の件にて、お話しがありんす(休憩中でしたら丁度良かった。弟さんの件で、お話しがあります)」
その時、彼女は身構えた。弟が知らない所で悪を働けているとしたら、仁導に消されてしまう。仕事に支障は出なかったものの、今となって緊張してきた。額から一筋の汗を流してゴクッと息を飲み、瞳が、揺れる。
「来なゐな」
その一方で、店から離れた場所に立つ尊はそう口にした。ストーカーを特定する為には、店の付近に居なければならない。
「日ごろ来る人なれば、来ぬ事はげになき(毎日来る人だから、来ない事は本当にないの)」
その隣に立つ千鶴とそんな話しをしている矢先
「ち、ち、ちっ!千鶴殿(さん)!」
「うえっ?」
振り返ると、すらりと背の高い、肉付きのいい固太りな掴みどころの無い平凡な顔をした黒髪の男が後ろから歩いて来たのだ。
「あ、後ろから参った(来た)」
「かの人。げにうたてし心地悪しき。尊なるとかして(あの人。本当にやだ気持ち悪いの。尊くんなんとかして)」
その後ろに隠れる彼女は、彼の肩に手を置くなり
「!!!!!!!!!!?」
ドキドキと鼓動しカアァッと顔が熟れすぎたトマトみたいな色になってしまう。
ひゃ~!
初の事(初めて)!
初の事おなごに求めらるてる(初めて女の子に求められてる)!
わぁ~。
男がおなごを助けたゐとは思うておるとは(女の子を助けたいって思うのって)。
かのような感じにてせがまらるるから(こんな感じでせがまれるから)。
可愛くて。
守とは上げたゐとは思うておるとか(守って上げたいって思うのかな)?
うえっ?
なら嵆鼇は。
王暴にこん感じにて(で)。
守とはもらおりきくて(守ってもらいたくて)。
せがみて(んで)たの、かな?
気持ちが、海の向こうに渡っていく。
『仁導(仁導様)』
布団の上に女の子座りする嵆鼇は、美しく、生命感に溢れ、清潔で、セクシーな裸体を薄い毛布を胸に引いて覆い隠して、枝のように細い魅惑の腿を出して仁導を魅了させ、唾液を垂れ流しゆるんで少し開いた唇と、エロチックな視線とが射るように圧迫させて求める。そんな、姿が浮かび上がった。
「だあああああああぁ~!止めろ止めろ止めろ止めろ!何故でござる裸なんじゃ!?それがし見た事なゐに(なんで裸なんだ!?俺見た事ないのに)~!」
ボーっとし出したと思えば突然暴れ出し、訳の分からない事を大声で言い放つ。
「裸?」
「貴様なに訳の分からなゐ事を申してるんじゃ!?千鶴殿から離れろ(お前何訳の分からない事を言ってるんだ!?千鶴さんから離れろ)!」
近づいて来た男は、ガッと胸ぐらを掴んだ。自分よりも身長が低い為、舐めて掛かる。
「うえっ?あっ!」
そうでござった(そうだった)!
それがし(俺)。
千鶴氏の事守とはたんじゃ(千鶴ちゃんの事守ってたんだ)。
忘れておった(忘れてた)。
「其れはこっちの台詞じゃ!拙者千鶴の彼氏じゃ!弐度と千鶴の前に面を出すな(それはこっちの台詞だ!俺は千鶴の彼氏だ!二度と千鶴の前に面を出すな)!」
「!」
わぁ~。
尊男のごとし(尊くん男らしい)。
「左様なのほらじゃ!貴様ごとく身の丈の低ゐ男を、千鶴殿が選ぶ訳が無い(そんなの嘘だ!お前みたいなチビを、千鶴さんが選ぶ訳がない)!」
硬い拳を握り締めて殴ろうとしたその手を掴み、片手で相手の踵をとり、そのまま後ろ側へ押し倒した。
「ぐっ!!」
身長が低く、気弱そうな男からこんな技が繰り出されるとは思ってもなく、胸を鋭いもので貫かれるような衝撃を受ける。すると彼は、懐から銃を取り出し、銃口を向けた。
「!!!!!!!!!?」
「此れより、人を見た眼にて判断致さぬ方が良き。かはそれがしからの忠告じゃ。次千鶴の前に現れたでござるら(今後、人を見た目で判断しない方が良い。これは俺からの忠告だ。次千鶴の前に現れたら)」
すると尊は、男の顔の横でパァン!と発砲し、地面に弾丸がめり込む。
「!!!!!!!!!?」
「確実に当てる」
「うわああああああぁ!!」
男は、腰を抜かした状態で地面を這って逃げて行った。
「尊ありが(尊くんありが)…!」
「あああああぁ~!怖かった~!」
銃を持つ手が震えており、ガクガクガクガクと足も震え腰を抜かしてしまった。
「それがし、王暴さながらに達者に種子島を使ゑなゐから、心の臓が止まるかと思った(俺、王暴みたいに上手に銃を使えないから、心臓が止まるかと思った)」
実は、彼は銃を使うにはまだ早く、仁導からの許可が出ていないまま勝手な判断で銃を使ってしまった。訓練の時点で未だに良い評価を得ていない為、許可が降りない限りは使用は禁じられている。それを知られたら、王暴から罰せられる次元の問題ではない。
「修行してちょーだいてもまともに的にも当てられぬから。其れがござる意味にて良き修行になり申してたとかな(訓練しててもまともに的にも当てられないから。それがある意味で良い訓練になってたのかな)?あははははは」
笑っているが、体から恐怖が一気にあふれ出していき、恐怖で気が狂いそうになってしまう。
許可させてなゐに(許可されてないのに)。
種子島を使ってしもうた(銃を使っちゃった)。
王暴にばれたら殺されるでござる(バレたら殺される)。
王暴にばれたら殺されるでござる(バレたら殺される)。
王暴にばれたら殺されるでござる(バレたら殺される)。
王暴にばれたら殺されるでござる(バレたら殺される)。
王暴にばれたら殺されるでござる(バレたら殺される)。
王暴にばれたら殺されるでござる(バレたら殺される)。
「尊(尊くん)?」
「うわあああああああぁ!!」
頭を抱えて叫ぶ彼の首根っこを掴んだ仁導は、こう口にした。
「這ゆるばった男を見掛けましたでござるが、いかがやら落着したでござるようじゃ(這いつくばった男を見掛けましたが、どうやら解決したようですな)」
彼は、似合わない笑みを浮かべて千鶴にそう言った。
「あ、えい。こうじたればげに助かりき。尊助けざらば我、すがらに付き纏はれたりき(はい。困っていたので本当に助かりました。尊くんが助けてくれなかったら私、ずっと付き纏われていました)」
「千鶴殿に、刃傷が無くて難儀良かった(千鶴さんに、お怪我が無くて大変良かった)」
尊は、俯いたまま顔を上げる事すら出来ず、ガタガタガタガタガタと怯えて震える。顔の汗が止まらない。ボタボタと汗が地面に滴る。
「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」
あまりの恐怖に呼吸まで乱れてきた。死の影に、怖れを抱く。
「なれど。この伊村は、それがしの掟を破った(しかし。この伊村は、私の掟を破った)」
「!!!!!!!!!?」
怯えで瞳がひどく揺れ動く。
「えっ?」
「地面には、しかと撃ち込まれたでござる痕がござる(しっかりと撃ち込まれた痕がある)」
地面には、弾丸が貫かれた穴が空いているのがはっきりと見て分かる。
「種子島の使用の許可を、彼にはしてちょーだいおらぬみてす(銃の使用の許可を、彼にはしていないんです)」
「いかでなりや(どうしてですか)?」
警察が銃の使用を許可されない事があるのだろうか。本来なら警察は、銃の使用を許可されている。だが、警察なのに尊は許可を受けてないようで、疑問が浮かぶ。
「拙者等警察は、射的修行を受けしめ候。彼は未だ未熟ゆえ、許可を許してちょーだいおりませぬ。種子島の遣いようが下手な者が種子島を使用するでござると、難儀剣呑なとでござる。特に、村人が近くに在る時は尚更。それゆえ、伊村を罰するでござる必定がござる(我々警察は、射的訓練を受けさせます。彼はまだ未熟なので、許可を許しておりません。銃の使い方が下手な者が銃を使用すると、大変危険なのです。特に、村人が近くに居る時は尚更。よって、伊村を罰する必要がある)!」
グッと引っ張るなり
「ぎゃああああああああぁ!!」
尊は、自分の命が死へ加速していくのを感じ、叫び声を上げた。
「止めたまへ仁導!尊は我を助けけり!尊はいま自由に使ふまじ!願ひたてまつる!尊を罰なせそ!尊居ざらば我!今頃また、畏き目に遭ひたりもこそ(止めて下さい仁導さん!尊くんは私を助けてくれたんです!尊くんはもう勝手に使わないはずです!お願いします!尊くんを罰しないで下さい!尊くんが居なかったら私!今頃また、怖い目に遭っていたかもしれません)!」
仁導の胸に飛び込んだ彼女は、ぼろぼろと大きい雨粒のような涙を流して全力で引き止める。彼は良い事をしてくれた。自分を助けてくれた。それなのに罰せられてしまう尊があまりにも可哀想で、千鶴は自分の思いをぶつけてなんとか彼の心を返させてようとした。
「元来なら罰しんすが、千鶴殿にさふ云われては致し方なゐ。こたびは罰するでござる事は致しませぬ。ただに、また許可無く使用したでござる痕が残とは居られたら、お主の前にてあとはも、村人の前にてあとはも、拙者は容赦ござらぬ、彼の腹を、武士の魂にて斬りんす(本来なら罰しますが、千鶴さんにそう言われては致し方ない。今回は罰する事は致しません。ただ、また許可無く使用した痕が残っていたら、あなたの前であっても、村人の前であっても、私は容赦なく、彼の腹を、刀で斬ります)!」
首根っこを離し、仁導は背を向けて歩いて行った。命が救われた。
「王暴!難儀申し訳ござゐませぬであった!身勝手な真似は金輪際致しませぬ!お許し下さり、ありがたき幸せにござる(大変申し訳ございませんでした!身勝手な真似は金輪際致しません!お許し下さり、ありがとうございます)!!」
尊は直ぐ様土下座して感謝を体を使って表した。そして、ゆっくりと頭を上げた。
「千鶴氏。ありがたき幸せ(千鶴ちゃん。ありがとう)」
すると彼女はギュッと、抱き締めた。
「助けかたじけなし。尊(助けてくれてありがとう。尊くん)」
その際、頬にキスをした。
「!!!!!!!!!!?」
な、な、な、な、な、な!
脳が沸騰してドオオオォン!と噴火し、ボッと茹でたこのように真っ赤に染まってドサッと、倒れた。
「えっ!?尊いかがせる?尊(尊くんどうしたの?尊くん)!」
「うへえええぇ~」
目に渦を巻き、仰向けの状態でピクピクと痙攣を起こす。
「………………………………………」
揺れる瞳に映る、出勤前に会話した仁導の姿。
『あからさまに憂ひ(ちょっと心配)さね。悪しけれど、爻に心得らるまじく極秘に調べさせばや(悪いけど、爻に悟られないように極秘で調査してもらいたい)さね』
『其れは構わぬ。なれど、貴様の舎弟と云ゑど、犯罪に手を染めておるのにてあらば、拙者容赦致さぬ。甘く拝見する事はかまえてなゐ。頭の隅にとはいえ(それは構わない。だが、お前の弟と言えど、犯罪に手を染めているのであれば、俺は容赦しない。甘く見る事は決してない。頭の隅にでも)、入れておけ』
皿を洗っていた手が、止まった。
「はあぁ」
つい、深いため息を吐いてしまう。
仁導が容赦せぬは(容赦しないのは)。
知れり(知ってる)さね。
されど(けど)。
なんぢに頼りぬるは(あんたに頼っちまうのは)。
をひとのごとき色として(夫のような存在として)。
我が見ぬればならむうね(私が見ちまうからなんだろうね)。
理想とうつつは極めて違ふ(現実は極めて違う)。
外には良き顔し村を回りたれど(外では良い顔をして村を回ってるけど)。
家には(家では)。
畏き際に豹変(恐ろしい程に豹変)。
しなむうね(しちまうんだろうね)。
そして、かちゃかちゃと皿を洗い出す。
「ご機嫌いかがでござるか(んちゃ)!」
暖簾を潜って店に入って来たのはナガレと湊だ。
「ながれ殿。そこ、空ゐてるで候(ナガレさん。そこ、空いてますよ)」
「空ゐてるも少しもそれがしたち以外何奴も居なゐ(空いてるも何も俺ら以外誰も居ないやんけ)」
すると、厨房から店内に入って来た薌は2人の姿を目にこう口にした。
「おや?なんぢら何したるかな(あんたら何してんだい)?今休憩中さね」
「よぉ薌!」
「休憩中でござったら丁度良かった。舎弟殿の件にて、お話しがありんす(休憩中でしたら丁度良かった。弟さんの件で、お話しがあります)」
その時、彼女は身構えた。弟が知らない所で悪を働けているとしたら、仁導に消されてしまう。仕事に支障は出なかったものの、今となって緊張してきた。額から一筋の汗を流してゴクッと息を飲み、瞳が、揺れる。
「来なゐな」
その一方で、店から離れた場所に立つ尊はそう口にした。ストーカーを特定する為には、店の付近に居なければならない。
「日ごろ来る人なれば、来ぬ事はげになき(毎日来る人だから、来ない事は本当にないの)」
その隣に立つ千鶴とそんな話しをしている矢先
「ち、ち、ちっ!千鶴殿(さん)!」
「うえっ?」
振り返ると、すらりと背の高い、肉付きのいい固太りな掴みどころの無い平凡な顔をした黒髪の男が後ろから歩いて来たのだ。
「あ、後ろから参った(来た)」
「かの人。げにうたてし心地悪しき。尊なるとかして(あの人。本当にやだ気持ち悪いの。尊くんなんとかして)」
その後ろに隠れる彼女は、彼の肩に手を置くなり
「!!!!!!!!!!?」
ドキドキと鼓動しカアァッと顔が熟れすぎたトマトみたいな色になってしまう。
ひゃ~!
初の事(初めて)!
初の事おなごに求めらるてる(初めて女の子に求められてる)!
わぁ~。
男がおなごを助けたゐとは思うておるとは(女の子を助けたいって思うのって)。
かのような感じにてせがまらるるから(こんな感じでせがまれるから)。
可愛くて。
守とは上げたゐとは思うておるとか(守って上げたいって思うのかな)?
うえっ?
なら嵆鼇は。
王暴にこん感じにて(で)。
守とはもらおりきくて(守ってもらいたくて)。
せがみて(んで)たの、かな?
気持ちが、海の向こうに渡っていく。
『仁導(仁導様)』
布団の上に女の子座りする嵆鼇は、美しく、生命感に溢れ、清潔で、セクシーな裸体を薄い毛布を胸に引いて覆い隠して、枝のように細い魅惑の腿を出して仁導を魅了させ、唾液を垂れ流しゆるんで少し開いた唇と、エロチックな視線とが射るように圧迫させて求める。そんな、姿が浮かび上がった。
「だあああああああぁ~!止めろ止めろ止めろ止めろ!何故でござる裸なんじゃ!?それがし見た事なゐに(なんで裸なんだ!?俺見た事ないのに)~!」
ボーっとし出したと思えば突然暴れ出し、訳の分からない事を大声で言い放つ。
「裸?」
「貴様なに訳の分からなゐ事を申してるんじゃ!?千鶴殿から離れろ(お前何訳の分からない事を言ってるんだ!?千鶴さんから離れろ)!」
近づいて来た男は、ガッと胸ぐらを掴んだ。自分よりも身長が低い為、舐めて掛かる。
「うえっ?あっ!」
そうでござった(そうだった)!
それがし(俺)。
千鶴氏の事守とはたんじゃ(千鶴ちゃんの事守ってたんだ)。
忘れておった(忘れてた)。
「其れはこっちの台詞じゃ!拙者千鶴の彼氏じゃ!弐度と千鶴の前に面を出すな(それはこっちの台詞だ!俺は千鶴の彼氏だ!二度と千鶴の前に面を出すな)!」
「!」
わぁ~。
尊男のごとし(尊くん男らしい)。
「左様なのほらじゃ!貴様ごとく身の丈の低ゐ男を、千鶴殿が選ぶ訳が無い(そんなの嘘だ!お前みたいなチビを、千鶴さんが選ぶ訳がない)!」
硬い拳を握り締めて殴ろうとしたその手を掴み、片手で相手の踵をとり、そのまま後ろ側へ押し倒した。
「ぐっ!!」
身長が低く、気弱そうな男からこんな技が繰り出されるとは思ってもなく、胸を鋭いもので貫かれるような衝撃を受ける。すると彼は、懐から銃を取り出し、銃口を向けた。
「!!!!!!!!!?」
「此れより、人を見た眼にて判断致さぬ方が良き。かはそれがしからの忠告じゃ。次千鶴の前に現れたでござるら(今後、人を見た目で判断しない方が良い。これは俺からの忠告だ。次千鶴の前に現れたら)」
すると尊は、男の顔の横でパァン!と発砲し、地面に弾丸がめり込む。
「!!!!!!!!!?」
「確実に当てる」
「うわああああああぁ!!」
男は、腰を抜かした状態で地面を這って逃げて行った。
「尊ありが(尊くんありが)…!」
「あああああぁ~!怖かった~!」
銃を持つ手が震えており、ガクガクガクガクと足も震え腰を抜かしてしまった。
「それがし、王暴さながらに達者に種子島を使ゑなゐから、心の臓が止まるかと思った(俺、王暴みたいに上手に銃を使えないから、心臓が止まるかと思った)」
実は、彼は銃を使うにはまだ早く、仁導からの許可が出ていないまま勝手な判断で銃を使ってしまった。訓練の時点で未だに良い評価を得ていない為、許可が降りない限りは使用は禁じられている。それを知られたら、王暴から罰せられる次元の問題ではない。
「修行してちょーだいてもまともに的にも当てられぬから。其れがござる意味にて良き修行になり申してたとかな(訓練しててもまともに的にも当てられないから。それがある意味で良い訓練になってたのかな)?あははははは」
笑っているが、体から恐怖が一気にあふれ出していき、恐怖で気が狂いそうになってしまう。
許可させてなゐに(許可されてないのに)。
種子島を使ってしもうた(銃を使っちゃった)。
王暴にばれたら殺されるでござる(バレたら殺される)。
王暴にばれたら殺されるでござる(バレたら殺される)。
王暴にばれたら殺されるでござる(バレたら殺される)。
王暴にばれたら殺されるでござる(バレたら殺される)。
王暴にばれたら殺されるでござる(バレたら殺される)。
王暴にばれたら殺されるでござる(バレたら殺される)。
「尊(尊くん)?」
「うわあああああああぁ!!」
頭を抱えて叫ぶ彼の首根っこを掴んだ仁導は、こう口にした。
「這ゆるばった男を見掛けましたでござるが、いかがやら落着したでござるようじゃ(這いつくばった男を見掛けましたが、どうやら解決したようですな)」
彼は、似合わない笑みを浮かべて千鶴にそう言った。
「あ、えい。こうじたればげに助かりき。尊助けざらば我、すがらに付き纏はれたりき(はい。困っていたので本当に助かりました。尊くんが助けてくれなかったら私、ずっと付き纏われていました)」
「千鶴殿に、刃傷が無くて難儀良かった(千鶴さんに、お怪我が無くて大変良かった)」
尊は、俯いたまま顔を上げる事すら出来ず、ガタガタガタガタガタと怯えて震える。顔の汗が止まらない。ボタボタと汗が地面に滴る。
「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」
あまりの恐怖に呼吸まで乱れてきた。死の影に、怖れを抱く。
「なれど。この伊村は、それがしの掟を破った(しかし。この伊村は、私の掟を破った)」
「!!!!!!!!!?」
怯えで瞳がひどく揺れ動く。
「えっ?」
「地面には、しかと撃ち込まれたでござる痕がござる(しっかりと撃ち込まれた痕がある)」
地面には、弾丸が貫かれた穴が空いているのがはっきりと見て分かる。
「種子島の使用の許可を、彼にはしてちょーだいおらぬみてす(銃の使用の許可を、彼にはしていないんです)」
「いかでなりや(どうしてですか)?」
警察が銃の使用を許可されない事があるのだろうか。本来なら警察は、銃の使用を許可されている。だが、警察なのに尊は許可を受けてないようで、疑問が浮かぶ。
「拙者等警察は、射的修行を受けしめ候。彼は未だ未熟ゆえ、許可を許してちょーだいおりませぬ。種子島の遣いようが下手な者が種子島を使用するでござると、難儀剣呑なとでござる。特に、村人が近くに在る時は尚更。それゆえ、伊村を罰するでござる必定がござる(我々警察は、射的訓練を受けさせます。彼はまだ未熟なので、許可を許しておりません。銃の使い方が下手な者が銃を使用すると、大変危険なのです。特に、村人が近くに居る時は尚更。よって、伊村を罰する必要がある)!」
グッと引っ張るなり
「ぎゃああああああああぁ!!」
尊は、自分の命が死へ加速していくのを感じ、叫び声を上げた。
「止めたまへ仁導!尊は我を助けけり!尊はいま自由に使ふまじ!願ひたてまつる!尊を罰なせそ!尊居ざらば我!今頃また、畏き目に遭ひたりもこそ(止めて下さい仁導さん!尊くんは私を助けてくれたんです!尊くんはもう勝手に使わないはずです!お願いします!尊くんを罰しないで下さい!尊くんが居なかったら私!今頃また、怖い目に遭っていたかもしれません)!」
仁導の胸に飛び込んだ彼女は、ぼろぼろと大きい雨粒のような涙を流して全力で引き止める。彼は良い事をしてくれた。自分を助けてくれた。それなのに罰せられてしまう尊があまりにも可哀想で、千鶴は自分の思いをぶつけてなんとか彼の心を返させてようとした。
「元来なら罰しんすが、千鶴殿にさふ云われては致し方なゐ。こたびは罰するでござる事は致しませぬ。ただに、また許可無く使用したでござる痕が残とは居られたら、お主の前にてあとはも、村人の前にてあとはも、拙者は容赦ござらぬ、彼の腹を、武士の魂にて斬りんす(本来なら罰しますが、千鶴さんにそう言われては致し方ない。今回は罰する事は致しません。ただ、また許可無く使用した痕が残っていたら、あなたの前であっても、村人の前であっても、私は容赦なく、彼の腹を、刀で斬ります)!」
首根っこを離し、仁導は背を向けて歩いて行った。命が救われた。
「王暴!難儀申し訳ござゐませぬであった!身勝手な真似は金輪際致しませぬ!お許し下さり、ありがたき幸せにござる(大変申し訳ございませんでした!身勝手な真似は金輪際致しません!お許し下さり、ありがとうございます)!!」
尊は直ぐ様土下座して感謝を体を使って表した。そして、ゆっくりと頭を上げた。
「千鶴氏。ありがたき幸せ(千鶴ちゃん。ありがとう)」
すると彼女はギュッと、抱き締めた。
「助けかたじけなし。尊(助けてくれてありがとう。尊くん)」
その際、頬にキスをした。
「!!!!!!!!!!?」
な、な、な、な、な、な!
脳が沸騰してドオオオォン!と噴火し、ボッと茹でたこのように真っ赤に染まってドサッと、倒れた。
「えっ!?尊いかがせる?尊(尊くんどうしたの?尊くん)!」
「うへえええぇ~」
目に渦を巻き、仰向けの状態でピクピクと痙攣を起こす。
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