愛毒者ー王暴の妻ー

小豆あずきーコマメアズキー

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愛毒者ー王暴の妻ー 陸

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「ひどゐ!左様なの警察の風上にも置けなゐ(ひっでぇ!そんなの警察の風上にも置けないヤローだな)!」

「でござるな?さふ申すきゃつが前に居たんじゃ!辛抱出来ござらぬなり申してな。仁導に全部打ち明けた。あやつは躊躇う事ござらぬ、直ぐに聞き受けてくれたでござる!そやつを警察から追放してちょーだいくれたでござるんじゃ!じゃから拙者、あやつに一所付ゐて参上するとは決めた。仁導を絶対に裏切らなゐ(だよな?そう言う奴が前に居たんだよ!我慢出来なくなってなぁ。仁導に全部打ち明けた。あいつは躊躇う事なく、直ぐに聞き受けてくれた!そいつを警察から追放してくれたんだ!だから俺は、あいつに一生付いて行くって決めた。仁導を絶対えに裏切らねえよ)?」

ニィッと、子供のように無邪気な笑みを浮かべ息子に話した。

「すさまじ!天晴仁導!かっこ良き(すっげぇ!さすが仁導だな!カッコ良い)!」

仁導に対する『オトナ』のカッコ良さや、自分の父親を助けたヒーローとして憧れを抱き、目を輝かせる。だが、その無邪気な笑みに隠されたあの時の苦い思い出が、稲妻のように頭の中を走り抜ける。

ザアァ。あの日は、雨が降っていた。全てを押し流すほど凄まじい雨。目もくらむ稲妻が黒い空を裂いて、凄まじい雷を落とす。雷鳴が轟き、地面を揺るがせる。

『………………………………………』

当時、仁導も自分も若かった。警察長屋の小上がりの端に座って報告書を見ていた彼の元に、ナガレがやって来た。ガタッと戸を開けると、産まれたばかりの息子を抱えて中に入って来た彼は、仁導に近付き、膝から崩れ落ちた。

『仁導!仁導ぉ!』

『名を呼び求めるのみにては足らなゐ。それがしに動ゐてもらおりきゐのにてあらばその場にて土下座をし、それがしにその苦痛を訴ゑるべきじゃ(名を呼び求めるだけでは足りない。私に動いてもらいたいのであればその場で土下座をし、私にその苦痛を訴えるべきだ)』

『仁導!』

ぼろぼろと大きい雨粒のような涙を流すナガレは俯き、これ以上喋る事が出来ないほどの体を焼き尽くすような苦痛と、屈辱と憎しみの情が体を包む。

『仁、導…!あやつを。奥村を!ぶっ×す許可を、それがしにくれ(あいつを。奥村を!ぶっ×す許可を、俺にくれ)えええぇ!』

部下の前に立った彼は片方の膝を付き、アゴを掴んで顔を向けさせた。

『遅ゐ!どがん躊躇とはおりき?現実を受け入れなかった貴様にも非がござる!なれど、感情的になり申しては、きゃつを消す事は出来なゐ。白鳥。貴様の要望は、それがしが聞き受けた!子を持つ貴様は、手を染めてはならないであろう。かから先成長をするでござるわらしの為にも。手を血にて染める事は許させなゐ。先ずはそれがしが貴様の為に動く。貴様は未だ武士の魂しか使ゑなゐ。種子島をしかと使ゑるごとくなるその時まにて、貴様は手を出してちょーだいはならないであろう(遅い!何を躊躇っていた?現実を受け入れなかったお前にも非がある!だが、感情的になっては、奴を消す事は出来ない。白鳥。お前の要望は、俺が聞き受けた!子を持つお前は、手を染めてはならない。これから先成長をする子供の為にも。手を血で染める事は許されない。先ずは俺がお前の為に動く。お前はまだ刀しか使えない。銃をしっかりと使えるようになるその時まで、お前は手を出してはならない)』

訓練中、火縄銃を手にしていた玄穂は、愚かな事をしてしまった。火縄銃を立てて長い棒で、発火を遅らせないようにするために硝酸カリウムや木炭、硫黄で作られた火縄銃の火薬を磨り潰したのを口薬込みをしていた。相方の仁導の為に用意をしていると

『うつけ者(バカ)!』

その近くに来ていた彼はそれを見て走りながら説教をした。

『火縄を立てるな!万が一誤作動が起きた場合腕事…!』

パァン!言っていたその矢先に起きた誤作動。

『!!!!!!!!!!?』

案の定、片方の腕が、ぶっ飛んだ。ナガレは家におり、京牙の世話をしていた。泣いたら抱いてあやし、愛おしい我が子との大切な時間を取る。その夜。ドンドンドンドンドン!と、玄関の戸をノックする音が。

『?』

布団の上で息子を寝かし付けていた彼は布団から起き上がって部屋から出、廊下を歩いて囲炉裏へ行き、草履を履いて戸を開けた。

『仁導』

『白鳥。貴様に、見せたゐものがござる(お前に、見せたいものがある)』

彼は似合わない笑みを浮かべており、背に隠していたそれを、見せた。

『!!!!!!!!!!?』

それは、玄穂の吹き飛ばされた腕だった。

『きゃつを弐度と、警察としてちょーだい帰とは来れぬやう、片腕を失わせた!喜べ!あやつは弐度と戻とは来なゐ!貴様の為に拙者報復してちょーだいやった(奴を二度と、警察として帰って来れぬよう、片腕を失わせた!喜べ!あいつは二度と戻って来ない!お前の為に俺は報復してやった)!』

唾液を垂れ流し、前髪の影から覗くその目は、狂気に満ちていた。「人」は、こんなにも人間離れをした目が出来るのだろうか。

『…………………仁導』

膝から崩れ落ち、その、長い脚にしがみついて感謝をし続けたあの時の記憶が、鮮明に浮かび上がった。

あの下郎(ヤロー)!

忘れておった頃に出て来おって(忘れてた頃に出て来やがって)!

て申すか(てか)!

あやつの作品にひとたびも出て来のうこざったくせに(小豆ーコマメーの作品に一度も出て来なかったくせによぉ)!

そうでござる(そーだ)!

あの下郎『江戸の鬼』の役者とはいえなゐに(ヤロー『江戸の鬼』のキャラでもねえのに)!

何程かの前触れも無く行き成り出現しおって(何の前触れも無くいきなり出現しやがって)!

そもそもきゃつ(あのヤロー)。

あっちの役者でないか(大倉おぐらーオオクラオグラーの方のキャラじゃねえか)。

左様な事はいかがとはいえ良き(んな事ぁどーでも良い)!

今度はそれがし(俺)が。

貴様を報復するでござる番じゃ(テメェを報復する番だ)!

布団の上で仰向けになる鈴は、美しく、生命感に溢れ、清潔で、セクシーな裸体姿になっており、なかなかお目にかかれない綺麗な形のほっそりとした脚をM字開脚しているその股の間に座る仁導は、妊娠しているその腹にキスをし、愛情を注いだ。

「鈴。暫くの間、拙者白鳥に特別な修行としてちょーだい、種子島の腕を磨かしめる。付きっきりにて教ゑ込む事になる(暫くの間、俺は白鳥に特別な訓練として、銃の腕を磨かせる。付きっきりで教え込む事になる)」

すると彼女は上体を起こすと彼も上体を起こした。

「ナガレを独り占めしいかがする?我ばかりを独占せずと(ナガレさんを独り占めしてどうするの?私だけを独占しないと)…」

そこで、言葉を止めた。

「致さぬといかがなるんじゃ(しないとどうなるんだ)?」

「暴れぬれば(暴れちゃうから)」

その頬に触れ、ムチュッと、唇に唇を押し当て、妻として、男であっても焼くような嫉妬が胸にこびりつく。

「ぐふふ。わらし染みたなんと可愛ゐ嫉妬を。正室の貴様には悪しきが、暫くの間、拙者白鳥と不義密通をするでござる(子供染みたなんと可愛い嫉妬を。妻のお前には悪いが、暫くの間、俺は白鳥と不倫をする)」

大胆に嫉妬している妻に宣言した意地悪な夫は舌を差し込み、絡ませる。

「はぁナガレと不倫せば、私も薌と不倫すれば(ナガレさんと不倫するなら、私も薌さんと不倫するから)」

「ぐっふっふっふっふっ!」

ぬるっと離れれば舌と舌とで唾液が繋がり合い、自分の笑っている顔を俯いて隠す。

「恐ろしき。抵抗は許させなゐが(恐ろしい。抵抗は許されないが)、恐ろしくて、お仕置きも出来んな」

顔を上げた彼は唾液を垂れ流しており、首元にキスをした。

「そはかたみ様かな(それはお互い様だもん)」

「何時まにて経とはも、ちょこざいな雌がきじゃ。貴様は(いつまで経っても、生意気な雌ガキだ。お前は)」

ドサッと押し倒し、大きい陰茎を浅く膣に差し込んだ。

「あぁっ!」

差し込まれた瞬間、脳に達する程の快感が走り抜け、腰を痙攣させてトプッと、軽くイき愛液が滴る。

「魂配するでござるな。それがしの『せがれ』は、常に貴様のみにてを求めては悦びを味わとはゐる。貴様に差し込みしは、どこぞの女の膣にては物足らなゐ。かは、貴様のみにての物じゃ(心配するな。俺の『息子』は、常にお前だけを求めては悦びを味わっている。お前に差し込んだら、他の女の膣では物足りない。これは、お前だけの物だ)」

額から一筋の汗を流し、突き昇ってくる熱の魅力に抗えず、欲望を燃え上がらせどくどくと全身の血が滾り、出し入れされるその、太く猛々しくそびえ、びくんびくんと脈打つ陰茎から我慢汁が溢れ、出し入れさせて体を揺する。

「は………………ッ…ん……!あぁっ!」

唾液を垂れ流し、快楽の海に溺れて這い上がる事が出来ず、体がバラバラになるほど愛され、一度からだにこびりついた快感はどこにも出ていかず、元々が、誰もが満足の行く大きさであり、それが興奮して勃起する事によって更に人間離れした大きさになる。それで出し入れされるので大いに体が満足する。

「我もなりよ仁導。仁導より外の男の人に差し込まるとも、かかる、心地良き思ひも、『愛』も、感ぜず。仁導ならずと、うたてし(私もだよ仁導。仁導以外の男の人に差し込まれても、こんな、気持ち良い思いも、『愛』も、感じない。仁導じゃないと、いや)…!」

布団カバーを握り締め、腰を痙攣させて軽くイき続ける。

「あぁ鈴。貴様は、それがしのみにて満脚するでござるべきじゃ。かから先も、とこしえに(お前は、俺だけで満足するべきだ。これから先も、永遠に)」

あまりの快感に身がゾクッとし、妻の身と心を、『愛』と言う名の抗えない『支配』で拘束させて物しに、独占する。

明けたばかりの空が、朝の冷気とともに新鮮に輝く。

「おはようでござる!今宵も割り当ててゆく(おはよう!本日も割り当てて行く)!」

昨日言っていた通り、ナガレは射的訓練を割り当てられ、各々訓練に行く者と現場に行く者と散る。

「嵆鼇殿(くん)」

湊と嵆鼇は村のパトロールを割り当てられ歩いている途中、声を掛けた。

「なにでござろう(何でしょう)?」

「尊殿は、少々わらしっぽゐ所があとは、お主に対してちょーだい大人気ござらぬ時がござる。確かに警察にて働くお主は男性扱ゐされるでござるなれど、御身は女性(くんは、ちょっと子供っぽい所があって、君に対して大人気なくなる時がある。確かに警察で働く君は男性扱いされるけど、体は女性)」

「何ぞ云おりきゐみてすか(何が言いたいんですか)?」

立ち止まると湊も立ち止まった。

「妊娠致し候その御身にて、何時まにて働く気なんじゃ(妊娠しているその体で、いつまで働く気なんだい)?」

「!」

彼女はドキッとし、妊娠しているそのお腹を下から上に抱え込むように抱いた。

「お主もわかってをる通り、警察の奉公は最も過酷にてあり、残酷な奉公でもござる。妊娠致し候にこの奉公を続けるのは如何ほどにもにも無謀じゃ(君も分かっている通り、警察の仕事は最も過酷であり、残酷な仕事でもある。妊娠しているのにこの仕事を続けるのはあまりにも無謀だ)」

「分かとはいるでござる。なれど、仁導殿の命令の無き限り、拙者は働き続け候(分かっています。けど、仁導様の命令が無い限り、私は働き続けます)」

「嵆鼇殿。お主は正室としてちょーだい、旦那様なり仁導殿に説をしかと云ゑておるとか?王暴が何ゆえにお主を奉公から外さなゐとか分からなゐ(くん。君は妻として、夫である仁導様に意見をしっかりと言えているのか?王暴が何故君を仕事から外さないのか分からない)」

「仁導殿は、なにであろうか存念がござるんであると存じまする。拙者はただに、聞き従うのみにてでござる(様には、何かしらの考えがあるんだと思います。私はただ、聞き従うだけです)」

瞳を揺らし、嵆鼇は歩き出した。

「お主は妊娠致し候じゃぞ?まふお腹も眼立とは来ておる。其れとはいえ説を云わなゐとか(君は妊娠しているんだぞ?もうお腹も目立って来ている。それでも意見を言わないのか)?」

彼は、黙ったまま先を歩く。

「それがしから見たら、お主とわらしを、王暴が大切に致し候ごとくは見ゑなゐ(俺から見たら、君と子供を、王暴が大切にしているようには見えない)!」

「!!!!!!!!!?」

立ち止まった際、バッと振り返った嵆鼇は、何も言わずに瞳を揺らして俯いた。

「嵆鼇殿(くん)」

歩いて近寄ると、彼は『女』としてぼろぼろと大きい雨粒のような涙を流し、両手で顔を覆った。

「拙者、お主を泣かしめる為に申してる訳ではない。王暴との輿入れを願りしはお主じゃから。なれど(俺は、君を泣かせる為に言ってる訳じゃない。王暴との結婚を願ったのは君だから。けど)」

すると湊は華奢なくびれた手首を掴んで引っ張るなり、こう言った。

「!」

「この手形。無理に御身を求めらるておるんでないのか(無理に体を求められているんじゃないのか)?」

腕の手形を、衣の裾で隠していた。だが、それはバレていた。強制的に体を求められる事によって掴まれる力が強くなり、体を仁導の方に引き寄せられる。鈴はバッと振り下ろし、夫が付けた手形を覆うように握って隠した。

「我が定めて、をひとを助く。世間の大人どもより『化け物』扱ひされ続け来しをひとを、幸せにせばや(私が必ず、夫を助けます。周りの大人たちから『化け物』扱いされ続けて来た夫を、幸せにしたい)」

「嵆鼇殿。武士の情けと愛は否!左様な事の由にて輿入れしたでござるなぞ(同情と愛は違う。そんな理由で結婚したなんて)、愚の骨頂!」

「人なれど化け物扱ひされかしづかれしは、紛れもあらぬ両親のこころざし不足と、世間より受け来し虐待がためなり。その固定概念を、我がうち潰す。人なる事を、我が思ひいださす(人間なのに化け物扱いされて育てられたのは、紛れもない両親の愛情不足と、周りから受けて来た虐待のせいです。その固定概念を、私がぶっ潰す。人間である事を、私が思い出させます)!」

「嵆鼇殿(くん)」

その時だった。彼女の後ろから四足歩行で走って来る仁導の姿。

「!!!!!!!!!?」

白目を剥き、唾液を垂れ流している。妻の体を透け、ジャンプして湊の喉に噛み付き、肉を、食い千切った。

「!」

ドサッと、彼は尻餅を付いた。

「?」

「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」

「湊殿(さん)?」

今、湊に何が起きているのか分からず、動揺してしまう。

「いかがされけりや(どうされたんですか)?」

「………………………………………」

唾液を垂れ流し、前髪の影から覗くその目は、『狂気』に満ちていた。

『大浦』

仁導に両肩を掴まれている。痛みを感じる。爪がくい込む。湊は、彼をしっかりと見、こう、口にした。

「王暴。平穏して奉り候。拙者はお主の大切な宝を、奪ゐ取りませぬ(安心して下さい。私はあなたの大切な宝を、奪い取りません)」

かはそれがしからの(これは俺からの)。

ご注進じゃ(警告だ)!

その時、ふっと、彼の姿が消えた。仁導は、常に鈴と共にいる。彼の愛は、もしかしたら彼女以上なのかもしれない。愛を知らないで育てられた仁導が、自分の全てを受け入れてくれる女が自分を求めて結婚をしてくれた。そんな鈴に、執着するのも無理は無い。彼はずっと、自分の全てを受け入れてくれる人からの愛を、追い求めていたから。

「湊。肩より血こそいでたれ(湊さん。肩から血が出てますよ)?」

肩を見ると、先程、爪でくい込まれた肩の皮膚に傷が付いたのか、血が滲んでいた。あの姿は幻影だったのか。それとも、彼の強い『愛』から発さられた思いが『姿』として現れたのか。湊は、仁導から恐怖を植え付けられる。

「………………………………………」

王暴。

「すなはちしたためたてまつる(直ぐに処置致します)」

彼は片方の膝を付くと襟首を開(はだ)けさせれば両肩が顔を出すなり

「!!!!!!!!!?」

くっきりと爪の痕が残されているのを目に、嵆鼇は瞳を揺らした。

「奥方と喧嘩されけりや(奥様とケンカされたんですか)?」

一緒に居たのに気付かなかった。懐から手拭いを取り出し、傷の手当てをする。

「王暴の愛は、お主が存じておる以って上に(君が思っている以上に)、深過ぎる」

「?」

返答は違ったものの、湊の手は、震えていた。

その一方、仁導とナガレでは。

「しかと狙ゐを定めろ(しっかりと狙いを定めろ)」

解放的なさら地に立つナガレの後ろで抱き締める彼の目の前には、身の細い木に、両腕を頭上に伸ばして両手首を縄で括り付けられている30代前半程の栗色の長い髪を伸ばしている鮮やかなピンク色の着物を身に付けている女は、ぼろぼろと大きい雨粒のような涙を流しており、口には猿轡が。

「んんっ!ん……………ッ…!」

「おゐ仁導。いかがにも的を人間にするでござるのは何卒しておるぞ(いくらなんでも的を人間にするのはどうかしてるぜ)?」

「どがん申してゐる?貴様の狙ゐは奥村玄穂。的が人間でないでござる方が片腹痛い(何を言っている?お前の狙いは奥村玄穂。的が人間でない方がおかしい)」

「こやつはどがんしにてかしたでござるんじゃ(こいつは何をしでかしたんだ)?」

「子を産み落としてちょーだい地面に埋めて×害したでござる毒親。赤ん坊と同じ道を辿とは頂戴いたす(子を産み落として地面に埋めて×害した毒親。赤ん坊と同じ道を辿って貰う)」

産まれたばかりの子を、大人の勝手な理由で命を落とされた。仁導が、容赦する訳がない。

「なぁ仁導。確かに其れは犯罪なれど(それは犯罪だが)」

「警察が犯罪者を甘く拝見していかにいたす!?種子島を恐れていかにいたす!?処刑を恐れていかにいたす!?稽古するでござるには適したでござる人間じゃ(警察が犯罪者を甘く見てどうする!?銃を恐れてどうする!?処刑を恐れてどうする!?練習するには適した人間だ)!撃ち×せ!肉をぶち抜け!!」

唾液を垂れ流し、前髪の影から覗くその目は『狂気』に満ちており、言い放つ。

「んんっ!ん…………………ッ…!」

女は俯き、逃げる事の出来ない、死と隣り合わせの深い絶望感に、失禁してしまう。

「では何故でござる奥村を仕留めのうこざった(じゃあなんで奥村を仕留めなかった)?」

額から一筋の汗を流し、銃を持つ手が震える。本格的に人に向けるのは初めてだ。

「仕留めるのは容易じゃ。なれど其れならば、貴様のこころもちはかまえて晴れぬ。拙者、貴様の復讐を合力しただけじゃ。とっとと撃て。処刑の刻限は、とっくに過ぎておる(仕留めるのは簡単だ。だがそれでは、お前の気持ちは決して晴れない。俺は、お前の復讐を手伝っただけだ。とっとと撃て。処刑の時間は、とっくに過ぎている)」

「仁導…!」

すると彼は銃を奪い取ると先ず、ナガレの腹を撃ち

「ぐ………………………ッ…!」

腹部を抑えて膝から崩れ落ち、女に向けて脚・腹部・肩の順に撃つ。

「ーーーーーーーーー!!!」

目を見張り、全身がばらばらに砕けて勝手な方向に駆け出し飛び散っていくような、声も凍るほどの激痛が全身に駆け上がり、意識がぶっ飛びそうだ。いや、ぶっ飛んでくれたらそっちの方が幸せだ。そっちの方がまだマシだ。

「止めろ仁導!!」

立ち上がり、銃を持っているその腕にしがみついた。

「このがき(ガキ)が!」

ドン!と腹部を蹴り付け、ドサッと倒れた際に腹部の傷口に脚を乗せて体重を掛ける。

「ぐああああああぁ!」

傷口から出血が止まらない。深くなっていく。

「せっしゃ貴様の為に、奥村を生かしてちょーだいやったんじゃ!警察をやとはゐる以って上(俺はお前の為に、奥村を生かしてやったんだ!警察をやっている以上)、躊躇ゐと犯罪者に於ける甘やかしを消せ!とっととこの女の脳をぶち抜け!」

そう言って顔を蹴り飛ばしてから銃を地面に叩き付けて背を向けて歩いてこの場から去る。

「あああぁ~。痛ゐ(痛え)」

蹴られた時に唇を切ったようで、血が出ている。片方の手で目を覆い、あまりの痛みに笑ってしまう。

「はははははは」

上体を起こすと、女に言った。

「望みておらぬ妊娠にてあったでござるとしてちょーだいも、貴様は腹を切ってを取るべきであろう(望んでいない妊娠であったとしても、お前は責任を取るべきだろう)?この村から…!」

パァン!パァン!パァン!発砲された音。女は、喉・脳・心臓をぶち抜かれた。

「!!!!!!!!!?」

振り返ると、仁導は銃を構えていた。

「処刑完了!」

懐に仕舞い、背を向けて歩いて行く。

「………………………………………」

仁導が。

犯罪者に優しくするでござる訳の無き(優しくする訳がねえ)。

それがし警察だに(俺警察なのによ)。

処刑が出来ぬ(処刑が出来ねえんだわ)!

貴様の如く(お前えみてえに)!

かのみにては(これだけは)。

真似が出来ぬ(真似が出来ねえんだわ)!

やがて、警察長屋にぞろぞろと部下たちが戻って来た。

「ゔううううぅ~」

小上がりにうつ伏せになる尊は今日、肉体訓練を受けており、崖を登ったり降りたと筋肉を鍛え、険しい山道を登ったり降りたりを繰り返していた為、脚の筋肉痛がいつも以上にひどい。だが直ぐに筋肉痛になるのは、若い証拠。

「ながれ殿。なにか、筋肉が解らるるごとき情け深い云葉を掛けて下され(ナガレさん。何か、筋肉が解れるような優しい言葉を掛けて下さい)」

それに対し、長い脚を組んで隣に座っていたナガレはこう、口にした。

「オートマ車に乗る、嘔吐魔者」
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