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愛毒者ー王暴の妻ー 参
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彼女は、もはや抵抗する事も、許されなかった。子供のように泣きじゃくる鈴は、唾液を垂れ流し、裸にされて仰向けになる妻は、華奢なくびれた両手首を束ねて掴まれて頭上に押し付けられ、膣に鉄の棒を差し込んで傷付けていた。
「鈴。鈴。鈴。鈴。鈴」
グッと奥に差し込めば、血がドロォッと流れた。
「あぁっ!ぐ、ああああああぁ!」
なかなかお目に掛からないほっそりとした綺麗な脚をガクガクと震わせ、ぼろぼろと大きい雨粒のような涙を流し、叫ばざるを得ない。
「歯向かゑば、良き事がござると思とはおりきとか?それがしと輿入れをしたでござるんじゃ。親方様に聞き従ゑ。十四の雌犬如きが、それがしに抗うな(歯向かえば、良い事があると思っていたのか?俺と結婚をしたんだ。主人に聞き従え。14の雌犬如きが、俺に抗うな)!」
唾液を垂れ流して言い放つ。だがこの時点で分かっているのは、あの時と同じ現象が起きている事。彼は白目を剥いており、意識がぶっ飛んでいる。
「がはぁ!」
全身がばらばらに砕けて勝手な方向に駆け出し飛び散っていくような、声も凍るほどの激痛が全身に駆け上がり地震があったみたいに見張り、あまりの激痛に唾液さえ吐き出し、尿を漏らした。意識がぶっ飛ぶと、夫の中に眠る何かが目覚め、愛する夫を苦しめて操つるようだ。
「仁導おおおおおおぉ!」
その時だった。
「!!!!!!!!!!?」
ドックンと鼓動した際に、意識が、戻った。彼はゆっくりと抜いて妻の後頭部に腕を回して抱き起こした。
「あぁ。鈴」
泣きじゃくる鈴に、動揺が隠し切れない。自分が今していた事は思い出せないが、愛する妻を傷付けてしまった事は、分かっている。
拙者(俺は)また。
正室を傷付けてしもうた(妻を傷付けてしまった)。
どれ程正室(妻)を泣かせ。
傷付けらば(傷付ければ)。
満たされるでござるんじゃ(満たされるんだ)?
泣きじゃくる鈴は、夫を強く、抱き締めた。やがて彼は仕事に出掛けた。驁褹は、お仕置きが終わるまで部屋の外で待っていた。静かになったので、襖を開けようとした時、部屋の中で声が聞こえてきた。
「安穏。定めて我が、妻にて、をひとの人なる事思ひいださす。定めて制御しみす。安穏。我ならばう。すがらに化け物扱ひされきて、おのれの人なるを忘れたるばかり。思ひ出されば安穏。ころにわらはも産まる。安穏。我ならばう。定めて制御しみす。安穏。安穏。安穏(大丈夫。必ず私が、妻として、夫が人間である事を思い出させる。必ずコントロールしてみせる。大丈夫。私なら出来る。ずっと化け物扱いされてきて、自分が人間なのを忘れてるだけ。思い出せれば大丈夫。時期に子供も産まれる。大丈夫。私なら出来る。必ずコントロールしてみせる。大丈夫。大丈夫。大丈夫)…」
本来ならあんな暴力夫の手から離れたいと妻は思うであろう。仁導は、「恐怖」と「支配」で彼女の自由を奪う。それこそが愛だと思っているので、自分の思うがままに動かし、体がバラバラになるほど妻を愛する。だがそれは、過去に自分が受けて来た両親から愛情もない、暴力で満ちた家庭に育てられたので、本物の『愛』を知らずに妻を持ってしまった事によって、仁導は、妻が言う事を聞かないとコントロールを失い、意識がぶっ飛び、手を出してしまう。本当はもっと大切にしたいと願っているのに、愛し方が分からないので、脳が勝手に体を動かしてして彼を操ってしまう。だが鈴は、僅か14歳でありながら夫を深く愛しており、過去に経験してきた心の『傷』や『病』に触れて、優しく包もうと必死に努力し、手放す事なく愛し続ける。自分に自分で言い聞かせ、彼が人間であるのを思い出させる為に、『愛』で補おうとするその妻の心に惹かれた彼は非常に感動し、滝のような涙を流す。
鈴殿(様)!
お主殿(あなた様)は!
どれ程仁導殿(様)を愛せば!
気が済むとでござるか(気が済むのですか)?
仁導殿お主殿もでござる(様あなた様もです)!
どれ程鈴どれ程鈴様を愛せば(様)を愛せば!
おこころもちが落ち着かるるとでござるか(お気持ちが落ち着かれるのですか)?
この夫婦(めおと)。
互ゐに愛が重すぎて!
つゐてゐけませぬ(ついていけません)!
警察長屋では、ナガレと尊は小上がりの端に座っていた。
「仁導のきゃつ。遅ゐな(仁ドゥの奴。遅えな)?」
「けふ、嵆鼇休みゆえなにかあったでござるんではないでござろうか(今日、嵆鼇休みなので何かあったんじゃないですか)?」
「けふあやつ休みだか(今日あいつ休みなん)?」
そもそも嵆鼇が休みである事すら知らなかった。彼は、人の休み希望まで把握しているようだ。
「王暴が遅参なぞ、珍しきでござるな(遅刻なんて、珍しいですね)?」
そこへ湊も来て老けてる方の隣に座った。
「今貴様恥骨とは申した(お前え恥骨っつった)?」
「申してませぬ(言ってません)」
どんな耳してるんだこいつは。その時、ガタン!と警察長屋の戸を開けて仁導が勢い良く入って来たのだ。
「おはようでござる!皆の衆、遅れてすまなゐ(おはよう!皆の者、遅れてすまない)!早速割り当てる!」
警察たちは、文句一つ言わずに整列し身構え、それぞれ皆に適した場所に王暴が考えて割り当てる。
「夫婦(めおと)私闘とはいえしたでござるとか(夫婦喧嘩でもしたんか)?」
そんな中でやはり緊張感のない奴が。
「大浦!白鳥!貴様どもには特別な奉公を引き受けてもらおうぞ。あとにてそれがしの所に来るごとく(お前たちには特別な仕事を引き受けてもらう。あとで私の所に来るように)!」
無視。て言うか、王暴から与えられる特別な仕事。湊は、それを聞いただけで子供のようにワクワクしてしまう。
「図星なんであろう?やはり図星なんであろう(図星なんだろ?やっぱ図星なんだろ)?」
「伊村。貴様は友坂屋敷に参れ。姉上の千鶴殿が変な男に付け狙われておると談合があったでござる。見た眼のみにて判断するでござるのではござらず、千鶴殿としかと合力をしてちょーだい御用に導くごとく(お前は友坂家に行け。姉の千鶴さんが変な男に付け狙われていると相談があった。見た目だけで判断するのではなく、千鶴さんとしっかりと協力をして逮捕に導くように)」
「御意(はい)!」
妹の千華夏より、のほほんとした千鶴の方が可愛いので、時たま甘味処に通うお客様が彼女を気に入ってストーカー行為に発展する事がある為、今回もそこの客だと仁導は睨んでいる。
「激しきとはいえ口吸いしてちょーだいこころもち悪しがられたでござるんであろ(激しいチューでもして気持ち悪がられたんだろ)?」
思わず、警察たちは失笑してしまう。
「最後に!かは貴様たち全員に該当するでござる命令じゃ!白鳥から逃げた者は命が救わらるる(これはお前たち全員に該当する命令だ!白鳥から逃げた者は命が救われる)!」
「あぁ?」
「とばっちりを喰らう前に、白鳥から退却せよ(逃げろ)おおおぉ!」
懐からライフル銃を取り出し、土台に脚を乗せて構えれば、それぞれが颯爽と走って逃げる。ドガガガガガガガガガガ!とナガレに向かって撃ちまくる。
「でぃ~やあああああああぁ!!」
彼が逃げる方向に人が居る為、とばっちりを喰らう。
「こちらに(こっちに)来るな!」
「それがしじゃとは死にたくござらぬ(俺だって死にたかねえよ)!」
十中八九こいつがしつこかったせいで皆がとばっちりを受けているんだ。少しは反省してもらいたいものだ。戸を破壊し、物の数秒でもぬけの殻に。
「王暴」
賢い湊は小上がりに避難していた。
「大浦。来られよ(来い)」
似合わない笑みを浮かべ、手招きする。草履を履いて近付くと、ナガレも入って来た。
「全く。偉ゐ眼に遭った(ったくよぉ。ド偉え目に遭ったぜ)」
それはご自身が悪いのでは。
「別に特別な奉公にてはござらぬが、薌殿から極秘としてちょーだい詮議て所望致すと頼まれておる(別に特別な仕事ではないが、薌さんから極秘として調べて欲しいと頼まれている)」
「あぁ?薌?」
この事件に関係しているのはまたもや薌のようで、また新たな迷惑客にでも狙われてしまったのだろうか。
「薌殿の舎弟、爻の事なれど。働ゐてもおらぬに、舎弟の部屋の押し入れを掃除してござったら多額の御足が入った巾着が入とはおりきごとし。いずこかにて物盗りをしてちょーだいなゐかと魂配をしてござった(さんの弟、爻の事なんだが。働いてもいないのに、弟の部屋の押し入れを掃除していたら多額の金が入った巾着が入っていたようだ。どこかで窃盗をしてないかと心配をしていた)」
なんと。押し入れの中から多額の金が入った巾着を見付けたようで、爻は仕事をしていないのに不可解に思い彼に相談をしたようだ。
「あの舎弟殿から左様な物盗りなど存念らるませぬが。其れは魂配でござるな(あの弟くんからそんな窃盗など考えられませんが。それは心配ですね)?」
その時、ナガレはこう口にした。
「其れそれがしじゃ(それ俺だは)」
2人は、顔を向けた。
「それがしが上げてる御足じゃ(俺が上げてる金だ)」
「経緯を説明しろ」
「爻のきゃつ。働ゐてる姉上に仰天としてちょーだい船にて共に漫遊したいでござるから稼ぎたゐとは、それがしの所に参った。下僕としてちょーだい今それがしの屋敷に置ゐておる(奴。働いてる姉にサプライズとして船で一緒に旅行したいから稼ぎたいって、俺の所に来てよ。下僕として今俺の家に置いてんだよ)」
意外な人に雇われてた。しかも理由が理由なので、薌には言えない。サプライズとして頑張って働いている爻の、なんて言う姉弟愛なのだろう。
「其れは、申せぬな(それは、言えないな)」
「隠し場所が無くて、押し入れに仕舞とはおりきみてしょうね(押し入れに仕舞っていたんでしょうね)?」
姉は賢いのだが、13歳の弟は賢くないので、バレない場所に隠すのではなく、自分が忘れない簡単な場所に隠したのだろう。
「薌殿には、働く力を身に付ける為に修行を致し候と、其れっぽく誤魔化せば良き(薌さんには、働く力を身に付ける為に修行をしていると、それっぽく誤魔化せば良い)」
「おう」
「其れにしてちょーだいも爻殿。情け深い子でござるな(それにしても爻くん。優しい子ですね)?」
そう言い、歩いて2人は警察長屋から出て行った。その一方、尊では。
「うえええぇ!?」
友坂家の前に立つ彼は、開いた口が閉じない。
「さる、姉がストーカーわざされたるまじからむ?何かのひがごとよ(そんな、姉がストーカー行為されてる訳ないでしょう?何かの間違いよ)」
玄関の戸を開けて千華夏は冷たい態度で遇らう。
「いやはや!王暴の申す事に仕損じは無い(いや!王暴の言う事にに間違いはない)!」
「姉と暮らせるは妹の我よ?我がいつはり吐けるとも言はまほしき訳(お姉様と暮らしているのは妹の私よ?私が嘘吐いてるとでも言いたい訳)?」
ズイッと迫られ、彼はどこか怖気付いてしまい、身を引いてしまう。
「!!!!!!!!!!?」
うううううぅ~。
あなおそろし(怖~い)!
姉上の千鶴はのほほんとしておるに(姉の千鶴はのほほんとしてるのに)。
双子だに何故でござるかくも(なのになんでこうも)!
いななんじゃ(違うんだ)~!?
「わりなければ帰りて(迷惑だから帰って)!」
家に入り、戸を閉めた。
「うえええええぇ~!?ちょっ!千華夏殿!千華夏殿(千華夏さん!千華夏さん)!」
ドンドンドン!ドンドンドン!と戸をノックするも、出て来てもくれない。
「………………………………………」
何よ!
姉ばかり被害者振りて(姉ばかり被害者振って)!
ストーカーわざに遭ひて(ストーカー行為に遭って)。
痛き目見るべきぞ(痛い目見れば良いのよ)!
自分よりも姉が人気なのを知っている。だからこそ、実の姉に対して下唇を噛み切ってしまうほどに嫉妬していた。
「うええええぇ~?」
王~暴~。
まずいぞ(マズイぞ)。
成果を出さなゐと。
王暴の種子島(銃)の餌食になる!
木に括り付けられる自分の前に立つ仁導は銃を構えており、一発一発定められた箇所を見事的中させて貫いていく。
『御用!御用!御用!御用!御用!御用!御用(ターイホ!ターイホ!ターイホ!ターイホ!ターイホ!ターイホ!逮捕おぉ)!』
サアアアアァッと、一瞬血の逆流するような恐怖に慄く。
「うわああああああぁ!やーだーだーやーだーだーやーだーだーやーだーだーやーだーだーやーだーだーやーだーだー!死にたくござらぬ!それがし死にたくござらぬで候(やだやだやだやだやだやだやだ!死にたくない!俺死にたくないよ)おおおおぉ~!!」
その時、千華夏は戸を開けて彼の胸ぐらを乱暴に掴んで引っ張り家に招いた。
「うええええぇ~!?」
戸を閉めた際、2人して囲炉裏に端に座る。
「こちたし!家の前にな興じそ!なほ煩ひよ(うるさい!家の前ではしゃがないで!もっと迷惑よ)!」
「良き!勘違ゐとはいえ良き!まことに千鶴殿が追跡者行為に遭っとるとか遭とはなゐとか教ゑて所望致す!この通りじゃ(良いんだ!勘違いでも良い!本当に千鶴さんがストーカー行為に遭ってるのか遭ってないのか教えて欲しい!この通りだ)!」
尊は、逮捕に導けないのを恐れて囲炉裏の端から降りて彼女に土下座してでもせがんだ。
「!!!!!!!!!!?」
「この通り!この通りじゃ(だ)!」
ぼろぼろと大きい雨粒のような涙を流し、怯えているのか、震えている。すると千華夏はこう、口にした。
「姉に付き纏へる男こそ居れ。その男、常連のごとき。お姉は常連まらうどなればこそ恐れたれよ。何せらるるや分からねば(姉に付き纏ってる男が居るわ。その男、常連みたいなの。お姉様は常連客だからこそ恐れているわ。何されるか分からないから)」
彼は、警察として命を掛けている。その、諦めない魂に、彼女は負けた。
「ありがたき幸せ!教ゑてくてありがたき幸せ!ありがたき幸せ!ありがたき幸せ!ありがたき幸せ!ありがたき幸せ(ありがとう!教えてくてありがとう!ありがとう!ありがとう!ありがとう!ありがとう)!」
何度も何度も頭を下げて感謝する。
「………………………………………」
千華夏は瞳を揺らし、腕を組む。その一方、仁導も村を歩いていた。
「仁導(仁導、さん)?」
「?」
振り返ると、そこには玄穂の新妻、雪の姿が。
「あ、雪殿(さん)」
後ろを向き
「この度はご輿入れ、祝着至極に存ずる(この度はご結婚、おめでとうございます)」
彼は頭を下げて祝福した。
「仁導も、ごあひ。めでたくさうらふ(仁導さんも、ご結婚。おめでとうございます)」
彼女も頭を下げて互いに祝福する。すると雪は、『はぁ』と、無意識なのか自然に出てしまったのか分からないが、ため息を吐きながら顔を上げた。
「いかがさせましたでござる(どうされました)?」
顔を上げた仁導は、雪の顔色を伺う。
「えっ?」
「ため息など吐ゐて」
彼はふと迫ると、彼女はドキッとし頬を染めた。
「我。ため息吐けりや(私。ため息吐いてましたか)?」
「吐ゐておした。何ぞ、不恭悦至極なご様子にて(吐いてました。何やら、不幸せなご様子で)」
そんな中、薌は店に居るので爻の話しは出来ず、ナガレと湊は村を彷徨いていた。
「なんぱをするなら まかせておくれよ 3にも4にも 押しが肝心」
「かーもんべいびー かもんべいびー たまねぎ食べれる」
2人して歌っており暇を持て余していると
「おっ?」
彼は、何かに気付き立ち止まった。
「ながれ殿(ナガレさん)?」
「来られよ(来い)!」
釣られて立ち止まった湊の腕を掴んで引っ張り、民家と民家の間の路地に身を隠した。
「見ろで候(見ろよ)」
「?」
指を差された方角に顔を向けると、仁導と、知らない女の姿が。
「嵆鼇殿と、歳の近さふな息女でござるな(くんと、歳の近そうな娘ですね)?」
「やはりけふ遅れたでござる原因はかじゃ(やっぱ今日遅れた原因これだ)」
「不義密通て事でござろうか(不倫て事ですか)?」
「なにかござらん限りあやつが遅参するでござる訳なゐであろう?絶対に不義密通じゃとは(何かねえ限りあいつが遅刻する訳ねえだろ?絶っ対えに不倫だって)」
「王暴。不義密通するでござる暇ありんす?其れに、ようやく王暴のことごとくを慕い申してくらるる女性に出會ゑたのでござりまするよ?不義密通なぞするでござると存じまするか(不倫する暇ありますか?それに、やっと王暴の全てを愛してくれる女性に出会えたんですよ?不倫なんてすると思いますか)?」
「貴様は分かとはなゐな。良きか?ひとたび成功したでござるら、男は気が緩みて不義密通するでござるものなんじゃ(お前えは分かってねえなぁ。良いか?一度成功したら、男は気が緩んで浮気するもんなんだよ)」
それはあなただけ。女性をクレーンゲームのように取っ捕まえては遊んで泣かし、また取っ捕まえては遊んで泣かしを繰り返していたこいつの方がよっぽどな事をしている。だがこれは彼の経験上。女ったらしではあるが一律ある。
「それがしが不義密通や不義密通を存念てなゐからこそこころもちが分からなゐのみにてだやもしれませぬ(私が不倫や浮気を考えてないからこそ気持ちが分からないだけなのかもしれません)」
「であろう?それがしの者が経験上、先輩じゃからな?と申す訳にて世俗を存じておる先輩と呼みてくれ(だろう?俺の方が経験上、先輩だかんな?て言う訳で世間を知ってるパイセンて呼んでくれ)」
肩にポンと手を置いて得意気に口にする。しかもこの『なんでも知ってます』と言う、憎たらしい程のうざったい面構え。ドヤ顔。なんかイラッとする。て言うか呆れて何も言えない。
「あ、ながれ殿(ナガレさん)」
「あぁ?」
見ると、仁導は女を連れて歩き出した。
「あら~」
「仁導のきゃつ。嵆鼇が休みじゃからとは堂々と奉公するでござる振りをしてちょーだい不義密通するでござるとはな(奴。嵆鼇が休みだからってドードーと仕事する振りをして不倫すっとはなぁ)。良し!追うぞ!」
彼の心はとてつもなくはしゃいでおり、子供のように目を輝かせてそこから飛び出して後を追い出した。
「ちょちょちょちょちょ!ながれ殿!まずいでござる(ナガレさん!マズイですって)!」
楽しんでいる経験上パイセンを止めるベく後を追う。
「痛し(い)…」
タライに跨って尿を排出させる鈴は、ぼろぼろと大きい雨粒のような涙を流していた。タライなのでバタバタバタバタと跳ね返る音がし、子宮を傷付けられたので尿が血混じりだ。落とし紙で拭き取ると言うかは優しくぽんぽんと女性器に当て、後ろに移動し女の子座りする。
「鈴殿。で候ろしきでござろうか(鈴様。よろしいでしょうか)?」
部屋の外で声を掛けるが、返事は無い。
「鈴殿(様)?」
よも鈴殿(まさか鈴様)!
窓から脱出したでござるのにては(窓から脱出したのでは)!?
バッと襖を開けると、鈴は蹲って泣いている姿が。
「痛し。痛し。痛し。痛し(痛い。痛い。痛い。痛い)…」
タライの中を見ると、血混じりの尿が。
「鈴殿(様)」
驁褹は近寄ると、優しく抱き寄せた。
「我がえいかぬなり(私がいけないんです)」
上体を起こすと自ら寄り添い、前髪の陰で表情を覆い隠され、涙を流し続けている。
「恋しければ。仁導がいと恋しく、術の無きなり。いま、いと恋しくいと恋しく。堪らず思ひぬれば。甘やかしぬるなり(好き過ぎて。仁導が大好きで、仕方が無いんです。もう、大好きで大好きで。堪らず愛しちゃうから。甘やかしちゃうんです)」
「いな。仁導殿も鈴殿も、間違とはおりませぬ。仁導殿を癒しめるのは、鈴殿のみにてでござる。鈴殿を癒す事が出来るのは、仁導殿のみにてでござる。お互ゐ、夫婦(めおと)としてちょーだい成り立とはおるでござる。ただに、愛が重ゐと申すのは云ゑる事でござる。正室としてちょーだい旦那様にぶつかるのは当然の事でござるし、旦那様としてちょーだい正室に説を申すなりしが無論当然でござる。お主しか、仁導如く愛を教ゑる者はゐらっしゃゐませぬ。お主殿は十四歳ながらも仁導殿を支ゑらるておるにてはありませぬか。少しもゐけなゐ事などありませぬ。鈴殿は修行してちょーだいおらる候(いいえ。仁導様も鈴様も、間違っておりません。仁導様を癒せるのは、鈴様だけです。鈴様を癒す事が出来るのは、仁導様だけです。お互い、夫婦として成り立っております。ただ、愛が重いと言うのは言える事です。妻として夫にぶつかるのは当然の事ですし、夫として妻に意見を言うのももちろん当然です。あなたしか、仁導様に愛を教える方はいらっしゃいません。あなた様は14歳ながらも仁導様を支えられているではありませんか。何もいけない事などありません。鈴様は努力しておられます)」
優しい言葉を掛けられ、また泣き出してしまう。
捨てらるまじく(捨てられないように)。
つとめばや(努力したい)。
されど(けど)。
思ひ絶えまほしく無し(諦めたく無い)。
定めて仁導の人なるを(必ず仁導が人間なのを)。
思ひ出さす(思い出させる)。
物の怪と言はるる固定概念を(化け物って言われる固定概念を)。
我が、うち潰す(私が、ぶっ潰す)!
そんな中、仁導は雪を連れてお茶専門店に出向いた。全面座席であり、開いている座布団に向き合って座る。横に長い脚の短いテーブルが左右に間隔を開けて6つ設置されてあり、知らない人が隣に座るのは当たり前。
「いかで(どうぞ)」
この店は、その場でお茶を立ててくれるので拘りがとても強い。お茶はとても渋い為、甘いお菓子が付属として付いてくる。お茶を2人の前に置くなり
「仁導(仁導様)?」
「?」
声を掛けられたので顔を向けると、接客をしてくれたのは湊の妻、ミクだ。
「みく殿。鈴子は、息災であったか(ミクさん。鈴子は、元気ですか)?」
「えい。今は高高し家中をありけり(はい。今はハイハイして家中を歩き回っております)」
気付いたら鈴子は成長しており、ハイハイ出来るまでに成長をしたようだ。
「其れは其れは。この先も、成長を楽しみにしてちょーだいおるでござる(それはそれは。この先も、成長を楽しみにしております)」
「かたじけなくさうらふ。では、ごやをら(ありがとうございます。では、ごゆっくり)」
彼女は頭を下げ、下駄を鳴らして厨房へ向かう。
「仁導(仁導さん)」
「ここのお茶は、渋ゐみてす(渋いんです)」
話し掛けたタイミングで仁導も話し出し、雪は黙り込む。
「其れを中和しめるのが(それを中和させるのが)、この」
黒い小皿に入った花柄のおしゃれなピンク色のお菓子を、一枚手にした。
「砂糖菓子。ござるが、少々したでござる事にてひびが入とはしまう(ですが、ちょっとした事でひびが入ってしまう)」
少し指先に力を入れれば、お菓子に亀裂が走り
「更に奥深くまにて亀裂が駆けてしまうと(更に奥深くまで亀裂が走ってしまうと)」
更に指先に力を入れれば、お菓子がボロッと砕けた。
「砕けてしまう。少々したでござる事とはいえ夫婦(めおと)の間に亀裂が入とはしまゑば、仲柄を取り戻す事が難しくなる(砕けてしまう。ちょっとした事でも夫婦の間に亀裂が入ってしまえば、関係を取り戻す事が難しくなる)」
「………………………………………」
お茶は夫婦の関係。砂糖菓子は『悩み』を表している。夫婦の間で亀裂が入ると、可能性的には夫婦として関係を取り戻せなくなり、場合によっては離婚に至ってしまう最悪な事態になる恐れがある。悩みが深ければ深い程、砂糖菓子と言う名の『心』に傷つが付き、やがて砕けてしまう。
「我は今、亀裂の走れる有様なり。あひて何月も経けれど、をひとより。愛を感ぜずなりけり。分かるなり。なほ夫婦なれば(私は今、亀裂が走っている状態です。結婚して何ヶ月も経ったんですが、夫から。愛を感じなくなったんです。分かるんです。やっぱり夫婦ですから)」
話しを聞いていると、非があるのは玄穂の方。だが、それは飽くまで妻が夫に対する読み方であり、実際は彼女にも非がある可能性があるので、責める事が出来ない。
「仁導。我が其方をご指名たてまつる。多額のお金も払ふ。いかでかをひとを、調べたまふと嬉し(仁導さん。私があなた様をご指名致します。多額のお金も払います。どうか夫を、調査して下さると嬉しいです)」
座っていた座布団から後ろに引き下がり、深々とその場で土下座をした。騒つく店員と利用客。彼は、砕けた時に親指のお腹についたお菓子のカスをぺろっと舐めた。
「甘いでござ候(甘い)」
「?」
顔を上げると、仁導は懐から銃を取り出すなり
「!!!!!!!!!!!?」
べろべろべろべろべろと唾液まみれの舌で舐め出したのだ。
えっ?
「………………………………………」
玄穂。
玄穂。
玄穂。
玄穂。
玄穂。
玄穂。
窓の隙間から覗いていたナガレと湊は、静かに座り込んだ。
「あやつ、誠に誠に悩みてる上に女を誠に誠に困らせとる(あいつ、めっちゃめっちゃ悩んでやがる上に女をめっちゃめっちゃ困らせてる)~ぶはははははははは!」
「あの変態、いな。あの癖は、いずこに行とはも出てしまいかにもでござるな(いえ。あの癖は、どこに行っても出てしまうんですね)?」
「あの様子であると、不義密通等にてはござらぬな。益体も無い(様子だと、不倫とかじゃねえな。つまんねーの)」
ワクワクしていた心が一気に冷めてしまい、ナガレはその場で横たわった。
「まぁ。斯様なお可愛らしき奥方様がおはすみてすから、不義密通など左様な事は致さぬと思とはいたであろう(あんなお可愛らしい奥様がいらっしゃるんですから、不倫などそんな事はしないと思っていました)」
「ちぇ~」
退屈になってしまったその時、ヌトーッと顔の横に滴る粘りっ気のある液体。
「あぁ?」
彼はゴロンと仰向けになると、べろべろべろべろべろべろと銃を舐めた状態で唾液を垂れ流している仁導と目が、合った。
「どうわあああああぁ~!」
「鈴。鈴。鈴。鈴。鈴」
グッと奥に差し込めば、血がドロォッと流れた。
「あぁっ!ぐ、ああああああぁ!」
なかなかお目に掛からないほっそりとした綺麗な脚をガクガクと震わせ、ぼろぼろと大きい雨粒のような涙を流し、叫ばざるを得ない。
「歯向かゑば、良き事がござると思とはおりきとか?それがしと輿入れをしたでござるんじゃ。親方様に聞き従ゑ。十四の雌犬如きが、それがしに抗うな(歯向かえば、良い事があると思っていたのか?俺と結婚をしたんだ。主人に聞き従え。14の雌犬如きが、俺に抗うな)!」
唾液を垂れ流して言い放つ。だがこの時点で分かっているのは、あの時と同じ現象が起きている事。彼は白目を剥いており、意識がぶっ飛んでいる。
「がはぁ!」
全身がばらばらに砕けて勝手な方向に駆け出し飛び散っていくような、声も凍るほどの激痛が全身に駆け上がり地震があったみたいに見張り、あまりの激痛に唾液さえ吐き出し、尿を漏らした。意識がぶっ飛ぶと、夫の中に眠る何かが目覚め、愛する夫を苦しめて操つるようだ。
「仁導おおおおおおぉ!」
その時だった。
「!!!!!!!!!!?」
ドックンと鼓動した際に、意識が、戻った。彼はゆっくりと抜いて妻の後頭部に腕を回して抱き起こした。
「あぁ。鈴」
泣きじゃくる鈴に、動揺が隠し切れない。自分が今していた事は思い出せないが、愛する妻を傷付けてしまった事は、分かっている。
拙者(俺は)また。
正室を傷付けてしもうた(妻を傷付けてしまった)。
どれ程正室(妻)を泣かせ。
傷付けらば(傷付ければ)。
満たされるでござるんじゃ(満たされるんだ)?
泣きじゃくる鈴は、夫を強く、抱き締めた。やがて彼は仕事に出掛けた。驁褹は、お仕置きが終わるまで部屋の外で待っていた。静かになったので、襖を開けようとした時、部屋の中で声が聞こえてきた。
「安穏。定めて我が、妻にて、をひとの人なる事思ひいださす。定めて制御しみす。安穏。我ならばう。すがらに化け物扱ひされきて、おのれの人なるを忘れたるばかり。思ひ出されば安穏。ころにわらはも産まる。安穏。我ならばう。定めて制御しみす。安穏。安穏。安穏(大丈夫。必ず私が、妻として、夫が人間である事を思い出させる。必ずコントロールしてみせる。大丈夫。私なら出来る。ずっと化け物扱いされてきて、自分が人間なのを忘れてるだけ。思い出せれば大丈夫。時期に子供も産まれる。大丈夫。私なら出来る。必ずコントロールしてみせる。大丈夫。大丈夫。大丈夫)…」
本来ならあんな暴力夫の手から離れたいと妻は思うであろう。仁導は、「恐怖」と「支配」で彼女の自由を奪う。それこそが愛だと思っているので、自分の思うがままに動かし、体がバラバラになるほど妻を愛する。だがそれは、過去に自分が受けて来た両親から愛情もない、暴力で満ちた家庭に育てられたので、本物の『愛』を知らずに妻を持ってしまった事によって、仁導は、妻が言う事を聞かないとコントロールを失い、意識がぶっ飛び、手を出してしまう。本当はもっと大切にしたいと願っているのに、愛し方が分からないので、脳が勝手に体を動かしてして彼を操ってしまう。だが鈴は、僅か14歳でありながら夫を深く愛しており、過去に経験してきた心の『傷』や『病』に触れて、優しく包もうと必死に努力し、手放す事なく愛し続ける。自分に自分で言い聞かせ、彼が人間であるのを思い出させる為に、『愛』で補おうとするその妻の心に惹かれた彼は非常に感動し、滝のような涙を流す。
鈴殿(様)!
お主殿(あなた様)は!
どれ程仁導殿(様)を愛せば!
気が済むとでござるか(気が済むのですか)?
仁導殿お主殿もでござる(様あなた様もです)!
どれ程鈴どれ程鈴様を愛せば(様)を愛せば!
おこころもちが落ち着かるるとでござるか(お気持ちが落ち着かれるのですか)?
この夫婦(めおと)。
互ゐに愛が重すぎて!
つゐてゐけませぬ(ついていけません)!
警察長屋では、ナガレと尊は小上がりの端に座っていた。
「仁導のきゃつ。遅ゐな(仁ドゥの奴。遅えな)?」
「けふ、嵆鼇休みゆえなにかあったでござるんではないでござろうか(今日、嵆鼇休みなので何かあったんじゃないですか)?」
「けふあやつ休みだか(今日あいつ休みなん)?」
そもそも嵆鼇が休みである事すら知らなかった。彼は、人の休み希望まで把握しているようだ。
「王暴が遅参なぞ、珍しきでござるな(遅刻なんて、珍しいですね)?」
そこへ湊も来て老けてる方の隣に座った。
「今貴様恥骨とは申した(お前え恥骨っつった)?」
「申してませぬ(言ってません)」
どんな耳してるんだこいつは。その時、ガタン!と警察長屋の戸を開けて仁導が勢い良く入って来たのだ。
「おはようでござる!皆の衆、遅れてすまなゐ(おはよう!皆の者、遅れてすまない)!早速割り当てる!」
警察たちは、文句一つ言わずに整列し身構え、それぞれ皆に適した場所に王暴が考えて割り当てる。
「夫婦(めおと)私闘とはいえしたでござるとか(夫婦喧嘩でもしたんか)?」
そんな中でやはり緊張感のない奴が。
「大浦!白鳥!貴様どもには特別な奉公を引き受けてもらおうぞ。あとにてそれがしの所に来るごとく(お前たちには特別な仕事を引き受けてもらう。あとで私の所に来るように)!」
無視。て言うか、王暴から与えられる特別な仕事。湊は、それを聞いただけで子供のようにワクワクしてしまう。
「図星なんであろう?やはり図星なんであろう(図星なんだろ?やっぱ図星なんだろ)?」
「伊村。貴様は友坂屋敷に参れ。姉上の千鶴殿が変な男に付け狙われておると談合があったでござる。見た眼のみにて判断するでござるのではござらず、千鶴殿としかと合力をしてちょーだい御用に導くごとく(お前は友坂家に行け。姉の千鶴さんが変な男に付け狙われていると相談があった。見た目だけで判断するのではなく、千鶴さんとしっかりと協力をして逮捕に導くように)」
「御意(はい)!」
妹の千華夏より、のほほんとした千鶴の方が可愛いので、時たま甘味処に通うお客様が彼女を気に入ってストーカー行為に発展する事がある為、今回もそこの客だと仁導は睨んでいる。
「激しきとはいえ口吸いしてちょーだいこころもち悪しがられたでござるんであろ(激しいチューでもして気持ち悪がられたんだろ)?」
思わず、警察たちは失笑してしまう。
「最後に!かは貴様たち全員に該当するでござる命令じゃ!白鳥から逃げた者は命が救わらるる(これはお前たち全員に該当する命令だ!白鳥から逃げた者は命が救われる)!」
「あぁ?」
「とばっちりを喰らう前に、白鳥から退却せよ(逃げろ)おおおぉ!」
懐からライフル銃を取り出し、土台に脚を乗せて構えれば、それぞれが颯爽と走って逃げる。ドガガガガガガガガガガ!とナガレに向かって撃ちまくる。
「でぃ~やあああああああぁ!!」
彼が逃げる方向に人が居る為、とばっちりを喰らう。
「こちらに(こっちに)来るな!」
「それがしじゃとは死にたくござらぬ(俺だって死にたかねえよ)!」
十中八九こいつがしつこかったせいで皆がとばっちりを受けているんだ。少しは反省してもらいたいものだ。戸を破壊し、物の数秒でもぬけの殻に。
「王暴」
賢い湊は小上がりに避難していた。
「大浦。来られよ(来い)」
似合わない笑みを浮かべ、手招きする。草履を履いて近付くと、ナガレも入って来た。
「全く。偉ゐ眼に遭った(ったくよぉ。ド偉え目に遭ったぜ)」
それはご自身が悪いのでは。
「別に特別な奉公にてはござらぬが、薌殿から極秘としてちょーだい詮議て所望致すと頼まれておる(別に特別な仕事ではないが、薌さんから極秘として調べて欲しいと頼まれている)」
「あぁ?薌?」
この事件に関係しているのはまたもや薌のようで、また新たな迷惑客にでも狙われてしまったのだろうか。
「薌殿の舎弟、爻の事なれど。働ゐてもおらぬに、舎弟の部屋の押し入れを掃除してござったら多額の御足が入った巾着が入とはおりきごとし。いずこかにて物盗りをしてちょーだいなゐかと魂配をしてござった(さんの弟、爻の事なんだが。働いてもいないのに、弟の部屋の押し入れを掃除していたら多額の金が入った巾着が入っていたようだ。どこかで窃盗をしてないかと心配をしていた)」
なんと。押し入れの中から多額の金が入った巾着を見付けたようで、爻は仕事をしていないのに不可解に思い彼に相談をしたようだ。
「あの舎弟殿から左様な物盗りなど存念らるませぬが。其れは魂配でござるな(あの弟くんからそんな窃盗など考えられませんが。それは心配ですね)?」
その時、ナガレはこう口にした。
「其れそれがしじゃ(それ俺だは)」
2人は、顔を向けた。
「それがしが上げてる御足じゃ(俺が上げてる金だ)」
「経緯を説明しろ」
「爻のきゃつ。働ゐてる姉上に仰天としてちょーだい船にて共に漫遊したいでござるから稼ぎたゐとは、それがしの所に参った。下僕としてちょーだい今それがしの屋敷に置ゐておる(奴。働いてる姉にサプライズとして船で一緒に旅行したいから稼ぎたいって、俺の所に来てよ。下僕として今俺の家に置いてんだよ)」
意外な人に雇われてた。しかも理由が理由なので、薌には言えない。サプライズとして頑張って働いている爻の、なんて言う姉弟愛なのだろう。
「其れは、申せぬな(それは、言えないな)」
「隠し場所が無くて、押し入れに仕舞とはおりきみてしょうね(押し入れに仕舞っていたんでしょうね)?」
姉は賢いのだが、13歳の弟は賢くないので、バレない場所に隠すのではなく、自分が忘れない簡単な場所に隠したのだろう。
「薌殿には、働く力を身に付ける為に修行を致し候と、其れっぽく誤魔化せば良き(薌さんには、働く力を身に付ける為に修行をしていると、それっぽく誤魔化せば良い)」
「おう」
「其れにしてちょーだいも爻殿。情け深い子でござるな(それにしても爻くん。優しい子ですね)?」
そう言い、歩いて2人は警察長屋から出て行った。その一方、尊では。
「うえええぇ!?」
友坂家の前に立つ彼は、開いた口が閉じない。
「さる、姉がストーカーわざされたるまじからむ?何かのひがごとよ(そんな、姉がストーカー行為されてる訳ないでしょう?何かの間違いよ)」
玄関の戸を開けて千華夏は冷たい態度で遇らう。
「いやはや!王暴の申す事に仕損じは無い(いや!王暴の言う事にに間違いはない)!」
「姉と暮らせるは妹の我よ?我がいつはり吐けるとも言はまほしき訳(お姉様と暮らしているのは妹の私よ?私が嘘吐いてるとでも言いたい訳)?」
ズイッと迫られ、彼はどこか怖気付いてしまい、身を引いてしまう。
「!!!!!!!!!!?」
うううううぅ~。
あなおそろし(怖~い)!
姉上の千鶴はのほほんとしておるに(姉の千鶴はのほほんとしてるのに)。
双子だに何故でござるかくも(なのになんでこうも)!
いななんじゃ(違うんだ)~!?
「わりなければ帰りて(迷惑だから帰って)!」
家に入り、戸を閉めた。
「うえええええぇ~!?ちょっ!千華夏殿!千華夏殿(千華夏さん!千華夏さん)!」
ドンドンドン!ドンドンドン!と戸をノックするも、出て来てもくれない。
「………………………………………」
何よ!
姉ばかり被害者振りて(姉ばかり被害者振って)!
ストーカーわざに遭ひて(ストーカー行為に遭って)。
痛き目見るべきぞ(痛い目見れば良いのよ)!
自分よりも姉が人気なのを知っている。だからこそ、実の姉に対して下唇を噛み切ってしまうほどに嫉妬していた。
「うええええぇ~?」
王~暴~。
まずいぞ(マズイぞ)。
成果を出さなゐと。
王暴の種子島(銃)の餌食になる!
木に括り付けられる自分の前に立つ仁導は銃を構えており、一発一発定められた箇所を見事的中させて貫いていく。
『御用!御用!御用!御用!御用!御用!御用(ターイホ!ターイホ!ターイホ!ターイホ!ターイホ!ターイホ!逮捕おぉ)!』
サアアアアァッと、一瞬血の逆流するような恐怖に慄く。
「うわああああああぁ!やーだーだーやーだーだーやーだーだーやーだーだーやーだーだーやーだーだーやーだーだー!死にたくござらぬ!それがし死にたくござらぬで候(やだやだやだやだやだやだやだ!死にたくない!俺死にたくないよ)おおおおぉ~!!」
その時、千華夏は戸を開けて彼の胸ぐらを乱暴に掴んで引っ張り家に招いた。
「うええええぇ~!?」
戸を閉めた際、2人して囲炉裏に端に座る。
「こちたし!家の前にな興じそ!なほ煩ひよ(うるさい!家の前ではしゃがないで!もっと迷惑よ)!」
「良き!勘違ゐとはいえ良き!まことに千鶴殿が追跡者行為に遭っとるとか遭とはなゐとか教ゑて所望致す!この通りじゃ(良いんだ!勘違いでも良い!本当に千鶴さんがストーカー行為に遭ってるのか遭ってないのか教えて欲しい!この通りだ)!」
尊は、逮捕に導けないのを恐れて囲炉裏の端から降りて彼女に土下座してでもせがんだ。
「!!!!!!!!!!?」
「この通り!この通りじゃ(だ)!」
ぼろぼろと大きい雨粒のような涙を流し、怯えているのか、震えている。すると千華夏はこう、口にした。
「姉に付き纏へる男こそ居れ。その男、常連のごとき。お姉は常連まらうどなればこそ恐れたれよ。何せらるるや分からねば(姉に付き纏ってる男が居るわ。その男、常連みたいなの。お姉様は常連客だからこそ恐れているわ。何されるか分からないから)」
彼は、警察として命を掛けている。その、諦めない魂に、彼女は負けた。
「ありがたき幸せ!教ゑてくてありがたき幸せ!ありがたき幸せ!ありがたき幸せ!ありがたき幸せ!ありがたき幸せ(ありがとう!教えてくてありがとう!ありがとう!ありがとう!ありがとう!ありがとう)!」
何度も何度も頭を下げて感謝する。
「………………………………………」
千華夏は瞳を揺らし、腕を組む。その一方、仁導も村を歩いていた。
「仁導(仁導、さん)?」
「?」
振り返ると、そこには玄穂の新妻、雪の姿が。
「あ、雪殿(さん)」
後ろを向き
「この度はご輿入れ、祝着至極に存ずる(この度はご結婚、おめでとうございます)」
彼は頭を下げて祝福した。
「仁導も、ごあひ。めでたくさうらふ(仁導さんも、ご結婚。おめでとうございます)」
彼女も頭を下げて互いに祝福する。すると雪は、『はぁ』と、無意識なのか自然に出てしまったのか分からないが、ため息を吐きながら顔を上げた。
「いかがさせましたでござる(どうされました)?」
顔を上げた仁導は、雪の顔色を伺う。
「えっ?」
「ため息など吐ゐて」
彼はふと迫ると、彼女はドキッとし頬を染めた。
「我。ため息吐けりや(私。ため息吐いてましたか)?」
「吐ゐておした。何ぞ、不恭悦至極なご様子にて(吐いてました。何やら、不幸せなご様子で)」
そんな中、薌は店に居るので爻の話しは出来ず、ナガレと湊は村を彷徨いていた。
「なんぱをするなら まかせておくれよ 3にも4にも 押しが肝心」
「かーもんべいびー かもんべいびー たまねぎ食べれる」
2人して歌っており暇を持て余していると
「おっ?」
彼は、何かに気付き立ち止まった。
「ながれ殿(ナガレさん)?」
「来られよ(来い)!」
釣られて立ち止まった湊の腕を掴んで引っ張り、民家と民家の間の路地に身を隠した。
「見ろで候(見ろよ)」
「?」
指を差された方角に顔を向けると、仁導と、知らない女の姿が。
「嵆鼇殿と、歳の近さふな息女でござるな(くんと、歳の近そうな娘ですね)?」
「やはりけふ遅れたでござる原因はかじゃ(やっぱ今日遅れた原因これだ)」
「不義密通て事でござろうか(不倫て事ですか)?」
「なにかござらん限りあやつが遅参するでござる訳なゐであろう?絶対に不義密通じゃとは(何かねえ限りあいつが遅刻する訳ねえだろ?絶っ対えに不倫だって)」
「王暴。不義密通するでござる暇ありんす?其れに、ようやく王暴のことごとくを慕い申してくらるる女性に出會ゑたのでござりまするよ?不義密通なぞするでござると存じまするか(不倫する暇ありますか?それに、やっと王暴の全てを愛してくれる女性に出会えたんですよ?不倫なんてすると思いますか)?」
「貴様は分かとはなゐな。良きか?ひとたび成功したでござるら、男は気が緩みて不義密通するでござるものなんじゃ(お前えは分かってねえなぁ。良いか?一度成功したら、男は気が緩んで浮気するもんなんだよ)」
それはあなただけ。女性をクレーンゲームのように取っ捕まえては遊んで泣かし、また取っ捕まえては遊んで泣かしを繰り返していたこいつの方がよっぽどな事をしている。だがこれは彼の経験上。女ったらしではあるが一律ある。
「それがしが不義密通や不義密通を存念てなゐからこそこころもちが分からなゐのみにてだやもしれませぬ(私が不倫や浮気を考えてないからこそ気持ちが分からないだけなのかもしれません)」
「であろう?それがしの者が経験上、先輩じゃからな?と申す訳にて世俗を存じておる先輩と呼みてくれ(だろう?俺の方が経験上、先輩だかんな?て言う訳で世間を知ってるパイセンて呼んでくれ)」
肩にポンと手を置いて得意気に口にする。しかもこの『なんでも知ってます』と言う、憎たらしい程のうざったい面構え。ドヤ顔。なんかイラッとする。て言うか呆れて何も言えない。
「あ、ながれ殿(ナガレさん)」
「あぁ?」
見ると、仁導は女を連れて歩き出した。
「あら~」
「仁導のきゃつ。嵆鼇が休みじゃからとは堂々と奉公するでござる振りをしてちょーだい不義密通するでござるとはな(奴。嵆鼇が休みだからってドードーと仕事する振りをして不倫すっとはなぁ)。良し!追うぞ!」
彼の心はとてつもなくはしゃいでおり、子供のように目を輝かせてそこから飛び出して後を追い出した。
「ちょちょちょちょちょ!ながれ殿!まずいでござる(ナガレさん!マズイですって)!」
楽しんでいる経験上パイセンを止めるベく後を追う。
「痛し(い)…」
タライに跨って尿を排出させる鈴は、ぼろぼろと大きい雨粒のような涙を流していた。タライなのでバタバタバタバタと跳ね返る音がし、子宮を傷付けられたので尿が血混じりだ。落とし紙で拭き取ると言うかは優しくぽんぽんと女性器に当て、後ろに移動し女の子座りする。
「鈴殿。で候ろしきでござろうか(鈴様。よろしいでしょうか)?」
部屋の外で声を掛けるが、返事は無い。
「鈴殿(様)?」
よも鈴殿(まさか鈴様)!
窓から脱出したでござるのにては(窓から脱出したのでは)!?
バッと襖を開けると、鈴は蹲って泣いている姿が。
「痛し。痛し。痛し。痛し(痛い。痛い。痛い。痛い)…」
タライの中を見ると、血混じりの尿が。
「鈴殿(様)」
驁褹は近寄ると、優しく抱き寄せた。
「我がえいかぬなり(私がいけないんです)」
上体を起こすと自ら寄り添い、前髪の陰で表情を覆い隠され、涙を流し続けている。
「恋しければ。仁導がいと恋しく、術の無きなり。いま、いと恋しくいと恋しく。堪らず思ひぬれば。甘やかしぬるなり(好き過ぎて。仁導が大好きで、仕方が無いんです。もう、大好きで大好きで。堪らず愛しちゃうから。甘やかしちゃうんです)」
「いな。仁導殿も鈴殿も、間違とはおりませぬ。仁導殿を癒しめるのは、鈴殿のみにてでござる。鈴殿を癒す事が出来るのは、仁導殿のみにてでござる。お互ゐ、夫婦(めおと)としてちょーだい成り立とはおるでござる。ただに、愛が重ゐと申すのは云ゑる事でござる。正室としてちょーだい旦那様にぶつかるのは当然の事でござるし、旦那様としてちょーだい正室に説を申すなりしが無論当然でござる。お主しか、仁導如く愛を教ゑる者はゐらっしゃゐませぬ。お主殿は十四歳ながらも仁導殿を支ゑらるておるにてはありませぬか。少しもゐけなゐ事などありませぬ。鈴殿は修行してちょーだいおらる候(いいえ。仁導様も鈴様も、間違っておりません。仁導様を癒せるのは、鈴様だけです。鈴様を癒す事が出来るのは、仁導様だけです。お互い、夫婦として成り立っております。ただ、愛が重いと言うのは言える事です。妻として夫にぶつかるのは当然の事ですし、夫として妻に意見を言うのももちろん当然です。あなたしか、仁導様に愛を教える方はいらっしゃいません。あなた様は14歳ながらも仁導様を支えられているではありませんか。何もいけない事などありません。鈴様は努力しておられます)」
優しい言葉を掛けられ、また泣き出してしまう。
捨てらるまじく(捨てられないように)。
つとめばや(努力したい)。
されど(けど)。
思ひ絶えまほしく無し(諦めたく無い)。
定めて仁導の人なるを(必ず仁導が人間なのを)。
思ひ出さす(思い出させる)。
物の怪と言はるる固定概念を(化け物って言われる固定概念を)。
我が、うち潰す(私が、ぶっ潰す)!
そんな中、仁導は雪を連れてお茶専門店に出向いた。全面座席であり、開いている座布団に向き合って座る。横に長い脚の短いテーブルが左右に間隔を開けて6つ設置されてあり、知らない人が隣に座るのは当たり前。
「いかで(どうぞ)」
この店は、その場でお茶を立ててくれるので拘りがとても強い。お茶はとても渋い為、甘いお菓子が付属として付いてくる。お茶を2人の前に置くなり
「仁導(仁導様)?」
「?」
声を掛けられたので顔を向けると、接客をしてくれたのは湊の妻、ミクだ。
「みく殿。鈴子は、息災であったか(ミクさん。鈴子は、元気ですか)?」
「えい。今は高高し家中をありけり(はい。今はハイハイして家中を歩き回っております)」
気付いたら鈴子は成長しており、ハイハイ出来るまでに成長をしたようだ。
「其れは其れは。この先も、成長を楽しみにしてちょーだいおるでござる(それはそれは。この先も、成長を楽しみにしております)」
「かたじけなくさうらふ。では、ごやをら(ありがとうございます。では、ごゆっくり)」
彼女は頭を下げ、下駄を鳴らして厨房へ向かう。
「仁導(仁導さん)」
「ここのお茶は、渋ゐみてす(渋いんです)」
話し掛けたタイミングで仁導も話し出し、雪は黙り込む。
「其れを中和しめるのが(それを中和させるのが)、この」
黒い小皿に入った花柄のおしゃれなピンク色のお菓子を、一枚手にした。
「砂糖菓子。ござるが、少々したでござる事にてひびが入とはしまう(ですが、ちょっとした事でひびが入ってしまう)」
少し指先に力を入れれば、お菓子に亀裂が走り
「更に奥深くまにて亀裂が駆けてしまうと(更に奥深くまで亀裂が走ってしまうと)」
更に指先に力を入れれば、お菓子がボロッと砕けた。
「砕けてしまう。少々したでござる事とはいえ夫婦(めおと)の間に亀裂が入とはしまゑば、仲柄を取り戻す事が難しくなる(砕けてしまう。ちょっとした事でも夫婦の間に亀裂が入ってしまえば、関係を取り戻す事が難しくなる)」
「………………………………………」
お茶は夫婦の関係。砂糖菓子は『悩み』を表している。夫婦の間で亀裂が入ると、可能性的には夫婦として関係を取り戻せなくなり、場合によっては離婚に至ってしまう最悪な事態になる恐れがある。悩みが深ければ深い程、砂糖菓子と言う名の『心』に傷つが付き、やがて砕けてしまう。
「我は今、亀裂の走れる有様なり。あひて何月も経けれど、をひとより。愛を感ぜずなりけり。分かるなり。なほ夫婦なれば(私は今、亀裂が走っている状態です。結婚して何ヶ月も経ったんですが、夫から。愛を感じなくなったんです。分かるんです。やっぱり夫婦ですから)」
話しを聞いていると、非があるのは玄穂の方。だが、それは飽くまで妻が夫に対する読み方であり、実際は彼女にも非がある可能性があるので、責める事が出来ない。
「仁導。我が其方をご指名たてまつる。多額のお金も払ふ。いかでかをひとを、調べたまふと嬉し(仁導さん。私があなた様をご指名致します。多額のお金も払います。どうか夫を、調査して下さると嬉しいです)」
座っていた座布団から後ろに引き下がり、深々とその場で土下座をした。騒つく店員と利用客。彼は、砕けた時に親指のお腹についたお菓子のカスをぺろっと舐めた。
「甘いでござ候(甘い)」
「?」
顔を上げると、仁導は懐から銃を取り出すなり
「!!!!!!!!!!!?」
べろべろべろべろべろと唾液まみれの舌で舐め出したのだ。
えっ?
「………………………………………」
玄穂。
玄穂。
玄穂。
玄穂。
玄穂。
玄穂。
窓の隙間から覗いていたナガレと湊は、静かに座り込んだ。
「あやつ、誠に誠に悩みてる上に女を誠に誠に困らせとる(あいつ、めっちゃめっちゃ悩んでやがる上に女をめっちゃめっちゃ困らせてる)~ぶはははははははは!」
「あの変態、いな。あの癖は、いずこに行とはも出てしまいかにもでござるな(いえ。あの癖は、どこに行っても出てしまうんですね)?」
「あの様子であると、不義密通等にてはござらぬな。益体も無い(様子だと、不倫とかじゃねえな。つまんねーの)」
ワクワクしていた心が一気に冷めてしまい、ナガレはその場で横たわった。
「まぁ。斯様なお可愛らしき奥方様がおはすみてすから、不義密通など左様な事は致さぬと思とはいたであろう(あんなお可愛らしい奥様がいらっしゃるんですから、不倫などそんな事はしないと思っていました)」
「ちぇ~」
退屈になってしまったその時、ヌトーッと顔の横に滴る粘りっ気のある液体。
「あぁ?」
彼はゴロンと仰向けになると、べろべろべろべろべろべろと銃を舐めた状態で唾液を垂れ流している仁導と目が、合った。
「どうわあああああぁ~!」
0
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生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
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