愛毒者ー王暴の妻ー

小豆あずきーコマメアズキー

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愛毒者ー王暴の妻ー 七

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ぐつぐつぐつぐつぐつぐつ。囲炉裏に薪を焚べて鉄鍋で雑炊を煮る雪は、異邦人のような寂しい気持ちが、体の芯から食い込ませる。夫と一緒に暮らしているのに、暗澹としている。

「………………………………………」

やうやうあふべかりしに(やっと結婚出来たのに)。

さうざうし(寂しい)。

絶えず涙で瞳が潤い、目を閉じると、絞り出される事なく一筋の涙が、流れた。縁側に座る玄穂はすっかり、他所の女を常に思い浮かべていた。

「………………………………………」

姫。

お主(あなた)が愛おしく。

堪らなゐ。

それがしの物にしたいでござる(私の物にしたい)。

それがしの物にしたいでござる(私の物にしたい)。

御身が、姫を求めておる(体が、姫を求めている)。

「ああ…。姫」

寝てしまうには惜しいほど月が綺麗であり、彼は鈴を思えば思う程、めくるめく恋の炎に身を焦がす。

布団の上で仰向けになる仁導の上に覆い被さる鈴は、唇に唇を押し当てていた。彼女は美しく、生命感に溢れ、清潔で、セクシーな裸体姿になっており

「はぁ」

上体を起こすと割と細い両手首を掴んで頭上に押し付け、膣に浅く大きい陰茎を差し込んで腰を上下にスウィングする。

「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ」

彼は、紺色の装束を腰まで開(はだ)けさせており、筋肉で引き締まった51とは思えない程の肉体美を晒し、性的な興奮を得て身をゾクゾクさせ、突き昇ってくる熱の魅力に抗えず、欲望を燃え上がらせどくどくと全身の血が滾り、大きい陰茎が太く猛々しくそびえ、びくんびくんと脈打つ。

「は…………ッ…あぁ…ん、はあぁ」

股を広げれば脳に達する程の快感が走り抜け、体がバラバラになるほど愛され、一度からだにこびりついた快感はどこにも出ていかず、腰を痙攣させて軽くイき、トロォッ♡と愛液が滴る。

「何ゆえにそれがしを拘束するでござる(何故俺を拘束する)?」

「自在を、奪はまほしき(自由を、奪いたいの)」

「自由を奪う側のそれがしから、自由を奪ゐ取らるるととはいえ存じておるとか(自由を奪う側の俺から、自由を奪い取れるとでも思っているのか)?」

「奪はばや。何もかも。仁導の全てを、奪ひ尽くさまほしき(奪いたい。何もかも。仁導の全てを、奪い尽くしたいの)」

彼女は、両手でその首を、軽く締め付けた。

「我。七歳のほどに、知らぬおじに森にぐしゆかされ、裸にさせられし(私。7歳の頃に、知らないおじさんに森に連れて行かされて、裸にさせられたの)」

ザッザッザッザッザッザッ!森の中を裸で走って逃げる鈴は、母親を追い求めて森を下ろうと必死になって逃げた。

『はぁはぁはぁはぁはぁはぁ』

後ろから走って来る小太りの男は、とても脚が早かった。子供の脚と大人の脚では、速度も一歩も違う。腕を掴まれた時、彼女の何かが、体の中で、『蠢い』た。

『はぁはぁはぁはぁはぁはぁ』

気付いたら、男は崖から落ちており、鋭く尖った木の枝が、腹部を貫いていた。

「母に、憂ひ掛けさすまじかりき。畏かりき。されど、おどろかばおじが崖より落ちたりて。我には、大人のをとこ突き落とされむ力すずろに無し。なれば、我が突き落とさぬ(お母さんに、心配掛けさせたくなかった。怖かった。でも、気付いたらおじさんが崖から落ちてて。私には、大人の男性を突き落とされるような力なんか無い。だから、私が突き落としたんじゃないの)」

一筋の涙を流す鈴は、ぼろぼろと大きい雨粒のような涙に変わり、仁導の顔にポタポタと滴り落ちる。

「おどろかば。誰かを、傷付けたり。おのれ畏し(気付いたら。誰かを、傷付けてる。自分が怖い)」

互いに分かち合えるのは、自分と同じような物、つまり体の中で『蠢く』ものが、常に潜んでいるから。鈴は、自分の『黒い』部分を、まだ自覚出来ていない。彼は自覚が出来ている。自分の中に眠っている『黒い』部分を。

「鈴」

気付くと、仁導の喉に指が食い込んでおり、血が流れていた。
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