愛毒者ー王暴の妻ー

小豆あずきーコマメアズキー

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愛毒者ー王暴の妻ー 十一

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「このがき!雷くらゐにて袖を濡らすな(このガキ!雷くらいで泣いてんじゃねえ)!」

「御免たまへ!御免たまへ(ごめんなさい!ごめんなさい)!」

囲炉裏の床に倒れ込む梦乃は、父親であろう縢賡に蹴り飛ばされていた。

「こちたきぞ(うるせーんだよ)!黙れええぇ!」

雷の音と土砂降りの降る雨の音で、その声をかき消す。

「………………………………………」

ザッザッザッザッザッザッザッザッ。ゆっくりと地面を歩く、草履の音。家に近づく。大鎌を、手にして。そんな中ナガレはふと、布団から起き上がった。

「………………………………………」

雷。

すさまじき(すげぇな)。

「父上(父ちゃ~ん)」

「?」

ふと顔を向けると、部屋に入って来た京牙はギュッと横から抱き締めた。

「なんじゃ(なんだ)?」

「雷あなおそろし(怖~い)!」

「ぶっはっはっはっはっはっ!未だ未だわらしで候(まだまだお子ちゃまよのぉ)~!」

ドオオオォン!と言う凄まじい音が鳴り響いた際

「ぎゃあああああぁ~!あなおそろし(怖え)助けてくれ~!」

子供に抱き付く父親は、自分よりも子供に感じた。

なんじゃ(なんだ)。

それがしにても父上殿がひい番わらしじゃとは(オレよりも父ちゃんが一番子供だわ)。

ザッザッザッザッザッザッザッザッ!仁導は、走っていた。ずぶ濡れになりながら。コップに注がれた水から、『睡眠薬』の匂いがしていた。彼は、芝居を買って出ただけであり、妻の様子を伺っていた。

「………………………………………」

床に倒れ込んだままぴくりとも動かない梦乃を、腕を組んで見下ろすまなつ。

「死にき(死んだ)?」

「是非に及ばぬ。死みしは死んじゃにて、埋める必定がござる(知らねえ。死んだら死んだで、埋めねえといけねえな)?」

「死にしや見定めよ。我手汚るるうたてきぞ(死んだか確認してよ。私手汚れるの嫌よ)」

「それがしじゃとは汚したくないでござる(俺だって汚したくねえよ)!」

そう言いつつガッと娘の頭を掴んだとたん、バリバリバリバリ!と、玄関の戸が壊された音。

「きゃああぁ!!」

「おゐ如何にで候(おい何だよ)!」

ガッ!と、草履を履いたまま囲炉裏に上がる鈴は、床に倒れ込んでいる梦乃が目に入った。

「如何に貴様!人の屋敷の戸を壊しおって(何だお前!?人ん家の戸を壊しやがって)!」

「………………………………………」

彼女は、ぴくりとも動かない。

「これ検非違使なり(こいつ警察だ)!」

この小さな村でパトロールをしていれば顔馴染みになってくる。なので顔と衣を見て分かったのだろう。

「畜生何奴かが通報したでござるとか(チキショー!誰かが通報したのかよ)!」

夫婦ゲンカが絶えないので、いつかは通報されると思って居たが、まさか今日この日に警察が来るとは思ってもなかった。

「貴様が声を出すからじゃ(テメェが声出すからだ)!」

ドカッと娘を、警察である鬼賀乃鈴の前で、堂々と蹴り飛ばしたのだ。

「!!!!!!!!!?」

ドックン。ドックン。ドックン。ドックン。ひどく、ゆっくりと鼓動する心臓。

ちりりん。ちりん。風に吹かれて、夏の風物詩でもある風鈴が、涼しげな音を立てる。縁側に座るさな子と、近所に住むおばあちゃんは、ここで2人で飲むお茶を楽しみにやってくる。

『おのづから、娘の畏くなるなり(たまに、娘が怖くなるんです)』

赤々しく、瑞々しい切られたスイカを、黒い横に長い皿に乗せて運んできた鈴は、縁側に近付くに連れて、そんな会話が、聞こえて来た。

『!?』

えっ?

『娘は、我突き落とすなり。わたりのわらはに手をいだして、怪我をさせけり。されど娘は、覚えたらぬなり。かの子は、人を傷付くる、危ふき子なり(娘は、私を突き落とすんです。近所の子供に手を出して、怪我をさせたんです。ですが娘は、覚えていないんです。あの子は、人を傷付ける、危険な子なんです)』

『なんぢには悪しけれど、かの子はあやしき子ぞ?我も知れり。わたりの子を引っ叩きしを見き。さな子。なんぢはひしとせる母親なり。されど、かの子を伸ばしにせば、人を傷付くる一方ぞ(あんたには悪いけど、あの子は変な子だよ?私も知ってる。近所の子を引っ叩いたのを見た。さな子さん。あんたはしっかりとした母親だ。けど、あの子を伸ばしにしたら、人を傷付ける一方だよ)?』

『これより先、いかが鈴をかしづきゆくべしや(これから先、どう鈴を育てていけば良いのか)…』

『はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ』

皿を持っていた手が震え、彼女はその場から離れた。

我(私)は。

我はあやしき子なり(私はおかしい子なんだ)。

他の子と我は(他の子と私は)。

違ふなり(違うんだ)。

前を向き、ギッと、鋭い目付きで睨み付ける。

「………………………………………」

梦乃は、ぴくりとも動かない。息をしているのかも分からない。大鎌を振れば、まなつの腕を斬った。

「ぎゃああああああぁ!」

彼女の腕が落ちたのを目に、夫は走って逃げようとした際、男の腹部を鎌の先で引っ掛けた。

「がはぁ!」

血を吐き出し、鎌から離れた際に尻餅を付き、両親はそのまま後ろに下がる事も逃げる事も出来ず、自分たちの血を見る。

「………………………………………」

そして前に前にと進み、ゆっくりと大鎌を構え、前髪の影から覗くその瞳は、憎悪の青い炎を燃え上がらせており、こう、口にした。

「うち潰す(ぶっ潰す)」
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